とある無力の常識殺し《ルールブレイカー》【完結】   作:ちひろん

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そろそろお話も折り返し。
最後まで、さくさく行きたい。


遊園地

 佐天は、第七学区にあるクレープ屋で買ったイチゴクレープを食べながらぼんやりと空を眺めていた

 

 あのインデックスから拒絶された日から、佐天は、憂鬱な日々を過ごしていた。

 学校や部屋にいるときも、ぼんやりとすることが多くなった。

 

 決して自暴自棄になっているわけではない。

 無能力者であることは既に受け入れている。

 それとは別に自分のあり方について、考えていた。

 

 『巻き込まれただけ』

 

 そのインデックスの言葉が、頭に残っていた。

 その言葉が自分の頭を反復していた。

 

 佐天は友達が困っているようであれば進んで助けた。

 そう、『困っているようであれば』である。

 だが、それは何も悪くないはずだった。むしろ、皆を巻き込んで、迷惑をかけるほうが悪いはずだ。

 そんなことは、佐天もわかっていた。

 

 『でも、なんで、こんなに』

 

 心がざわつく。

 される側、巻き込まれる側、脇役、誰にも迷惑をかけず、誰も巻き込まない、それはつまり、

 

 『居ても、居なくても…』

 

 佐天は思いついてはいけないことに気がついた気がして、首を何度も振った。

 だが、どうしても、ぼんやりと、そんなことを考えてしまっていた。

 

 と、そこに、聞いたことがある男の声が聞こえた。

 

 「マジで? マジで?!」

 

 佐天が声の方を向くと、小躍りしている男が居た。

 つい先日に顔を合わせた、上条当麻である。

 

 上条は、手に持った紙を凝視しながら、携帯電話と見比べると、慌てた様子で周りを見始めた。

 そして、佐天と目があった。

 

 上条は破顔して佐天まで駆け寄った。

 

 「ちょうどよかった!」

 

 佐天はちょっとした気まずさもあり、少し慌てる。

 

 「ど、どうしたんですか?」

 「いやあ、見てくれよこれ!」

 

 上条が差し出した紙は、第六学区にある遊園地の入場無料チケットだった。

 

 「これ、どうしたんですか?」

 「当たったんだ! さっき、福引きで!」

 「え、すごい!」

 「けど、条件があってな…」

 

 佐天がチケットの下に書いてある細かな文章を読んで見ると、確かに条件が書いてあった。

 

 『男性と女性の、ペアにてご利用ください』

 

 「あ」

 

 佐天は上条が困っている理由がわかった。

 しかも使用期限をみると、今日になっていた。

 その遊園地は閉店時間が18時だった。今は16時である。第六学区への移動時間を考えると、遊園地の滞在時間は1時間強といったところだろう。

 

 「でもこれって、酷くないですか」

 

 今日が期限のチケットを、福引きの景品にされていたということになる。

 

 「なんか手違いらしくってな。けど、当ったからには、使わないとな!」

 

 上条は当ったことが嬉しいらしく、手段と目的が入れ替わっているようだった。

 

 「で、これ、一緒に行って欲しいんだけど!」

 「はい?」

 

 

 と、いうことで、佐天はあまりに嬉しそうな上条を前に、断ることが出来ず、上条と一緒に遊園地に来ていた。

 もちろん、交通費は上条持ちである。

 

 「なんでも好きなやつに乗っていいから!」

 

 上条は完全に手段と目的が入れ替わっていて、入場料が無料なだけで、アトラクションに乗るだけで結構な金額がかかることは頭から消えていた。

 ただ、2,500円かかる入場料が無料、しかも佐天の分まで無料となれば、5,000円得したことになる。

 しかし、不必要な得は損のはじまりである。

 

 「えーっと…」

 

 とはいえ、時間もない。

 1時間では、混んではいないとはいえ、3〜4つほど乗れれば御の字である。

 

 2人は、テレビでも評判の100メートルからの垂直落下『ニュートンの試練』に乗ることにした。

 

 アトラクションのガイドバーにロックされると、佐天は言った。

 

 「えーっと、なんでこれに乗ることになったんでしたっけ?」

 「いや、確か、目の前にあって、CMでも見たし、並んでなかったから」

 「ですね。ちなみに上条さんは絶叫系は?」

 「いや、得意ではない」

 「私もです」

 「えーっと、なんでこれに乗ることになったんだっけ?」

 

 固定されたゴンドラに、次第に上空へ運ばれる二人。

 

 「いや、これ、無理です」

 「無理っていっても」

 「いや! これ無理です!」

 「無理だけど! 俺も無理だけど!」

 「いや、いや! これ! いくらなんでも!」

 

 止まるゴンドラ、絶句の二人。

 この後の、筆舌に尽くし難い二人の恐怖は、皆様のご想像にお任せしたい。

 

 

 「ごめんな…」

 

 ベンチでうなだれる佐天に声をかける上条。

 想像を絶する恐怖で、佐天は気力がなくなっていた。

 

 「いえ、大丈夫、です。ちょっと休めば」

 「ごめんな、なんか飲み物買ってくるから」

 

 そういうと上条は飲み物を買いにいった。

 

 佐天は、小さくため息をついた。

 

 『なんでこんなことに』

 

 上条に誘われて、なんとなく遊園地も悪くないかな、と思ったが、完全にアトラクションの選択ミスだった。

 だが、インデックスから拒否されて傷ついた心は、上条との屈託のないやり取りで、少しだけ癒やされていた。

 佐天は上条に対して、酷いことをしたという気持ちがあったが、その気持ちも、多少ほぐされていた。最近のぼんやりとした気持ちに、少しだけ、晴れ間がさした気がした。

 

 『っていうか、これ、デート?』

 

 佐天は少し意識してしまいそうになったので、頭を振った。

 

 「あれ? 佐天じゃない?」

 

 そんなことを思っていたとき、ふと声をかけられた。

 佐天が振り向くと、そこには、同学年の女子が立っていた。

 そして、隣には少しだけガラの悪い、男子が立っていた。

 

 「あ…」

 

 最初は二人とも無能力者《レベル0》だった。だが、声をかけて来た女子は、早々と低能力者《レベル1》に上がっていった。

 最初は、二人で頑張ろうと話していた仲だったが、次第に話すことが少なくなり、もう今では話すことはない。

 

 「彼女、無能力者《レベル0》なの。最近はあんまり喋らなくなっちゃったね」

 

 その言葉には、佐天を軽視するものが含まれていた。

 佐天は言葉を絞り出す。

 

 「そうだね…」

 「だよね。ちょっとレベル変わっちゃったしね」

 

 佐天は思わず俯いた。

 その様子を見て、優越感を満たした女子は、満足気に笑った。

 

 「じゃね。また、レベルが変わったら連絡ちょうだいねー」

 

 最後の言葉は単なる侮辱だった。

 佐天は歯を噛みしめて、手を握りしめる。

 

 「ちょっと待てよ」

 

 その声に、佐天は顔を上げた。

 上条が、女子の左手を右手で捕まえていた。

 

 「なによ」

 「レベルが高いやつがそんなに偉いのかよ」

 

 上条が睨みつける。

 

 「あんたも無能力者《レベル0》? 弱いやつは黙ってなさいよ!」

 「そうだよ、俺は無能力者《レベル0》だ。能力者なら、能力使って振りほどいてみろよ」

 

 腕を掴まれた女子は、侮りながら女子は上条を睨みつけていたが、次第に戸惑いが顔を占めていった。

 

 「どうして!」

 

 そして、その戸惑いには恐怖が含まれ始めた。

 

 「どうしたよ、能力つかって、振りほどいてみろよ」

 「なんでよ!?」

 「どうした? 能力、使えなくなったんじゃねえの?」

 

 そういいながら上条が手を離すと、女子は走り去っていった。男子は戸惑いながら、その後ろを追いかけていった。

 上条は佐天へ振り返った。

 

 「大丈夫か?」

 

 佐天は、上条の顔を見上げた。上条は心配そうに、佐天を見ていた。

 その顔は佐天を心配するような、気遣うような、思いやるような顔だった。

 

 『ああ、この人は知っているんだ』

 

 差別を、侮辱を、辛辣さを、辛さを、悲しみを、無能力者《レベル0》につきまとう、その負の感情を、上条は知っていた。

 

 そのうえで、佐天を包み込むかのような優しさに、佐天の鼓動は、一度大きく高鳴った。

 

 「だ、大丈夫です」

 

 佐天は、顔を背け、赤みがさしかけた顔を隠した。




多分、次回の投稿はちょっと時間かかるかもしれないです。

(最後の心境の変化の表現が、少し少なめだったので、多少変更しました)
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