バカと女神とゲルテナと   作:東雲兎

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第十九画目

「ねぇ、アキ。ギャリーとイヴってアキの家族?」

「ん?違うよイヴちゃんとは元の美術館で、ギャリーとはここで知り合ったんだ」

 

マネキンを台座から落とそうとしている明久にメアリーは問いかける。

そして、それを否定した明久は三つ目のマネキンを落とす。

 

「イテッ」

「もーだから言ったのに。しかも床にヒビが入って変なガスが出てるし……」

 

明久が破片で指を切り、そこから血が溢れる。

メアリーは明久の腕を掴み、その傷口をペロリと舐める。

 

「はい、これで我慢してね」

「ありがと、じゃあつぎ行こうか」

 

その“カサをなくした乙女”という絵画が飾られる部屋で手に入れたのは木の鍵のみであったのには落胆を隠せない。

 

扉を開けると大広間が広がっており、そこには様々な扉が点在していた。彼らは次の扉を探してみようとメアリーに提案する。

 

それを快諾したメアリーは先導するように明久を引っ張る。

 

色々と行ってみたものの、結局、最奥の扉しか開く事はなかった。

 

そこは書物庫で様々な書物が並んだ部屋だ。

 

ふと明久は気になるものを見つけた。それは壁に空いた穴だ。片手に持つ鍵が疼く。

 

それに従うままに差し込む。ピタリとはまったその鍵を回せばカチリと音を立ててその封を解いた。

 

「……なんだったんだろう?」

「ん?どうしたのアキ?」

「いや、なんでもない。行こうか」

 

メアリーを連れて外へと出ると、血涙を流すマネキンが出迎える。

それを横にずらして、そのままスルーする。

 

「いいの?」

「いいの。さ、次いこ」

 

メアリーの手を取り、その場から離れる。最早彼に恐怖心はない。あの青い人形を見たときですら何も動じる事はなく、寧ろ可愛らしさすら見出していた。所謂キモカワというやつである。

それと同時に明久はメアリーに親近感を抱いていた。イヴに対して抱く親愛や、ギャリーに対する嫉妬とはまた違った感情だ。

 

それは彼が気づく事はないが、破綻者としてどこか通ずるところがあったという事だ。

 

恐怖を感じなくなった者と、恐怖を持たぬ者。その破綻は似ているようで実際は真逆のものだ。

 

だがしかし、明久は直感でメアリーと自分はどこか似ていると感じ取っていた。

 

「アキ?」

「ん?なに」

「ううん、なに考えてるのかなって」

「世界情勢についてちょっと……」

「嘘でしょ、アキってバカだもん」

「なにおー」

 

ひとしきり戯れ合うふたり。その後でメアリーが声を上げる。

 

「アキ!あの絵何か釣り上げてる!」

「え、」

 

彼女が指さすのは先ほどまで全く釣れていなかった漁師の絵だ。それが何かを釣り上げている。

 

「カサ?」

 

そう、真っ赤なカサだ。

 

「ねぇカサって最初の部屋の……」

「ああ!」

 

明久は最初に入った部屋にある絵を思い出す。

早速そのカサを受け取り、マネキンを落とした部屋へと急ぐ。

 

そしてその中でカサをなくした女性にそれをかざすと女性はそれを受け取り、絵の中で赤い花のようにカサを広げた。

 

すると途端に、どこからともなく、雨が降り始めた。

 

「うっそぉ……」

「部屋の中なのに雨が降ってきた!あはは、不思議不思議!」

 

突然の雨にはしゃぎ始めるメアリーをよそに、明久はこれだけしか起こらなかったことに疑問を感じる。

 

「メアリー、何か他のところで変化があるかもしれない。行ってみよう」

「うん、いいよ」

 

部屋を出て、他の場所に行こうとすると、メアリーがふととある絵の前で立ち止まり、その目を見開いた。

 

「どうしたの?」

 

しかしメアリーはそれに反応しない。

 

彼女の前にある絵は“告げ口”なんとも言えぬ気まずさを漂わせるその絵の前で追い詰められた表情で、何かをしきりに呟いていた。

 

「……メアリー」

「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」

「メアリー!」

「どうし……アキ……?」

 

明久はメアリーの肩を掴みこちらを向かせる。

 

「大丈夫。僕はここにいるよ」

「……あ……」

「大丈夫、大丈夫」

 

ポンポンと背中を叩き、錯乱したメアリーをあやすように彼女の頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして落ち着いたメアリーは先導する明久の後をヒョコヒョコと付きまとうようになった。

 

「アキ」

「ん、なに?」

「えへへ、呼んでみただけだよー」

 

そのフロアの探索を殆どし終えたふたりはいつの間にか道を塞いでいたガスが消えていることに気がついた。

 

その先にあった部屋には下へ続く階段とその道をまた塞ぐ“無個性”だ。

 

「あ、残念。また後で来よう」

「んー」

 

その部屋を後にし、最後に色のない部屋にたどり着いた。

 

「この部屋色がないね」

「うん、なんでだろ……!」

 

明久が応えた時、一気にその部屋の色が息を吹き返す。

 

鮮やかな色たちはそれぞれの役割を果たすためにか、それぞれで虹を型取り、橋となった。

 

「おー!すごいな……」

「これであっちに渡れるね!」

 

トントン拍子に進む状況に、少し疑問を感じる明久だが、それを頭の隅に追いやりその先にあった鍵を手に入れた。

 

これを使う場所はおそらく一つだと、メアリーを引き連れてその部屋を出る。そしてこのフロアで唯一鍵のかかった扉の前までたどり着く。鍵穴にそれを差し込み、開けるとそこには階段があった。

 

「行くよ」

「うん!」

 

競争のように、一気に駆け下りるふたり。先に扉へと手をつけたのは明久。メアリーは残念ながら負けてしまった。

 

「あーん。負けちゃったぁ……」

「へっへーまだまだだねメアリー」

 

扉の鍵を開け先へと出るとまた、広間があった。先ほどよりかは小さいが……

 

「。……ん?」

「どうしたの?」

「いや、声が聞こえる」

 

その声を頼りに明久は先へと進む。それにメアリーは追従する。

 

そしてその先では。

 

青い人形に囲まれた部屋の中心でギャリーに泣きついているイヴの姿があった。

 

「……………………………………………………………………」

 

明久は、思考の停止を余儀なくされた。

 

そして悟った。

 

「行こう、メアリー」

「え?イヴがそこにいるよ?」

「いいから……行くよ」

 

メアリーの手を掴んで今来た道を戻り、先ほどの“無個性”がいた部屋まで一気に走り抜けた。

 

混乱する思考を無理やり行動で押さえつけ、“無個性”を力づくで横にずらす。

 

明久はメアリーを連れて、走ってその先に続く階段を駆け下りていった。

 




駆け足で書き切りましたが、ギャリー視点の方も書いた方がいいですかねぇ……?
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