ディオの奇妙な冒険 ManicStreet (ジョジョ1部+7部)   作:ヨマザル

9 / 17
少年と刀

ド ド ド ド ド ド ド ド ……

 

 燃え尽き、灰になって崩れ落ちかけたミイラ、その包帯の燃えさしの下には……

 

「Kixtu Kixtu Kiiiiiiiiii! ! 」

 

 そこには、てらてらしたチキン質の肌を持つ、巨大なクモの様な生物が姿を見せていた。

 

 いや、クモと言うより、ペラペラの髪でできた巨大なタコ……の方が正しい表現であろうか。

 そのオゾマシイ生き物が、何体も絡み合ってミイラ男の体を作っていたのだ。

 

 その生き物は、全身から黄色い嫌なにおいのする粘液を染み出させていた。

 互いに絡まった触手がその粘液の中でおぞましく、蠢く。

 

「GyuxtuKxituxtxzzz! 」

 声にならない声を上げ、その生き物がミイラ男の形を崩し始めた。

 

 バラバラバラ……炭化したミイラの体がなみうち、崩れ、その崩れた穴からオゾマシイ生き物の触手がのぞく……

 

「いゃぁああああああッ」

 ミナが嫌悪の声を上げた。

 

ィーヒャヒャヒャッ

 恐怖のあまりシャカが狂ったような笑い声を上げた。

 

「Gxsydusyuf」

「Fvsryshrrsfffrtrws! 」

「fffhykop」

 

 クモが一斉に蠢き、その口からカチャカチャと音を立てた。

 口の下にあるのは……目だ。

 不気味な事に、目だけがやけに人間味にあふれ、表情豊かなのだ。

 それがまた、見る者に溜らない恐怖を呼び起こすッ!

 

「ヒッ……」

 ミナが、あのミナでさえもがその『おぞましさ』『恐怖』にたじろいでいた。いつの間にか涙を流している。

 

(クッ……これでは、ミナも、シャカも役に立たんか? )

 ディオは忌々しげに、恐怖に駆られる二人を見やった。

《答えろ、あれが『イング・ヴ・エィ』か? 》

 ディオは、アヌビス神に語りかけた。

 

『……そうだ』

 

《話せッ! あれの正体は、何だ? 》

 

『知らん、むかし、左巻きの神官があれの事を“星船にのってやってきた神だ”と言っていたが……』

 アヌビス神が自信なさそうに答えた。

 

《本当のところは、知らんという訳か》

 

『そうだ……だが、あれもちゃんと命ある生きもんだ。俺は、アレを殺したことがあるぜ……大昔のことだが……』

 

《なんだと? では、奴の弱点を知っているのか? 》

 興奮したディオが、刀をゆすった。

 

 その時だ。

 

 ピュルルルルッ!

 

 ディオが目を離した一瞬のスキを突き、イング・ヴ・エィ達から『何か』がディオに向かって飛んできた!

 

 ギュルルンンッ

 

「!? しまったッ」

 その『何か』は、ディオの持っていた”弓と矢”に絡まった。

 

  バリッ!

 

 そして次の瞬間、ディオの手から”弓と矢”が奪い取られ……穴の中に落ちて行った。

 

『バッッキャロォォォォッ! あいつに”弓と矢”を取られるなとあれほど言ったろォ! 』

 アヌビス神の焦ったような悲鳴が、ディオの脳裏に響く

 

《うるさいッ! 錆びた鉄くずの分際で、俺に命令するなッ! 》

 激昂したディオは、精神を集中させた。アヌビス神の『声』を、脳から追い出し、もとの『刀』に押し戻した。

 

 だが、”弓と矢”が持ち去らわれたことには変わりがない。

 

「クッ……」

 ディオは歯噛みしながらも、その”弓と矢”がむなしく闇の消えた後を眺めた。

「コイツラ……再び火をくれてやるッ! 」

 ディオはカンテラを持ち上げた。

 その中に入っている油を、足元のぬらぬらしたクモの様な生き物 ──イング・ヴ・エィ──にこぼす。

 

「Sgrwpizrfxsssrfyiiinorpe! ! $」

 だが、イング・ヴ・エィは、今度は互いに分裂し……物陰に隠れた。

 

「ウォオオオオオッ」

 シャカがとつぜん叫び声をあげ、気勢を上げながら(ミイラが入ってきた)入り口のドアを目指して走り始めた。

「もう嫌だッ! ここから逃げるゥぅウウウウッ! 」

 

 シャカは脇目も振らずに走り、入り口のドアを潜り抜けようとして……

 

 グサッ

「ガッ……」

 

 突然、床の隙間から飛び出した、『棘』に串刺しにされた。

 床石の隙間に隠れていた、イング・ヴ・エィにやられたのだ。

 

「あっ……」

 シャカは何かしゃべろうと口をパクパクさせ……果たせずに崩れ落ちた。

 

「クソッ @#$****ッ! ! ! 」

 我に返ったミナが、悪態をつきながら肩にかけたポーチを開け、化粧道具を取り出した。

 震える手を必死に押さえつけ、何度も失敗しながら化粧をしていく。

 

(何だ? 何のための化粧だ? )

 ミナの行動を横目で見て、ディオは首をかしげた。

 今は、あのオゾマシイ怪物、イング・ヴ・エィがいつ出てくるかもわからない状況だ。

 その『化粧』にどんな効果があるとしても、今、『それをやる時』だとは思えなかったのだ。

 

 とはいえ、ミナのことを気にする前に、まずは自分の身を守ることが先決だ。

 ディオはゆっくり、ゆっくり、音をたてないように細心の注意を払いながら、移動を始めた。

 

 その判断は正解であった。

 

 バシュッ!

 

 突然、床を触っていたディオの手のひら ──先ほどまでディオの体があったところだ── を『棘』が貫いたのだ。

 

 激しい痛みが、ディオの左手を襲うッ!

(ウォォオオオッ……たっ、耐えろディオッ! これしきの『痛み』が何だッ! )

 ディオは、必死に口の中で悲鳴をかみ殺した。

(ぬぉおおおお……『棘』に血が付いていては悟られる……血をぬぐえッ)

 

 ディオは、懐からハンカチを取り出し、手のひらから『棘』をつたって滴り落ちる血をぬぐっていった。

(くっ……落ち着け……『棘』を誘導してやるッ)

 ディオは袖口からボタンをむしり取り、遠くに投げた。

 

 カラン……

 

 ブシュツ!

 

 その音を聞きつけ、ディオの手のひらから『棘』が抜けたッ!

 

 ザクッ!

 

 そして次の瞬間、『棘』はディオの放ったボタンを貫き、また姿を消した。

 

(……大丈夫だ。大したことはない)

 ディオは気を静め、再びゆっくり、ゆっくりと移動を始めた。

 

 

 一方、ミナは新たな化粧を終えていた。

 あの不気味な生き物が物陰に隠れたためか、かえって恐怖から解放されたのだろう。ミナは少し落ち着いた様子であった。

 

 耳を澄ませているミナ。その『化粧』に、ディオは見覚えがあった。それは、奇しくもディオがミナ・ハーカーと初めて出会った時と全く同じ『化粧』だったのだ。

 

 そのミナが、ディオに向かって床の何点かを指差してみせた。ミナはまず、『棘』がディオの手のひらを貫いた場所を、そして次に、ディオが投げたボタンを『棘』が突き刺していった場所を指差した。

 

 ミナは、そこからゆっくりと指を移動させ、次に部屋の中心を指ししめし、また壁際を指差していく。

 

 と、ミナの指さした部分に、突然『棘』が突きだした。

 そして、また一つ、もう一つ。

 ミナの指が指し示す個所を、まるでなぞるかのように、『棘』が床から次々と姿を現す。

 

(!? ミナの奴、あの棘が突きだす場所を、読んだのか? )

 ディオは目を丸くした。

 

 ミナは、ディオが自分を見ていることに気がつくと、自分の耳に両手をあてて見せた。そして大きくうなづいた後、床をさす指をゆっくりと動かしていく。

 その指が指す床から、棘が飛び出し、また消えた。

 

(間違いないナ……ミナの奴はあの『棘』が床下で動いている音を『聴いて』いる。ならば、こちらが先手を打てるッ! 次にあの『棘』が出るところがわかるのだからな)

 ディオは大きくうなずき、ほそくえんだ。

(では、次はどうやって奴を攻撃するか……だ。奴はこのディオの左手を貫きやがった。たっぷり代償を払わせてやらねばならんッ)

 

《……おい、お前……聞こえているか? 》

 ディオは心の中で、アヌビス神に話しかけた。

 

『聴いている……』

 

《ならば話は早い……奴の……イング・ヴ・エィの弱点を教えろ、どこでもいい》

 

『奴の弱点は……俺だ』

 アヌビス神は自信たっぷりに答えた。

 

《……何だと? 》

 ディオが不満げに眉をしかめた。

 

『奴の弱点は、この俺様だと言ったんだッ! 俺様の力がないと、あの化け物どもを滅することはできねェ──ぜ』

 

《調子に乗るなよ》

 

『嘘じゃあないッ! 奴は床下に潜っているのだろう? ならば、床の岩を貫通できる、この俺様の能力ならば、簡単に奴を倒せる。ヒヒヒッ……ちょっと、旦那の体を使わせてくれればいい』

 アヌビス神は哀願口調になった。

 

《馬鹿が、このディオがお前に自由を与えるほどマヌケと思うのか? 》

 ディオはフンと鼻を鳴らした。

 

『ヒャッヒャッヒャッ、与えてくれるさぁ。なんたって、自分の命がかかっているのだからなぁ? なら聞くが、俺様の力がなくてどうやって奴を、イング・ヴ・エィを倒すんだぁ? 言ってみな? ディオの旦那よォ~~』

 

《クッ……》

 図星を突かれ、ディオは黙り込んだ。

(だが、確かに奴らを倒す『手がない』のも事実。どうする? )

 

 スキャットッ!

 

 考え込むディオの足元に、『棘』が突き出た。『棘』はすぐに引っ込み、また明後日の方向から飛び出した。

 

 その時

 

「このやろッ! 」

 ミナが宙を舞い、引っ込む前の『棘』を掴んだ。

「このっ! こんな奴、隠れてない隙に引っ張り出せばいいのよォおおおっ。次のが出てこない隙に、引っ張り出してやるぅっ! 」

 

 ミナは『棘』を掴んだまま華麗に着地を決める。

 すぐさま腰だめに構え、『棘』を引き抜こうと引っ張り始めるッ。ディオのほうに顔を向け、叫ぶ。

「ディオッ! キミもお願いッ! 来てッ! 一緒に、この『棘』を抜いてッ」

 

(馬鹿なッ、あんなに馬鹿でかい音を立てやがったッ)

 ディオが顔をしかめた。

 

「えっ? 」

 ミナが、動かないディオを見ていぶかしげに口を開け、何か言おうとした。

 

 グサッ

 

 そのミナの脇腹に、床から新たに表れたもう一本の『棘』が突き刺さった。

「うそ……」

 

 ミナは、『棘』が突き刺さったわき腹に手をやった。

 傷口に触れた手は鮮血に染まる。

 ミナはその手を、信じられないといった表情で眺めた。そして、ディオのほうに手を伸ばし……崩れ落ちた。

 

「!? かぁッッ……」

 ディオは動揺のあまりしゃがみこんだ。

 

 ディオの脳裏に見えたのは、ミナの姿ではなかった。ディオの目には、崩れ落ちた女性が『あの人物』に見えていたのだ。

 ディオの目の前がかすみ、気が付くとミナの姿が……ディオのこれまでの人生唯一の『味方』、唯一の『また会いたい』と願う人物 ──母親の姿── に入れ替わっていた。

 

(……かあさん……)

 最愛の母親が、助けてほしそうに、苦しそうに、ディオを見ている……

 

 と、再びディオの視界が元に戻った。

 やはり、そこに倒れているのは母親ではなく、ミナであった。

 

 だが、ミナも苦しそうに床に突っ伏している。ミナは、まるで人形のように感情のこもらない目で、ただディオを見上げているばかりであった。

 

 そのミナに止めをさすように、別の『棘』が顔を出し、天井いっぱいにまで伸びた。

『棘』は、そこから床に向かって『蛇が鎌首を向ける』ようにした。

 ミナのほうに向かって、いつでも止めをさせると言わんばかりに『棘』を構えている。

 

(チッ……)

 

 ガチャッ

 

 ディオはとっさにボタンをもう一つむしり取り、前方に投げた。

 

 ボタンが床に落ちた音に反応し、ミナの止めをさそうとしていた『棘』がまたしても狙いの方向を変えた。

 

 ゲチュ! ガシュッ! ガリッ!

 

 ディオの狙い通り、『棘』はボタンに向かい、そして、ボタンを滅多刺しにしていく。

 

「……」

 その光景を見たミナは、微かにディオに笑いかけ……気絶した。

 

 その場に、ディオが『ただ一人』残された。

 

 ブシュッ……

 

 再び『棘』が床石のすきまに、姿を消した。

 

『クックックッ、どうする? 』

 アヌビス神がさも愉快そうに言った。

『あの、気味の悪い女も倒れた……旦那の味方は俺だけだ……俺がアンタを助けてやろうか? 昔のように、イング・ヴ・エィを狩ってやるよ』

 

《うるさいッ、生意気な口をきくなッ! 》

 アヌビス神をしかりつけたディオは、『棘』にやられた自分の手を、じっと眺めた。

 確かに、アヌビス神を解き放てば あの生き物を狩ることはできるだろう。だが、ミナが倒れた今、再び自分がアヌビス神から解放されることは、期待できない。

(俺は、誰の支配も受けんッ! アヌビス神に操られて終わる、そんな人生などッ! 死んでもゴメンだッ! )

 

 ジャキッ!

 

『棘』がタンから離れ、再びディオに向かって移動を始めた。

 

 その『棘』の背後に、ミナがピクリともせず倒れているのが見えた。だがまだチョッピリだけ息があるのが、その胸が規則正しく動いていることが見て取れる。

 

(どうする……対策を考えろッ! )

 必死に次の一手を考えるディオの脳裏に、ふと、忘れえない『暖かさ』の記憶が浮かんだ。

 それは、幼児だったディオが母親に抱かれていた頃に確かに感じていた、あの『安心の感覚』だ。

 

 今となっては決して手に入れることができない、あの『絶対的な安心』の感覚……

 

ド ド ド ド ド ド ド ド ……

 

 母は助けられなかった。だが……

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……

 

(ええぃ、ままよっ! 俺が奴を跳ね返せば、それでいいだけよッッ! )

 ディオは覚悟を決めた。

 

 そしてディオは、アヌビス神を封じていた鞘を『引き抜いた』。

 瞬時にディオの視界が、真っ暗に染まる。

 

『ウハハハハハッ! 』

 再び自由を取り戻したアヌビス神が、歓喜の声を上げた。

『ウハハハハッ! 任せとけ、旦那。これから、アンタの体は俺が上手に使ってやるぜェ! 』

 意識を失う前にディオが最後に聞いたのは、アヌビス神の勝ち誇った声であった。

 

◆◆

 

 ザシュツッ!

 

 ディオ=アヌビス神は、不意に足元から出現した『棘』を、軽やかに避けた。

 続けて襲い掛かってくる多くの『棘』をかわしざま、手にした刀を横なぎになぐ。

 

「☀QETXtx! ! ! !  ! ! ! ! 」

 宙を飛び、ディオに襲い掛かろうとしていた3体の異形なクモ──イング・ヴ・エィ──が、その一撃で真っ二つに斬られた。

 

 床に落ちたイング・ヴ・エィを、ディオ=アヌビス神は容赦なく踏みつけた。

 踏み潰されたイング・ヴ・エィは、気味の悪い絶叫を上げ……やがて動かなくなった。

 

「フンッ」

 ディオ=アヌビス神が、くるりと刀を回転させて逆手で構えた。

 そして、刀を床に『突き刺す』ッ。

 

  ブシュッ!

 

 まるでバターに刺したかのように、刀はすんなりと床を貫通していく。

 

「ウォりぃややあァァァッ! 」

 ディオ=アヌビス神は、体を大きく使ってぐるりと刀を回した。

 

「XDTDU#"! ! ! ! 」

 意味不明の絶叫が上がり、そして静かになった。

 

 いや、次の瞬間、床から複数の『棘』が同時に出現するッ!

 ……『棘』が、ディオ=アヌビス神を襲うッ!

 

 だが、ディオ=アヌビス神は華麗に舞い、驚異的な体術で『棘』をかわし切った。

 そして、容赦なく刀を振るい続け、ついにはすべての『棘』を切りすてた。

 

「……フン……」

 すべてのイング・ヴ・エィを切り刻んだディオ=アヌビス神は、しばらく無表情で立ち尽くしていた。

 と思うと、ひどくゆらゆらとした動きで再び動き始めた。そして刀にこびりついた血を振り払った。

 

 その時

 

 バシュッ!

 ガラガラガラッ! !

 

 突然天井に近い部分の壁が崩れた。そして二人の人影が現れて遺跡の中を覗き込んだ。姿を見せたのはジョナサン・ジョースターとジャイロ・ツェペシュの二人であった。

 

「!? ディオッ! 」

 ジョジョが叫ぶ。

 

「……ジョナサン……カ」

 ディオ=アヌビス神は、ひどく『醜い』笑みを浮かべた。

 そしてゆっくりとした動きで、ジョジョに向かって刀を突きつけた。

 

◆◆

 

 ガラガラガラッ

 

 天井に開いた屋根を崩し ──太古の遺跡を壊しているときのジョジョの顔は苦しそうだった── ジョジョとジャイロは、遺跡の中へ飛びこんだ。

 

「オオっ? 」

 ジャイロは、口笛を吹いた。あたりにはイング・ヴ・エィの切り刻まれた手足が散らばり、すこし離れたところには、シャカとミナが倒れていた。

「こりゃあ、こっちも結構な修羅場だったみてーだな」

 

「ジャイロ……ジョナサン……」

 ディオ=アヌビス神はすっと刀を下ろし、笑みを浮かべた。

 

「ディオ……君も来てくれていたのか」

 ジョジョは、にっこりと笑った。

 

「ジョナサン、君こそ。よくぞここまで……助けてくれて助かったヨ。『ありがとう』……ところで、ジョージ卿は見つかったかイ? 僕の方は無駄足だっタ」

 ディオ=アヌビス神が一歩、ジョジョに踏み出す。

 

 ジョジョが、すっと一歩下がる。

「……僕も、ここで父さんが見つかると思って来たんだ。いないのかい? ……残念だよ」

 

「ディオさんよぉ、ちょっと状況を説明してくれねーか」

 ジャイロが、すっと二人の間に入った。ヘラヘラした口調だが、その声は真剣だ。

 

「ジャイロ……君がジョナサンを助けて、ここまで連れてきてくれたのカイ? 」

 ディオ=アヌビス神は、ジャイロに向かって爽やかな笑みを浮かべてみせた。

「ありがとう、礼を言う……そうだね、この状況を説明するヨ」

 

「ォォおお、まず初めに教えてくれ、あの倒れている二人はなんだ?  特によォ~~あの女のことだ。 俺がよく知っている女だぜ、ワザワザネアポリスから、この女を追ってきたんだからな…………」

 ジャイロがミナを指差した。キッと険しい表情で、ディオを睨めつける。

「言えッ! なぜあの『テロリスト』野郎が倒れていやがるッ」

 

「ディオ、この人もだ……だって、彼は……この男は、僕たちの父さんを拉致した軍人じゃあないのかッ? なぜこの男がここに倒れているんだい」

 ジョジョが尋ねた。

 

「えっ? ああ、アイツも、そこの女も、敵だヨ……僕が倒しタ……扉の陰に隠れていて、僕を不意打ちしてきたんダ。なぜ、ここに彼らがいたのか、それは僕が聞きたいヨ」

 ディオ=アヌビス神は、肩をすくめた。

「もし、僕が『この刀』をたまたま手に入れていなかったら、危なかっタ」

 

「刀? 」

 

「ああ……コイツだヨ」

 ディオ=アヌビス神は、誇らしげに抜身の刀身を二人に見せた。

「この遺跡には、ありとあらゆる罠が仕掛けてあってネ……この刀は、遺跡に仕掛けられたある『罠』を解除した後に、偶然見つけたんダ」

 

「へぇ、美しい刀だね。値打ち物かな? 考古学的な価値がある品なんだろうか」

 ジョジョが興味深げに言った。

 

「フフフ、そうだな。僕にはとても『価値がある』刀に見えるな……なんていうか、品のある美しさを感じるヨ」

 

「まあそんな刀のことはいい……ディオ、いちおー礼を言っとくぜ。コイツが、この女こそが、俺達が探していた『テロリスト』だ……凄腕の殺し屋だ。まさかこんなに簡単に倒せるとはな……」

 ジャイロは、意識の無いミナの体に(洋服の上から)手際よく包帯を巻き、血止めをした。

 そして、すこし躊躇した挙句、ミナの両手を縛り上げた。

 

「…………僕は、ただ身を守っただけさ……それより、ジョナサン、ジャイロ、すごいものを見つけたんだ。ちょっと、あの穴をのぞいてみてくれないカ」

 

「何だい? 」

 

「それが、僕にはわからないんだ。ジョナサン。歴史に詳しい君が見てくれれば、何かわかるかモ……」

 

「どれどれ」

 

 穴を覗き込もうとするジャイロとジョジョ。

 

 ディオ=アヌビス神がその背後に立つ。

 刀を振りかざし、二人を一息に切り捨てようと、呼吸を整え……

 

 その時だッ

 

 ギャルギャルギャルッ!

 

ジャイロが肩越しに『鉄球』を投げたッ! 狙い過たずディオの肩に命中するッ!

 

「げブゥッ! 」

『鉄球』に弾き飛ばされ、ディオ=アヌビス神がぶっ飛ぶ。

 

「ケッ、バレバレなんだよッ……この大根役者がッ」

 ジャイロが吐き捨てた。

 

「ディオ……キミはいったい、どうしたんだ? 」

 ジョジョの顔が、曇る。

 

「ジョジョ……注意しろよ。コイツはヤバいぜ」

 ジャイロは、手元に戻ってきた鉄球を、ふたたび『まわし』始めた。

 

「カカカカカッ」

 ディオ=アヌビス神が飛び上がった。

「ハハハハッ! 俺の名はアヌビスッ! この小僧の体を乗っ取ってやったワッ! 」

 

「……なんだって? 」

 ジョジョは混乱した。人間の体が乗っ取られる そんなことが起こりえるのだろうか。

 

 だが、確かに、再会してからのディオの言動はおかしかった。

 にわかには信じがたいが、だが、確かに『ディオの肉体が乗っ取られた』と考えれば、これまでの言動も納得できるのだ。

 

 そもそも誇り高きディオが、自分が人に助けられたことについて、嬉しそうにお礼を言うわけがないのだ。

 

「うぉりゃっ」

 ジャイロが、ディオ=アヌビス神に向かって鉄球を投げつけた。

 

「ワハハハハ」

 ディオ=アヌビス神は高笑いすると、自身の本体である刀を振りかぶり……そして、『鉄球』を一刀両断にした。

「ちょうどいい、お前たち二人を、ぶった切ってやル」

 ディオ=アヌビス神は、舌をぺろりとだし、刀身をなめた。

 

「なんだとぉ」

 ジャイロが再び『鉄球』に手をやった。

 だが、その時、ジャイロの膝が一瞬落ちる。

 これまでの連戦で、ジャイロの膝がガタガタになっていたのだ。

 

 ディオ=アヌビス神はそのほんの一瞬のスキを見逃さなかった。

「ワハハハハッ! 貴様の『鉄球』の軌跡、もう『覚えた』ゾ」

 

 一瞬、一瞬だけ生じた隙に、ディオ=アヌビス神が突進してきた。ジョジョとジャイロとの距離を、一気に縮めるッ

 

「クッ! 早ェッ」

 

「死ねェイ! 」

 ディオ=アヌビス神がアヌビス神の刀を、無防備なジャイロに向け、突きだす。

 

 その切っ先がジャイロの左胸に触れ……突き刺さらないッ!

 

「クッそ、痛ってぇ! 」

 ジャイロがぼやいた。

『鉄球』を投擲しても間に合わない……と踏んだジャイロは、とっさに『鉄球の回転』で皮膚を高質化させていたのだ。

 

「やるじゃぁないカ」

 ディオ=アヌビス神はニヤッと笑い……ジャイロをけり飛ばした。

 そして、返す刀でジョジョに向け、刀をつきたてるッ!

 

「ばっ、馬鹿な……ディオ」

 かろうじてその一撃を避け、ジョジョはディオにタックルを入れるッ!

 

 タックルで、ディオ=アヌビス神が吹っ飛ばされるッ!

 

「ハハハハハ、死ネィ、ジョナサンッ」

 ディオ=アヌビス神は、何事もなかったように立ち上がり、再び刀を構え……

 その動きが、ふいに止まった。

 

◆◆

 

 そこは、狭かった。

 少年と父親、母親が三人で住むには、あまりに小さな部屋であった。

 隙間風の吹きこむ、ほこりだらけの汚い部屋に、少年は父親と二人でいた。いつもなら二人の間をとりなしてくれる母は、働きに出ていて、部屋にいなかった。

 

「けっ、邪魔だッ! とっとと出ていけッ……目障りなんだよッ! ! 早く酒を買ってコイッ」

 父親が、少年に言いつけた。

 

「父さん、外は雪だよ。せめて何か着るものをもう一着……」

 

 ゴギィッ!

 

 何か服を……と訴えかけた少年は、頭部に激しい衝撃を受けて、吹っ飛んだ。

 衝撃でフラフラとした意識が回復しないまま、そのまま極寒の雪降る路地に、押し出される。

 

「さっさと行ってこい……ヴォケが」

 

 朦朧とした視界の隅で少年が見たのは、父親が右こぶしをさすりながらドアを閉める後ろ姿であった。

 

 ガチャリ

 

 ドアが閉まり、ぼんやりと瞬いていた部屋の明かりが遮られた。

 

 少年は、ボロボロの薄着で、吹雪が吹きすさぶ貧民街の路地に、一人立っていた。

 

 空を見上げても、星も、月も曇天に覆われて見えない。凍える少年を照らすのは、遠くの壊れかけた街灯と、氷かけのドブ水が、その街頭の明かりを反射している灯りだけだ。

 

 いや、時折街路の細道の物陰に、ボッと、まるで蛍のような赤い小さな光が舞っている。

 もちろん少年は知っていた。それがホタルなどではないことを。

 それは少年の家族よりもさらに貧しい、ほんとうのどん底にいるものの発する精一杯のあかり。

 あるいは人の皮をかぶった獣が、哀れな犠牲者が近寄ってくるのを待つ間に着けたタバコの火か。

 

 とにかくろくなものではない。近づいてはいけないものであった。

 

 足元には泥が混じり灰色に固まった雪の塊が積もっていた。道を覆う雪は、白と灰色の部分がまだらになっている。

 時折見える濃い部分には、半ば凍りかけた泥水が雪と混ざっているに違いなかった。その部分に足を踏み入れたら、悲惨な事になる。

 

 少年はいらただしげにチッと舌打ちをした。そしてポケットに手を突っ込むと、極力雪に吹き付けられないよう、慎重に道を選んで歩き始めた。

 

 少年は、人影におびえながら、ひとり、貧民街を慎重に歩きぬけた。

 その先には、華やかな大通りがあった。

 

「メリークリスマスッ! 」

 

 大通りの華やかなショーウィンドーには、でかでかとそう大書してある。

 そのショーウィンドーの『向こう側』には、金ぴかのおもちゃや、キャンディーかなにかが所狭しと飾られていた。その『向こう側』の景色は、まさにディオとは縁のない『夢と魔法の世界』の景色に見えた。

 

 店の前には、黒塗りの、これまたピカピカの馬車が止まっている。

 

 と、店のドアがガチャリと開き、自分と同じ年位の少年がニコニコしながら出てきた。

 その着飾った少年は幸福そうにニタニタと笑い、キャンディーと思わしき何かをもぐもぐとほおばっている。

 母親と、父親と、両手で手をつなぎ、安心しきった表情だ。

 

 きっと、その手はべたべたに違いない。

 

 見るからに幸福そうなガキは、ショーウィンドーの文字をみて、なんて書いてあるのか? と母親に聞いているようであった。

 字を満足に読むこともできないのだ。

 

 少年は、用心深く、『幸福そうなガキと両親』から少し離れたところでじっと待っていた。

 

 やがて、その三人の『幸せ家族』は待たせていた馬車に乗りこんだ。

 三人組の父親が、少し離れたところに立っていた少年に気づいた。父親は、懐からコインを取出し、少年に向って投げようとして……母親に止められた。

 

 母親は少年をチラッと見ると、大慌てで何やら御者に言いつけている。

 御者は、すぐに鞭をふるい、馬をいななかせた。

 

 馬車が、威勢よく走りだした。

 少年の横を馬車が通るとき、馬車のわだちが、道路にたまった雪水を跳ね飛ばした。

 

 ビシャッ!

 

 少年は慌ててその雪水を避けた。

 こんな薄着でいるのに、吹雪の中、服が水にぬれでもしたら、命さえも危うい。

 

 少年は、再び身を縮めて、華やかな大通りを足早に通り抜けた。

 

 大通りはクリスマスの明かりに照らされ、そこかしこがピカピカと光っている。

 だが足元の雪は、スモッグの灰に汚染され、真黒だ。

 

 少年は、大通りのショーウィンドーではなく、足元の雪だけを見ながら、進む。

 

 少年は大通りを抜け、またしても薄暗い路地に入った。

 

 先ほどまでいた大通りを歩く人は、みな晴れ晴れと幸せいっぱいな顔をしていた。

 今、少年の周囲を歩く人は皆肩を丸め、うつろな顔をしてノロノロとあるいている。

 

 と、少年を呼ぶ声がした。

 

「ディオ、ディオなの? 」

 母親だ。

 クリスマスの日だというのに、母親は今日も遅くまで工場に働きに出ていたのだ。

 

 迎えに来てくれたディオ少年を見て、母親が嬉しそうに笑った。生活に疲れ、やつれていても幸せそうに笑う母親は、美しかった。

 

「かあさんッ! 」

 

 ディオ少年は、母親にむかって笑顔で手を振り……

 

 不意にその笑顔が凍りついた。

 ……母親の背後に、『ジャッカルの頭を持つ悪神』が刀を振りかざしていた。

 

「母さんッ!  逃げろッ 危ないッッ」

 ディオ少年は叫び、『ジャッカルの頭を持つ悪神』に飛び掛かった。

 

『ジャッカルの頭を持つ悪神』はディオ少年の攻撃を簡単にかわし……その胸に、冷たく、尖った刀を埋め込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。