バカと女神とゲルテナと   作:東雲兎

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今回オリキャラ(?)が出現しますのでダメな方はプラウザバックの方を……





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第十三画目

『やあ、ふたりとも久しぶり、遊びに来たよ』

 

『ん?■■■■■はどうしたって?今日は用事があったらしくてね。がっかりした?来れたのが僕だけでごめんよ』

 

『最近、忙しくてあんまり描けないんだ』

 

『まだまだ完成には程遠いけど、必ずやってみせるよ。もう概念自体はほぼ完成している。だから待っててね、必ず魂を入れてあげる』

 

『僕の最高傑作()に』

 

 

◇◆◇

 

 

マネキンからのヒントを頼りに向かったのはダイヤルのカギで閉ざされたトビラだ。

 

「ここ、だよね?」

 

体に鞭打ち、やっとこさで辿り着いた部屋。そのトビラに手をかけるととある事に気付いた。

 

「……!開いてる?」

 

かかっていた筈のカギが解かれている。つまりはイヴがこれを解除し中に入った事は確定だろう。

ならば、ここにいるかもしれない。などという淡い期待が生まれる。

だが、中に誰かがいるなんてことは無く……

 

「!」

 

ーー彼がそれに気付けたのは、決して偶然などでは無いーー

 

目の前に何者かが立っている気配がする。その姿は目視できない、影が薄いなんていうことでは無い、正しい意味での透明人間だ。

その透明人間は、筆に絵の具を付けて真っ白な白板に文字を書き始めた。

 

『はじめまして、見知らぬ少年。僕はしがない画家見習いだよ。君の名前が聴きたいな』

 

そのセリフはあまりにも普通であり、普通だからこそこの異空間には似合わないものだ。

 

「……吉井明久です。で、君の名前は?」

 

警戒自体は緩めることなく、透明人間の正体を探ろうとする。

しかし、返ってきたのは予想外なものだった。

 

『ごめんよ、僕が名乗ることは禁則事項になってるんだ』

 

禁則事項、まるで彼を誰が支配している様な言い様だ。

つまりは彼を含め、この異空間の住人には支配者がいるという可能性が浮上した。

だが、直球で問いただしても適当に誤魔化されるだろうと踏み、まず別角度から突っ込んでみようと考えた。

 

「ーー禁則事項ってなに?」

 

『そこらへんもダメだ。ーーだけどね、実は抜け穴があるんだよ。名前だけなら特別に教えてあげる。そこの絵の端っこを見て』

 

不審に思いながらも、言われた通りに四つの角を注意深く見回す。

とその一つにアルファベットで小さく記されていた。

 

「…っ!まさか⁉︎」

 

慌てて手帳を取り出し表紙の裏を確認した。

 

『《ーーGarryーー》』

 

一言一句、全く同じ文字が両方に記されている。

 

今度こそ、明久の頭の中が混沌に満ちた。これは一体どういう事なのか、全く理解が出来ない。

 

今まで自分を助けていたのは目の前にいるであろう目に見えぬ男だと言う。

 

『よくここまで頑張ったね。でも君は精神面で無事とはいかなかった様だね』

 

「なんの話だ……?」

 

精神なんて話をされてもちんぷんかんぷんだと言わんばかりに、目を細めるふりを彼を見た男は筆を跳ねる様に滑らせた。

 

『いや、気付かないのならいい。それよりもこれからの事を考えるべきだね』

 

「これからの事だと?」

 

『そうだよ、この先はこれまで以上の困難が待ち受けているって言ったらどうする?』

 

「な」

 

『このままだと、3人とも死ぬね』

 

「⁉︎」

 

明久の思考が混乱を極める。そいつの言葉が信用出来る証拠は無いが、また嘘であるという証拠も無い。選択すべきだ。そいつの話を聞くかどうかを。

だが、彼が選択をする事すら許されぬ様に透明な画家は言葉を続ける。

 

『でも大丈夫、君が持つ手帳に入れた僕の魂を介して出来る限りのサポートはするつもりだ。もちろん禁則事項に触れない限りね』

 

「……信用していいのか?」

 

『もちろんーーと言いたいけど、僕も全てを知っているわけでは無いし、何よりもそれを決めるのは君だ。君が選択するんだよ』

 

「ーーー」

 

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

 

頭の中で反芻する言葉が彼の思考を確実に蝕んでゆく。

 

無理も無い。明久はまだ9歳の子どもなのだから。

 

だが、他の子どもとは違う点があった。

彼は選択出来るということだ。

 

「……わかった頼む」

 

『ーーいい返事だ。じゃあまずは、君の背負うものを確認しようか』

 

明久の瞳には見えない男は、どうしようもなくなるほどの笑いをこらえていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「どうしていないの、明久はどこに行ったの…?」

 

不安気なイヴの声が廊下を木霊する。お察しの通り、先程から明久の捜索をしているのだが、その結果はあまり芳しくない。

ゲルテナの作品達の目から隠れつつ、明久の影、もしくはそれに準する跡がないかを隈なく探す事にしているのだが、何も残されていない。

逆に考えれば、何も残っていないということは、まだ明久は無事である可能性が高い。逃げ続けているかもしくは、隠れているか。

恐らくは後者だろう。でなければ、ここまで探して見つからない筈はない。ーーゲルテナの作品達が彼の屍を隠していなかった場合の話だが……

 

それは兎も角、隠れているのであればどこにいるのか?先程より、探し続けているのだが、一向に見つかる気配が無いとはどういうことか?と話は振り出しに戻る。

 

「ー!イヴ、トビラが開いてるわ」

 

先行していたギャリーから、前に明久が見つけた開かずのトビラのカギが解かれていたという連絡を受けたのをキッカケに、そこへと急行する。

 

何が待ち受けるのかはわからないが、その先で明久が待っている事を願いながらイヴは進んだ。

 

 

この部屋で、この先の運命が左右されるなどと思いもしないまま。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

———バラって綺麗だよね———

 

 

 

———いろんな色があってさ———

 

 

 

———花言葉も色によって変わるんだって———

 

 

 

———全部良い理想を持ってる———

 

 

 

———でもね———

 

 

 

———僕のバラは———

 

 

 

———どこまでいっても———

 

 

 

———真っ黒なんだ———

 

 

《とある画家の独白》

 

 

 

 

「———ふう———」

 

未だに痛みが取れない体に鞭打ち、ゲルテナの作品が闊歩するフロアを移動し続ける

明久は透明な画家が伝えた情報をもう一度思い出した。

 

『君の持つペインティングナイフはね。ゲルテナの使っていたものなんだ。アレは魂という概念を独自に解釈し、作品に(いのち)を入れ込もうとしたんだ』

 

『だからかはわからないけど、それには魂という概念を作品から切り離す効果があるんだよ』

 

『とは言っても、アレが魂を込めた場所を刺さないと無理だけどね?だから策なしに突っ込まない様に、君が死ねば他の2人が死ぬ事をしっかりとおぼえといて』

 

『よろしい。じゃあまずはカギを探しなさい。灰色のカギだ』

 

『外のどこかにあるはずだから探してみるべきだと思うね』

 

明久は心の底からため息をつき、

 

「どこかってどこ?」

 

あの画家は掴み所がないというわけではない。

ないのだが、明久にとってあまり好ましくは無い感覚でないのは事実であり、画家の情報がどこまで正しいのかがわからないのだ。

 

そんなものを頼りにするのは、あまりにも危険だろう。だがそうするしか無いという現状が、彼に画家の思い描く明久の行動をなぞらせるという選択肢しか選ばせなかった。

 

ふと手を握り締めると、手のひらにあるペインティングナイフの感触、前にこのナイフを青い服の女の作品に突き刺した事があったが、その時に色をなくした様に見えた。

 

「(そこの事を考えると多分あいつの言動は正しい…のかな)」

 

明久はこれは初めての光明だと割り切り、壁を背にして移動を再開する。

 

だが、彼の動きは緩慢であり見つかればすぐに追いつかれるだろう。

これは彼の身体だけの問題ではなく、彼からついて離れない恐怖を含めた感情が彼の精神を蝕み、それが彼の身体にまで影響を及ぼしている為である。

 

彼の精神の平衡はギリギリの綱渡りをしているのと同義であり、これが崩れれば今度こそ彼の箍が外れるだろう。

 

「身体がほんと重い。どうにかならないかな……」

 

そんな事を知らない、いや無意識のうちに知ろうとしていない明久は壁伝いに移動する。とその先で何かが光るのが目に映った。

 

「あ、あった?」

 

灰色に鈍く光を反射するカギ。

 

意外と早く見つかり、つい疑問符付きで反応してしまう明久だったが、次の瞬間には純粋な喜びへと変化した。

すぐさまそこに駆け寄り拾い上げる。

だがその喜びも束の間、壁に掛かっていた動かない筈の絵

画が明久へと襲いかかった。

 

咄嗟に反応できた明久は前に飛び込む。

 

「グギッ」

 

が相手の鋭い指が服の一部を引っ掛けて中途半端な体勢で床に叩きつけられた。

 

口内を鉄の味が充満する。異様に硬いものが舌の上を転がり、歯があった場所から激痛が走る。

 

しかしそのままうつ伏せでいれば殺されると即座に判断し、後ろを振り返らずに走り出す。

 

壁の隅を軋む脚で蹴りつけ、角を曲がりきって、作品の視界から逃れようと身体の痛みを無視しながら走る

 

「(このままなら逃げ切れるか⁉︎)」

 

そんな幻想は、次の瞬間には砕かれた。

前方に新たな絵画が姿を見せたのだ。

 

「っくそ!」

 

角に手をかけ高速でターンしそれがこちらを認識する前に逃れる事が出来た。

 

だが、逃げた通路には先程明久に襲いかかった作品が明久の足音に気づいた。

 

また逃げようと走り出そうとした時、明久の脚が限界を迎えた。

 

ーーいきなり彼の脚から力が抜けた。

 

「なぁ——っ⁉︎」

 

膝をついた彼は訳がわからないといった風であったが、そんな隙を絵画が見逃す筈もない。覆いかぶさる様に明久を抑えつけた。

 

「くそっ!はなせっ!」

 

肘で女の顔を打ち、怯んだ瞬間に逃げ出そうともがくが、いかんせん力が入らない。

怯む事で出来た隙もそれによって潰されてしまった。

 

「っ!」

 

今度こそ、バラを奪わんと伸ばされた手を明久が必死に抑える。

 

これまでかと思われたその時、明久は口の中に転がる硬いものが転がる感触を覚えた。

 

それを吹き矢の様に女の顔、もっと詳しく言えば女の目に吹き出す。

 

真っ直ぐ正確な軌道を描き、飛び出したのは歯。

先程倒れこんだ時に折れた彼自身の歯であった。

 

それが一瞬だが、絵画が明久を抑えつける力を弱めた。

 

その刹那、背後から接近していた人影に作品が蹴り飛ばされる。

 

「明久に何してんのよ!」

「うぇっ⁉︎ギャリー⁉︎」

 

予想だにしなかった人物からの助けにより、明久ば危機を逃れた。

 

「明久、大丈夫?」

 

激昂するギャリーとは対照的に、ゾッとするほど冷静なイヴが明久の元へと駆け寄ってきた。

 

「あ、う、うん。僕は大丈夫」

「ごめんなさい。もっと早く来ていれば」

 

明久の口から伝う血を見て、目を伏せるイヴ。だが、すぐにそれは終わり、明久の切れた唇から滲む血を手で拭う。

そして、絵画を睨みつけた。

 

そんな彼女を叱責し、ギャリーが明久の元へと寄る。

 

「早く逃げるわよ!」

「あ、ごめん脚が動かなくて」

「ならおぶる!」

 

言い放ったそばから明久を問答無用に背負い、その場から離れる。

 

「って、怖い怖い怖いっ⁉︎」

「我慢しなさい!今どこに逃げようか迷ってるんだから!」

 

理不尽にも叱られる。「えー」と困惑しつつも、灰色のカギを差し出す。

 

「この先のトビラのカギ…だと思う!そこに逃げ込もう!」

「ナイスよ明久!イヴ、お願い!」

「うん」

 

明久がこれまた恐ろしいほど冷静なイヴの声を聞き取るやいなや手に持つカギが消失した。

 

明久か足音のする方に目を向けるとそこには赤い瞳を持つ少女が唇に少し血をつけながらギャリーの横を並走していた。

 

恐らく明久を無理な体勢で抱えているからギャリーがイヴが並走出来るほどのスピードでしか走れないのではと予測するも、自分にはどうしようもなかった。

 

いろいろなことが明久の頭の中で出ては消えを繰り返す。

 

その中で明久は思う。

 

ーーただ、確かな事がある。

 

それは、このふたりは信用できると言う事だーー

 

 

 

それを彼が考えるのとイヴが灰色のカギを開けたのは同時の事であった。

 

 

 




明久とイヴギャリ組はすれ違いしました。

謎の画家は明久の味方です。一応

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