1年はさすがにヤバイ……
「さっきの戦闘を見てなかったのかよ!? コーディネーターだってだけでこんな……どういう頭の構造してんだお前らは!」
所変わってヘリオポリス内。辛くもシグーを退けたストライク2機は、戦闘中に姿を現した戦艦――『LCAM-01XA』通称アークエンジェルのモビルスーツデッキに移動した。
マリューやオリノ曰くところの"G兵器用の戦艦"というだけあって、移動自体はかなりスムーズに行うことができた。そう、移動自体は。
問題は操縦者。軍属であるマリューやオリノが戦闘目撃者の学生を伴ってモビルスーツで帰還したというのであれば頷ける話ではあるが、実態は異なる。操縦していたのはその学生で、尚且つ地球連合が戦争している相手と同じコーディネーターだったのだから。
(……ま、こうなるわよね)
トールの憤慨する声を聞きながら目の前で何とも言えない顔をしている金髪の男――確かフラガ大尉とか言ったか――を横目にメレアリスは小さくため息をつく。
メレアリスとキラがストライクから降りると、まず先に降ろしたマリューとオリノを迎えに来たアークエンジェルのクルー、その中の一番偉そうな女性(メレアリスの所感だが)が此方に驚きと、そして次に厳しい目を向けてきた。無理はない。メレアリスの髪は良くも悪くも目立つ。
それでも直ぐにこちらを問い詰めようとせずマリューに事情の説明を求めたことに多少ながらメレアリスは驚いた。マリューやオリノはこれまでの会話でコーディネーターへの偏見はあまり無い、又は表面には出していないことは察していたものの、他の地球連合の人間は大体がコーディネーターを敵とみなしていると思っていたからだ。女性の反応を見るに強ち間違いでは無いのだろうが、下手をすれば顔を見せた途端問答無用で拘束されて営倉入りでもおかしくないと考えていたのである意味では拍子抜けとも言える。
それはそれとして、問題はその後だ。マリューがアークエンジェルのクルーに事情を説明しようと口を開いた時、もう一人の人物が現れる。
『キラ・ヤマト君とメレアリス・オウルベルさんです。先の戦闘でも、彼らのお陰でジンを1機撃墜、シグーを中破に追い込むことに成功しました』
『そんな……では、先の戦闘で戦っていたのはラミアス大尉とオリノ少尉ではなく……!?』
『ええ、彼らよ』
『ふうん。民間人が、ろくに操縦法も知らないMSでモビルジンを一機撃墜、クルーゼのシグーを退けた……か。……キミら、コーディネーターだろ?』
そしてその人物、つまり今メレアリスの目の前で何かを思案しているムウ・ラ・フラガが先ほど発した言葉が原因となり。
(銃、ね……)
クルーたちが装備していた銃を一斉にキラとメレアリスに向け、今に至ると言うわけだ。
隣にいるキラをちらりと見れば、銃をつきつけられているのにも関わらず表情がいくらか固いだけだ。特に恐れおののいている訳ではない。そしてそれはおそらく自分も同じなのだろう。
問答無用で襲ってくる敵を相手にしているよりは気分が楽なのである。無論、先の戦闘のせいで麻痺しているだけだが。
「ふざけんなよ! キラとメレアリスはお前らの代わりに戦ったんだぞ!? 本来軍人がしなくちゃいけないことだろ!? こいつらに任せて自分たちは戦艦で引きこもってたクセに、いざ対面したら感謝もせずに
「トール!」
「っ……」
「それ以上は駄目よ」
「でも!」
「いいから」
そこまで言えば、トールは渋々引き下がる。後に残るのは気まずさと緊張が入り混じった静寂だ。
しかし、それでも逆上した軍人に友達が撃ち殺されるよりはマシなのだ。最悪の場合、そうして殺した後で口封じにゼミ生全員が殺される可能性だってある。というか、軍事機密であるストライクを目撃し、実際に接触した学生たちの処分などそれが一番手っ取り早い。
襲撃してきたZ.A.F.T.兵に彼らのような民間人の学生が殺されました、このような酷いことを平気でするのがコーディネーターです。
死人に口無し、処分した後死体をそういう形で公表すれば民衆のプラントへの反感を煽ることだって可能なのだ。正規の軍人がやる事ではないが、ここにいる彼ら地球連合は中立のコロニーで秘密裏に兵器を開発しているような軍隊だ。今更何をしようとも可笑しくない。
マリューやオリノのような軍人ばかりではないのだから、銃を突きつけられている状態でも考えられるすべての事柄に対し警戒するに越したことは無い。そう考えたところでマリューが今まで閉ざしていた口を開く。
「銃を下ろしなさい」
「!? ラミアス大尉、しかし――」
「その少年、いえケーニヒ君の言う通りです。私達が銃を向けるべき相手は攻撃してきたZ.A.F.T.であって、民間人のコーディネーターでは無い筈よ」
「それは……。しかし、何故民間人のコーディネーターがプラントではなくヘリオポリスに?」
「
「……ええ、まあ。僕やメレアリスは一世代目のコーディネーターですから」
第一世代とはつまり、親がナチュラルである事を指す。親はプラントで迫害される恐れがあるため移住はできず、かと言って子供だけを戦争中の場所へと送ることも出来ない。そういった境遇の年若いコーディネーターたちがキラやメレアリスのように中立のコロニーに居るというのは、よくあるとまでは言えないが珍しい訳でもなかった。
「あー、なんというか。悪かったな。俺はただ聞きたかっただけなんだ」
メレアリスとキラに向けられていた銃が下ろされ、場の緊張が幾分か和らいだところでムウが二人に話しかけてくる。
「失礼ですが。好奇心猫をも殺す、後悔先に立たず。どちらも東国の古い諺ですけど、覚えておいた方がいいかも知れませんよ」
「……すまん」
お返しとばかりに精一杯の嫌味を込めたメレアリスの返答に、ムウはただ謝罪を繰り返すしかなかった。
「ただ、な。ここに来るまで
「……」
視線を上げるムウにつられ、全員がストライク2機に目を向ける。
「……ま、やれやれってところだな」
「あっ、フラガ大尉、どちらへ向かわれるのですか?」
そういって艦の奥へと歩き去ろうとするムウへ先ほどの偉そうな女性が声をかける。マリューやムウへの態度的に、恐らく彼らよりも階級は低いのだろうとメレアリスは漠然と思った。
「どちら、って……俺は被弾して降りたんだし、外にいるのはあのクルーゼ隊だぜ?」
「なっ、そ、それは確かですか!?」
「ああ、なんだったら保証してもいい。奴らはしつこいぞ? こんなところでノンビリしてる暇、無いと思うぜ」
先にブリッジに行ってる。
歩きながらそう告げると、ムウはまもなく見えなくなる。
残されたクルー達の反応は様々だったが、そのいずれもが不安に満ちている。どうやら先程襲撃してきたZ.A.F.T.の部隊がクルーゼ隊とかいう部隊だという事が原因でこのような状況になっているらしい。状況がいまいち把握できないメレアリスたちにもそれだけは分かった。
「なあ、どうなってるんだ?」
「さあ? 連合軍にも名が通ってるってことは相当有名なんでしょ」
「ってことは……」
「連合軍にとってはかなりの強敵か、或いはZ.A.F.T.のシンボル的存在か。どちらにしろ厄介な敵……そういう事だよね?」
「多分、ね」
近場にいたトールとの会話にキラも入ってくる。
「……俺たち、大丈夫かな」
「考えるだけ無駄よ。もうなる様にしかならないわ」
「……強いんだな、メレアリスは」
「疲れてるだけ。……今はとにかく何も考えず休みたいわ」
度重なる出来事で疲弊仕切ったメレアリスの、本心からの言葉だった。
「あ、そうだ。ラミアスさん、一つ謝らないといけないことが」
「オウルベルさん? 何かしら?」
「……約束を破って、ごめんなさい。シグーに攻撃した時に自動照準のプログラムを少しだけ弄りました」
「それは……」
「なっ!? 民間人の子供、それもコーディネーターが連合の最新鋭兵器を使うどころか、勝手に中身を弄るなど!」
「……本当にごめんなさい。でも、あれじゃどうやっても当たらなくて。ええと……すみません、お名前をまだ」
「! ナタル・バジルール中尉だ」
「バジルールさんですね。本当に申し訳ありませんでした。言われればすぐに元に戻せるようになってます」
「しかしだな……」
「ナタル。これに関しては私に任せて貰えないかしら」
「ラミアス大尉?」
「いいから。……時間も限られているわ。貴女には他にもやってもらわなければならないことが沢山あるの」
「……はっ」
「ありがとう。まず、モルゲンレーテに残されてる物資の搬入ね。できるだけ速く、そして多くの物資を運び込まなければならないのは分かるわね? ……貴女が主導して取り組んで頂戴」
「了解しました」
指示を受けたナタルはその場にいたクルーの大多数を連れて艦の奥へと消えていく。それを見届けてから、マリューはメレアリスへと向き直った。
「さて、オウルベルさん」
「……はい」
「約束を破ったのは感心しないけど、よく話してくれたわね。黙って元に戻しても良かったはずでしょう?」
「……約束でしたから。私の言葉を信じてあの機体を任せてくれたのに、私はそれを裏切ってしまいました。黙ってはいられなくて」
「なるほど、ね。……すぐに元に戻せるって言ってたわね?」
「え? あ、はい。5分もあれば」
「なら、戻しておいて。今回の件はそれで終わりよ」
「え、でも……良いんですか?」
「罰や叱責がないと気が済まないかしら? でもね、今回は特別よ。正直に話してくれたっていうのもあるけど、貴女の射撃が相手を退かせる要因の一つになったのは事実。しかもすぐに元に戻せるんだから、感謝はすれど厳しく責める道理はないわ」
「……すみません。ありがとうございます」
そう言って頭を下げるメレアリスを、マリューは微笑みながら見つめる。
「さ、あなた達学生は居住スペースに。キラ君とオウルベルさんはX105を今から指定する場所に移して、その後同じく居住スペースに向かって頂戴」
マリューの指示で、クルーの一人がカトウゼミの面々を先導し連れて行く。
「じゃあ、二人はX105をMSデッキに。場所は……マードック軍曹!」
「はっ!」
マリューが一人の男性に声をかける。作業服を着た褐色の男性だ。
「物資の積み込みと同時並行でX105の整備を。機体の移動は彼らに任せるから、その誘導をお願い」
「了解しました! よし、ついてこいボウズ共!」
「あ、は、はい!?」
いきなり坊主呼ばわりされ、うろたえるキラ。作業服の男性――マードックが返事を待たずに歩いていってしまったので、慌てて二人でついていく。
「よかったね、メレアリス」
「キラ……そうね、いろんな意味で一段落ついてホッとしたわ」
「いろんな? ……って、ああ。流石に撃たれることはないと思ってたけど……肝は冷えたというか」
「トールのアレは冷や汗モノね。私達のためにあそこまで怒ってくれるのは嬉しいけど」
「はは……うん、でも、本当にいい友達だよ」
「そうね。……さ、私達もやる事やって休みましょ」
「うん。正直もうクタクタだよ」
そこで会話を終えて、二人はストライク二機の前で足を止めたマードックに近づいた。
・一連のメレアリスの態度について
異常に冷めているというかなんというか。表現したかったのは初戦闘での精神的な疲労具合なんですが。極度のネガティブ傾向、投げやりな態度……うーん、心情の描写って難しいですね……