ディオの奇妙な冒険 ManicStreet (ジョジョ1部+7部)   作:ヨマザル

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蛇とミイラ

「……俺は『天国』に行くということは、何者にも脅かされることのない、圧倒的な力を生み出す物を手にすることだと考えている」

 シャカが言った。

「もしかすると、この”弓と矢”がそのパワーを生み出す何かの『鍵』なのかもしれん」

 

「ふぅん……この古くさい”弓と矢”がねぇ……でも、もし本当だとしたらそのパワーは『イタリアの完全な独立』の役に立つかもね。それはちょっと魅力的かも……試すのも悪くないわね」

 ミナがシゲシゲと”弓と矢”に顔を近づけた。

 

『@▲☆☆☆! ……よせ、あの女を止めろ‼』

 

 突然、ディオの脳裏に再び『アヌビス神』の声が響く。

 

『それを、”弓と矢”をそのサイコ野郎に持たせてはヤバイッッ』

 

(……何を言っている? だが、確かに一理あるか? )

 

『早くしろッ~~~~~~~、あの矢が、使われちまう前にッ! 』

 

 切迫したアヌビス神の声にどこか腑におちぬものを感じながらも、ディオはミナの持つ”弓と矢”に向かって、手を伸ばした。

 

「ミナ、『念のため』その”弓と矢”は、俺が持っていよう」

「!? …………」

「重いだろう? ボクは、『英国紳士』としてレディーに荷物を運ばせる訳にはいかないのさ」

「そうね、ありがとう」

 ミナは、一瞬ちゅうちょしたが、大人しくディオに”弓と矢”を差し出した。

 

『……よくやったッ、そ、それを元の水晶の箱に戻せッッ』

 再び、アヌビス神の哀願の声が、ディオの脳裏に響いた。

 

「フン……」

 だがディオは、薄ら笑いを浮かべながらアヌビス神の声をスルーした。

 それでもなお、必死に哀願するアヌビス神の声を自分の心から締め出し、そして、再びシャカのほうを向いた。

「もう一つ確認したい……ミイラは、今、どこにいる? 」

 

 シャカは唇を舐め、唾をのみ、答えた。

「奴は……ここにいる」

 

 その時だ。

 

 バタンッ

 

 不意にアトゥム神の部屋の扉が、勢いよく開いた。

 扉の奥に立っているのは、巨大な体躯の……ミイラだッッ

「…………ジョースターッッ! 」

 ミイラが叫び、三人に向かって突進してきた。

 

 

◆◆

 

 ババビババッ バババ

 

 ジャッカルの戦士達が、雨あられのように矢をうちかけてきた。

 

「どいてくれッ」

 その矢をサーベルでことごとく打ち払いつつ、ジョジョが叫んだ。

「君たちが何者か知らない! でも、僕はいくら父さんを助けるためであっても、君達を傷つけたくは無いんだッ」

 

「▲【※&※※? 《#」

 だが、ジョジョの語りかけに聞く耳をもたず、ジャッカルの戦士達は、二の矢をつがえ始める‼

 

 ズギャァァァ──ンッッ

 

 弓を構えたジャッカルの戦士たちに向かって、ジャイロが鉄球を投げつけた。

「ジョジョッッ、気持ちはわかるが諦めろッッ! コイツラに俺達と話し合う気はねぇー」

 

 ジャイロの投げた鉄球は、大きな弧を描いて飛んでいく。

 一拍おいて、グレゴリオも鉄球を投げる。ジャイロとは違って、その鉄球は直線的な軌道を描いて飛ぶ。

 

 ギャルッ、ギャルルーッ! !

 

 二つの鉄球が、ジャッカルの戦士達の目前でぶつかり合った。

 鉄球は、そのまま互いに『からみあう』ように上昇し…………

 

 バチンッッ!

 

 二つの鉄球が互いに弾きあった。

 速度と回転を増し、ジャッカルの戦士達をおそうッ。

 グレゴリオとジャイロ、父と息子が投げた鉄球は、それぞれが自動車のスプリングのような奇妙な動きでねじり込むように飛び……

 

 ギュルッ、ギュルルルルッッ! !

 

『XDG%$&! ! ! ! 』

『ジャッカルの戦士』達は、その鉄球を土手っ腹に受けて、悲鳴を上げながらまとめて消え失せた。

 

「くっ、クォォォ──―ッ! 」

 ジョジョが雄叫びをあげ、二人が切り開いた敵の切れ目に突っ込む。

 サーベルを振り回し、立ちふさがる残りの『ジャッカルの戦士』達を斬りふせていく。

 

「ジョジョくんッ! そこだ、ソイツが指揮官だッッ」

 グレゴリオが叫ぶ。

 

 突進して行くジョジョの目の前に、三体の一際体が大きい『ジャッカルの戦士』達が、立ちふさがるッッ!

「▲☆@%%$$$! ! 」

 そのうちの一体、明らかに指揮官とわかる装飾をつけた一体を守るようにして、三体のうち、二体の戦士が、ジョジョに刀を向け、同時に振り下ろすッ!

 

 ジョジョはサーベルを振りかざし、二人をけん制するッ!

 

 

「ジョジョッッ! 」

 

 バシュッ

 

『XDG%$&! ! ! ! 』

 ジャイロの投げた鉄球が、その二体を消滅させた。

 

「息子よッ、よくやった」

「ジャイロッ……ありがとう! 」

 

「…………へっ」

 ジャイロは、照れ隠しに鼻をこすって見せた。

「油断するなよ、ここからだッ! 」

 

「わかっているッ! 喰らえッ! 」

 ジョジョは、サーベルをひらめかして残った指揮官に襲い掛かるッ!

 

「▲☆@%%$$$‘+CX! ! 」

 残った指揮官は必死に防御したが、ジョジョの一撃で槍ごと砕かれ、消え失せた。

 

「よし、これで後は雑魚ばかりだぜ」

 ジャイロが軽口を叩きかけ……不意に口ごもった。

 

 ピラミッドの足元に、灰色のフードをかぶり、書物を抱えた男が立っていたのだ。

 男は、ぼそぼそ小さな声で話している。だが、不思議とその声がよく聞こえた。

「貴様ら、なかなかやる…………褒美に見せてやろう。我が『プタハ神』の力を……」

 

 パラリ

 

 男が手に持った書物の ページをめくる。

 その音は、不自然なほど大きく響き渡った。

「……出でよ……夜の象徴、邪悪さの化身……太陽を喰らう邪な蛇アぺプよ……」

 男は、まるで呪文を唱えるかのように書物の一ページをボソボソと読み上げていく。

 

 すると、男の背後の景色が”歪んだ”。

 歪んだ景色が、うごめく。

 蠢くたびにその空間から光が消え、闇が濃くなっていく……

 

 そして、

 

 闇から、何か巨大なものが”ヌルリ”と姿を現した。

 でろんとした”触手”のようなものが闇から這い出る。

 続いて、白く、細長い腕が出てくる。

 白い腕の肌下に黒い斑点が浮き上がり、肌がぼこぼこと膨らむ。表面から黒い汁が侵み出て……鱗となった。

 鱗は、肌の上でまるでマツカサが開くように逆立ち、動き、互いにこすれて不協和音を奏でる。逆立った鱗の隙間から、新たな鱗が飛び出し、抜け落ちる。

 鱗だらけになった腕が地面をひっかき、闇から残された半身を引っ張り出す……

 

 三人は息を飲んだ。

 

 目の前に現れたそれは巨大な蛇、いや、竜であった。

 

「たぶんあれは、アぺプ……エジプト神話における『悪の化身』だよ」

 ジョジョがささやく。

「闇と混沌を象徴する危険な神さ」

 

「チッ」

 ジャイロは、舌打ちして怪物を睨みつける。

 

「口惜しや……我の手にはまだ『創世の書』が無いッ、あれがなければ、より強力な獣……アメミットなどを貴様たちに喰らわせてやることが出来たものを……」

 男がぼそっとつぶやく。

 その竜:アぺプは、ゆっくり、だが確実な動きで、三人のいるピラミッドの中腹を目指して登り始めた。

 

「こりゃあ、ちょっとばかし厄介だな。ヘヘへ」

 軽口をたたきながらも、ジャイロもアぺプに向かって一歩を踏み出す。

「だが、ここは俺がやってやるぜ……やっちゃってやるぜぇ〰〰」

 

「ジャイロ……」

「大丈夫だぜ、ジョジョォ〰。任せておけよ……」

 ニョホっ とジャイロが歯をむいて笑った。

 そして真顔になり、汗をぬぐう。

 徐々に背を向け、腰に下げた鉄球を両手に取る。

 鉄球を手のひらで回し始める……

「よしッ! 行くぜぇッ」

 

「息子よ止めなさい。それはお前の仕事ではない」

 と、グレゴリオが、ジャイロの前に立ちふさがった。

 

「父上……今、なんと?」

「それはお前の仕事ではないといったのだ。お前ではまだ務まらん」

「……マジか、本気で言っているのか父上……」

「本気だ。お前には任せられん と言っているのだ、ジャイロ。だから私がやる。お前はジョジョ君と一緒にいろ」

「と……父上ッッ! 何故だ。俺に任せてくれッ……なぜ俺に任せねェ。俺だって十分にやれる! 」

 ジャイロはグレゴリオの肩に手をかけた。

「子ども扱いしないでくださいッ! 」

 

「ふっ……」

 

 と、ジャイロはグレゴリオの肩にかけた手、その手についた『血』に気が付いた。

 肩にかけた手を慌てて引っ込める。

「……父上、まさか……」

 

「フッ、あの人数はさすがにさばききれなくてな。槍を一本、肩に受けてしまったよ。だが軽傷だ」

 

「そんな、軽傷だなんて嘘だ……ハッ……だからさっきも、俺の方が先に『鉄球』を投げられたのか」

 

「……」

 

 ジャイロは、自分に背を向けている父親の手を握った。口調を改め、ゆっくりと説得する。

「……怪我をしている父上を置いていく事などできません。ここはやはり、僕が……」

 

「馬鹿者ッ」

 グレゴリオはいかめしい顔でジャイロを叱りつけた。

「戦いの最中に気を揺らすなッ」

 

「しかし父さ……」

「ジャイロ・ツェペシュッ! 」

 グレゴリオが怒鳴りつけた。

「この未熟者がッ! 戦場で余計な感傷は不要ッ……これは”命令”だ。ここは私に任せ、お前はジョジョ君とあの、ピラミッドの中にいけッ」

 

「だが、酷い傷だ……」

 

「ジャイロ、私が信じられないのか? 」

 

「いや、そんなことは……わかった……行くよ……行きます。父上……」

 ジャイロはそっぽを向いた。手のひらで回していた鉄球の回転を止め、腰にぶら下げなおす。

 二人のやり取りを黙って見ていたジョジョの肩に手をかける。

「ジョジョ、じゃあ、行くか? 」

 

「……わかった。鍵はもう見つけてあるんだ。鍵穴もね……」

 ジョジョは、ペコリとグレゴリオに頭を下げた。そして、ジャイロと二人でピラミッドの頂上を目指して登り始めた。

 

 二人がピラミッドの頂上に着いたとき、ジャイロが振り返り、父の方を見おろした。

「こっちは任せといてください。すぐに片付けて戻ってきます……」

 ジャイロはそういうと、一瞬ためらったのち、ペコリと頭を下げた。そしてジョジョの後を追って、ピラミッドの頂上にぽっかりと空いた竪穴にその身を滑り込ませた。

 

「よし、それでこそ我が息子だ……だが、あせりのあまり油断するなよ」

 グレゴリオはニカッと笑った。

 

 グレゴリオはしばらくの間、ジャイロとジョジョの二人が、空いた入り口からピラミッドの中に入っていった後を見ていた。

 二人の姿が完全に消えるのを見届けると、グレゴリオは階下の敵に向かって向きなおった。

 その敵……巨大な大蛇はようやくピラミッドの中腹まで達し、今まさにグレゴリオを襲おうとするところであった。

 

「フンッ」

 グレゴリオがまともに動く残された左腕で、鉄球を投げた。

 

 鉄球はうなりを上げて、アプぺを襲うッ!

 

「ギャアアアアアスッ! 」

 だが、アプぺは大声こそあげたが、ぷるっと体を震わせただけで、その鉄球を弾き飛ばした。

 代わって、鎌首を上げてグレゴリオに牙を突きたてようとするッ!

 

「クッ! 」

 グレゴリオはすんでのところで、その一撃をかわす。

 

 アプぺの続けざまの一撃ッ

 

 グレゴリオはその攻撃もかわす。

 そして身をかわしざま、再び戻ってきた鉄球を受け取った。

「グッ」

 鉄球を受け止めたグレゴリオの顔が、ゆがむ。

 まだ動く左腕とて万全ではない。おそらくヒビがはいっており、鉄球が戻った時の衝撃が、骨を揺らすのだ。

 

 痛みのあまり、一瞬だけグレゴリオの動きが止まる。

 そのわずかな隙を見逃さず、アプぺがグレゴリをにかみつこうとするッ!

 

 グレゴリオが鉄球を投げるッ

 

 アプぺは、鉄球を払いのける。

 

 グレゴリオはその隙になんとか体勢を整え、再びアプぺの攻撃をかわそうとした。

 

 だが、その時

 

 グレゴリオの足元が崩れた。

 

 グレゴリオはアプぺの攻撃をかわすために激しい動きを繰り返していた。その動きが作る衝撃に、気が遠くなるほど長い年月、風砂にさらされつづけ、弱っていたピラミッドの表面が、耐えられなかったのだ。

 

「うぉぉおおおおッ」

 再び姿勢が崩れたグレゴリオの足に、アプぺがかみついた。

 その牙がグレゴリオのブーツを貫き、肌に食い込み、そして『冷たい何か』をグレゴリオの体内に注入していく。

 その何かがグレゴリオの体を駆け巡り、全身を痺れさせていく……

 

「クックッ、クッ……『回転』の男よ……これでおしまいだな」

 気が付くと、フードをかぶった男がグレゴリオのすぐそばまで来ていた。

「お前を始末した後で、お前の連れてきたあの若造も……お前の息子も、ひと呑みにしてやろう」

 クックックっ 男が笑った。

「こぉやってなぁあああああああ! ! 」

 

 アプぺがグッと喉を膨らませた。

 そのまま、ズルリ……とグレゴリオを飲み込んでいく。

 

 だが、蛇に飲み込まれながらも、全身がしびれていても、グレゴリオは冷静であった。

「もう、見ているものもいないな……ここまでよく戦った貴様に、敬意のしるしとして、我が能力 ──スタンド──を見せてやろう。見るがいい、我がスタンド『ホワイト ゾンビ』をッッ」

 蛇の口の中で、グレゴリオは左腕を動かし上着をまくった。

 隠されていた二の腕を表にだすッ

 そこには、不格好な刺繍が施されていたッ、

 ライオンの刺繍だッ

 

 奇妙なことに、その刺繍がひとりでに動きだした。刺繍はゆっくりと、グレゴリオの肌の上に広がっていく。広がるにつれ刺繍は肌に食い込み、肌に縫いとめられていく。

「ウッウぉぉぉおおおおお」

 グレゴリオは叫んだ。

 

 叫ぶグレゴリオを、アプぺは着実に飲み込んでいった。

 最初は右ひざをすべて、次に両足、腰まで……徐々にアプぺはグレゴリを生きながら飲み込んでいく。

 

 だが……

「ぐぎぃぃ! 」

 突然、アプぺが騒いだ。

 

「なっ、何じゃ? アプぺッ? 」

 驚くフードの男をしり目に、アプぺは苦しそうに首を振った。

 その喉にあたる部分が、不自然にボコボコと揺れる。

「#AE! ! ! 」

 やがてアプぺは、苦しそうに大口を開け……グレゴリオを吐き出した。

 

「なッ、何だとォオオオ! 」

 フードの男はあわてて飛びずさり、グレゴリオから距離を取った。

「き……貴様、なんだ? それは? 」

 

ド ド ド ド ド ド ド ド ……

 

 アプぺの体から再び現れたたグレゴリオの顔ッ!

 そこには、奇妙な刺繍が施されていたのだ。

 まるで、百獣の王ライオンのような鬣がグレゴリオの顔に『刺繍』されていた。

 いや、顔だけではなかった。その不思議な『刺繍』はグレゴリオの全身を覆っていたのだ。

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……

 

「貴様に、『説明する』必要があるのか? 」

 全身から血を流しながら、グレゴリオが言った。

 

「フッ……しかし、アプぺにのみこまれかけ、貴様、立っているのもやっとだな? 」

 動揺していたフードの男は、グレゴリオの全身の傷に気が付き、再び余裕を取り戻した。

「アプぺよッ、さっきのは悪あがきにすぎんッ! とっとと奴を喰ってしまえッ」

 

「★&@#*! ! 」

 アプぺが騒ぎ、再びグレゴリオに襲い掛かるッ!

 

「オリャッ! 」

 グレゴリオが鉄球を投げる。

 

「ハッ、鉄球だ? そんなものは無駄だと……」

 あざけろうとしたフードの男が、黙り込んだ。

 

 グギィィイイイイイイいンンッ! ! !

「アギィィィィイイインン! 」

 

 グレゴリオの投げた鉄球は、今度こそアプぺを大きくえぐっていた。これまでとはケタの違う破壊力だ。

「どうだ……鉄球の味は……我が『ホワイトゾンビ』の一体、ゾンビ・キャットの力で肉体を強化して放った鉄球は……」

 グレゴリオが、してやったり、という様に言った。

 

「ガガガッ……」

 グレゴリオにやられた怪物が、のたうちまわり……その姿を消した。

 

 後にはフードをかぶった男だけが残された。

「グ……グレゴリオ・ツェペシュ……貴様……」

 フードをかぶった男は、憎しみをあらわにしてグレゴリをにらみつけた。

 

「貴様が何者かは知らんが、この騒動の鍵を握るものとみた。覚悟しろ」

 

 グレゴリオの言葉を、フードの男が獰猛な笑みで返した。

 

 

◆◆

 

「ジョオォスターァァァッ!  ディオッ・ブランドー! ! 」

 突然、部屋の扉が開き、その背後からミイラ男が現れた。

 

「!? 馬鹿なッ」

 ディオは懐から拳銃を引き抜きざま、ありったけの球をミイラ男にうち放つッ

 

 だが、ミイラはその攻撃に意もかいさず、ディオに向かって突進してくる。

 

「ヒィィィッ」

 シャカが悲鳴を上げた。

 

「うるさいわねッ! 」

 ミナが、シャカを蹴り飛ばしざま、ミイラ男に飛び掛かるッ!

 

「邪魔ダッ! 」

 ミイラ男が、ミナを蹴り飛ばすッ!

 

 ミナはその蹴りを器用にブロックして天井に向かって飛んだ。

 天井を蹴り、華麗に着地する。

「ディオ君、ここはワタシに任せて」

 そういうと、再びミイラに挑むッ!

 

「頼んだ」

 ディオは背後にさがり、隙を見てミイラに銃撃する。

 

 ミナは、ミイラの真正面に立ち、機敏な動きでミイラの拳をさけていた。

 いや、避けるだけではない、チャンスを見つけては、ミイラに蹴りを入れたり、転ばせたり、普通の人間ならばあっという間に倒れてしまうような攻撃を繰り返している。

 

 だがミイラは倒れなかった。

 二人の攻撃がまったく効いているようなそぶりも見せず、ミイラは淡々と攻撃を続けた。

 

「なんだ、奴に効果のある攻撃方法は何だ? ……やはり、火……か」

 ディオはマッチを擦ろうとしたが、あることに気が付き、その手を止めた。

 確かに火を使えば、ミイラは倒せるかもしれない。だがこの閉ざされたピラミッドの中、乾燥して燃えやすいものが多くある遺跡の中で火を使っては、すぐに自分たちも危ない。

 

「ヨシッ、準備完了よ」

 ミナがにこやかに言った。

「アナタッ! 止まりなさいッ! 」

 

 どんな人間でもいう事を聞かせることが出来る、ミナの催眠術!

 だが……ミイラは……ミナの命令を無視して、襲い掛かるッ!

 

「グッ……」

 よけきれず、ミイラの拳をまともに食らい、ミナが吹き飛ばされた。吹き飛ばされたその背を、ディオが支える。

 

「ディオ君ッ! ありがと」

 

「奴にはお前の催眠術は効かんのか? 」

 

「そうみたい……」

 ディオの質問に、ミナは不承不承うなずいた。

「でも、何か突破口があるはずよ」

 

「そうだな……!? 」

 

 二人は、とっさにそれぞれ反対方向に身を投げた。

 そこへ、ミイラの拳が飛ぶッ!

 

「っ、このォォォオオ、邪魔すんじゃあないわよッ」

 ミナは床の上をクルリと回転し、反動をつけてミイラへ襲い掛かった。

 

「チョコマカトうるさいナ」

 だが、ミイラはよゆうしゃくしゃくにミナの攻撃を受け止め、蹴り飛ばした。

 

「グッ……」

 蹴り飛ばされたミナは、胸を抑えてしゃがみ込んだ。

 

「ハハハ、もろすぎルッ! ちょっと蹴っただけで、あれダ」

 ミイラが楽しげに笑った。

「さて、ワガが目的をはたすとするカ」

 ミイラは、ゆっくり、ゆっくりとディオのほうに歩いて行った。

 

「クッ! 」

 対するディオは、しかし少し余裕があった。

「侮るなよ……貴様こそ、闇に沈めッ! 」

 パキン!

 ディオが部屋の隅にあったリレーフをいじる。すると……

 ドガッ!

 

 ミイラの立つ床が、突然『無くなった』。

 ミイラは、スポッと階下に落ちていく。

 

 ディオは笑った。

「ハハハハハ、引っかかったなッ」

 

「ディオ君、どういうこと? 」

 

「何、簡単なことさ。俺は『すでにこの部屋からの出口を見つけていた』ってワケだ」

 クックックッ

 ディオは悦に入って笑った。

「床の形状から、罠を解けばここに穴が開くことはわかっていたのさ。あとは、タイミングを計って作動させただけよ」

 

「やるわね」

 ミナがペロリと唇を舐めた。

「ねぇ……アナタ、我がラボーナ家の養子に入らない? 」

 

「なんだって? 」

 

「我が一族は、優秀な血を探しているのよ。アンタなら申し分ないわ」

 

「……」

 

「どうかしら、『いいこと』……いっぱいよ♡」

 ミナはディオの手を取った。

「これからも、パートナーとして手を組んで、やっていかない? 」

 

「……あまり、気が進まないな」

 

「フフフ、すぐに返事をくれなくてもいいわ。でもちょっと考えておいてね」

 ミナは、ディオの頬にそっと唇を触れさせた。

 

 と、穴を覗き込んだシャカが、ヒィィッと情けない声を上げた。

「ミイラだッ、奴は下まで落ちてねェ、まだ生きているぅゥゥゥウウウ」

 

「くっ……何だとォ」

 ディオは、舌打ちしながら怯えるシャカの隣に駆け寄った。

 

 ディオが穴を覗き込むと、果たして、そこには黒焦げのミイラがいた。

 ミイラは穴の側面にへばりついて、落下から身を守っていた。

 

「フン、悪あがきを……」

 ディオはペロリと自分の唇を舐めた。

(クッ、しぶといな……だが、奴を仕留めるチャンスなことに変わりないな……むしろ、こうなって好都合かもしれん。万が一、下に落としても仕留めきれなかったら、ヤバかったからな)

 そうディオが考えるのは、遺跡からの脱出を考えての事だ。

 

 ディオの考えでは、この遺跡からの脱出経路はおそらく二つ、ミイラが開けた部屋の出口から、もう一度九栄神の部屋を逆にもどっていくか、それとも今ミイラがいる穴の下に降りていくか、であった。

 もっとも安全に脱出できる可能性が高いのは、先を進むこと。つまり、新たに開いた穴を下り、この遺跡の設計者が用意していた道を使うことだとディオは思っていた。

 

 もし、ディオ達が脱出のために穴の下に降りた時、そこにミイラが待ち構えていたら……それは、かなり嫌な想定であった。──もっとも、その時は、いけにえ代わりにシャカを先頭にして穴をおりていくつもりではあったが──

 

 だが、こうしてミイラが目の前にいるのであれば、少なくとも待ち伏せの危険はない……と言うわけだ。

 

「キサマッ! 」

 必死に壁にしがみついたミイラが怒鳴った。

「ワレをハメるとは……キサマは絶対許さンッ! 」

 

「フッ……好きに言っていろ」

 ディオはミイラにぶつけるのにちょうどよいものが無いか、周囲を探した。

 壁にへばりついているミイラなど、おあえつらい向きの的でしかない。

 チラリと手に抱えている”弓と矢”を見る。

 

『@AUETH! ! ! ! !  止めろォオオオオオッ! 』

 ディオの考えていることを感じ取ったのか、またしてもアヌビス神の叫び声がこだました。

『その矢は使うなッ! 』

 

《なぜだ? 》

 ふと興味がわき、ディオはアヌビス神に心の中で話しかけてみた。

《なぜ、”弓と矢”を使ってはいけない? 》

 ディオも、アヌビス神からの返答を期待して話しかけたわけではない。ただ試してみただけだ。

 

 だが……

『!? オッ、オマエッ! 俺に話しかけられるのかッ……』

 

 驚いたことに、アヌビス神がディオに『返事』を返してきた。

 アヌビス神も、ディオの方から自分に話しかけることができると思っていなかったのだろう、驚いた口調だ。

『俺に話しかけられる……そんなやつ、初めて出会ったぜ……だが、好都合だ……イイか、生き延びたかったら、あの”弓と矢”は絶対に使うな』

 

《だから、どうしてだ? ……理由を言えッ! 》

 ディオは、近くにあった瓦礫を拾い上げ、ミイラに向かって投げつけた。

 

「ウォッ! 」

 ディオが投げた瓦礫を脳天に受けたミイラが、頭を押さえた。憎々しげにディオを見上げ、叫ぶ。

「キサマッ! 絶対に許さんぞッ」

 ミイラは大きく手を伸ばし、ゆっくり、ゆっくりと、壁をよじ登り始めた。

「そこまで上がったら、貴様をまず殺すッ! ゆっくり、たっぷり苦しめてから殺してやるッ! 」

 

「フン……陳腐な脅しだ。小物のセリフだな」

 

「@DW★#$☆! キサマッ! ! ! 」

 怒りのあまり、ミイラが言葉にならないほどの金切り声をあげた。

 

「エイッ♡」

 ミナが、ディオの隣に立った。ディオと同じように瓦礫を拾い、それをミイラに投げ落とし始める。

「手伝うわよ……こんなことでアレをやれるとも思えないけど、何もしないよりましだからね……」

 

 ディオはうなずいた。

「そうだな、だが、おれに考えがある……安心しろ」

 

「あら、頼りになるわね……やっぱり火? 」

 ポンと、ミナがディオの二の腕をつかんだ。

 

「ああ……だがまだ待て、火を使うのは俺たちの逃げ口を確保してからだ」

 

「フフ、すでに『その先』まで考え始めているのね……」

 

 冷静に状況を分析するディオとミナの隣で、シャカはみっともなく震えているだけであった。

 

 ディオはもう一度、アヌビス神に話しかけた。

《おい……錆だらけのナマクラ、早く”弓と矢”を奴に渡してはならない理由を言えッ! 》

 

『その説明は後だッ! 今は奴を確実に倒せッッ』

 

《俺に命令するなッ、締め出すぞォ》

 ディオは油断なく登ってくるミイラを睨みつけながら言った。

《締め出すだけじゃあないッ! お前をナイル川に沈めてやるッッ! いいか……キサマをナイル川の泥の中に沈む、ただの鉄錆びにしてやるゾ》

 

『ヒィィィッ……止めてくれぇッ』

 アヌビス神はあっという間に弱弱しい声になった。

『わかったッ……言う事を聞くぜ、ディオの旦那』

 

《ならば話せ……奴の弱点を……貴様もエジプトで大昔から存在していたのだろう? 何か聞いていないのか? 》

 

『そ……それは……』

 アヌビス神は言いよどんだ……

 

《言えッ! 奴の正体をッ。奴の弱点をッ》

 ディオは刀の鞘を掴み、少し力を入れて刀身をたわませた。

 

 メシリ……と言う音がした。

 

『……わかった』

 アヌビス神が悄然とした口調になった。

『……だが、後悔するぞ……』

 

「うるさいッ! さっさと言えッッ! ! ! ! 」

 イライラしたディオは、思わず声に出してどなりつけた。

 

 その声を聞いたミナとシャカが、ビクッと身を伸ばした。

 

「……何でもない……それより、アイツを攻撃する手を止めるな。俺が対応を考えている間の時間を稼いでくれ」

 ディオは、照れ隠しにことさらムッとした口調で、二人に指示をした。

 

 ミナは、妙に素直にうなずくと、ミイラに攻撃を続けた。

 さっきまで怖がっていたシャカも、ディオの一括でスイッチが入ったのか、こわごわと瓦礫を落としはじめた。

 

「キサマラッ! 」

 ミイラの怒鳴り声が、部屋中に響く。

 

「うろたえるなッ! やるべきことを続けろッ」

 ディオは、すかさずひるみかけたミナとシャカを一喝した。そして返す刀で、再びアヌビス神に噛みつく。

《……早く話せっ、何だ? 奴の正体は? 弱点はッ? 》

 

 アヌビス神はモゴモゴと答えた。

『わ……わかった。話すよ……奴の正体は……しょうたいは……蟲だ』

 

《何だとォ? 》

 

『蟲だ……あの包帯を剥がせば……剥がせれば、旦那にもわかる』

 

《ハッ……馬鹿な》

 ディオはせせら笑った。

《蟲がしゃべるかよ、馬鹿らしい》

 

『だが、そんな『バカなこと』が起こっているのが、現実だろう?  俺しかり、ミイラしかり……』

 

 むぅ……

 言い負かされたディオは、悔しそうに唇を噛み、少し面白くなさそうな口調で質問を続けた。

《……貴様、この下の部屋に何があるか、知っているか? 》

 

『この下? ああ、あの穴の下は『プタハ神』の部屋だ。闇を好むプタハ神のな』

 

《その部屋には何がある? 》

 

『壁画と……出口だ……他は何もない』

 

《つまり、この穴のすぐ下には火がつくものは無いナ? 》

 

『……無い……いや、確か古ぼけた本が一つ、あったか? 』

 

「ふっ」

 アヌビス神の答えを聞き、ディオは安堵の笑みを浮かべた。本など、たとえ燃えたところでなんてこともない。

 ディオはすぐさま懐からハンカチを取り出し、ランタンからハンカチへ火を移す。

 

 その火を、ミイラの上に落とす。

 

 ボゥッ

 

 ハンカチについた火は、カラカラに乾いたミイラにあっという間に燃え移っていった。

 

「ウォォォッォッ! 」

 ミイラは自分の体についた炎をはたき消そうとした。

 だが、はたいたその手にさえ、炎が燃え移るッ!

 まるで、カラカラに乾いた火口に火をつけたかのように、ミイラの体にあっという間に火が回っていく。

 

「ウギィイイいい一! 」

 炎に包まれたミイラは、必死に両手をバタバタさせた。

 

「ハハハハッ! いい眺めだなッ」

 ディオはミイラを見下ろし、あざけった。

「貴様は薪だッ! 燃え尽きろッ」

 

「キサマッXIGZVIIKKKKK! ! ! ! !  ヨ" ク" モ"ォッ! ! 」

 ミイラは絶叫を上げ、右手をディオに向かって伸ばした。その姿も、だが、見る見るうちに炎に包まれていく……

「シ……ジィネッ! 」

 最後にミイラが身をそらし、ディオを睨みつけ、吠えた。

 だが、その吼え声もむなしく響く。

 

 ボボボッ……

 

 ディオが悠然と見下ろす下で、ミイラは炎の塊になり……灰になった。

 

「ディオ、ついに『殺った』わね……」

 ミナが満足そうに言った。

 

『さあ、奴の正体が現れるぞ……気をしっかり持て……イング・ヴ・エィが顔を出すぞ』

 アヌビス神がディオに囁いた。

 

「何だとォ? 」

 ディオは舌打ちして階下を覗き込む。そして、そこに見えたものに、思わず息をのんだ。

 

ド ド ド ド ド ド ド ド ……

 

 燃え尽き、灰になって崩れ落ちかけたミイラ、その包帯の燃えさしの下には……

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