ディオの奇妙な冒険 ManicStreet (ジョジョ1部+7部) 作:ヨマザル
ド ド ド ド ド ド ド ド ……
「待っていたぞ、侵入者ドモ」
扉を切り裂いて出てきたのは、イギリス陸軍の制服を着たまだ若い男であった。
ディオにはその姿に見覚えがあった。
その男は、ジョージを捕まえ、連行した男たちのリーダーだ。
「お前ッ! 」
「……ディオ・ブランド―か……ナマッ白い鼻たれのガキがよくここまで来たなぁ。褒めてやる」
その男はチラリとディオに目をやると、フンと鼻を鳴らして見下ろした。
そしてディオを無視して、ミナに向かって刀を構えた。これまでとは一転した、真剣な表情になる。
「今はババアに化けているのか……だが俺の目はごまかせん。お前は、ミナ・ハーカーだな……いや、知っているぞ。お前の真の名を…………」
その男はにやりと笑った。
「貴様の真の名はウィルヘルミナ・ラポーナ、そうだな? テロリストめ、目にものを見せてくれる」
ミナはクックックッと笑い続けた。
「シャカ、あんた『乗っ取られた』んだね、ざまぁないねぇ」
そういうと、ミナは再び化粧を落としていく。すると、見る見るうちに年老いた老婆の姿から、元の妖艶な美女の姿に戻っていく。
「ふうぅううんんッ! 」
「貴様ッ! 刈り取ってるわッ」
シャカは、刀をふりかざした。それは、まるでニホンや中東の湾曲した片刃の刀に似ている。
「我はアヌビス神の化身よォッ! 神の力で切り刻んでくれるわッッ」
ジャッキィイイインンン
「喰らえィッ」
シャカが両手で刀を上段に構え、ミナに向かって突進して行った。
そして、上段から一気呵成に刀を振り下ろすッ
「ゥうァアアアあぁつ」
ミナは後方に向かってのけぞった。
その鼻先を刀がかすめる。
ミナはそのまま後方に飛んで、バク転を決めた。
「キィイイエええぃつ」
必殺の一撃をかわされたシャカは、すぐに床に刺さった刀を引き抜いた。
今度は腰だめに構えてミナの胸を突こうとした。
「!? 」
とっさに、部屋の中心に立つ柱の陰に隠れるミナ
だが……
「馬鹿やろォっ! 」
ディオは、柱の陰に隠れていたミナに突進し、床に突き倒すッ
そのすぐ上の空間に、切っ先が突きだされた。
シャカの振るう刀が柱を突き通し、ディオの背中のすぐ上に飛び出したのだ。
「奴のカタナが扉を『突き抜けた』のを見ただろッ」
「ええ、でも、そんなの『ありえない』わよっ」
ディオは混乱しているミナをわきにのけると、シャカに相対した。
「どんな理屈だかは知らん、だが奴のカタナは『すり抜ける』ゾッ」
「ハッ」
シャカはニヤッと笑いながら、こんどはディオに刃を向けた。
「ただの人間のガキが、なかなかやるじゃぁないか」
「抜かせッ」
先手必勝だ。
ディオはシャカが襲い掛かってくる前に、拳銃を引き抜いた。
躊躇なく、シャカに向かって発砲する。
「喰らえッ! 」
バキィイン!
だが驚くべきことに、シャカはその手に持った刀をめまぐるしく振り回すと、ディオの放った銃弾を弾き返した。
それはほとんど人間ワザとは思えない、『何かに憑りつかれている』としか思えないほどのスピードと正確さであった。
弾き返した跳弾は、ディオに再び跳ね返った。跳弾はディオの肩と太ももにあたった。致命傷ではない、だが自らが放った銃弾をその身に受けたディオは、その痛みに崩れ落ちかけた。
「ガッ……ゲフッッ」
「ディオッ! 」
倒れたディオに止めをさそうとしたシャカの目の前に、こんどはミナが立ちふさがった。
「私が相手よッ」
シャカの視線がそれ、ミナの方を向いた瞬間に、ディオが発砲した。
ほぼ同時に、ミナが踊るような動きでシャカの懐に潜り込むッ!
息のぴったりとあった連携攻撃ッッ
だが……
「死ねぇィィィィ! 」
ディオの銃撃を弾き返したシャカは、返す刀でミナの胴を薙ぎにいくッ
「ちっ、無駄ァァァァッッ! 」
その腕に、肩に、そして額にむかって、ディオが再び発砲するッッ
タ──ンッ
「ヒャッヒャッ、学習能力なしか? 小僧ッ」
「うぉぉおおおっ」
発砲した瞬間に身を投げ出したディオは、ギリギリで跳弾をかわすッ
「まけるかぁツ」
パサッ
その時、ミナが上着を脱いだ。そして、妖艶に体をくねらせ、シャカの前に立つ。
「言ったでしょ、あなたの相手はワタシよ」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……
「ヒャッヒャッヒャッ、なんだその格好は? 色仕掛けで命だけは助けてもらおうって事か? 」
シャカが、下卑た笑い声をあげた。
「だがなぁ俺が『最高にたぎる』のは、この本物の刀をお前の体に思いっきり『挿入した』時だけなんだよォォォォツ」
シャカは一切手加減することなく、ミナに斬りかかるッ
ミナは一歩も動かないッ
スカッ
だが、シャカの攻撃は空を切った。
「フフフ、良く避けたな。だが……」
スカッ
「クッ、まぐれもここまでだ。死ね」
スカッ
「……」
スカッ
「うぉぉおおおおおお、なぜだ。なぜ当たらんッ! 」
スカッ
シャカの振るう刀は、ことごとく空を切った。
ミナが刀を避けたのではない。シャカが見当はずれの所で刀を振っているのだ。
「どういうことだ、これは……」
首をかしげるディオに向かって、ミナが片目をつぶって見せた。
「フフフ、私たちの勝ちよ」
「なんだと? 」
「アナタ、止まりなさいッ」
ミナが命令すると、シャカがピタリとその動きを止めた。
「なッ……どういう事だ」
シャカはすっかり困惑していた。無理もない。ピクリとも体が動かせないのだ。
「フフフ、体の動き、ステップ、視線、きらめきっ、そのすべてを使ってアナタに暗示をかけていたのよ。もうあなたは動けないわよ」
ミナが妖艶に笑った。
「ぐぅうう、バカな」
「フフフ、あんたも中々いい男だけどね」
ミナがあざけった。
「でも、ディオ君の方がもっといい男よ。だから、あなたはここでおしまい。ここでピストル自殺するのよ…………」
「なっ……これが、貴様の『おぞましい力』か」
シャカが口を開け、ゆっくりと自分の持つピストルをくわえた。
「……ところでいい刀ね、血が付くと厄介だわ。死ぬ前にその刀をよこしなさい」
「馬鹿な……貴様ら後悔するぞ……」
口惜しげな言葉とは裏腹に、シャカはゆっくりと動き、ミナの命令通りに刀を二人に向かって差しだした。
立ち上がったディオが、その刀を受け取るためにシャカに近づいて行った。
ディオは知らない。その刀が、刀を鞘から引き抜いた者の精神を則る力を持つ、後にエジプト九栄神と呼ばれるスタンドの一つ、『アヌビス神』のスタンドの本体であることを……
ミナが警告した。
「……気をつけて。その『刀』に触れない様にして鞘に納めてね。刀身が出ている状態でその刀に触ると……刀に『乗っ取られる』わよ」
「…………」
「そこに落ちている鞘に、そのまま刀をしまって」
「わかった」
ディオは部屋の隅に投げ捨てられていた刀の鞘を拾い上げた。そして、それを手にしたまま慎重に、シャカにむかってちかづいていった。
すると……
シャカに近づくにつれ、ディオの脳裏に『何か』が聞こえて始めた。
『…………オ、……オォ ……※.@▲#%☆』
幻聴か、それとも古代エジプトの魔術によるものか、それは声のように、何者かがディオに話しかけているように聞こえた。
最初は聞き取れないほど小さかったその声は、ディオがシャカに近づくにつれ、だんだんと大きくなっていった。
あと数歩でシャカに手が届く と言うところで、ディオは足を止めた。
頭に響く謎の声が、はっきりと意味の解るようになったのだ。
『……ディ ……ディオよ、ディオ・ブランドーよ』
いまやその声は、はっきりとディオにむかって話しかけていた。
『俺を使え……俺を使えば、お前は圧倒的な力を手に入れられるぞ』
「……」
『なぁ、お前にアヌビス神の力を授けてやるョ。ただ俺を手に取るだけでいいんだ…………そうすれば、如何なる栄光も栄華も、お前の思いのままよ』
「ディオ君、どうしたの」
ミナが警告の声をかけた。
「ディオ君、アンタまさか……」
立ち止まっていたディオが、顔を上げた。
心配顔のミナと目が合ったディオは、ニヤッと口角を挙げ……
「フフ、無駄ッ! 」
カシャッ
ディオはニヤニヤ笑いながら、シャカの持っている刀を元の鞘に戻した。
「ちょっと、悪ふざけはやめて」
「ああ、悪かった。誤解させたか……しかし、この刀……」
ディオは、鞘に納めた刀をシャカの手から引き抜いた。
そのとたん、シャカの体が急にガクッと崩れ落ちかけ、そして再び動き出した。
「何だと? 」
身構えたディオとミナの目の前で、シャカは酷く戸惑った様子で立ち上がった。そしてオズオズとした様子で二人を見つめ……頭を深々と下げた。
「助けてくれて、感謝する、俺はずっと悪夢の中にいた……逆らえなかった」
「なんだって……じゃあ、アンタは……」
「あっ……アンタが俺を助けてくれたのか」
シャカはディオの手を強く握った。
「何と礼を言ってよいかわからん。だが今後いつか借りを返すよ……絶対だ」
「なるほどね、お人よしのシャカに戻ったってわけね」
ミナが揶揄すると、シャカは顔をしかめた。
「テロリストの貴様と馴れ合う気はない。だが、貴様の……貴様のお陰で助かったのも事実」
「テロリストォ? 」
ミナは顔をしかめた。
「やめてよ。私のすべての行動は、イタリアのためよ」
「破壊活動しか能のないカルト集団が、偉そうに」
「はっ……アンタこそ、偉そうに。アンタごときが我がイタリアの問題をわかっている振りをしないで」
前触れなしで、ミナはシャカの頬を叩いた。
乾いた音が、遺跡に響く。
「そうよ。我がイタリアはまだ弱い。諸王国を統合したイタリア王国が成立してからまだ20年、ローマを奪還してから10年ちょっとしかたってないのよ」
ミナは感慨深げに言った。
「まだ統合されていない、『未回収のイタリア』はたくさんあるわ。ネアポリスも、トリエステも、南チロルもね」
ミナの演説は続く。
「古来、ローマ帝国崩壊後から、わが祖国イタリアは絶え間ない侵略にさらされてきたわ。それもこれも、イタリアがまとまっていなかったからよ。今の我々は、早くまとまる必要があるのよ。そして再びヨーロッパの中心に、我々『イタリア人』が立つのよ……」
そのミナの御高説を、ディオは少し冷めた目で観察していた。
(ヤハリ、ただの墓場泥棒ではないと思っていたが……コイツ、コイツがジャイロの奴の探しているテロリストか)
イタリア王国の概況は、ディオも知っている。恐らくミナの分析は正しいだろう。ディオの意見も同じだ。
統一に抵抗している諸王国は間違っている。このままではすぐに、近隣の大国、ドイツ、フランス、オーストリア、そしてトルコに侵食され、ボロボロになることは必然であろう。だが……
(下らんッッ、理念で人が動くか? 飯が食えるか? )
ディオの冷めた視線を気にもとめず、ミナはまくしたてた。
「ネアポリスはイタリア王国に吸収されるべきよ。そのためなら、なんだってやるわ」
それまでミナの話を黙って聞いていたシャカが、フンと鼻で笑った。
「それはお前達の思い込みだ。実際のところ、ほとんどのネアポリスの住民も、イタリア王国の住民も、統一を急いでおらん」
シャカはミナをあざけり、ピクリと体を揺らし……顔をしかめた。
「馬鹿な、体が動かん」
「フフフ、もうあきらめなさい。アンタはまだワタシの暗示にかかったままってワケ」
もう何もできないわよ
ミナは身動きできず冷や汗をかいているシャカの唇を、ピンとはじいた。
「アンタと話しているのはもう飽きたわ。そろそろ死になさい」
ミナは、ニヤニヤ笑いながら、指で拳銃の形を作り、自分の唇に押し当てた。
「なめているのか、貴様ッ」
シャカが、その拳銃をミナに向けるッ
……と、ノロノロとした、だが、よどみのない動きで、その銃をミナから反らした。
そして……
「ウッ……バッ馬鹿な」
シャカは狼狽していた。
何故だかわからないが『自分を撃ってみたくて』たまらないのだ……
再び拳銃をくわえ、膝まづく。指がゆっくり、ゆっくり動き、引き金に指をかける……
「たっ、頼む、助けてくれェッッ! 」
哀願するシャカの鼻を、ミナは楽しそうに捩じり上げた。
「だぁめぇぇっ♡。ワタシ、残酷なのよォッ」
「ウォオオオオオッ」
シャカが涙を流す。
だが、その手は休みなく動き、拳銃の撃鉄を上げ、引き金を引く指に力がかかり……
だが、その拳銃が火を噴くことはなかった。ディオがギリギリのタイミングでシャカの手から拳銃を取り上げたのだ。
「ディオ君? どうして」
ミナがぷぅっと頬を膨らませた。
「もしかして、ビビったの? らしくないわよ」
アンタが止めても、私は『殺る』わよ。ミナは、ゆっくりとシャカの首に手をかけた。
「まて、ミナ」
ディオはミナの肩に手をかけ、シャカの首にかかった手を再び引きはがした。
「ソイツは殺すな……まだ使い道がある」
ミナはディオを睨み付け……首をすくめた。
「わかったわよ。ここはアンタにまかせるわ」
「ハ──ッ、はァ────ッッ」
土壇場で命を助けられたシャカは、安堵のあまり腰が抜けたのか、催眠が解かれると同時に地面に崩れ落ちた。
そのシャカの手のひらを、ミナが踏みつけた。
「シャカ……特別よ、ディオ君の考えを尊重して、『今はアンタを生かして』あげる」
「グッ……」
「でも忘れないでね。アンタなんて『その気になったらいつでも殺せる』のよ」
「……わっ、わかった」
ディオは肩をすくめ、ミナの足をシャカの手の上からどけさせた。
「もういいだろう。感情など脇に置いて、俺たちの目的を思い出せ」
「わかったわよ」
ぷぅと膨れたミナを無視して、ディオはシャカの肩に手をかけた。
「もう大丈夫だ。安心しろ」
「ハァ────っ、ハハ────」
シャカはブルブルと震え、ディオにしがみついた。
「あっ……ありがとうッ」
「いや、いい。気にするなよ」
ディオはシャカの肩をたたいた。
「それじゃあ、教えてくれ……なぜおまえたちはジョースターを襲った? ……ジョージ・ジョースター卿はどこにいる」
フ──と、シャカは大きくため息をついた。
「そうだよな……話さないわけにはいかないよな」
シャカは、つっかえ、つっかえ話し始めた。
「そもそもの話は、2年前だ。南アフリカで勃発したボーア戦争当時にさかのぼる」
「ボーア戦争」
ディオが肩をすくめた。
「わが英国が、南アフリカのボーア人に敗北を喫した戦いだな」
「そうだ。だが、その敗北の陰にあったとある『奇妙な』理由は、一般には知られていない。軍の最高機密だからな」
シャカがブルッと身を震わせた。
「だが俺は知っている。その場にいたからな……あれは悲惨な戦場だった。俺の、初陣だった」
「へぇぇ」
ミナが笑った。
「何があったの? イカシタ、カッコいいアフリカの聖霊が降臨して、チャイコフスキー協奏曲のリズムにでも乗ってイギリス兵を殺しまくった? 」
「似たようなもんだ。ボーア人共には土地勘があった。俺たちにはなかった。だが、俺たちはなんとかやってたんだ。奴が現れるまではな」
「奴? 」
「木乃伊だ……ミイラが現れて、我が英国の一個中隊を壊滅させたのだ。そのミイラは銃弾も全く聞かず、サーベルで斬ってもひるまず、ひたすらに英国兵を殺し続けた……俺はかろうじて助かった……助かったのは偶然だ。気が付いたら死体の山の中で気絶していた。偶然、奴の刀が俺の急所を避けて通ったから、助かったってわけだ」
「そうか……それは大変だな。だがわからん。そのミイラが本当にいたとして、それがどうしてジョースター家に関係がある? 」
ディオは、列車で三人に襲い掛かってきた木乃伊の事を思い出し、尋ねた。
「ああ、そうだな。奴とジョースター家との縁は……」
シャカが首をかしげ、言った。
「キミだ。ディオ・ブランド―」
「なんだとっ? 」
と、遠くから、何かがガラガラと崩れる音がした。
「何、今の音は? 」
「この遺跡は、入り口が開いてから30時間たつと、一つ一つまた扉が閉まっていくのさ……」
「なんですって? じゃあ、私たちここに閉じ込められちゃうじゃあないの」
「大丈夫だ。最後の部屋まで行けば、そこから直通の出口が残っている」
シャカはミナをなだめた。
「だが、あまり時間が残ってないのも事実だな。この先の話は、次の部屋に行ってから話そう」
そのころ、ジョジョとジャイロ、そしてグレゴリオは、ジャイロが見つけた石版に導かれて、夜にピラミッドを登っていた。
月は荒涼とした砂漠を照らしている。ピラミッドから見下ろすと、冷たい月明かりが作る砂漠の陰影が、まるで海のように見える。
「この辺りかな? 」
ジョジョが石版を見ながら、ピラミッドの一部の外壁をそっとめくった。すると、そこにはジョジョの手がかろうじて入るぐらいの穴が、ポッカリと開いている。
「この先は……」
ジョジョは慎重に穴に手を入れ、その奥にあった『固い何か』を引っ張り出した。それは、『鍵』であった。
「!? 」
ジャイロが声をかけた。
「見つけたのか」
「うん。見つけたよ」
ジョジョは『鍵』を月明かりに照らしてみせた。すると、その『鍵』は緑色のヒスイの様な石でできているのがわかった。
「そうか……だが、『鍵』を見つけたんなら、すぐそれを使ってくれ」
ジャイロは腰から『鉄球』を取り出した。
「こりゃあ、まじいぜ」
ギュイイイ────ンッ!
二人の少し階下から音がした。下にいたグレゴリオが、『鉄球』をなげる音だ。
『%☆☆☆#@&? ※』
間をおいて、不思議な言葉で悲鳴が上がった。
「ジャイロ、これは? 」
「ああ、あれだ。正体はわからねぇが、お前達をカイロ郊外で襲った、あれだよ」
ジャイロもまた『鉄球』を回転させた。
その視線の先、ピラミッドの下には、例の『ジャッカルの戦士』達が群がっていた。
「へっ、ジョジョォ、気合いいれろよ」
「……わかっている」
ジョジョは、腰に差していたサーベルを引き抜いた。サーベルを両手に構え、切っ先ごしに迫り来る敵を睨み付ける。
「ジャイロ、君こそ気をつけて」
最後の部屋、『天地創造の神アトゥム』の部屋は、これまでとは打って変わった豪奢な宝石や黄金で彩られた美しい部屋だった。
その部屋の真ん中には、ポッカリと陽の差す空間があった。その陽の光の中心には、水晶でできた箱が収められていた。
その箱の中に見えるのは、古ぼけた『弓と矢』だ……矢は12本見える。
「……すばらしいワ…………」
ミナはユックリと、その水晶の箱に近づいていった。陽の中に手を差し入れ、箱を開けようとする。だが、その扉はピクリとも動かなかった。
ミナはイライラと蓋を調べ、腹立ち紛れにガンと、水晶の箱を蹴り飛ばした。
「…………開かないじゃあないッッ! 」
ミナはキッとシャカを睨み付けた。
「アンタ、ワタシを騙したわねッッ」
「ちっ……違っ」
「ハナシなさい。どうやって箱を開けるのか」
「知らないッ」
「そう、いい覚悟ね。でもバカね。だって、もうすでに質問から、拷問に切り替わっているのよ」
ミナの目が、光る。
「なっ…………止めてくれッ」
シャカがうろたえたように言った。だが、口ではそう言いながらも、シャカは再び自ら膝まずき、床に両手をついた。
…………そして自分の頭を床に打ちつけ始めた。
1うちごとにシャカの額が裂け、鮮血が床に巻き散らされる。
「うっ、やっ……や、め……め」
シャカは涙を流しながら哀願した。シャカの意思でこうしているのでははない。ミナの施した暗示が、シャカに意に反した自傷行為を行わさせているのだ。
「よせ、コイツは箱のあけかたなんて知らんはずだ。そんな拷問など、無駄だ」
ディオは苦笑して、ミナの肩に手をかけた。
その手を、ミナはハラリと振り払った。
「嫌よ。ワタシ……残酷なの」
そう言うと、ミナは恍惚感溢れた表情でシャカを振り返った。
「でもわかった。楽にしてあげるわ」
「ほ……ふぉんとぉう……で、す、かかか」
シャカは安堵の涙を流す。
その体が、大きく後ろに反り返っていく。
「な……」
その様子を見て、ミナが嬉しそうに嗤う。
ペロリと舌をだし、自分の上唇を舐め上げた。
「アナタ、自殺しなさいっ。これが最後の一撃よ。全力を振り絞って、頭を床にぶつけなさいッ」
「い、い」
シャカが恐怖の余りボロボロと泣き出した。
その体が、限界を超えてさらに反っていく。
「いい加減にしろッッ! 」
あきれたディオが、ミナの頬をおもいっきり張り飛ばした。
頬を抑え、ミナが立ち上がった。
「アンタッッ、勘違いしているんじゃあないわよッッ」
ミナがディオを睨み付けた。
「せっかく目をかけてあげていたのにィッ、アンタなんか……アンタなんかァッッ」
「落ち着け」
ディオが穏やかに言いきかせた。
「まだ、俺はコイツから肝心要の話を聞いていない」
「…………も……いら な……ィ」
うつむくミナの口元から、ブツブツと言葉が漏れる……
「……おい、聞いているのか」
ディオは、ミナのただならない様子──宙を見つめてブツブツとつぶやいている──に眉をひそめた。
やがて、ミナが顔を上げた。ゆがんだ表情で、ディオを睨み付ける。どことなく青ざめた肌色をしている。
その瞳孔は開き気味で、焦点が合っていない。
(こっ、コイツッ! まさか……まさかこの俺にも催眠術をかけようって言うのか? マズイッ! ! )
だが、焦る気持ちと裏腹に、ミナから目をそらすことが出来ない。
ディオとミナの視線がぶつかり合い…………
ミナが戸惑ったように、目をパチパチと瞬きさせた。
「!? なんで? 催眠にかからない? あ……アンタ、どうやっているの? 」
「フン……ムダムダムダッッ! 俺をそんじょそこらの凡百どもと一緒にするなよ」
ディオは、冷や汗をかきながら精いっぱい虚勢を張り、ふんぞり返った。
(あっ……危なかったッッ! 一か八かの手だったが……)
ディオの手には、『アヌビス神』の刀があった。
『おっ、俺をつかえッ! なっ! これでわかったろ? 俺を使えば、お前はこんな女になど負けんぞッ』
握りしめた刀から、悲鳴に似た哀願がディオの脳にこだました。
(フン、うるさいぞォ。お前の魂胆などお見通しよ)
『やッ……やめてくれぇえええええええぇぇぇぇ』
パチン
ディオはほんの少し、小指の先ほどだけ鞘から引き抜いていた『アヌビス神』の刀身を再び鞘におさめた。
(くっ…………一か八か、『毒をもって毒を制した』。だが、この手は何度も使えんな)
催眠には催眠ッ!
ミナに完全に催眠術にかけられる寸前に、ディオはとっさに『アヌビス神』の刀身を鞘から『ちょっぴり』抜き出していたのだ。
『アヌビス神』が持つ、精神を乗っ取ろうとする力。そしてミナの催眠術ッ!
その二つの力が拮抗して打ち消しあい、ギリギリのところで、ディオをミナの催眠術から救ったのであった。
そして、アヌビス神の精神支配もまた、その力がミナの催眠術によって弱められていた為に、はねのけることができたのだった。
「……それで、どうするの? 」
ミナがふてくされたように尋ねた。
「おそらく……」
ディオは懐に入れていた小箱を取り出した。
その中から、イルホテップの印象が刻まれた石を取り出す。
「シャカ、キサマは俺がミイラをジョースター家に呼び寄せた……と言ったな? 」
「…………ああ」
「では、その原因は俺、このディオが手にいれた……エジプトの品にあるんじゃあないか? 」
「…………」
「話したくないのか? フン、まぁいい。だがそんな態度では、お前達が『ミイラを操り』汽車からこの品を盗み出そうとしたって言う『疑惑』が、『確信』にかわるな」
なんですって?
いきり立つミナを制し、ディオはシャカの足元に膝をついた。
「シャカよ、俺たちを騙そうとしたことはいい。だが、お前も覚悟を決めるときだ。どうする? …………全てを語り、俺に協力しろ」
「……喜んで協力する」
シャカはがっくりと頭を垂れた。
「ディオ・ブランドー、お……君の推理は半分正しい……」
観念したシャカが、語り始める。
「俺達とミイラが、君たちの乗っていた汽車に忍び込み、その石を盗み出したのは、事実だ…………だが、俺達がミイラを操っていたんじゃあない。逆だ。俺達はミイラに支配されていた」
「……支配されていた? 人質でもとられていたのか? 」
「違う」
「……では、ミナのような催眠術でも喰らっていたのか」
「違う……いや、似たようなものかもな」
シャカは自嘲気味に言った。
「アイツは『恐ろしい』……俺達は『恐怖』によって、アイツに支配されていたんだ」
ミナが鼻をならした。
「…………『怖いから』言うことを聞いてたってぇ──の? イギリス陸軍の兵士達が? 」
「…………そうだ。俺の仲間達は勇敢だ。全滅必至の絶望的な戦場を前にしたって、平常心でいられるようなヤツラだ…………だが、あのミイラ野郎は理屈抜きで『恐ろしい』んだッッ』
シャカが、ディオの両肩にしがみついた。
「なぁ、君たちは強い……だが『奴は恐ろしい』……お願いだ。奴からおれをまもってくれぇええッ! 」
「落ちつけッ! 」
ディオは、シャカの頬をはり飛ばした。
「いいか、まず『お前の知っていることを全部話せ』」
「……わ、わかった」
「……俺の考えを要約すると
(1)ミイラがお前達を支配していた。
(2)お前達はこの遺跡から『宝』を盗掘するよう命令された。
(3)だが、『宝』には鍵がかかっていた。
(4)俺が手に入れた『何か』が鍵であると、考えた。
ここまでで、付け足すことはあるか? 」
「無い。君の推測通りだ」
「では、今からする俺の質問に順番に答えろ……まず、『宝』とは何だ? 」
「『天国へ行く方法』だ」
シャカが答えた。
「『天国』ゥ? 」
ミナがうさんくさそうに言った。
「本気ィ? ……あなた、本気で言っているの? 」
「少なくとも……ミイラ野郎は、本気で信じていた」
シャカは、素直にミナに返答した。だが、いかにも不本意そうな口調だ。
「ミイラ野郎が信じていることなど、正真正銘のでたらめに決まっているさ」
ディオが鼻で笑った。
「だって、ミイラなんだろ? 脳みそだってカラカラにきまっている」
「言ってろ……アンタも、奴に出会えばその恐ろしさがわかるさ」
シャカは、ブルリと身を震わせた。
「ふうん? …………まあいいわ、ワタシにとっては、このお宝に軍資金を賄えるだけの価値があるかどうか、それが知りたいだけだからね」
ミナは、好奇心を押さえきらない様子で、水晶の箱の内側に保管されている『弓と矢』を食い入るようにみていた。
「ディオくん、早くッ、早く、あれを……入れて」
「 ……あせるな。まずは情報収集だ」
ディオはよゆうしやくしゃくな態度を隠さず、シャカに質問を続けた。
「次の質問だ…………ジョージ・ジョースター卿は今どこにいる」
「ジョージ・ジョースター卿……キミのご尊父どのか、彼は……もうエジプトにはいない」
「なんだと? ではどこにいるんだ」
「彼は、木乃伊の命令でトルコに送られた。『トロイ遺跡』……聞いたことがあるだろう? 」
「あの、『シュリーマン』とか言う山師が最近『発見した』遺跡だろ? 」
ディオが鼻で笑った。
(ジョジョの奴が興奮していた……あんな山師の与太話を信じるなんて、馬鹿なことだ)
「そうだ、その遺跡の近くにある、別の廃墟に、『宝』とジョージ・ジョースター卿を連れていくよう、俺たちは命令された」
「理由は聞いたか? 」
「聞いていない……だが、オレはその土地で、木乃伊(ミイラ)野郎が、何か……おぞましい儀式をすると聞いた」
「フム」
ディオは顎を撫でた。
「だがわからんな……その、ミイラは何のためにその儀式をするのだ? 『天国』へ行く儀式か? 」
「すまん」
シャカはかぶりを振った。
「そこまではわからなかった。だが、君の父はしばらくは無事のはずだ。それは間違いない。奴は、その儀式を『もっとも太陽が長く空に出ている日』に行うとはっきり言っていたからな」
「夏至か……」
だとすれば、それは6月中旬、今から半年後という事だ。
少し考え、ディオは、zジョージのことは忘れ、今の状況に意識を集中させることにした。
確かに、ジョージがエジプトから連れ出されたのは厄介なことだ。しかし正直、ディオの本音では、ジョージの運命など、どうでもいいのだ。
ジョージの事は後で考えよう。まだ時間もある。
「ねぇ」
ミナが待ちきれず、ディオの手をいらただしげに引っ張った。
「待ちきれないわ。質問も大事だけれど、まずはお宝を手に入れましょうよ。ネッ? 」
「……いいだろう」
ディオは軽く舌打ちをして、ミナに向きなおった。
もったいぶって懐に手をやり、アレクサンドリアで入手した二つの石をとりだす。ディオが手に入れたものの内、一番『鍵』にふさわしいモノのが、これだ。
ディオはその石を、水晶でできた箱の隅にある窪みにはめ込んだ。
予想通り、ピッタリとはまる。
すると……
パン
と言う乾いた音とともに、水晶の扉が開いた。
「やったッ、扉が開いたわ」
ミナは歓喜して水晶の箱にかけよった。箱の中から『弓と矢』を取り出す。
不思議なことに『弓と矢』は、作られてから長い年月を経ているにも関わらず、すぐにでも使える状態に見えた。
「これが、『天国に行く』方法ねぇ」
ミナはニヤニヤ笑いながら、弓と矢をもてあそんだ。たわむれに矢をつがえ、シャカに向ける。
「そおっか……いいことを思いついたわ。アンタ、この矢が当たっておっ死んだらいいんじゃあない? きっと『天国』にいけるわよ? 」
「……」
「ミナ、いい加減にしろッ」
「…………フフフ、冗談よ、ジョウダン」
ミナはディオから叱責され、ペロッと舌を出した。
……
……
我々は知っているッッ!
その『弓と矢』の事を……
それは、太古のむかし、隕鉄を削って創られた武具だ。
それは、射られた者に『スタンド』と呼ばれる、パワーあるビジョン。それを具現化させ、操る才能を引き出す為の道具だ。
それは才能のない人間を、むごたらしく殺すものだ。
だがその事実を、3人はまだ知らない。