今回明久視点→三者視点となっております。
……やはりもっと明久の苦難の難易度を上げるべきかな?
いつから、この結末は決定していたのか……
なぜ、こうなってしまったのだろう?
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なぜ、こうなってしまったのだろう?
そんな事を何回も自分に問う。だが一向にその答えは出ない。
遠くからギャリーが叫んでいる。
「どうやったらこんな所に閉じ込められるのよ!」
「待ってて、今行く!」
周りをイーゼルとイスに囲まれながら、その声をBGMに、僕はこうなった顛末を頭の中で思い描いた。
_____________________イヴちゃんが新たに見つけたトビラ、それは僕が見つけた白い蛇の絵とさほど距離は開いていなかった。
中へと進むと、中央にひとつだけテーブルが意味深げにあり、それ以外は大量のイス、そして何かの液体が入った容器が描かれた絵画が絵を描くための台みたいなものに立てかけられている。
なんて名前なんだろうと疑問を感じた瞬間にイヴちゃんが答えてくれた。
「……あれはイーゼルっていって、直接絵と物を見比べるための物なの」
相変わらず彼女は物知りだ。なんでも知ってるんじゃ無いかと錯角してしまうほどだ。つまり僕の疑問なんて彼女にとっては取るに足らないものだろう。
ーー僕とは住む世界が違うと実感させられる。
けど、それは当たり前のことだと知っていたはずだ。
僕は何もしていない、いや出来ていない。
その程度なのか僕は、この程度しかできないのか?なんて余裕を持てるのか?
全く呆れて物も言えない。こんな事を考えている暇があるなら、もっと他の事に使え。足りない頭を捻くり回せよ
「明久……?」
いきなりイヴちゃんが顔を覗き込む。
そこまで不審に見えたのかな?もっと顔に出さないようにしないと。
「大丈夫だよ」
でも、まずは彼女を安心させないといけない。そう思って、出来る限りの笑顔を浮かべてからイヴちゃんに向き直る。
彼女は鋭いからこんな誤魔化しは長くは通じないだろうからすぐに顔を背け、部屋て一番怪しい中央のテーブル目指してイスを動かし進んでゆく。
「……あれ?」
ーーーのだが、いつの間にかイスが全く動かせ無くなっていた。
他のイスも何やら動かしようのない状態になっている。これだけだとわからない事だろうから簡潔に言おう。
僕が何が言いたいのかというと……
「……出れない」
閉じ込められてしまっていたのだ。______________________
「で、今に至ると……」
イスはそれ自体が大きく、しかもそれぞれが組み合わさって乗り越える事は出来ないような状態に仕上がっている事から、自分がどれだけ焦っていたのかが伺える。
……いや、これが僕の当たり前なのか
考えなしの子ども、これだからイヴちゃんやギャリーに迷惑をかけるんだ。……消えてしまえばいいのに
取り敢えず、こっちでも出口を探そうか。イヴちゃんの方も苦戦してるみたいだし。
「あ」
はたと思いついた。なぜ気がつかなかったのだろうか?誰かが言っていたじゃないか。
「イスの上は通れない。ならば壊せばいいじゃないか!」
押してダメなら、ーー叩 い て み な っ て
……何か盛大に間違えたような気がしたけど気のせいだな。よし……やろう!
「……正確には、“押してダメなら引いてみろ”だよ明久」
「っていうかなに物騒な事言ってるのよこのバカ!」
いつの間にか背後にいたふたりの声が耳に入ると同時に、ゴチンとギャリーから有難いげんこつを頂き、僕は行動に移す前に潰された。
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「痛い……」
明久はむくれながら後ろのギャリーを睨む。しかし睨まれている本人はたいして気にもとめず、その視線を手で振り払う。
そしてイヴの持つ物を見やる。
結局、あの部屋で見つかったのは目薬だけだった。
果たして何に使うのかと、ギャリーは首をひねったが、明久が心当たりがあると言っていたのでイヴとともに明久の指示のもと進んでいる。
しかし、とあるところまで来てギャリーは明久の指示に従った事を後悔した。
明久が目指していたのは、例の目玉の通路だったのだ。
ヴギャア!と悲鳴を上げてイヴの後ろへと隠れるギャリーなど気にせず、イヴは明久にひょこひょことついて行く
そして辿り着いたのは、前に明久と充血した目玉の前だ。
「イヴちゃん。それちょうだい」
明久はイヴから目薬を受け取り赤い目にそれをさした。途端に目玉の腫れが収まり、寧ろ輝くように目が見開かれた。明久にお礼を言うように一度目を閉じ、移動を始めた。
動いたその先で壁際を見つめ始める目、明久は何の疑いもなく見つめられている壁に近づく。
「待ちなさい明久⁉︎罠かもしれないじゃない!」
ギャリーの忠告に明久は「大丈夫」と答えて、壁に触れる。結果からいうと壁だと思っていたのはトビラだった。
その壁を押すとすんなりと開き隠し部屋を発見したのだ。
明久はずんずんと部屋に入って行き、すぐに出てきた。……赤い玉を持って
「明久、何それ……?」
イヴの問いかけに彼はニコリと笑い顔を作り「任せて」と来た道を戻り始めた。
イヴは明久の返答に手を爪が食い込むほど握り締め、俯きながらその後に続く。もちろん明久はその様子に気づくことはなく、ギャリーも周りを目玉に囲まれた状態で、他人を気にかける余裕はなくイヴの状態を知ることはなかった。
さて、明久が何処に向かったのかというと、先の白い蛇の絵画のところだ。
何を考えたのか、明久はその絵画の目の部分に例の赤い玉を嵌め込む。
カチリと嵌った瞬間、横の絵画が床に落ちた。その裏面に何かが書かれている。
「なんで分かったのよ?」
明久は指で絵画を叩き、笑いながらギャリーの疑問に答える。
「こんな蛇の目は赤いって姉さんが言ってたからね。確か……アルビノ…だったっけ?そんな名前の動物だった様な気がする」
アルビノーー簡単にいうと、メラニンに関わる遺伝情報の欠損により白化した動物のことを指す。
明久は、とある人が明久に様々な雑学を披露していたため地味にいろんなことを中途半端に知っている。これもその一つである。
明久は落ちた絵画を拾い上げ裏返す。
「なんて?」
黙々と読みふける明久にイヴがおずおずと尋ねると、尋ねられた側は顔を上げずにその内容を読み上げる。
「“木の後ろ”だってさ。それ以外は何もないよ」
「残念」と肩をすくめる明久にギャリーは若干の違和感を感じた。
何か彼の中でブレているような…そんな気がする。
それは、明久が綱という不安定な足場に立っていると言っても相違ない。
しかし、彼はまだ9歳だ。人格形成が成され始めたばかりなのだから、完成している自分からはそういう形に見えただけなのだろう。と捨て置いた。
ーーそれが間違いだと気付くことなく
◇◆◇
「…ハァ…ハァ…」
明久は薄暗い道を疾走する。
周囲の壁には今にも彼を押し潰さんと迫ってくる様な圧迫感すらある。
恐らくその圧迫感を助長させているのは背後から迫り来るゲルテナの作品である無個性だ。
彼は恐怖心を封じ込め、一心不乱に駆け抜ける。と、前方の曲がり角よりもう一体の無個性が姿を現わす。
咄嗟に壁を蹴り、後ろにH字路状態の通路に逃げ込む。が、その先の通路にも無個性が待ち構えていた。
思わず舌打ちし、その像から身を翻し逃走を図る。が、そんな事をさせる程の心を無機物が持つはずも無い。
無個性は明久の肩を殴り抜いた。
言葉にすればただそれだけの事なのだが、
しかし、彼は衝撃に耐えようとはしない。直接受ければ自分の体の方が持たないと直感で理解していたのだ。
殴られた時に受けた力を利用して転がりながら高速で無個性から距離をとる事に成功した。
チラリと見えた無個性は拳を殴った状態から動かせていない。しかもその後ろにいる無個性が一体つっかえている。
これならば逃れる事はできるだろうと判断し、クラウチングスタートの要領で、頭の無い石膏の前から消える様に他の通路へと跳んだ。
「……イヴちゃん達は大丈夫かな……」
未だに体に残る恐怖を紛らわす為に、今いる部屋の何処かにいるはずである2人を脳内に思い浮かべた。
彼は無個性がいるであろうこの部屋に入る前に奴らの囮を買って出たのだ。
当然2人、特にイヴは反対した。だが、この中で、最も小回りが利き、体力があり、尚且つ低めの天井に動きを阻害されないのは自分だけだと明久は主張し譲らなかった。
結局、先にギャリーが折れ「挟み撃ちされるのだけは気をつけなさいよ」と言って、彼が囮になる事が決定した。最後までイヴは納得していなかったが……
明久にはふたりの安全が最優先の為、これが最善だろうと考えての事だった。故にイヴが何故あそこまで反対したのか未だに理解ができない。何が駄目なのか?
何やら引っかかりが存在しているが、顔(頭)無しとの競い合いに集中すべきだと判断しその思考を切り捨てた。
「(そうだ、今は作業に集中しろこの間抜け。)」
考えに耽り、まだぼんやりとしている意識を現実に戻す為に指の皮を少し噛みちぎり、痛みで無理矢理頭をクリアにする。
いつでもあれらに襲われてもすぐ対応する為にはいつでも頭をはっきりとさせておく必要があるからだ。
でなければ、死ぬ可能性が増える。
だからこそ彼は気を引き締める。ここで倒れると色々と面倒になると理解している故。
その直後、目の前に突然無個性が姿を見せた。
回り込まれた!と自らの迂闊さに呆れる。奴らも馬鹿では無いのだ。この程度予測できなくてどうする。と自虐をはじめかける思考に歯止めをかけ、身を翻す。
がその先からも無個性が追ってきていた。
「挟まれたっ!」
ギャリーにこの状況に陥らぬ様注意を貰っていたと言うのに、と後悔する。
先の様に横への逃げ道は無い…絶体絶命といったところか。
明久は前後から迫る石膏像に凄まじい恐怖を抱くが、恐怖心の対処法はもう覚えたのだ。いや前々から自然にやっていたが……
「“大丈夫”」
そう言ってから回り込んできた無個性に体を向き直す。
構えて、何かの音と共に走り出す。
明久の全力での疾走は、あちこちが軋む。まるで体の方がついていっていない。
それもその筈だ、今の彼は肉体の制限が外れている状態、いわば火事場の馬鹿力を発揮している状態なのだから。
そんな彼を迎え撃とうとする像。が、逆に相手が構えたその一瞬の隙をつき、相手の股の下を滑り抜けた。
体勢を崩しながらも無個性から距離をとろうと走る。成功したかと判断しようとした瞬間、相手の振り向きざまの一撃が背中に裂傷を刻んだ。脳が痛みという警告を受け取る。が今の彼には関係無い。入り口があった方向へと駆けるだけ。
先程の何かの音はふたりが何かしたのだろう、ならば囮は終わりだ、こいつらにこれ以上付き合う必要は無い。
明久は痛みなど忘れて走り抜けた。しかし石膏像は彼より少し速い速度で追い縋る。無個性だって黙って指を咥えているわけでは無いのだ。曲がり角の先で見えたトビラに件のふたりがまちかまえている。
ギャリーがいち早く明久に気づき手を伸ばす。このままでは奴らに追い付かれると理解していた明久も自分のソレを伸ばされた手に出す。
「(ギリギリ届かないか)」
仕方ないがダメージ覚悟で追いつかれるかと諦めたところで彼にも予想外の展開が起きた。
ーーギャリーが無理矢理手を届かせたのだ。
そのまま明久を部屋の外へと引きずり出し、イヴがすぐさまトビラを閉めた。
「……ごめん助かった」
しばらくして、明久は床に倒れこんだままのギャリーに御礼を告げる。
しかしギャリーは「気にしないで」と明久の頭を撫でた。
なんと心強いことか、大人というものはここまで自分と違うのか。自分と違い、何もせずにこの状況を耐える精神を持っているなんて……
これならば、彼と共にいればイヴちゃんはきっと大丈夫だろう。
と明久の脳裏に浮かぶ。
それが自分も計算に入れていないことの証明だった……
最近、うちの主人公が原作の性格と凄まじい変化が生じ始めました。