ディオの奇妙な冒険 ManicStreet (ジョジョ1部+7部)   作:ヨマザル

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鉄球と刀

「……しかし、あの怪物はいったい何者だったのだろう? 」

 

「僕は、ただのマスクを被ったチンピラだと思いますね」

 ジョージの疑問に、ディオは自説を披露してみせた。

「大方、列車強盗の手合いですよ。今頃警察に追われて、必死に逃げていることでしょう」

 そう言うと、ディオはパンにたっぷりとバターとハチミツを塗りたくり、口に放り込んだ。

 その甘ったるい味に胸焼けして、ディオは咳き込み、ウエッ と喉を震わせる。

「でもディオ、あれじゃあ生きていられないよ。僕は、襲撃者が銃撃で体中を吹き飛ばされた後に、まだ体を動かしているのを見たんだ」

「ジョジョ、確かにその可能性もある。だが、あの男はあれだけ酷い傷を負っても、血が出ていなかった。僕はマヤカシだと思うな。大方、警官隊は身代わりの人形を撃たされたといった所だと思う」

「そんなものかなぁ? 」

「そんなモノさ……切り替えようぜ、ジョジョ」

 

 木乃伊(ミイラ)男の出撃があった翌日の午後、ディオ達三人はカイロ市街で朝食を取っていた。

 そこはホテルに隣接したカフェであった。

 汽車を下りた三人は、ここから蒸気船でナイル川を登るのだ。船の準備が整うまでナイルの雄大な眺めをじっくりと楽しむために、三人は川沿いの風通しの良い座席に陣取り、優雅な時間を過ごしていた。

 海も近いこの辺りではナイル川の川幅はかなり広く、まるで湖のようだ。真っ青な川の水の向こう側には、ここと同じ砂色の岸が見える。そしてヤシの木やシェロなどの緑が見え、その奥にはエジプト式の家屋が立ち並んでいるのが見えた。砂色の日干し煉瓦で作られた家は地面と溶け込み、地平線と溶け込んでいる。角ばった岩の荒野が広がっているかのようだ。

 カフェは、地面に砂利を敷き詰め、四隅のナツメヤシの木にロープを渡し、そこに麻布をかけ渡しただけの簡単な作りだ。だが風が通って心地よかった。

 

 そのカフェには他にも5名の外国人がいた。

 二人は新婚旅行と思われる金持ちの夫婦。

 二人は老婆とその娘と思われる中年女性。

 そしてもう一人、ひときわ若い長髪の男がいた。

 

 その長髪の若者が、ディオ達を見つけてゆっくりと近づいて来た。

「申し訳ありませんが、ご一緒しても構わないでしょうか」

 若者は、非常にかしこまった態度でジョージに尋ねた。イタリアなまりの英語だ。

 

「ああ、確か君もこの船で観光に行くのだったね」

 ジョージが朗らかに応じた。

「失礼だが、お名前を教えてくれないかな、いや乗員名簿は見せてもらったのだがね……無作法でもうしわけないのだが ……」

 

「失礼いたしました。自分はジャイロ・ツェペシュと申します……イタリア半島にあるネアポリスという小国の出身です。あなたはジョージ・ジョースター卿ですね。お目にかかれて光栄です」

 

「こちらこそ、お会いできて光栄ですな、お若いツェペシュ卿。……ネアポリス……イタリア半島の王国からこられたのか。よいお国に住まわれているね」

 ジョージはにこやかに空いている椅子を示し、ジャイロに座るようにと促した。

 

「はっ……恐縮です」

 ジャイロは一礼するとディオとジョナサンの間の席についた。

 気さくな態度で二人に話しかける。

「やぁ、オタクたち、ちょっといいかな。良ければ食事をご一緒させてほしいんだ……この船には君たちの他に年が近い人がいないようなのでね」

 

 ジョージが微笑む。

「いやいや、構わんよ。まずはこちらの二人を紹介させてくれるかな……ジョナサンとディオだ。二人とも私の『息子』だよ」

 

◆◆

 

 半日後:

 

「ツーペア ……10とキングだ」

「フルハウス」

「やられたよ、ブタだ」

 ジャイロは、カードを叩きつけた。そしてフルハウスを出したジョジョにコインを一つ、放り投げた。

「もってけドロボー」

 

「ハハハ……やったぞ」

 ジョジョはニコニコしながら、懐にコインをしまいこんだ。

「ようやくツキが回って来たぞ」

 

「全くだ。俺の方はツキが逃げちまったみたいだぜ」

 ジャイロは『お手上げ』と言うように天を仰いだ。

 

「何言っている? まだ貴様は勝っているじゃあないか」

 ディオが眉を吊り上げた。

 

「ハッ……もうトントンだよ。どうやらジョジョの方にツキの流れが行っているのかもな」

「ハハハ、そうだったら嬉しいな。まだやるかい? 」

「もちろんだ。……ほかにやることもないしな」

 

 三人はナイル川をさかのぼる観光船の甲板で、ひたすら時間潰しのポーカーをしていた。

 船べりに見えるのは雄大な砂漠、遺跡、川……船に乗ってしばらくの間こそ、三人とも船からの景色に魅せられていた。だがどんなに雄大な景色でも、ほとんど代わり映えのないまま半日も見させられていればすっかり飽きてしまう。

 

 ジョージは一人、客室に戻って昼寝をしている。

 

 残された三人はまったりとした雰囲気でカードを交換し、レイズし、ドロップし、勝ったり負けたりのゲームをダラダラと続けていた。

 

 チェンジした2枚の手札を確認したディオは、目を輝かせた。

「……レイズだ」

 ディオは自信たっぷりの風で、二人に宣言した。

 

「うわっ……良い手ができたのかい? 」

 

「……ジョジョォ…………それを話したらポーカーにならないだろ? 」

 だがディオは、言葉とは裏腹にフフンと満足げな笑みを見せた。

 

「なぁディオさんよぉ。アンタ策を弄しすぎて空回りするタイプだろ」

 ジャイロがヘラッと笑った。

「そんな見え見えのブラフになんて乗るかよ。なぁ、ジョジョォ? 」

 

「……」

「どうするんだ? 行くのか、降りるのか? 」

「……コール」

 ジャイロは当然とばかりに勝負に乗った。

 

「……僕もだ」

 ジョジョは意気込んで手札を見せた。

「スリーカード……どうだいッ」

 

 ディオが笑った。

 バンッ

 とテーブルに自分の手札を叩きつける。

「フッ、僕の勝ちだな……フルハウスだッ」

 

「おお、マジかよ」

「……さすがディオ……」

「フフフ、ブラフ(ハッタリ)と見せかけての、本当の強手と言うヤツさ」

 

 だが、ディオの余裕たっぷりの笑い顔が続いたのは、ジャイロが勝ち誇って自分の手札を開くまでであった。

 そこにはジャックのフォーカードが並んでいた。

 

「ハハハ、やっぱりオタク、策に溺れるタイプだったな」

 チッ……悔しげに黙りこむディオを横目に、ジャイロは意気揚々として、近寄ってきた給仕にダブルのエスプレッソを注文した。

 

 エスプレッソ……オーダーを聞いてジョジョとディオはわざとらしく首を振り、英国紳士らしくそれぞれアールグレイ ティーを注文した。

 

「なんだ? アールぐれぃてぃ? よくそんなお湯みたいなモンに金が払えるな」

 ジャイロは鼻を鳴らした。

「さすが、イギリス人の舌だな。ペラペラ動くだけで味覚ってものがないぜ」

 ジャイロは給仕の持ってきたエスプレッソを受け取ると、とてもうまそうにすすった。

 

「えっ? 何を言っているの? 」

 ジョジョは顔をしかめた。

「失礼だけれど、君の飲んでいるものの方が……」

 

「ああ……僕らには泥水をすすっているようにみえるな……」

 ディオも顔をしかめた。

「我等英国人は、君たちイタリア人と違ってコーヒーなどとっくの昔に卒業したのさ」

 

「……こりゃまいった。味覚がない奴らと話していると、頭がくらくらするぜ……………………おぉぉっ!  お……おい、あの女見たかよ。マブいぜッ」

 と、ジャイロは唐突に話題を変え、露骨にある方向を指差した。

 

 ディオとジョジョが指さされた方向を見ると、三人のテーブルから少し離れたところに、4人組の女の子がクスクス笑っているのが見えた。

 

 ディオは肩をすくめた。

「確かに美しい貴婦人達だな……なるほど、お前はああ言うタイプが好みなんだな」

「ハッ……スカしてんじゃあねーよ。ジョジョ、おめーはどうよ」

「ああ、僕は……ウン……きれいな人達だね」

「だっろぉ? 誰がいいよ」

 

 ジョジョの顔が真っ赤になった。

「……あの左端の子かな」

 

「オイオイ、一番エグイ子を選びやがったな」

 お前、ツゥだな。味覚は無くても、女を見る目はあるって事は認めてやる。

 ジャイロはニヤケながら、ジョジョの脇腹を小突いた。

 

 と、ジャイロの目線に気がついたのか、三人が見ていた女性たちが、クスクスと笑いながら近寄ってきた。

 

「おっ……あの子たち、コッチにやってくるぞ」

 ジャイロがにやっと笑った。

「ディオ、ジョジョ、話しかけてこいよ」

 

「よッ……ヨシッ」

 ジョジョは少し顔を赤らめ、立ち上がった。

 

 一方ディオは、冷静に首を振った。

「僕はやめておこう……ジョジョ、ジャイロと行ってきたらどうだぃ」

(こんな所をジョースター卿に見られると厄介だからな……)

 

「えっ? 」

「ワハハハハ……お前、意外とへタレなのか? よしジョジョ、行ってこようぜェ」

 ジャイロはジョジョの肩を抱き、意気揚々と女の子たちに声をかけた。

「よぅッ! カワイコちゃぁんッ」

 

「あら、ありがと……」

 

 ジョジョが、コホンと空咳をした。耳まで真っ赤になって、女の子たちに話しかけた。

「きっ……君たち、ほんとに可愛いね……あの……その…………あっ ……朝ッ? 」

「朝? 」

 

 可愛らしく小首を傾けた女の子を見て、ジョジョはますます舞い上がっていく。

 

「チ ……チ……朝食のフル・ブレックファストの時に飲むのはコーヒー? それとも紅茶? どっちが好きだい? きききき君は……」

 

「オイオイ、ジョジョ……」

 ジャイロは目を回して見せ、だが 「俺は牛乳たっぷりのカプチーノだ」と答えた。

 そして、思いもよらない質問に目を丸くしている女の子たちを、弁舌巧みに口説き始めた。

 

 すっかり舞い上がったジョジョは、そんな様子に気づかず、一本調子で語りかけた。

「そ、そそ、そうなんだ? じ、じゃあ、食事の付け合せには何を取るのが好き? ジャガイモ? パン? それともポリッジ(お粥)? 」

 

 プッ……

 まだ舞い上がって変な質問をしているジョジョの様子にくすっと笑い、女の子の一人がジョジョの手を取った。

「えぇ、えっ? 」

 目をキョドキョドと踊らせるジョジョの手をひき、その女の子は外の様子を見ましょうと川べりへ案内していった。

 奇しくもその女の子は、ジョジョが一番かわいいといっていた女の子だ……

 

「おっ……ジョジョのヤロウ、母性本能をくすぐる手だな……やるじゃねぇか? 」

 その様子を見ていたジャイロは、はっと口をつぐんだ。自分が話しかけていた女のコ達が、いつの間にかいなくなっていることに気がついたのだッ

 慌てて周囲を見回したジャイロの顔が険しくなり、剣呑な色を帯びた。

 なんと、その女のコ達は……

 

 ド ド ド ド ド ド ド ド ……

 

「ディオ……テメェ……」

 

「え──ぇっ、やっだあぁぁ〰〰ディオさんったらぁ〰〰♡」

「きゃぁあああっつ、ウレシィ〰〰」

「ハハハ、僕こそこんなに美しいレディ達と知り合えて、光栄だよ」

 

 なんと、ジャイロが目を離したすきに、女の子は二人ともディオの座っているテーブルに移動していたッ、そし和気あいあいと盛り上がっていたのだッ!

 

「ジャイロッ こっちにこいよッ。このコ達とブリッジ(二人一組の四人で行うトランプの遊び方)でもやろう」

 先程のポーカーの借りは返したと言わんばかりに、ディオが少し勝ち誇った風でジャイロを呼んだ。

 

「……」

 ジャイロは一瞬複雑そうな表情を浮かべ……すぐにまたヘラッとした顔つきになってディオ達に合流した。

 

 4人はそれから、ジョジョが少し顔を赤らめて(しかし険しい顔つきのミッションスクールの女教師に耳をねじられて)戻ってくるまで、和気あいあいとブリッジに精を出した。

 

◆◆

 

 その日の夕方、ディオ達の乗った船は目的地のルクソールに無事到着した。

 ルクソールとは、ナイル川を少しさかのぼった川沿いの町だ。古くはエジプト新王国時代、太陽神アメン・ラーをまつる都市、テーペとして知られている。

 ナイル川をはさんで東岸には、カルナック神殿やルクソール神殿など生を象徴する建物が、西岸には死を象徴する王家の谷や王妃の谷などがある観光の名所だ。船はここで二泊する。船客たちはここで一旦船を下り、ルクソールのホテルに泊まって遺跡の観光をするのが定番のコースであった。

 

 その定番コースを楽しもうと、ホテルにチェックインして一旦荷物を下ろした後で、ディオとジョジョは連れだってルクソールの街の観光に出掛けた。

 

 一方のジョージは、長旅の疲れをとるため、二人には付き合わず早々にベッドに入った。

 ジャイロは調べたい事があるとかで、そそくさと一人で何処かへ出掛けていった。

 例の女の子たちは、険しい顔つきの女教師にコッテリと絞られているようであった。

 

◆◆

 

 コンコン

 

 ディオとジョジョが観光に出かけてから2時間は経った頃、自分の部屋で休んでいたジョージの部屋をノックするものがいた。

 

 コンッ

 

「誰だね」

 ジョージは休んでいたベッドから起き上がり、ドアの前にたった。

 

「……エジプト駐在 英国治安維持部隊のシャカ少佐ですッ」

 

「英国治安部隊……陸軍かね? 」

 ドアの覗き窓から部屋の外を眺めると、そこには確かにイギリス陸軍の制服を着た浅黒い肌の男が立っていた。頬も、目の下も、げっそりと痩せておるように見える。

 

「ハッ……その通りです」

「なぜ、陸軍の治安部隊がこんな時間に私のところに来るのかね? ……まさかっ息子たちに何か? 」

「……いえ ……」

「では何の用だね? 」

「実は……ジョージ・ジョースター卿にお願いがありまして……」

「ふむ……だから何……のッッ! 」

 

 スキャッットッ!

 

 ジョージは大慌てでドアの前から飛びのいた。

 突然ッ、ドアを突きぬけて刀が顔を出したのだ。

 さらに、突き出た刀が向きを変え、ジョージに向かって突き込まれるッ!! 

 

「何だとォッ」

 とっさにジョージは体をひねり、ドアを抜けて襲いかかる刀を避けるッ

 

 ザシュッ

 

 刀はくるっと回転すると、ドアノブを切り落とした。

 

「なっ……いったい何だ、これは…… 」

 

 驚くジョージの目の前でドアが開き、刀を手にしたインド人が入ってきた。

「私の名は、シャカ……ジョージ・ジョースター卿ッ あなたを殺人及び、文化財盗掘の疑いで逮捕しますッ」

 シャカは、ジョージに刀を突きつけた。

「……真っ二つに切られたくなければ、おとなしく言うことを聞け」

 

◆◆

 

 一方その頃……

 

「不思議なパワー、ピラミッドのミニチュアはいかがかな。これはいいものだよ。精巧に、完璧にコピーしたピラミッドの置物さぁ~~」

「この石細工はいかが? エジプトの9柱の神々を一揃いさッッ」

「旦那、パピルスはどうだい? これは値打ちものなんだよぉ~古王国時代のホンモノサァ」

 

 ディオとジョジョは、ルクソールの街並みを当てもなく歩き回っていた。

 

「へっ? へぇええええ、面白いな」

 興味を引かれたものがあつたのか、ウッカリもの売りに返答したジョジョに、もの売り達が一斉に話しかけるッ!

 

「そうでしょ、旦那。お目が高いッ そこの旦那もどうだい? 安くしとくよぉ」

「えぇぇっ……ちょっ……」

「何を迷ってなさるかい、旦那ッ。こんなお買い得をほっておくなんて、馬鹿のやることでさ……こんなに分厚い財布を持ってらっしゃるんだ」

「ちょっ……財布を引っ張らないでくれッ! 」

「まあまぁ……ワシらにも旦那のその幸運をちょっとは恵んでくだせぇ…………」

 ジョジョはあっという間に、物売りに取り囲まれてしまった。

 

「フン……」

 ディオは、物売りを相手にしない。突きだされたパピルスと称する紙を、じろりとにらみ、後ろに下がらせた。

「本物のパピルスは丈夫だから、思いっきり引っ張っても千切れないはず……本当に本物かどうか、買う前に、確かめさせてくれないか? 」

 

「ひっ」

 目に見えて動揺した物売り達は、大慌てでディオから去って行く。

 

 一方、しつこい物売りに辟易したジョジョは、ついに強引に物売り達を押しのけ、走りだした。その場を逃げだそうというのだ。

 

(チッ)

 舌打ちしながら、ディオもその後を追った。

 

◆◆

 

 その後、ディオとジョジョは観光と土産物を買うために、ルクソールのスーク(市場)に移動した。アレクサンドリアのスークに比べると、ルクソールのスークは小ぶりだ。店の作りも似ている。だがさすが遺跡の街だけあって取り扱っている品には(おおかたは偽物やガラクタだが)これと目を引く物が隠れている。うるさい商人をあしらいながら骨とう品の山を掘り出したり、またしてもディオが値引き交渉をしたり、ジョジョが気に入った品の前で、まるで『トランペットがほしい少年』のように身じろぎもせずに固まったり、二人は『それなり』に観光を楽しんでいた。

 

 やがて歩き疲れたディオは、一軒のカフェの前で立ち止まった。ありふれたオープンテラスタイプのカフェだ。野外に置かれたテーブルはひび割れ、埃がのっている。その上には浅黄色の布が路地の反対側まで張りわたし、照りつく激しい日差しを遮っている。

「……ジョジョ、何処かで茶を飲まないか? 」

 

「いいね。この店は涼しそうだし」

 

 二人がカフェに入った。すぐさま店員が現れ、メニューをしめす。二人は何を注文すべきか軽く議論をして、ターメイヤというそら豆のコロッケと、ミントティー(他の飲み物は甘ったるいトルコ式コーヒーしかなく、二人ともコーヒーを飲みたくはなかったので)を注文した。

 その時だ。

 

 ガタンッ

 

 突然二人の背後で、人びとの悲鳴と、なにかがひっくり返る物音が聞こえた。

「うォォッ! 」

「何あれッ! 」

『$##>*※▲○☆』

「ちょっとっ! 」

 人びとの叫び声の中に、何処の言葉かも判らない言葉が混じっている。

 

 振り返った二人が見たのは、常識外れの光景であった。

 それは……

 ジャッカルの頭を被った、古代エジプトの軍隊のような戦士達であった。

 

「なんだ、あれは。仮装行列か? 」

 ディオはせせら笑った。

 

「いや……でもディオ、あれはかなり本格的だよ。見てみなよ、あのエジプト風の武器は本物だ」

 ジョジョが懸念の色を顔にうかべた。

 

 そのジャッカル頭の戦士たちと二人の視線がぶつかった。

 

「▲○☆▲○☆xOOO! 」

 戦士たちはわめき、手に持っていた半弓型の短い弓をつがえ始めた。

 

「ムッ……」

 ディオは、戦士達の様子にうたがいようのない明確な殺意を感じ、嘲笑う事を止めた。

 

「まさか……そんな、バカな」

 ジョジョもまた、状況のただならなさをはっきりと感じ、身構えた。

 

「ちょっとォ、何あれ? 」

「新手の観光用の出し物か? 」

「えぇ、ダッサぁぁ。キャハハッ」

「まったく、うちの政府の連中ときたらロクなことをやらないねぇ。あんなツマラナイ遊びに金を使う金が余ってんなら、ちょっとは私達庶民のタメになることをすればいいのにねぇ……パンの値段を下げるとかさぁ」

 

 周囲の観光客や商売人たちも、その戦士たちを目にしていた。だが、初めのうちはそのジャッカルの戦士達のことを仮装か何かと勘違いしていたようだ。

 

「……いや、まて。何か変だぞ」

「ちっ……ちょっと、あいつら本気なの? 」

「ヤバい、ヤバいぞッッ」

「いっ……嫌ッ、早く逃げないと」

「うっ、うぉぉぉぉっ」

「キャ──────────ッッ‼」

 

 ジャッカルの戦士たちが矢に手を伸ばしているのを見て、観光客や売店の売り子の一部がザワザワとし始めた。

 そして皆、戦士たちから距離をとろうと一斉に走り出したッッ

 

 狭い路上を一斉に駆け出す人びと。

 直ぐに誰かが転び、その上に別の人間がのし掛かり……

 周囲はたちまち、阿鼻叫喚の凄惨な状況に堕ちた。

 

「▲○☆☆☆ッ! 」

 そんな修羅場には一向に気を留めず、ジャッカルの戦士団の指揮官と思わしき一体が大声で戦士達に号令をかけた。

 すると、ジャッカルの戦士達はまるで一体の人間のように『ピッタリ』統一された動きで二人に向けて弓を揃え、一斉に射ち放った。

 

「やめろッ! 」

 ジョジョが叫んだ。

 

 ブンッ

 

 まるで嵐のように唸り音をたてながら、矢がディオ達に襲いかかるッッ!

 

「おいぃッ」

 コイツはヤバい。

 とっさに、ディオは露店のテーブルの下に飛び込んだ。

 そのテーブルを蹴倒し、陰に隠れる。

 

 ブサッ!

 ブサッ!!

 雨あられと矢が放たれる。

 

「ウォオオオっ! 」

「キゃああああああッ! 」

 逃げ損ねた人々に矢があたる。周囲は、悲鳴を上げる人々の悲鳴で阿鼻叫喚の大修羅場となった。

 

「たッ……助けッ……」

 左足に矢を受けた30代のエジプト人が、必死に地面を這いずって逃げようとする。

 

 ゴブッ!

 

 そのエジプト人の喉を矢が貫通した!

 エジプト人は喉を地面に縫いつけられた状態となり、動きを止め、頭を垂れた。

 

「ククッ……」

 ディオは安全なテーブルの陰から、周囲の様子を冷酷に観察していた。

(この騒動だ、ジョジョのヤツが死んでいてもおかしくはない……どうだ? 死んだか? )

 ほんの僅か期待をこめディオはジョジョのばかでかい図体を探して周囲に目をやった。

 だがディオの淡い期待は簡単に撃ち砕かれた。ジョジョがディオとは反対側の商店の物陰に隠れているのを見つけたのだ。

 ジョジョは近くにいた子供たちをだきよせ、矢から守っているようであった。

 背負っていたナップサックに一本矢が刺さっていた。

(ジョジョの奴、怪我をしてやがるか……フフフ、相変わらずのあまちゃん野郎だ)

 ディオは唇を歪める。

(この機会をつかって、『殺る』か……いや、まだ早いな。俺はまだジョースター家の資産を受け継ぐのに必要な『資格』が足りないッ! )

 

 ブスッ

 その時、ディオの隠れていたテーブルを矢が貫いた。ジャッカルの戦士達が第二波を放ったのだ。

 

 ブスッ

 ブスッッ!

 矢はその数をまし、ディオをテーブルの下に釘付けにした。このままではディオ自身の命も危ない。

(まずい、なんとかせねば)

 矢が途切れる。

 ディオは周囲を観察し、ほんの僅かのうち手を見つけた。

「うぉおおおおお」

 ディオはテーブルを蹴飛ばした。

 倒れこんだテーブルの淵に足をかけ、跳ぶッ、

 手を伸ばしカフェの屋根代わりに差し渡していたキャンパスの張り綱をつかみ、引っ張る。

 その反動をうまく使って空中で体をひねる。

 露店の壁を蹴り、さらに跳ぶッ。

 まるで軽業師のように体をひねり、スークの屋根の上に飛び乗った。

 

 その背後に矢が射かけられる。

 だが……ディオには当たらないッ!

 

 ゴッブッ!!

 

 一方、ディオが蹴り飛ばしたテーブルは、ディオがその上に乗った後も動いていた。そのテーブルは、ディオの前に隠れていた老人に背後からぶつかった。

「なッ、なんだってぇ──ッ」

 テーブルに押され隠れ場から老人が押し出される。

 戦士達が射かけた矢が、老人に突き刺さる……

 

「ぎぃやぁぁぁッ! 」

 老人に矢が突き立っていく。まるでディオの身代わりになったかのようだ。

 そして老人はあっという間に全身が針ネズミになり、倒れた。

 

 屋根の上のディオは哀れな犠牲者を一顧だにせず、すぐさま次の行動に移るッ

(……逃げ切れんッッ、忌々しいがここはジョジョの奴を利用してやるッッ)

 ディオは屋根の上で二本のナイフを引き抜いた。

 ナイフを振りかぶり、スークの張綱めがけてナイフを投げつけた。

 

 プツンッッ

 

 ディオの投げた二本のナイフは、狙い過たず日除けのタープを支える張綱を切り落とした。

 ジャッカルの戦士たちの頭上に、日除けテントのキャンパスがふわりと降りかかる……

 

「うぉぉおおおおおおッ」

 そのキャンパスが戦士たちを覆った瞬間、ジョジョが立ち上がったッ!

 まるであらかじめディオと申し合わせていた様な絶妙なタイミングだ。

 ジョジョはテーブルを前面につきだしながら突進して行き、戦士たちに襲い掛かるッ

 テーブルを戦士に押し付け、押し込むッ

 テーブルに押し倒された戦士たちは、ジョジョに踏みつけられピクリとも動かない。

 まるで機関車のようなスゴイパワーだ。

 

(よし、狙い道理だッ、奴に注意が行っている今がチャンスだッ)

 ディオは屋根の上から戦士長に向かって飛び蹴りを放つッ

「うりゃああああっ! 」

 

「○☆▲○☆xOO+‼! ! 」

 ディオの蹴りを頭部に喰らった戦士長が、何やら喚きながらよろめいた。

 

(よしッッ、ここだッ! ここで奴を倒せば……)

 ディオは隣で転んでいたジャッカル戦士から槍を奪い、指揮官の頭に狙いを定めた。

 

「ディオッ! 殺すなッ! 」

 背後からジョジョが絶叫する。

 

 だがディオはその声が聞こえなかったフリをして、指揮官の眉間に槍を突き立てるッッ。

「はっ、食らえィッ」

 

「○☆*※>>=$! ! ! ! ! ! ! 」

 槍を突き立てられたジャッカルの指揮官は、自分の頭をかきむしり、判別不能な叫び声を上げ…………『消えた』。

 

「なっ何だとォ──」

 ジャッカルの指揮官が消えたのを見たディオは、混乱し、一瞬その足を止めた。

 

 その致命的な隙をつき、テント地をはねのけたジャッカル戦士達が一斉にディオに襲いかかるッッ

 

「くっ、しまったぁッ」

 ディオは再び槍を構え、襲いかかる敵を迎え撃つッ。

「うりぃゃッ──‼」

 ディオは槍を回転させ、槍や刀を弾いた。

「フンッ」

 ディオは槍を腰だめに構え、周囲を囲もうとしてくる敵を必死につきまくるッ。

 ジャッカル戦士たちは、ディオの槍の前になすすべもなく後ろに下がり……ついに一体がディオの突き出した槍に縫いとめられるッッ

 そのジャッカルの戦士も姿を消す!

 

 その直後、左右に分かれたジャッカル戦士が同時に襲い掛かるッ

 

 ディオは右から来る敵の攻撃をかわしつつ、左の戦士の足を払うッ

「無駄ッ」

 地面に転がった敵を踏みつけ、右の敵に槍を撃ち込むッ

 

 

「○☆*※>>=$▲○☆! ! ! ! 」

 ディオの背後から襲ってきたジャッカル戦士を、ジョジョが吹き飛ばすッ

「くうぉおおッッ」

 ジョジョは敵から奪った刀を振るい、ジャッカル戦士を牽制した。

「ディオッ! 無事かッ」

 ジョジョは大声で叫んだ。

 

「ジョジョォッ! 」

(チッ……このウスラデカは、こっちに来ちまったかッ)

 

 ディオとジョジョは背中合わせに立ち、次から次へと襲い掛かるジャッカル戦士に対抗した。

 背中合わせに闘う二人。

 その闘い方は真逆であった。

 

 ジョジョはその恵まれた体格と心の強さを生かして、堂々と戦う。

 勇気を奮い立たせ真っ正面からジャッカル戦士を打ち倒す。正面から敵を迎え撃ち、タックルで吹き飛ばし、驚くべき力で剣を振るっていく。

 防御のために掲げられた槍を折り、盾を割り、正面から粉砕するッッ

 ジョジョは相手と真正面から向き合う。そして、まるで正式な決闘のように戦う。

 

 ディオは違う。

 ディオは敵の考えや動きを読み、フェイントを織り交ぜ、時にはトリッキーに跳躍し、相手の動きを封じ、自分のペースに引き込みながら倒していく。

 素早い動きで、相手の攻撃を避け、あるいは相手の攻撃より早く自分の攻撃をあてるッッ

 これは戦いなのだ。戦いはスポーツではない。

 ディオは自分のやれることをすべて行って、敵を倒していく。

 

 まさに二人の相容れない性格を表すような、戦い方の違い。

 

 だが、完全に真逆の二人だからこそ、二人の息はピッタリであった。

 

 二人は決して認めないであろう。

 だが、二人が力を合わせて戦ったとき、それは無意識のうちに互いのスキをカバーしあい、互いの長所を引き出しあう、圧倒的な戰力をもつコンビとなるのだッッ‼

 

「うりゃああああっ! 」

「ウォオオオッ! 」

 二人は襲い掛かる戦士たちを相手に一歩も引かずに戦い続けた。

 そしてついには、残るジャッカル戦士は4名だけになった。

 

「○☆*※>>=$! ! \\@▲○☆+! ! 」

 二人を手ごわしと見たジャッカル戦士が、ディオ達から距離を置き、弓を引き絞った。

 

(クッ! また矢か……あれはまずい……どうする? ジョジョの奴を盾にするか? )

 いち早くその動きを察知したディオは、冷や汗をかいた。

 

 と、その時だ……

「ディオ、僕の背後に……」

 すっとジョジョがディオの前にたった。

 両腕で自分の急所を庇って、ジャッカル戦士の前に立ちふさがる。ディオをかばおうと言うのだ。

 

 ブチッ

 

 そのジョジョの後ろ姿を見て、ディオの『誇り』に火がついた。

「なっ……このディオがお前の背後にこそこそ隠れるような男だと思っているのかッ、見くびるなよォォお~~ジョッジョォオオッ! 」

 ディオも一歩踏み出した。

 ジョジョの隣で弓を待ち受けるッ

「こいっ! 俺がすべてはたきおとしてやるッッ! 」

 槍をかまえ、ディオは吠えた。

 

「#\\@▲○☆*☆☆>」

 そのディオの吼え声にこたえるかのように、ジャッカル戦士達が弓を引き絞った。

 

「気合い入れろよッ! ジョッジョォォオオオッ」

「……キミこそ……ディオッ! 」

 

 その時だ……

 

 ギャルルルヴゥゥッッ!

 

 ディオとジョジョの背後から黒い塊が二つ、ジャッカルの戦士に向かって飛んで行ったッ!

「!? 」

「なんだぁ? あれは? 」

 

 ギュルルルルッン

 

『▲&#%%%$@! ! 』

 その塊が、一人のジャッカル戦士の弓を巻き込み、弾き飛ばした。

 

 ギャッ! ギィャッッ、ギャルルルゥッッ‼

 

 弓を弾き飛ばした後、黒い塊はさらに左右に飛ぶ。

 そして、両脇から隣のジャッカル戦士の脇腹を抉るッッ

 

 そのとき二人にもようやく黒い塊がハッキリ見えた。それは『鉄球』だ。

 

「!? 」

 一体なにが起こったのか、ディオとジョジョにはさっぱりわからなかった。

 だが二人は突然おとずれたこのチャンスを逃さすほど迂闊な男達ではなかった。

「くおぉぉぉッ! 」

「うりぃゃぁッ」

 ジョジョの拳が、ディオの蹴りが、残されたジャッカル戦士に飛んだ。

 

◆◆

 

 やがて戦いは終わり、その場にはただ二人、ディオとジョジョだけが残っていた。

 二人は油断なく周囲をうかがっていたが、やがてとまどった様に互いに顔を見合わせた。

 

 周囲は無惨にも破壊されているッ!

 傷ついた犠牲者達が震え、泣いていた。

 だが、その元凶であったジャッカル戦士達は、跡形もなく姿を消していたのだ。

 皆、ディオとジョジョに倒されると同時に、その姿が消えてなくなったのだ。まるで蜃気楼のようであった。

 

(……これは、どういう事何だろう? )

 ジョジョはジャッカル戦士のいた痕跡を求めて周囲を探った。ディオが引きずりおとしたキャンパス、ひっくり返った机、壁につけられた矢傷、怪我をした人びと、瀕死の人…………だがこの事態を引き起こした張本人達、ジャッカル戦士の持ち物や痕跡は、まるで見つからないのだ。

 と、ジョジョは足元に握りこぶし大の鉄球が二つ、落ちているのを見つけた。

 その鉄球は、ジャッカル戦士を倒した物に違いなかった。

「!? 」

「これは……この錘は…………はっ? 」

 腰を屈めてその鉄球に触れたジョジョは………………気がつくと地面に寝転がっていた。

 どうしたことか身体中の力が一瞬だけ抜け、立っていられなくなったのだ。

 

 一方ディオは油断なく周囲をうかがい続けていた。

(……まずいな。このままではこのディオが、騒動の責任を押し付けられかねん)

 周囲に見えているのは、ジャッカル戦士たちが跡形もなく姿を消してしまった挙句、奴らが残した大規模な破壊の中心につっ立っている自分たちの姿だ。

(早く撤収した方がいいな)

 ディオは、隣にいるはずのジョジョを振り返った。

「ジョジョ、ここは……」

 と、その時、ディオは隣にいたジョジョが立ちくらみを起こしたかのように、地面に投げ出されるのを見た。

「おいおい、早く立つんだ、ジョジョ」

 思わず舌打ちしたディオは、ジョジョが倒れたすぐ隣の場所から、シュルルル……となにかが擦れるような音を聞いた。よく見ると、鉄球が回転しながらあたりをうろうろと動いているのが見えた。

(何だ? )

 手を伸ばしその鉄球を掴もうとしたディオに、警告の言葉がとぶ。

 

「よしときな、その鉄球に触ると、あんたも吹っ飛ぶぜ」

「何だと? 」

 

 振り返ると、そこには長髪の若者が立っていた。

 その男のことはよく知っていた。男は、ネアポリスから来たジャイロ・ツェペシュであった。

 

「無事かい? アンタたち」

 ジャイロは二人に話しかけた。

「話は後だ、憲兵が来る前に逃げるぜ、お二人サン」

 

「よしッ」

 ディオは頷き、二人を待たずに駆け出した。

 

 ジャイロも直ぐその後を追おうとして、立ち止まっているジョジョに気がついた。

「ジョジョッッ! さっさとずらからないとヤバイ事になる。早くこいっ」

 

「……わかっているよ。直ぐに行く」

 ジョジョは痛ましげに答えた。

 

「……早く来いよ。オタクのメンドーは見きれねーぞォ」

 一瞬だけジョジョの方を振り返り、ジャイロもまた再びディオを追って走り出した。

 

「……ゴメンなさい。どうしようもなかったんだ」

 後に残されたジョジョは少しの間、老人 ──ディオに押し出されて死亡した── を痛ましげに見やった。そして、二人の後を追って走り出した。

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