今回は違う人に焦点を当てて見ました。それではどうぞ…
本棚が高くそびえる薄暗い部屋の中、ぺらりぺらりと書物のページをめくる男。
「やっぱり、手掛かりとか無いわよね……」
ほぅ。とため息を漏らして本を閉じる。彼、ギャリーは、どうやってもこの美術館の核心に迫れるようなものを見つける事が出来なかった。
いや、ロクな情報は無いととっくの前に気付いているはずなのに何故やめないのか。
そんな思考にとらわれ、思い至る。
「やめれば自らの不甲斐なさを思い出すから……かしらね。」
全くもって情けない話だと先ほどよりも大きなため息をついた。ガシガシと頭を掻いて消耗の末に倒れた少年の顔を思い出す。
年長者として、もっと早く彼を支えてあげるべきだったと後悔しても仕切れない。
そんな最中で、声が響いた。
「ギャリー。」
その声にハッと向く。視線を向けた先には1人の少年がいた。声高らかに喜びを表そうとして、思い留まる。冷静沈着に大人として、自らの不甲斐なさのせいで追い詰められてしまっていた子どもに対応しようとする。
「起きたのね明久、良かったわ。イヴも看病ご苦労様。」
余裕を持って彼らに不安を与えぬように、微笑をたたえて少年の、明久の無事を喜んだ。もちろんその隣の少女、イヴへの労いも忘れない。一見普通の彼女であるが、その実は不安定そのものである事はギャリーも理解している。
故にギャリーは他人からの礼により、イヴの功績を明久に間接的に伝えようとしたのだ。
「うん、ありがと、ギャリー。イヴちゃんも……ありがとう」
今まで通り、笑顔を向ける明久。しかしギャリーが受け取ったものは違和感であった。
——いや、今まで通りだからこそおかしいのと感じたのかしらね?
ギャリーが倒れた明久を見た時の消耗は少し休んで治るものでもないと考えていた。それを見た後で、明久が何事も無かったように会話できる程に回復した……などと考えるのは無理がある。
ギャリーにも明久の精神状態は良好とはいかない事は容易く予測できた。
「ふたりとも、少し話さない?アタシ本読み続けてたら目が疲れちゃって。」
「え?うん、いいけど。イヴちゃんは?」
「明久がいいなら私も大丈夫だよ。」
フフッ。と微笑む彼女の瞳は、明久以外映していない。いや映すつもりがない。
これは今まで通りなので捨て置くとして、問題は明久だ。少しでもボロが出ればそこから対処法が考えられるとギャリーは踏んでいたのだ。
「んーじゃあ僕が寝てたとこに行こうよ。あそこならゆっくり出来そうだし」
しかし、笑顔で返す明久は違和感がないという違和感をギャリーに抱かせながらも奥へと行ってしまった。
想像していたよりもまともな反応に煮え切らないギャリーにイヴが「明久をあんまり待たせないでね?」と言い残し、明久の後を追う。
ギャリーも頻りに首をかしげながらそれに続くと、『無題』という絵画の側で二人がギャリーを待っていた。
「あ、ギャリー。コートありがとうね。暖かかったよ。」
「あら、いいのよ。気にしなくて。」
微笑まれたので釣られて微笑み返したギャリーは、少し和み、そしてハッとした。横目でもう1人の同伴者を盗み見るて、後悔した。そりゃあもうイイ笑顔をしていたのだ。光の無い目でこう言っている『ギ・ャ・リ・ー?』
美少女の笑顔とは大変絵になるなと呑気な感想を浮かべべる。……もちろん、それは背後に何かを出していなければの話だ。
間違いない。このままじゃヤられる。そうギャリーは直感した。
「さ、さて、立ち話もなんだし座りましょ。」
「ん。イヴちゃんも座ろ?」
「うん。わかった。」
明久の一声で後ろの何かを消し去り、明久の座った隣にちょこんと寄り添った。
それを見て、内心ホッとひと息ついてイヴの反対に座り込む。
「ん?ギャリー、その本なに?」
「え、ああ、これの事?」
明久が指差したのはギャリーが手に持つ一冊の本。しまわずに無意識のまま持ってきてしまったようだ。
「さっきまで読んでたのよ。何かこの美術館について無いかしらと思ってね。」
「で、結果は?」
「なにもなかったわ。美術館どころか、あの襲ってくる絵画たちの事すらも。」
肩を竦めたギャリーに、「そっか」と少し残念そうに笑った。
—— やはりおかしい。
ギャリーは記憶にある彼の笑いと、目の前笑顔を比べる。
今までの笑顔はぎこちない笑い、何かを隠しているような笑いだった。子どもには触れられたくないデリケートな部分が多い。だからこそ踏み込んで話す事が出来なかったのだが、今の笑いは心の底からそう思って顔に出している。少なくともギャリーにはそう見えた。
「……」
「ん?どうしたの、黙り込んで?」
「いや、ふたりは此処に来る前はどうしてたのかしら?て考えちゃったのよ。」
「これはまた唐突だね。えーと、じゃあ先に、イヴちゃんは誰に連れてきてもらったの?」
「お父さんとお母さんに。日本に来たからいろんなところ旅行しようって」
「え、イヴって外国人なの?」
「ううん。私が生まれたのは日本だったんだけど、お父さんの“じっか”っていうのが外国で、私が3歳くらいの時に引っ越したの」
「へぇ、実家が海外にね……うん?てことは最近こっちに戻ってきたのね?」
「うん、3年前に。でも日本語はお母さんに教えてもらってたから出来るよ」
すごいでしょと明久に笑いかけた。対する明久は「うん、すごいね!」と純粋にイヴを褒めていた。
「明久は?」
「僕はお母さんとお姉ちゃんに連れてこられたよ。なんでも絵を見て“りょうしき”ってのを育みなさいって」
「へーなんでそんなこと言わたのよ」
「えーとね。この前小学校でね、先生にボールを投げつけて怒られたりした。」
「なにやってるのよ!?」
ギャリーは大声を上げてツッコんだ。
それに明久はあはは〜と頭を掻いて説明を追加する。
「だってさ、その時先生ってさ鉈を持って学校の飼育小屋に向かってるところで、その着てる服、ほら、つなぎっていうやつ、それに赤い色の汚れがあって、友だちが『うさぎが殺されちゃうっ!』なんて言ったんだよ。」
「それで止めないとって思ったの?」
「うん。イヴちゃんの言う通り、咄嗟にさ。」
「プッ、明久らしいわね〜。で?実際はどうだったの?」
「うん、先生はさ、小屋のめくれちゃった板を危ないから取っておこうとしたらしくて。赤い汚れも、ただのペンキだったし。先生は許してくれたけど、お母さんにすごく怒られてさぁ。恐かったなぁ。」
アハハハハっ。と大笑いする明久に釣られてギャリーもつい吹き出してしまう。
ちらりと見やればイヴも笑みをこぼしている。意味もなく、彼女の服装へと目線が落ちた。
「そういえばイヴ。あなた、結構いいとこのお嬢さんでしょ?」
思い出したようについ口に出た疑問。明久もそれに便乗した。
「え、そうなの?」
「だって、イヴの着てる服、かなり上質な生地を使ってるみたいだしね。で、どうなの?」
「……服はお母さんが勝手に選んでくるからわからない。」
「ふーん。ま、いいとこのお嬢さんに変わりないわね。」
肩を竦めたギャリーに対し、明久はイヴをポカンと見つめて、その視線にイヴは顔を赤く染めて俯いた。
それを眺めていると、突然ハッとしたギャリー。
「どうしたの?」
「いや…さっき思いついたんだけど、アタシ達ってここにいるじゃない?」
「そんな当たり前の事がどうかしたの?」
半眼で相手の顔をマジマジと見る明久に、ギャリーは立ち上がって言い放った。
「別にアタシ達だけがこっちに来ているなんて条件もないし、アタシ達以外にもこっちに来てる人がいるかもしれないじゃない!」
「あ、そっか!」
おお!と声をあげて立ち上がる明久。
「そうとなれば——」
「こうしちゃいられないわね!」
明久はイヴに手を差し伸べ、イヴはそれにおずおずと応えて手を取る。
ギャリーは本を返そうと歩き出す直前に、癖でコートのポケットに手を突っ込んだ。その手に何かが当たる感触があったので、それを引き抜いてみると、それは2つの飴玉だった。
「あ、ふたりとも。」
「ん、なに?」
「?」
言葉で返した明久と首をかしげたイヴに飴玉を差し出す。
「はい、あげるわ。」
そのふたりにそれぞれカラフルな包み紙を手渡した。途端に明るい顔になる明久、そして反応は薄いものの少し喜んでいる様子のイヴ。
2人の反応に満足したのか、ギャリーは笑って扉へと向かう。
「さぁ、行きましょうか」
守り抜かねば、未来ある子を。
そう胸に誓って。
今回、ギャリーに焦点を当てました。
彼がただ大人(笑)というわけではないと言う事を書きたかったのです。
彼が2人に影響を与える時は、基本2人を思っての行動である場合としています。
さて、今回明久に対して、東雲が一番戦慄しております(意味深)
ではでは、今回はここら辺でまた次回よろしくお願いします。