ディオの奇妙な冒険 ManicStreet (ジョジョ1部+7部)   作:ヨマザル

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地上と地下

 ジョジョ、ジャイロ、グレゴリオの三人は、無言で周囲の探索をすすめていた。

 エジプトの日差しは強烈だ。すでに気温は上がり始め、三人の額から汗が吹き出し始めている。その汗は強烈な日差しに照らされ、あっという間に乾く。

 昼になれば気温がもっと上がり、さらに汗の量が増え、あっという間に体中の水分を出し尽くしてしまうだろう。何としても気温が(比較的)低いうちに、この探索を終える必要があった。

 

 三人が探索を始めてからすでに半日が経っていた。三人の唇はカサカサに乾き、口の中は水分不足でねっとりしていた。シャツは、吸った汗が絞れそうなほど濡れている。

 

「……なぁ」

 そんな時、ジャイロが探索の手を止めて口を開いた。

 

「……息子よ、集中しろと言ったはずだ」

 グレゴリオがいらただしげに答えた。

 

「集中しているよ、だからだ」

「何を言っている? 黙って探すのだ」

 

「もういいんだ」

 

「何を言っている? 」

 グレゴリオが悲しげに頭を振った。

「息子よ、近道などないのだ。真面目に探すしかない」

 

「……だから、もういいんだ……見つけたよ」

 ジャイロはふてくされたように言った。

「俺が見つけたんだ……ジョジョよぉ、探しているのはコレだろ? 」

 

 ジャイロが指差した個所からは、砂に半ば埋もれている石版が見えていた。

「見ろよ、この文様を」

 

「ジャイロッ! ほんとうかい」

 ジョジョはその石版に駆け寄り、砂をはらい、熱心に表面の彫刻を観察した。

 石板には9柱の神々と思われる姿が刻まれていた。神々はそれぞれ地上のピラミッドを登る途中で、そして彼らが歩む道の先には、地下に潜っていくような降り階段が描かれている。

 

「本物かもしれない……スゴイ、すごいよジャイロ。こんなすごい発見をするなんて……」

 ジョジョが顔をキラキラさせて、ジャイロをほめたたえた。

 

「まぁな、観察眼って奴だ」

 ジョジョに褒められて大いに気をよくしたジャイロは、胸を張った。チラッと父親のほうを見る。だが、グレゴリオはすでに石板を慎重に調べ始めており、何事か考えている様子であった。ジャイロには目もくれない。

 ジャイロは少し釈然としない気持ちで立ち、グレゴリオが話しかけてくるのを待った。

 

 一方、ジョジョはグレゴリオと共に石版を慎重に調べていた。

 石版に書かれた神々は全員が顔を上げていた。星空を見ているようだ。星空には星座が描かれ、そしてその近くに書物を手にした老人が一人立っていた。老人は書物を持っていない手で、地上のある一点を示していた。そこには階段が書かれていた。

 ジョジョは一瞬頭をひねり、すぐにぱっと目を輝かせた。

(そうか、この星座……この星座と同じ向きに石版を向けてやれば……)

 ジョジョは空を見上げた。まだまだ星が見える時間ではない。夜を待たねば……

 

◆◆

 

 同じ頃、地下深くの遺跡の中でディオは泥を……泥の上のどこかに痕跡が残されていないか探していた。二人が進んでいた遺跡の通路が、数十メートル進んだところで突然行き止まりになったのだ。

 

 ディオは顔が床にこすりつくほど身をかがめ、床を這いずりまわっていた。カンテラの灯りに照らされているのは、ただ床の石畳道にへばりついている泥と埃だ。ハンカチを鼻に当て、舞い上がる埃を肺に入れないように気を付けながら、探索を続ける。

 

「……これだな」

 やがてディオは、目につかないように巧妙に壁に埋め込まれていた突起を探しだした。

 ためらうことなくその突起を押す。

 

 カチ

 

 すると壁の奥で何かがハマる音がして……突然目の前の床がパカンと開いた。

 

 床が開いた先には、ただただ深い闇が広がっていた。

「フン……この先に9柱の神々を祭る9の部屋があるという事か」

 

「そうよ」

 ミナは妖艶に笑った。

「教えてあげるわ。伝説が正しければ、この先にはエジプトの9栄神をそれぞれ祀った部屋があるはずよ……まずは冥界アアルの王にして生産の神オシリスの部屋 次に 天空の神ホルスの部屋、大地の神ゲブ、豊穣や性愛のバステト女神、嵐と暴力の神セト、想像の神クヌム、書物の神トト、冥府の神アヌビス、そして天地創造の神アトゥムを祀る9部屋が続いているハズよ 」

 

「空気は大丈夫か?」

「それを調べるためにも、アンタが先に行きなさいよ……アンタが息苦しくなってきたら、それが空気が悪いって証拠よ」

「OK……わかったよ」

 ディオは近くに転がっている石柱にロープを括り付けると、暗闇の中へ降りて行こうとした。

 

「あら、アッサリしているのね。もっと反抗すると思ったのに」

 ロープに手をかけていたディオの背後から、ミナが意外そうに言った。

 

「……俺に外に選択肢があるのか? 」

 

「ないわね」

 ミナはペロッと舌を出した。笑いながら、ディオの背中に拳銃を押し付ける。

「ワタシがここにいることを、アンタにしゃべってまわられたら困るモノ」

 

「……先に進む以外に選択肢がない。今できる準備は全て済ませた……なら進むだけだ

 これ以上ここにいても、時間の無駄だろ? ……ムダは嫌いだ、無意味だからな」

 

「フフフッ、気に入ったわ」

 ミナがディオの頬にキスをした。

「まったくたじろがないのね。豪胆だわ」

 

「……」

 ディオは、黙ってロープを下りて行った。

 

「だいじょうぶよ、ちゃんと用がすんだら解放してあげるわ♡」

 ディオの背中にむかってミナが言った。少しからかうような口調であった。

「きっとね……」

 

◆◆

 

「ここが、『オシリス神』の部屋か? 」

「そうよ……ここが『オシリス神』、『冥界の王』の部屋よ」

 ミナはカンテラの灯りに照らされたその部屋を、目をキラキラさせて眺めていた。

 

 そこは一辺が5Mほどの小さな部屋であった。壁際にはびっしりと古代エジプトの神々や、礼拝する他国の人物、それを少し離れたところでそれを見る王たちの姿が描かれていた。

 狭い部屋の中央には、ディオよりも頭二つ分大きい神像が置かれている。神像はその手足をまるでミイラ男のように包帯で巻き、体の正面で“? ”マークのような杖と、先端に房が付いている笏をちょうどV字になるように捧げていた。杖と笏は黄金と水色塗料で縞模様が描かれている。その無表情の顔は緑色に塗られており、不気味だ。

 床にはなぜか、小さなコインの形をした浮きぼりが一面に彫り込まれている。

 

「すばらしいわ……あのお方はやはり正しかった。本当に『9栄神』の遺跡が残っていたなんて……」

 感極まったミナは罠を警戒する訳でもなく、あちこち見て回っている。

 

「オイ、気をつけてくれ」

 

「わかっているわよ…………ツマラナイ事を言わないで」

 そういいながら、ミナは石像をさわったり、壁のレリーフをなぞったり、やりほうだいだ。

 

(あのお方? )

 ディオは、罠が仕掛けられている可能性を考慮して、ロープをつたって降りた場所から、全く動かなかった。

 冷静に罠の有無を探りつつ、ミナの様子をそれとなく観察していたのだ。

(だが、これは……莫大な金になるかもしれんな…………………………こんなものを観たら、ジョジョの奴がよだれを流して喜びそうだ)

 

 そんなことをディオが考えているうちに、ミナがひょいッと、壁に埋め込まれた石板の中にある円盤に手を入れ、クルリと回した。

 

「ナっ……おい ……」

 罠を警戒しとっさに地面に伏せたディオは、だが目の前の壁が突然ポッカリと開いたのを見て目を丸くした。

 

「オイオイ、開いちまったゼ」

 

「フフフフ、驚いた? 」

 ミナが口をあんぐりあけているディオを見て笑った。

「これはエジプト神話を知っている人にとって見れば、さほど難しい問題ではないわね……冥界の王オシリス……彼はエジプトの偉大な王だった。小麦の作り方、パンの作り方、ワインの作り方を民衆に教え、絶大な人気があった。でもその人気をねたんだ弟セトに殺され、妻であり妹であるイシスによってミイラとして復活し、冥界の王になった。そして現世は自分の息子、ホルスにおさめさせた……それが彼の伝説よ」

 

「それがどうした? 」

 

「だから、この円盤の向きが逆だったのよ」

 ミナが言った。

「さっきは、この円盤はミイラが上、ハヤブサが下、そして牝牛の頭を持つ女が右にあったわ」

 

「……? 」

 

「ミイラはオシリス、ハヤブサはホルス、そして牝牛の頭を持つ女はイシスの象徴よ。だから正解は、ハヤブサが上(地上)、ミイラが下、そして雌牛の頭を持つ女がその真ん中にあるのが正解なのよ」

 ミナは得意そうにいい、先に行きなさい、とディオに指示した。

「次はホルス神の部屋よ」

 

◆◆

 

 二人はオシリス神の部屋を後にし、ホルス神の名を関した次の部屋に入ろうとした。だが、その部屋へと続くドアを開いたディオは、たたらを踏んで立ち止まった。

「? 」

 ディオの足元から奥にうっすらと見える次のドアまで、ポッカリと大穴が開いているのだ。その部屋には、床が全く存在しない。

 天井を照らしてみると、頭部が鳥の形をした神像が描かれている。その周囲には大小さまざまの水晶のようなものがぐるりと描かれている。

 

 

「なに止まっているのよ。早く先を進みなさい」

 立ち止まったディオの背を、ミナがポンとたたいた。

 

「……道がない」

 

 何を言っているんだか……軽口をたたいたミナは、ディオの足元を見てアラアラと楽しそうに微笑んだ。

「そうね、ちょっとした空中散歩を楽しまなきゃならないみたいね……あの突起を進んでいけば、何とか進めると思うわ」

 ミナはそういうと、壁一面に刻まれている彫刻を示した。よく見ると、その彫刻には一定の間隔ででっぱり、引っ込みが刻まれている。うまくいけば、そのデコボコを掴んで壁を伝い、反対側のドアまで伝って行けそうであった。

「ワタシに助けてほしい? 」

 

「……いい、俺が行く」

 ディオは懐からロープを取り出した。セーフティーロープにしようと、そのロープの片端を自分の腰に巻き、反対の端をしばりつけられる突起物を探す。

 

「ここはどうかしら? 」

 ミナは、入り口ドアのすぐ横に突き出している彫刻を指差した。それはミナの手首ほどの太さの鳥をかたどった彫刻で、おあえつらい向きにロープを通すのにちょうどいい穴が開いていた。

 

「フン……」

 ディオはその彫刻を慎重に調べると、肩をすくめた。

「見え透いた罠のニオイがプンプンする。わかりやすすぎるぜ」

 ディオはそういうと、もう一度部屋に入る手前のドア、壁、床を調べた。

「この床だ……この床には埃が積もっていないぞ。そうか」

 ディオは床に這いつくばる。そのまま一刻、そのままの姿勢で床の様子を調べ続けた。

 

「ねぇ……何やっているのよ」

 しびれを切らしたミナが話しかけたところで、ディオが笑い出した。

 

「……フフフフフッ」

 ディオは笑うと手招きしてミナを後ろに下がらせた。そして床の、彫刻が刻まれている日干し煉瓦を一つ引き抜くッ!

「ハハハハハハハハッッ」

 ディオは笑いながら、引き抜いた二つの日干し煉瓦──ミイラ(オシリス神)とハヤブサ(ホルス神)の彫刻がされている── を入れ替える。すると、騒音と共に床が開いた。

 そこには、大地に横たわる男神、男神の下に眠るミイラ、男神の上を歩く6柱の神々、さらにその神々の上を飛ぶハヤブサの彫刻が現れていた。

 

 バタンッ!

 ゴリッ!

 

 次の瞬間、何もなかった床から鉄棒が一本飛び出した。鉄棒はディオ達のいるドアと、反対側のドアを鉄棒一本でつなぎ、止まる。

 

「やるわねッ」

 ミナが口笛を吹いた。

「それで、どうやってこの先に行くの? 」

 

「このロープを鉄棒に括り付ける。そして、この鉄棒にぶら下がって先を進むしかあるまい」

(クックックッ……いくらこの女とは言えど、鉄棒を渡るとなれば両手を使わざる得ないッそうすれば拳銃を奪い取るチャンスがあるはずさ)

 

「ふぅむ……」

 ミナは腕組みをして先の様子を確認した。

「なるほど……良くこれまで謎を解いてくれたわね……いいわ。大サービスよ。この謎を一人で説いたご褒美に、ちょっとだけワタシの事を教えてあげるわ」

 そういうと、 何故かミナは、懐から口紅を取り出した。自分の顔に、まるでピエロの様な化粧を施すッ!

 

「何だ? 」

 戸惑うディオの目の前で、ピエロの化粧をしたミナがおどけたようなポーズをとって見せた。

 その体は引き締まっており、心なしか、気のせいか、先ほどとはすっかり違う体つきに見える。

 いや、気のせいではないッ!

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……

 

 ディオの目の前で、ミナの『体』が膨れ上がる。丸みを帯びた体がゴツゴツと角張り、まるでボディビルダーのような鍛え上げられた筋肉が姿を現すッ!

 

「フフフ……驚いた? とくべつの大サービスでおしえてあげるッ♡ これは我が『暗殺者の一族』に伝わる技能なの」

 そういうと、ミナは驚いているディオをしり目にポンと鉄棒に飛び乗った。そして、まるでサーカス芸人のようにポンポンと軽やかに鉄棒をわたって、反対側のドアに飛び移った。

 

◆◆

 

 続く『大地の神ゲブの部屋』では、入り口から反対側のドアまで流砂が一面を覆っていた。

 

 その、まるで水のようにさらさらしている砂は、水よりも更にたちが悪そうに見えた。

 水ならばその中を泳ぐこともできる。だが、抵抗の大きい流砂の中で泳ごうとしても、おそらくまともに体を動かすことさえ出来ないだろう。

 一度流砂にはまり込んでしまったら、一人の力ではとうてい脱出出来ない。

 事実、試しに流砂に飛び込んでみたディオは、何もできずにズブズブと沈んでしまった。そして、危うく死にかけたのだ。

 

 ミナが砂の中からディオを引っ張り上げてくれたから、かろうじて生き延びることができた。だが、もしディオの命綱をミナが握っていなかったら ──そしてミナがあらかじめ『変身』して筋骨たくましい姿となっていなかったら── ディオは、助からなかったであろう。

 

「ゲブッ」

 引き上げられたディオは、両手を突き四つん這いになった、せき込みながら肺に入りかけた砂を吐き出す。

「ゴッブゥウッッ」

 

「馬鹿ねぇ」

 ミナ ──今は驚くほど筋骨隆々の体をしている── が首をすくめ、ディオの肩を乱暴に叩いた。

 

「ガッ」

 ディオはせき込み……また砂を吐いた。

「ぶっ……アンタッ」

 

「何よ? 」

 

「アンタ、何だそれは? 」

 ディオは『変わり果てた』ミナの姿を指差した。

「婦女子がうまく化粧をすれば、まるで別人の顔のように装うことが出来ることはわかる……だが…………」

 ディオはまくし立てた。

「なぜ化粧で体格まで変わる? 非論理的だッッ! あり得んッ」

 

「フフフ……」

 ミナはニヤニヤしながら頬紅とアイラインをふき取っていった。その色濃く力強い化粧をふき取っていくにつれて、ミナの体が丸みを帯び、女性らしい体格に代わっていく。

「アッアアアアアっ」

 

 ミナが悩ましげな声を上げた。

 

 ぷるっ

 

 完全に化粧をとったミナは、あっという間に元通りの女性らしいたおやかな見た目を取り戻していた。

 

「……馬鹿な」

 目の前で再び『変身』したミナを見て、ディオは絶句した。

 

 その頬を、ミナがチュッと舐めた。

「いいじゃあない、細かいことは。理屈っぽいと女にもてないわよォン」

 

「下らん」

 プイッと横を向くディオの様子を見て、ミナは一瞬だけ楽しそうに微笑んだ。だがすぐに顔を引き締めた。腕組みして、部屋を覆う流砂を眺める。

「でも、困ったわね。どうやって次に行きましょうか」

 

「……フン、なんだ。お前はまだわからんのか? この下らん仕掛けに」

 ミナが困った顔をしているのを見て、ディオはハナを鳴らした。そして、再び流砂に飛び込むッッ

 

「ちょっとォ? ……? 」

 ミナは大慌てで再び化粧をしようとした。化粧道具を取り出し……その手を止めた。

 

 こんどは、ディオが流砂に飲み込まれていないのだ。

 奇妙なことに、ディオは流砂のただなかに一本足で立っているぅッ

 

「下らんッ! 」

 ディオは大きくジャンプし、次の一歩? を踏み出すッ

 

 ズブッ

 

 着地したディオの足がくるぶしまで沈む。だが、それ以上は沈まないッッ

 そして、次ッ!

 次っ!

 ディオは華麗に砂の上を跳んでいく。そして、無事に反対側の入り口まで到達した。

 

「いったいどうやったの? 」

 

「ハハハッ、まだわからないのかッ」

 ディオは嬉しそうに笑った。

 

 始めに流砂の中に飛び込んだときに、すでにディオは、流砂の中に隠されていた固い石柱を見つけ、その大まかな位置を見極めていたのだ。

 

 ミナに引き上げられた後、ディオは流砂を上から眺めて石柱の位置を見定めた。だから、その石柱の上を、まるで河原の石を渡っていくように飛んでいくことが出来たのだ。

「何をしているッ! 俺の飛んだ道は見ていただろ? あの……例のピエロに『変身』してこっちまで飛んで来いッ」

 ディオはすっかりイケダカな口調でミナに言い放った。

 

「ハイハイ」

 ミナは、楽しそうにフフフと笑った。

 

◆◆

 

 次の部屋、『豊穣と性愛の女神バステト』の部屋は、一面に奇妙な動物達の彫像 ──頭部が全て猫の頭に置き換えられている── が立ち並んでいる不気味な部屋であった。

 

「何だ? この部屋は」

 ディオは、気味が悪そうに周囲を見回した。

「特段罠があるようには見えんが……だが、次の部屋の入り口も見えん」

 

「そうね、でもこんな時こそ油断禁物よ」

「わかっているさ。黙って見ていてくれ、すぐに出口を見つけてやる」

「フフフ、期待しているわよ」

 

 だが、ディオがバステトの部屋を慎重に探索していくと、不意にガタガタときしむ音がした。

 

 ドガッッ

 

「!? 危ないッッ」

 何かが落ちてくる音に、とっさに地面に伏せたディオは、しばらくしてから恐る恐る目を開いた。

 

 すると、ミナが入ってきた扉を調べているのが見えた。

 

「ディオ君、……やられたわ」

 ディオが立ち上がったことに気づいたのか、ミナが振り返った。

「この扉、閉められたわ」

 

「何だってェッッ、それじゃあ俺たちは、こんなかび臭い場所に閉じ込められたって言うのか」

 

 いきり立つディオの様子を見て、ミナがクスリと笑った。

「まぁまぁ落ち着きなさいよ。ゆっくりとこの仕掛けを解きましょう」

 

「何を馬鹿なッッ、くっ…………」

 

 頭を抱えたディオを、ミナは優しく抱き抱え……その頬にチュッと唇をつけた。

「落ち着きなさいよ、少年……少し休んでいきますか♡」

 ミナが妖艶に微笑んだ。

 

 ♡♡……♡♡

 

「……なかなか上手じゃあない。初めてじゃなかったのね♡」

「フン……」

 

 チョット下を向いたディオの耳を、ミナがつねった。

 

「アンタ、中々モテそうなルックスだものね…………まぁ、アンタの性格を知ったら、それでも寄ってくるのはホンマの筋金入りビッチだけでしょうけどね」

「…………」

「あのジョナサン君? 彼はいい子よね、可愛いわ。それに比べてアンタはねぇ……」

「俺をヤツと比較するんじゃあねェッッ! 」

「あら、怒ったの? 」

 

 ディオは、はっと息をのんだ。

 隣で身支度を整え直していたミナが、『化粧』を始めたことに気がついたのだ。慌てて口に出かかっていた悪態を引っ込めた。

 

 ミナが粉を顔にはたいていく。そのたびにミナの肌がまるで『老人の肌』のような、くすんだ色あいにかわっていく。 それだけではない、眉間、目じり、口元に皺がより初める…………

 

 そこに現れたのは、船の中でジョジョの耳をねじりあげた年老いた女教師であった。

「わけあってねぇ。しばらくこのカッコにさせてもらうわ」

 その声まで、年相応にしゃがれている……

 

「お前…………もしや、ずっと俺達の近くにいたのか? 」

 

「フフフ、そうかもね。正確には君たちとトランプをしていた、あのインチキイケメン君を『狙って』いたのだけどね」

 

「インチキイケメン? ああ、ジャイロのヤツのことか」

 ディオはそれだけを口にすると、また黙りこんだ。

 

「…………それで、ここはどうやって脱出すればいいのかしら」

 

「恐らく……」

 ディオは脱ぎ捨てられていたミナの装飾品の中から、鉄製のブローチを拾った。そのブローチを猫の頭の神像に近づける……

 

「くっついたわッ」

 

「そうだ」

 ディオは胸を張った。

「恐らくここの神像は、すべて磁石になっている」

 

「ふうん……良く見たらこの床も鉄板なのね 。だから像が床に引っ付いているってワケね ──ところで、古代エジプトに製鉄技術があったっけ? まあいいわ── それで『それがどうだって』言うの? 神像が磁石だからって、ここから出られないことには関係ないはずだわ。それとも何か知恵が湧いてきた?」

 

「フム、今、考えているところだ」

 ディオは腕を組んだ。

「だが、これが糸口に違いない。そんなに難しいことはないはずだ」

 

◆◆

 

 その言葉通り、磁石の謎は割合と簡単に解くことが出来た。

 床に、微かに何かを引きずったような跡があったのだ。

 ディオはその引きずった跡を調べ、その跡が『すべて異なる石像につながっている』ことに気が付いたのだ。

 

 しかもよく見れば、石像はその場でぐるりと回転させられているような痕跡もあった。

 

 そうと判れば後は簡単だった。全ての石像を回転させ、部屋の中心に視線を向けさせればいいのだ。

 すると、あれだけ押しても引いてもピクリともしなかった石像が、互いの磁力でジリジリと近づき始めたッッ

 

「石像が一か所に集まっていくわ……これで絶対何かが起こるわ、何が起こるのかしら? 」

「わからん、だがこの考えであっているはずだッ、必ず出口が顔を出す……」

「注意してね。まだ何か罠があるかも」

「そうだな……!? 見ろッ。やはり俺の考えはあっていたぞッ! 」

 

 石像が中心に集まると、パタンと音を立てて床の一部が跳ね上がった。その奥には、細い通路が続いている。

 

「アンタやるわね」

 ミナが目を丸くし、まるで初めて見る人の様にディオを見返した。

 

「ハハハハッ」

 ディオは笑った。

「古臭い古代人が必死こいて考えた『謎』など、このディオにかかれば児戯同然ッッ、知恵の輪の方がよっぽど難しいぞォォ」

 

「フフフ、やるじゃあないッ」

 ミナがディオの頬に人差し指を押し当てた。

「頼もしいわね、頑張って♡」

 

「フン、老婆の格好で言われても気持ち悪いだけだ」

 

「……あら、ご挨拶ね……」

 

◆◆

 

 それからは驚くほど物事が順調に進んでいった。

『嵐と暴力の神セトの部屋』の中は、立っていられないほどの激しい風が吹き荒れていた。

 だがディオは、部屋の中に吹き荒れる風の通り道を見極めて、あっという間に突破してしまった。

 

「簡単ッ簡単よォッ! 」

「素敵よッ」

「よし、次だ。次も俺に任せろッ」

 

◆◆

 

『想像の神クヌムの部屋』では、入った途端に催眠作用のある黒蓮の煙が噴出した。

 二人はあっという間に煙にまかれ、悪夢のような幻想を見させられた。だが幻想に苦しめられながらも、ミナが無事に部屋の対岸にたどり着いたおかげで、二人は脱出することが出来た。

 

「……ブホッ」

「……次いこッ」

「ああ……」

 

◆◆

 

 次の部屋、『書物の神トト』の部屋では、一定間隔を置いて回転したり、飛び出してきたりする円柱が立ち並んでいた。

 ディオとミナはその円柱に協力して立ち向かった。二人は円柱が動くタイミングを予測し、飛び出す柱を避け、よじ登り、飛び越えたのだ。そして数十分の悪戦苦闘の末、無事に次の部屋へと進むことが出来た。

 

「ヨシッ! 」

「やったわねッ」

「ハハハハハッ、やっぱり簡単だ。とっとと行くぜ、こんな遺跡などあっという間に攻略してやるッ」

 

◆◆

 

 だが、次の部屋、冥府の神アヌビスの部屋をディオが開けようとしたところで、異変が起こった。

 

 スキィツツトッ!

 

 ディオが扉に手をかけようとしたまさにその時、突然、扉から刀が突き出てきたのだ。

 その刀は、ディオの顔のすぐ横に飛び出してきて、頬を斬った。

 刀はそのままクィッと向きを変え、ディオの首を薙ごうとするッ!

 

「何ぃィイイイッ! 」

 かろうじて刀をかわしたディオは、床に倒れこんだ。

 

 そのディオの目の前で、ドアがあっという間に細切れに刻まれていくッッ

 

「クッ、待ち構えている敵がいたってことか……」

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