バカと女神とゲルテナと   作:東雲兎

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第二十画目

僕は走る。メアリーを連れてひた走る。

 

必死に階段を駆け上がる。さっきの光景を、イヴがギャリーに泣き縋る光景を忘れようと走り続ける。

 

「アキ!待ってアキってば!」

「!」

 

大広間に出たところでメアリーに引き止められた。こんな少女が持ちうるとは考えられないほどの力で。

 

できるだけ平常を保ちつつ、気軽で明るい声で問いかけた。

 

「どうしたの?」

 

自分でも驚くくらい低くそして暗い声。しまったと後悔するも後の祭り、メアリーは僕の異変に気がついた。

 

彼女はそんな僕に何をするでもなく見つめてきた。

 

暫く無言の空間が広がり、僕はなんとなしに責められている様な気分になった。

どうしてと、何故僕が責められなくてはならないという理不尽な怒りと悲しみを持って、目前のメアリーから目をそらし、その場を離れようとする。

 

 

が、それもメアリーが僕の腕を取ることで失敗に終わった。

 

もう一度彼女を見やる。するとその瞳がゆらゆらと、蠱惑的に揺れていた。

 

「何……?」

「うん」

 

そう呟いたメアリーは僕の方へと倒れこんできた。突然の事で驚いたが、なんとかそれを受け止める。

 

彼女の髪から花の香りが鼻腔を刺激する。

 

彼女は抱きとめられたまま、手を僕の方に回してくる。

 

そっと頬を触れてそれから髪へと伸びる。それがたまらなくくすぐったくて、僕は少し逃げる様に顔を背ける。

 

「アキはいい子だね。アキは強いね」

「僕は強くない。俺は強い」

「そんなの関係ないよ。あなたは優しくて強くて、それで脆い」

「脆い?」

 

何を言いだすのだと続けたくなったが、その怒りは彼女の深い瞳に吸い込まれる様に消えていった。

 

「脆いよ。だからね。わたしがあなたを守ってあげる。諦めないで、あなたにはわたしがついてるもの。大丈夫、大丈夫」

「あ……あぁ」

 

そっと撫でられる頭。その感触が途方もなく心地よく、全てを委ねたくなる様な感覚に陥った。

 

けれどもそれはいけないとどこかの感情が叫んでいて、どうしても委ねることが出来なかった。

 

ああ、悲しい。ああ、嬉しい。ああ、この感情はなんだ。と自分に問いかけるが、一向に答えは出ない。

 

「…………ありがとう。落ち着いたよ」

「そう、それなら良かった!」

「うん、行こう」

 

僕らは先へと進む。その先にはなんと、クレヨンで書かれたような世界が広がっていた。

 

「何だろう。この世界……?」

「アキ、アキ」

「……なに?」

 

彼女は妖艶に微笑んでこう言った。

 

「ようこそ」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「つまり、メアリーはゲルテナの作品なんだよね⁉︎」

 

私は走りながら隣の彼、ギャリーに問いかける。

 

ギャリーはその問いかけに是と頷く。

 

「ええ、そうゲルテナについての本に書いてあったの!」

「それは信用できるの?」

「多分ね!このままだと明久が危ないわ。先に進むわよ!」

「了解!」

 

息が切れそうになる。けどもしかしたら明久に危険が及んでいたらと思うと、胸が引き裂かれるような感情に苛まれる。

 

階段を登りきるとその先には大広間があり、色々な扉がある。一つ一つを調べている暇はない。さっさと次に繋がる部屋を見つけなければ、しかしギャリーに飛び出そうとしたところを抑えられる。

 

何故といった視線を向ければ、こう答えられた。

 

「あたし達が倒れたら誰が明久を助けるのよ。こういう時こそ慎重に行きなさい」

と、なにを悠長なことをほざいているのだと、カッとなったが、理性がそれを抑え込む。

 

今は彼と言い争う時間すら惜しいのだ。

 

受け入れるつもりで一つ目の扉を開ける。

 

外れ、二つ目。当たりだ。

 

下に階段が続いている。

 

やったという感情よりも一つ目の失敗が気がかりとなった。

 

そんな心境を目ざとく察したギャリーがフォローを出す。

 

「安心なさい。貴女のおかげでこんなにも早く見つけられたのよ。胸を張りなさい」

「……ん」

 

悔しい事に彼の言う事は必ずと言っていいほど私の心を楽にする。

 

これが大人か……そうひとり納得する。

 

しかし今は早く追いかけねばならない。手遅れになる前に……

 

 

 




鬼ごっこの開幕です
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