とある無力の常識殺し《ルールブレイカー》【完結】 作:ちひろん
ひざまずいて両手を組んで祈っていたインデックスは、上条と佐天の変化にすぐには気が付かなかった。
だが呻くような声に反応して顔をあげた。
「い、インデックス…? 一体どうなって…」
上条の第一声に、インデックスは泣きそうに笑みを零した。
トラウマなどの後遺症があるかもしれないが、それを現時点でインデックスは判断できない。とにかく、しっかりとした言葉を発したことが、インデックスは嬉しかった。
「ん、んぅ…あれ、ここって…」
ついで、佐天が目を覚ます。
インデックスは、その様子をみて、目に涙を溜めながら叫んだ。
「ごめん!」
「へ?」
佐天は状況を飲み込めない。
「わたし、あなたを助けられたのに!」
インデックスは佐天の手を掴みながら言った。
佐天は、インデックスの言葉の意図を理解できず、首を傾げる。
そしてインデックスは、状況の説明をした。
佐天は、何度か頷いて言った。
「なるほど。私の相手が居なかったのは気になりますけど、つまりあの白髪の人を倒したから、元に戻れたんですね。」
佐天のその言葉にインデックスは、一瞬驚愕したが、それを隠すように言う。
「そ、それをとうまが?」
インデックスは知っていた。その白髪が誰なのか、どういうものなのか、そして、何をしたのか。
だが、知らないことにしておいたほうが、都合がいいことだったため、少なくとも上条の前では秘密にしていた。
「いや、佐天だ」
上条は、佐天に伺うような目線を向けたまま、インデックスへ答える。その目線はいくらか敵意が含まれていた。
インデックスは上条が佐天を呼び捨てにしている事も気になったが、その目線の強さに疑問を感じた。
「何かあったの?」
「いや」
インデックスの問いに、上条は端的に答える。
インデックスは、佐天を向いて言う。
「とにかく、ありがとう。多分、とうまは倒せなかった。その、白髪の人のことを知らないあなただから倒せたんだと思う」
そう、佐天は白髪の人、一方通行の能力のことを知らない。そして、その強さを知らない。
それが、佐天の勝因である。
「そうだ」
と、突然、佐天が声をあげる。
そして、上条を流し目で見てから、向き直って満面の笑みで言った
「私、上条さんのこと好きです。付き合って下さい」
「ふえっ!」
反応したのは、上条ではなくインデックスだった。
「な、な、な、ななななにを言って?!」
インデックスは驚きを表現するかのように手を動かしながら言う。
だが、告白された本人である上条は、冷静に、先程から一切態度を買えずに言う。
「いや、ごめん。佐天とは付き合えない」
「そうですか、残念です」
少しも残念そうに見えない笑顔で、佐天は答える。
その時初めて、インデックスは佐天の様子がおかしいことに気づいた。
佐天は上条に背を向ける。
「私、上条さんに振られることが、上条さんに嫌われることが一番怖かった。だって、上条さんと一緒に居れないことが分かっちゃう。話をすることが出来なくなっちゃう」
そう、佐天の畏怖の対象は上条だった。居なかったわけではなく、既に畏怖の対象は存在していたのだ。
「でも、夢の中で分かりました」
佐天は、また上条へ向き直る。
「振られたら一緒に居れない。嫌われたら話せなくなる。そんな常識は」
そんな当たり前は、そんな常識は。
「殺しちゃえばいいんだって」
そう、なんでもないことのように、笑顔のまま言った。
上条は、未だに佐天に対する警戒を解かない。
よく、分からないものがそこに居た。
自分たちの常識がどれだけ通じるのか、それが分からなかった。
話す言葉自体はおかしくないのに、何処かずれている。
上条はこうしている今も、あの笑顔の佐天が、自分やインデックスに何かするのではないかと不安だった。
そうしない保証があるのか分からなかった。
「ところで」
佐天が言う。
「魔術師ってなんですか?」
上条とインデックスは体が固まる。
「インデックスさんって何処からきたんですか? 魔術師っていうのと関係あるんですか? なんで上条さんと住んでるんですか? あの白髪の人と上条さんってどういう関係?」
既に佐天は、暗黙的に秘密とされていた部分に触れることの躊躇など、なくなっていた。
「答えてくれると手間が省けるんですけど」
佐天ははにかむ。その軽い言葉には、重い意味が込められていた。一体、どんな手間が省けるのか。
「ああ」
佐天は手を広げながら、ゆっくりと踊るように回る。
「こんなに晴れやかな気持ちは初めてです。不安なんて少しもない。こんなに自由になれるだなんて」
上条とインデックスは、固まった体を動かせずに、その回り続ける佐天を見ていた。酷い不安を抱えながら。
と、佐天は動きを止めてインデックスへ首を向ける。
「インデックスさん」
声をかけられたインデックスは、体を弾ませる。
「な、なに?」
佐天は笑顔を更に歪めて言う。
「私、多分、巻き込む側になれたと思います」
インデックスは、言葉が出ない。
「さあ、二人とも。まずは上条さんの部屋に行きましょう。聞きたいことが、知りたいことがいっぱいあるんです!」
佐天は上条とインデックスの手を掴んで、歩き始めた。
手を掴まれた二人は、まるで手錠を嵌められたかのような錯覚に陥りながら、どうにか歩を進める。
上条は言いようのない不安を感じていた。
このまま佐天を放置しておいてはいけないと、感じていた。そして、場合によっては、自分が止めなくてはいけないと。
だが残念なことながら、上条当麻の幻想殺し《イマジンブレイカー》では、佐天涙子の常識殺し《ルールブレイカー》は、決して殺せない。
以上、ルールブレイカー終了です。
最後までありがとうございました。
さて、基本暗い話ばかりなので、2〜4部の投稿を迷いましたが、お気に入りに入れてくれる人がいてくれるので、需要はあると判断して続けます!
第2部は、「とある花弁の無限迷路《ラビリンス》」で、初春飾利と一方通行です!
もしよろしければ、引き続きよろしくお願いします!