ディオの奇妙な冒険 ManicStreet (ジョジョ1部+7部) 作:ヨマザル
『ディッ……ディオ様っ! ウソでしょォォッ。特攻なんてそんな無茶はやめてくださいぃぃ~~~~ッ……よく見てください。奴が、バケモノが目の前にいるんすよッ』
『アヌビス神』が悲鳴を上げた。
(うるさい……俺の目が節穴だと思っているのか? ちゃんと見えているぞ)
『だっ……だったらぁ~~~』
『アヌビス神』の哀願を無視し、ディオは目の前の『化け物』に意識を集中させた。
ディオとジョナサン、二人とネフレン=カとの間には、いつの間にかショゴスが割り込んでいたのだ。
ショゴスの本体は不定形のぬらぬらした泥の塊、そのところどころから、人間のような目や、獣のしっぽ、鉤爪が飛び出している。そんな不定形の怪物が、ジワジワと二人に近づいてきていた。
まるで地球上の生命を冒涜するかのような混沌とした怪物は、とても人の手で対抗できるような気がしない……
そんなものにディオは特攻をかけようというのだ。
ジョジョが強くディオの手を引いた。
「無謀だよ……やめてくれ」
固い声で言うジョジョ。そのの肩をディオはポンと叩いた。
「大丈夫だ。僕には勝算がある…………ジョジョ、『僕と君の友情にかけて』、ここは僕を信じてくれ……だが君に、僕のフォローアップを頼みたい。頼めるか? 」
ディオとジョジョの視線が、交錯した。
「……わかった」
ジョジョはそう言うと、大きく肩を回し、両手剣を肩にかついだ。
「『君の考え』はわかる……援護するよ」
「ジョジョ、『感謝する』」
愁傷なディオの言葉に、ジョジョは眉をピクリとあげた。だが何も言わず黙ってディオの隣に立った。そして大剣を構える。
そんなジョジョの肩をディオが軽く叩いた。
「なぁに、俺たち二人が並び立てば負けるわけがないさ」
「…………」
「いくゾッ! 」
「ウォォォオオ───ッ! 」
二人は吠え、駆けた。
それぞれ抜き身の剣をひっさげ、全身の力を込めて駆ける。
トヴォ──
ショゴスは人の頭部ほどの大きさがある粘液まみれの『肉塊の根』とでも言うべきモノを、次々と吐き出した。
ひどい吐き気を及ぼす悪臭が周囲に立ち込めた。
『肉塊の根』は緑や黄色のネトネトした粘液を吐き出しながら、ディオとジョジョにせまっていく。
それは生半可な覚悟の人間がみたら、一発で狂気に堕ちてしまうほどの冒涜的な光景であった。
だが今や、ディオもジョジョも怯みはしない。
二人は意識していないだろう。認めることもないであろう。
だが確かに『互いの存在』が、二人の精神に『絶対的な邪悪』に立ち向かう力を与えているのだ。
「ウォォォオオ───」
ジョジョが、ショゴスの放つ肉塊の根に向かって大剣を振るうッ!
ショゴスの肉塊は、ぬぷぬぷと大剣の刃を包み込んだ。
大剣はその効果を発揮することなく、ショゴスに飲み込まれていく……
刃での斬撃には効果がないと気がついたジョジョは、力任せに大剣をぶっこぬくと、刃をかえした。
そして今度は、剣のひらの部分で、ショゴスを叩き始めるッ!
ドベァンンッ! !
剣のひらで叩かれたショゴスの肉塊が、一瞬動きを止めた。
ショゴスの表面が、剣のひらのような形状に、へこむ。
ジョジョはすかさず剣を引き戻し、再び叩きつけるッ。
もう一度……
もう一度ッ……!!
バゴォン!
ボゴォン!
ジョジョは何度も何度も大剣を連打した。
ついに、連打の圧力に負けてショゴスがジワジワと後退し始めた。
その間にディオはネフレン=カに迫っていたッ!
「来るなぁッ! 」
ネフレン=カは手に巻きついていたイング・ヴ・エィの触手を放った。
「無駄ぁッ!」
ディオは『アヌビス神』を巧みに使い、迫り来るイング・ヴ・エィの触手を全て斬り捨てた。
そのまま刀を上段に構えジャンプするッ‼
そして……
「喰らえッ! 」
ザジュウンッ!
ディオが放った『アヌビス神』の一撃は、狙いあやまたずネフレン=カの首を撥ね飛ばした。
ネフレン=カの首が宙を舞い、ゴトリと床に落ちた。
奇妙なことにその首からはほとんど血が出ていない。カラカラだ。
『ギャハハハハッ、やったッ……あれ? ……ディ……ディオさまぁ……』
『アヌビス神』が歓声を上げ、すぐに不安そうな声を出した。
シュルルルル……
ディオと『アヌビス神』を結び付けていたゾンビ・スネークの『紐』がほどけたのだ。
『紐』はディオの腰にさしたままの『アヌビス神の鞘』に伸びていく。
そして『刀身』と『鞘』が、ひとりでに動く『紐』によって頑丈にしばりつけられていった。
ついにグレゴリオがゾンビ・スネークに設定していた『アヌビス神』を開放しておける時間が、終わってしまったのだ。
『うわぁああっ! ウソだろ~~~。ディオさま、たっ……た……す……』
鞘越しに聞こえる『アヌビス神』の哀願の声は徐々に弱まり、やがて消えていった。
「クッ……」
ディオは顔をゆがめ、膝を床についていた。その腹部が血で真っ赤に染まっている。
傷口が再び開いたのだ。
「こ……これで、殺ったぞ……勝ったのは……お……おれだ……」
ディオの口調には苦しさだけではない。少し満足げな色も混じっている。
だがジョジョの方をうかがったディオは顔をしかめた。
(どういう事だ?)
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……
「うぉおおおお────ッ」
いまだにジョジョが、ショゴスと闘い続けていたのだ。
(馬鹿な……あの化け物は、ここにいたミイラの出来損ないのようなジジィが呼び出したもの……ジジイが死ねば、あの化け物も消えるはずだ……なのに、なぜだ? )
ディオが恐る恐る振り向く……
すると、床に転がっていたネフレン=カの生首の目が開き……にやっと笑った。
「キサマッ! 」
ディオは歯を食いしばって、再び立ち上がった。
「首だけとなっても、まだ息があるとはな。しつこいぞ……もう終わりだ。このディオ自ら、キサマを滅してやる」
震える足に力をこめ、一歩、一歩ネフレン=カに向かって歩き出す。
もう『アヌビス神』は使えない。
だがまだ、ディオの手にはナイフが残っていた。
首だけになった化け物など、ナイフの一撃で十分だ。
『Xgya! ! ! ! ! 』
ネフレン=カはニヤッと笑った。
「フフフ……キサマこそ常命のちっぽけな存在のくせに、よくやったな。だが、我は不死身よッ」
ネフレン=カが大きく口を開けた。その口から銀色の触手がするっと顔を出す。
触手の一本は、床に転がっていたネフレン=カの手をこじ開けた。
その手に握られていた『輝くトラぺゾヘドロン』に、触手が巻きついていく。
「我はこの地に『地獄』を開く……そして同じ法を使い我が故郷エジプトの地に『天国』を呼び寄せるのだ……」
ククククク……心底嬉しそうにネフレン=カが笑った。
そのとき、残った触手がグンと後方に伸びた。
延びた触手が向かった先にはイング・ヴ・エィ=シャカの体が倒れていた。
触手はのたうちながらイング・ヴ・エィ=シャカの体に穴を穿った。そして再び一気に縮んだ。すると今度は、ネフレン=カの首が、イング・ヴ・エィ=シャカの首のない体に向かって飛んでいくッ!
ディオの見ている前で、ネフレン=カの首から『触手』が出ていった。
そしてイング・ヴ・ウエィの首にもぐりこんだ。
そしてネフレン=カの首はイング・ヴ・エィの体と交わり、元々の首と完全に置き換わった。
『グブブブブ勝ったぞ……我が主も、もうおいでになる……ククククク……ウワッハハハハ! 』
新たな体を得たネフレン=カが大笑した。
『輝くトラぺゾヘドロン』が闇色に強く輝く。
周囲の闇が濃くなっていく。
「なっ……なんだ、とぉ」
ディオは歯噛みした。
もう一度……なんとか立ち上がり歩き出そうとする。
だが次の瞬間、力を失ったディオの足が……
重力に負けた。
ディオは倒れ、竪穴中に響くほどの音を立てた。
ディオの体はすでに限界を超えていたのだ。
無理もない。
ドテッパラに穴が開いた状態で、馬で荒野を駆け、ゾンビ・ライオンと闘い、ここまたどり着いたのだ。その後の激闘によって、もうディオはほとんど体に力が入らない状態であった。
『フハハハハッ! 時、至れりィィッ! ! ! ! 』
ネフレン=カとシャカが同時に叫んだ。一つの体から二つの声が同時に聞こえる。
「ちっ……チクショウ……このディオが……」
ディオの顔が、視界が、屈辱にゆがむ。
一方、ディオの横では、ジョジョが未だにショゴスを叩き続けていた。
ショゴスは体から無数の肉塊の根を生やしている。その根には、ところどころにトカゲのような鉤爪や、人間の指、髪の毛、カエルのような白い眼、ナメクジの麟などが不規則に生えていた。
ジョジョは大剣を自在にふるい、その根を切り落とし、跳ね返しつづけていた。
『TEKERLI LI LI! 』
ショゴスが叫んだ。もう半分崩れかかった肉の根を大きく振り回す。
肉の根の動きに巻き込まれ、周囲の岩や、彫像、がれき等が、弾き飛ばされ、ジョジョを襲うッ!
ジョジョは剣をかざし、その爆風のような攻撃に必死で耐えようとした。
だが、肉の根が砕き、はじき飛ばした岩は、ジョジョに直撃し、そのガードをこじ開けた。
「うぉっ! 」
岩にはじかれた衝撃に、ジョジョはバランスを崩した。
その体は、縦穴に向かって飛ばされ……そして落ちていった。
「きゃぁッ」
ショゴスが跳ね飛ばした岩は、ちょうどジョジョの背後にいたミナにもぶつかっていた。ミナもまた、ジョジョと共に弾き飛ばされていた。
ジョジョとミナは、奈落のような竪穴に、落ちていこうとしていた。
二人とも、とっさに、かろうじて竪穴の壁にできた亀裂に手をかける。
そして落下の速度を落とすと、その下にあったテラスに奇跡的に、無事、着地することができた。
二人とも、かろうじて転落死から逃れる事は出来た。
だがこれで、ジョジョも、ミナも、戦力外になった。
状況はどんどん悪くなっていく……
「クッ……俺一人で、十分なんだよッ」
ディオは小さな声で毒づいた。
そんな中、『輝くトラぺゾヘドロン』だけが再び怪しく輝いていた。
ヌタリ……
光り輝く多面体から、なにか『黒いもの』がスルリと突き出され、這い出でようとしている……
その『黒いもの』こそが最悪の代物であることは、すぐに分かった。その『黒い体』からはっされる瘴気は、まともに肺に入れたら一瞬にして肺が、そして血液が腐りだしそうなほどおぞましい感覚に満ちていた。
「チクショウ……馬鹿な……『俺一人で十分』だったはずなのによぉ……」
その様子を見て、ディオは歯噛みしていた。
「これで終わりなのか……俺の人生、こんなはずじゃあなかった。クソッ! 」
ディオは唇をかんだ。
ヌヌタァ───ン……
『輝くトラぺゾヘドロン』からまさに、『何か得体のしれない怪物』が現れようとしているのがわかった。
もう、何をしようとも間に合わない……
『アヌビス神』も封印されている……
ディオには、この局面を打開するための手だてが思いつかなかった。
(くそぉ──手詰まりか……こ、これでゲームオーバーだと言うのか……まさか、この『ディオ』が、これで終わりだとォ──―)
ヴィォオオオオ────ンッ!
異音が縦穴中に響いた。
その音圧で縦穴の壁が揺れる。
『輝くトラぺゾヘドロン』から染み出る黒い闇の塊は、ジワジワと大きくなりつづけていた。今では、二頭立ての馬車一台分ほどの大きさに膨れ上がっている。
その闇の塊が、中心に向かって集まり始めた。不定形に揺らめく闇があつまり怪物の形をかたどりだす。
作り出されたのは、ヒト型のような、触手のような、不思議な姿だ。
まるで悪魔のように、その背中からは蝙蝠のような羽が現れた。
『頭』にあたる部分から、にゅるにゅるとタコの触手のようなものが蠢いている。
その『怪物の形をした』闇の色が、濃く、深くなっていく……
息ができないほどの、吸い込んだら肺が腐ってしまいそうなほどの腐臭が、周囲に漂う。
ディオは、その光景を震えながら見ていた。
無駄とは知りながらも、なんとか『輝くトラぺゾヘドロン』をネフレン=カから奪い取ろうと、床をかきむしり、少しずつ、少しずつ、進む。
(クソッ! 間に合わんか……)
その心に少しずつ『絶望』が忍び込んでいく。
だがディオは間違っていた。
まだ希望は残っていた。
なぜならこの場には、『ジョジョ』がもう一人いたのだから。
「させるかッ! 」
その男は物陰から高速で飛び出した。
豹のような俊敏な動きだ。
男はショゴスを飛び越え、『怪物の形をした闇』をかわし、ネフレン=カに跳びかかる。
「きっ……キサマッ! ! ! 」
不意を突かれたネフレン=カの手から、『輝くトラぺゾヘドロン』が落ちた。
その邪悪な、平行な辺のない四角形からなる多面体が、床に落ち、転がっていく。
多面体は、カラカラと音を立てて転がりつづけていく。
『闇』がゆらめき、ひどくその姿が崩れた。
「なんだとっ! 」
ネフレン=カが金切り声をあげた。
「キサマッ! キサマはッ……」
その男は、まるでボクシングのようなフォームでネフレン=カの顎を跳ね上げた。
止まることなく、膝蹴りをネフレン=カの腹部に叩き込む。
戦いなれた動きだ。
「私の子供たちを、やらせはセンッ! 」
その男、ジョージ・ジョースターが叫んだ。
強大で醜悪な怪物に屈することなく、全力を尽くし、気高く戦い続ける……
そう、ジョージ・ジョースター卿もまた、まごうこと無き『ジョジョ』であったのだ!
カラカラ……
ネフレン=カの手から落ちた『輝くトラぺゾヘドロン』が、床を転がっていく。
「ウぉおおおおっ!」
転がる『輝くトラぺゾヘドロン』をジョージが追いかける。
ジョージは崩れかかる床の上を駆け、崩れかけた柱の上を飛び、降りかかるがれきをかいくぐって、『輝くトラぺゾヘドロン』をつかんだ。
瞬時に上着を脱ぐと、その裾で必死に多面体を磨き、血をぬぐうッ!
次の瞬間、『輝くトラぺゾヘドロン』から発せられる光が、少し弱くなった。
染み出ていた『闇』が消えた。
「Zay5^! ! ……ヅギジィィッガ……ガエセッ! 」
ようやく立ち上がったネフレン=カが、名状しがたきわめき声を上げながら、ふたたび襲いかかるッ!
「おそいっ」
ジョージはディオやジョジョに負けないほどの俊敏な動きを見せた。
ネフレン=カの攻撃を避け……ジョージは足払いをかけるッ
ネフレン=カが体勢を崩す。
だが、その手から槍が飛び出す。
差し出した手から、ジャッカルの戦士を召還したのだ。
槍がジョージの肩を貫くッ!
「フンっ! ! 」
だがジョージは止まらなかった。
ジョージは槍に構いもせず、倒れかかるネフレン=カに渾身のタックルをぶちかますッ!
そしてジョージは、『輝くトラぺゾヘドロン』ごとショゴスの中心に渦を巻く『黄金長方形の無限の回転が作り出す暗黒空間』へ、ネフレン=カを突き飛ばした。
「ハ───ハ───」
ネフレン=カを暗黒空間に突き飛ばし、ジョージ・ジョースター卿が膝をついた。その額からは玉の汗が浮かんでいる。
「子供たち、無事か…………」
ジョージは額から汗をぬぐうと、ジョジョとディオに笑いかけた。
肩から槍を引き抜くと、上着を脱いで傷口を縛り上げる。
「父さん……なんて無茶を」
ジョジョが言った。
ジョジョは、ミナと共に縦穴の壁から突き出した小さなテラスから上を見上げていた。
ジョジョのその体から、バラバラ音を立ててグレゴリオのスタンド、ゾンビ・キャットの『紐』が剥がれ落ちていった。
「うっ……いてっ」
『紐』が剥がれるとともに、ゾンビ・キャットの力でムリヤリ増強していた体力が消えていく。
同時にジョジョの全身に激しい痛みが襲った。これまで限界を超えて酷使してきた筋肉が、腱が、骨が、悲鳴を上げているのだ。
ジョジョは激しい痛みに歯を食いしばり、ゆっくり、ゆっくりと壁を登り始めた。
だが、すぐに元のテラスにずり落ちた。どうしても、力が入らないのだ。
「……ジョースター卿……しばらくは安静にしないと、ダメよ」
ミナが言った。正気を取り戻したようだ。
「もうあなたにかけた暗示は解けた……今はもう、体中がガス欠なはずよ」
ミナもジョージを置いて壁を登り始めてみた。だが、やはりどうしても登れなかった。壁が、つるつるなのだ。
「ミナ君……君には感謝するよ。君が、『私に暗示』をかけてくれなかったら……10代のころの力を呼び起こしてくれなかったら、私には子供たちを救えなかった」
ジョージが言った。
「フフフ……まさか若いころに一人で海外を回っていた時にやったムチャが、今の自分と、子供たちを救ってくれるとはな……」
「ジョースター卿……」
ミナは首を振った。
「貴方の体を『十代のころ』に戻したわけじゃありません……私はただ、『自分が10代のころの体だ』とあなたに暗示をかけただけよ……」
「そのおかげでムチャが出来たし、短時間だが『昔のように動けた』……やはり君のおかげだよ……感謝しとるよ」
ジョージはミナに向かってにこっと笑いかけた。
「二人とも、待っていてくれ……すぐにロープを下すからな」
ジョージは震える膝を押さえつけ、近くに転がっていた彫像にロープをかけ始めた。
その手が、肩が、腰が、ガクガクと震えている。もうとっくに体力の限界を超えているのだ。
ディオの手足に、ようやく力が戻ってきつつあった。震える手を奮い立たせてゆっくり立ち上がると、ディオはジョージ・ジョースターの隣に立った。
「ジョースター卿……助けて下さって、ありがとうございます」
ディオが礼を言った。腹から噴き出ていた血は、また止まりかけていた。
「ディオ……『父親が息子を助ける』のは当然だよ……君は私の子供なのだから」
ジョージが少し悲しげに微笑んだ。
「ディオ、君もそんなにひどい怪我を……」
「……」
『父親』と言われれば、あの憎らしいクズの顔が思い浮かぶ。
ディオは何と答えてよいか思い浮かばず、とっさに下を向いた。
「……大した怪我じゃあないですよ。もう良くなってきています……これは傷口が開きかけた時にちょっと血が出ただけです。だから、僕は元気ですよ……そうだ『ジョースター卿』、僕が、あなたに代わって彼らを救出してきますよ」
ディオはジョージの手からロープを取り上げた。そしてジョージに代わって彫像にロープを縛り付ける。
自分の体にロープを縛り付けると、ディオは壁に身を乗り出して、そろり、そろりと降りていく。
「二人とも、もう少し待っていてくれ」
「ディオ……来てくれて、ありがとう」
ジョジョが言った。
「フフフ、これで一件落着かしら」
降りてくるディオを見て、ミナが輝くような笑顔を見せた。
「ミナ、ジョジョ……今から行くからな。妙な動きをせずじっと待っていろよ」
ディオは二人から目をそらし、淡々と言った。
その顔が思わぬものを見てこわばる……
ディオの目にとまったのは、テラスの根元を走る亀裂だ……
ピシッ
突然『何かが割れた音』がしたかと思うと、ジョジョとミナ、二人のいるテラスの床が不意に崩れた。
二人がテラスから『奈落』へ落ちていく……
その先には小さくなってきたとはいえ、まだ『暗黒空間』が口を開けている……
「いやぁぁぁぁっ───ッ」
ミナが叫ぶ。
その眼は恐怖に染まっている。
ジョジョはチラリと下を見た後、再び顔を上げて父親とディオを仰ぎ見た。
そして首を振った。
二人に向かって満面の笑みを浮かべ、近づくな……と手まねで合図する。
まるで時が止まったかのように、
ゆっくり
ゆっくり
二人が
墜ちていく
「ダメだッッ! 」
ジョージが叫ぶ。
「うぉおおおおおおお────ッッ! 」
ディオは叫び、壁を蹴った!
全身に残された力を振り絞って、二人に向かって飛びこむ。
必死に両手を伸ばす。
「ディオっ───」
ミナも両手を伸ばした。
目を丸くし、両手を必死に伸ばすミナ……
ディオの目に、ミナと『母親』の面影が被る。
『母親』が両手を伸ばしている……
ミナの手がディオに触れた。
その手を……
ディオは断固としてふり払った。
「イィイイいぃいいいいい──────ッッ! ! 」
ミナが絶叫を上げた。
10分後:
「ハ───ハ───ッッ、ハァ───」
ゆっくりと綱を登り、ディオは再びジョージ・ジョースターの元へ戻ってきた。
その肩にはジョジョを抱えていた。
……ジョジョだけだ。
「ディオ……」
なぜ僕を助けた……
そうたずねるジョジョの顔を、ディオは見なかった。
「…………ジョジョ……キミだけでも助けられて良かったよ」
ディオはジョジョの顔を見ないまま、そう言った。