モルゲンレーテ工場区、その搬出口を襲撃したアスランは困惑していた。
(ここにもモビルスーツが3機!? どういうことだ、報告と違うぞ!?)
そう、行動を開始する直前にイザークがつぶやいていた通り、事前に入手していた情報では奪取目標――つまり、地球連合の新型モビルスーツの事だ――は合計"5機"とのことだった。
しかし、目の前には3機。イザーク達が奪取に向かった3機と合わせれば合計"6機"存在していることになる。これはどういうことなのか。
(……"同型機"か!)
注視してみれば、3機のうち2機は形状が酷似している。おそらく、都合2機生産されていたこの型のモビルスーツを1機見逃していたのだろうとアスランは思った。情報といっても偶然キャッチした『遠目から撮影された写真による5種のモビルスーツ』という単純なものに過ぎなかったのだ。そこに齟齬が生じるのは仕方がないと言えば仕方がない。
(……落ち着け。別に奪取する数が増えただけで、それ以外に何の問題もないだろう。少しばかり情報が違っていたとはいえ誤差の範囲内だ)
アスランはそう自分に言い聞かせる。実際、ここで持ち帰ることのできるモビルスーツの数は多ければ多いほどいいのだ。それはすなわち地球連合の戦力を削ることになり、Z.A.F.T.の戦力を増やすことにつながるのだから。
それに、別に人手はアスランとラスティだけではない。奪取するだけであれば赤服ではないZ.A.F.T.兵でも何ら問題はないのだ。
「ラスティは左を! 俺は真ん中を奪う! ノークス、一番右の機体はお前に任せる! 他のものは俺たちを援護しろ!」
「「「了解!」」」
アスランは今いる兵の中で、自分とラスティの次に能力が高いであろう同期を奪取に向かわせる。それと同時にアスラン自身もラスティと共に機体の奪取へ向かう。
「敵襲ーーっ!!」
「撃て! 奴らをモビルスーツに近づけるな!!」
「モビルスーツの搬出は一旦中止だ! 敵を……ぐわっ」
既にコロニー外にあるZ.A.F.T.艦『ヴェサリウス』―今回のアスランたちの母艦でもある―からジンが出撃しているのが確認されていたのだろう。アスランたちの襲撃に即座に反応した技術士官たちが発砲を開始する。
始まる銃撃戦。技術士官が倒れれば、Z.A.F.T.兵もまた倒れる。戦闘技能にコーディネーターとナチュラルという出自からくる差はあれど、だからと言って即座にコーディネーターのほうに軍配が上がるわけではない。技術士官の数はZ.A.F.T.兵よりも多く、数量対質という形で戦闘は長引いていた。
「くそっ、あと少しなのに……!」
「焦るな! 相手はナチュラルだ、一つずつ仕留めれば……」
ラスティの焦ったような声に、近くで銃撃していたアスランは彼に冷静さを取り戻すよう話しかける。
「いや、もうイザークたちは終わってるはずだ。遅れるわけにもいかない! ……アスランは奥のを! 援護する!」
「おい、ラスティ!?」
アスランの制止の声も届かずラスティが前に出る。
(このままラスティだけを先行させては……!)
射撃戦におけるセオリーの一つに、一人で突出しない事というのがある。理由は簡単で、単純に多対一の戦闘では数の暴力には屈服するしかないから、というものだ。
実際そうだろう。一人が一度に発射できる弾丸、およびその射線の数と集団のそれとでは比べ物にならないほどの差がある。いったいどれだけの力量があればその差を埋めることが可能なのか。
少なくとも、ラスティ一人で複数人との銃撃戦は無理だろう。いくらコーディネーターで軍人とはいえ、彼もアスランと同じ16歳の少年にしか過ぎないのだから。
「くっ、ノークス! 頼んだぞ!」
「任せろ!」
アスランは咄嗟に判断し、ノークスと呼んだZ.A.F.T.兵に一言かけてからラスティを追う。
件のラスティは射線を確保するために一旦真ん中のモビルスーツへ飛び乗り、即座に発砲。最奥に隠れて銃撃していた技術士官を倒すことに成功する。
「よし、アスラン! これで……」
OKだ、とでも言いたかったのだろうか。思わずアスランのほうを向いたことでラスティに致命的な隙ができてしまう。
「あ……」
危ない。アスランはそう言おうとした。が、言い終わる間もなくラスティのヘルメットが砕け散る。
いくらコーディネーターが身体的に能力が高いといえども、それは人という枠組みの中での話。ナチュラルと同じように、頭部に銃撃を受ければあっけなく死ぬのだ。
「ラスティーーーーッ!!」
断末魔もなく倒れる同期の姿に、アスランの中で何かが吹っ切れる。
ラスティと同じように射線を確保すべく勢いよく突っ込む。ラスティを攻撃したであろう士官を殺し、真ん中のモビルスーツの上にいた女性の士官へも銃撃する。
「……チッ」
アスランの放った銃弾は女性士官の腕を掠め、その反動で彼女は倒れ込む。しかし、それだけで致命傷には至らなかった。加えてそこで弾切れしてしまったために、アスランは銃を投げ捨て、ナイフでトドメを刺そうと突進する。
途中、民間人らしき少年が女性士官へ近づくが、アスランは動きを止めない。
(避難し遅れたのか? ……かといって見逃すわけにもいかない。可哀想だがここで士官と共に死んでもらう)
そう思いながら近づき、自身の間合いに入ったその瞬間。
「……アスラン?」
目の前の少年が、自分の名を呼んだことで動きが止まる。
「……キラ……!?」
思わず顔を見れば、月にあった幼年学校に通っていた時の大親友――キラ・ヤマトに似ていた。いや、似ていたというよりも面影が残っていたというのが正しいだろう。最後に見たのはもう何年も前のことで、本人なのかどうかはわからなかった。
だが一度意識してしまうと、アスランは目の前の少年がかつての友と被ってどうしようもなかった。疑念や迷い、動揺が彼をその場に縛り付けていた。
(この少年は本当にキラなのか? 俺が、アイツを殺す? 弟分を……?)
「――危ない!」
不意に近くで叫ばれる警告の声。即座に見れば、少年の横にいた女性士官が銃を構えていた。我に返ったアスランは即座に後ろに飛びのき銃撃を回避する。
その隙に女性士官は少年ともどもモビルスーツのコックピットへと入り込み、シャッターを閉じてしまう。
「くっ」
これで1機はほぼ奪取不可能となってしまった。アスランは歯噛みしながらも、ラスティが奪取する予定だった一番左の機体へと飛び移り、コックピットへ即座に乗り込む。
そしてすぐにハッチを閉め、モビルスーツへの動力を供給すべく主電源へと手を伸ばす。
が、
「何? すでに起動している……?」
動力の供給状態を示しているらしいパネルは既に【NEUTRAL】と今すぐにでも動作が開始できることを示していた。
仮にもモビルスーツという圧倒的なまでの戦力を有した兵器だ、今回はこちらが盗む側ではあるものの、本来であれば強奪防止のためにプロテクトが掛けられていても疑問はなかった。急造ではあるが外部から強制的にOSを書き換えるための機器をも用意していたZ.A.F.T.兵としては、拍子抜けというのがアスランの素直な感想だった。
(大方、このモビルスーツの搬送と同時に正規パイロットを乗せるつもりだったんだろう)
そう考えたアスランはスリープ状態になっていたシステムを
GAT-X303 AEGIS_
ディスプレイに機体の名と情報が表示される。それらを一瞥すると、アスランはもう一人の仲間へ連絡を試みる。
「こちらアスラン。ノークス、聞こえるか? ……ノークス、応答を!」
想定外の“6機目”を強奪する手筈だった仲間の名を通信機に向かって呼びかけるが、一向に応答はない。どうやら彼も失敗し帰らぬ人となったようだった。
「くそっ……」
ナチュラル共が。
内心で罵倒しながら、アスランは機体の操縦桿へと手を伸ばした。
メレアリスが梯子を、そしてモビルスーツの肩の部分を上りきったとき、オリノはまだそこにいた。
しかし襲撃犯の攻撃で足に怪我を負ったらしく、胸部と思われる部分のあたりで座り込んでいた。
「……っ、あの……!」
彼の足から出ている血を見てメレアリスは一瞬だけ悲鳴を上げそうになる。が、それを抑え込んで声をかける。
「……誰だっ!? ……って、さっきの」
オリノは最初こそ驚いたようだったがすぐに状況を察したようで、反射的にメレアリスへと向けていた銃を下す。
「……怪我、大丈夫ですか?」
「なんとか。掠っただけで撃ち抜かれたわけじゃない。一人こちらへ向かってくるのをやったときに、痛み分けとしてもらってしまった」
「……」
オリノは軽い口調で言うが、その額には脂汗が浮かんでいる。相当辛いのだろう。
メレアリスはその様子を見て何とかしてあげたいと思うものの、医療の知識がない彼女にできることはない。ただ心配そうな顔で見つめていることしかできなかった。
そんな中、突如爆音が響く。いち早く反応したオリノが音のした方向を見て驚きの声を上げる。
「なっ、"2号機"が動く!?」
「"2号機"?」
メレアリスがその方向を見ると、先ほどまで起動していなかったモビルスーツたちの、真ん中の機体が立ち上がろうとしていた。
初めて見る光景と金属が拉げる轟音に圧倒されてメレアリスは思わずオウム返ししてしまう。しかし、オリノがそれに応えることはなかった。
ほぼ同時に、その向こうにあるもう一つの機体も立ち上がろうと動いたからだ。
「くっ、303もか! 君!ちょっと肩を貸してくれ!」
「……え? あ、は、はいっ!」
オリノの声で我に返ったメレアリスは急いで彼に駆け寄る。
「すぐそこにコクピットがある! そこに運んでくれ!」
「わかりました!」
メレアリスが肩を貸すと、オリノも怪我の痛みを我慢してすぐに移動を始める。
幸い二人のいた場所から数mも離れていない場所にコクピットがあり、30秒もたたないうちにたどり着く。
「中へ!」
「え、でもコレって一般人が触れていいものじゃ……」
「状況が状況だ、仕方ない!」
オリノの返答と同時に爆発音。どうやら先に動いた2機のうちのどちらか、あるいは両方のせいで搬出口内の機械が爆発したようだった。
「ほら、早く!」
「わ、わかりました!」
意を決してメレアリスはコクピットへと入る。続いてすぐにオリノも入ってきたので、メレアリスはシートの後ろ側へと移動する。
「……くっ、動いてくれよ……!」
オリノはそう呟いて操縦桿脇にある主電源と思しきボタンを押す。すると待機状態だったシステム群が一斉にアクティブへと移行し、
GAT-X105-1 STRIKE
General
Unilateral
Neuro - Link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
Synthsis System_
機体の情報をディスプレイに映し出す。
「……
「立ち上がるぞ、しっかり掴まっててくれ……!」
メレアリスは呆けたようにつぶやくが、その後のオリノの言葉に身を強張らせながらもしっかりとシートにしがみつく。
数瞬の後、機体がゆっくりと立ち上がる。
「……すごい」
段々と上がっていく視点、広がる視界。ディスプレイを巡る大量の情報に、金属とぶつかるたびに体に響く衝撃。
どれもがメレアリスにとっての未体験で、こんな状況でなければきっと彼女は舞い上がっていただろう。
ふと、メレアリスはキラが教授から頼まれていたデータ解析のことを思い出す。
(……アレは、モビルスーツの……)
見たことも無いフレーム構造。人体と同じ動きをさせようとしている風に見えたあの構造の正体は、今メレアリスが乗っている鋼鉄の巨人に組み込まれているモノだったのだ。
程なくして視点の変動が終わる。モビルスーツが完全に直立したのだ。
「……立てることはできた、か。問題はこの後……」
「……外にもモビルスーツが……?」
メレアリスが思わず指差す。そこには、3機の灰色のモビルスーツが飛んでいくのを見送る
「102、103、207は手遅れか……!」
機体の型番だろう、3つの数字を悔しそうにつぶやくオリノ。
その直後、再び爆発音。メレアリスたちがモビルスーツに乗る直前までいたあたりが爆風と黒煙で見えなくなる。
それはまるで、これから始まる激動の1年間におけるメレアリスの逃げ道を塞いだかのようだった。
ノークス氏、哀れ。ただの数合わせキャラです。
また、銃撃戦のセオリーあたりの事は作者がなんちゃってサバゲーに参加した時に考えてたことなので、あまり参考にしないでください。
でも、ギレン閣下も言ってたよね? 「戦いは数だよ兄貴」って。
7/18:イージスの待機状態表示を【NORMAL】から【NEUTRAL】へ変更。
また、ここでそのうち聞かれるかもしれない『なぜストライクが2機なのか』についても説明しておこうと思います。
初期状態+3(+α)の数通りの形態を持つストライクは、他の4機と比べても実戦データが採り難い機体です。.hack//で言うなら練装士ですね。使用武器が複数ある分、他の職と違い一つの武器の熟練度が低くなる。
ですから、その実践データの取得量の差を埋めるためにもう1機を作った、という設定です。単純計算で効率2倍ですからね。