バカと女神とゲルテナと   作:東雲兎

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第二十二画目

「好き、嫌い、好き……」

 

狂った少女はひとり青い薔薇で花占いをしていた。

 

彼女の脳裏に浮かぶのはだれでもない、たったひとりのともだち。

浮かんでくる感情は愛おしさ。

 

そう、愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

 

 

彼に対する愛しさと何故理解してくれないのかという憎しみ。

 

まぁ、それはいいだろうと彼女は考える。後で少しずつ教えていけばいいのだから。その光景を思い浮かべ、つい笑みが溢れた。

 

「嫌い……」

 

最後の一枚をちぎり、少女は瞳から光を消す。

 

じっくりとその花だったものを見、笑顔を浮かべて……

 

「好きっ!」

 

ベキリッ!と茎を思いっきりへし折った。

 

「アキは私の事好きっ、やった!」

 

手を叩いて喜びを表現する少女は思い出したように、立ち上がる。

 

「準備しなきゃっ!急げー急げー!」

 

軽快なステップで走る彼女の手にはピンク色の鍵が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

イヴは泣く明久を優しく抱擁していた。

 

「俺が、俺がもっと強ければっ!ギャリーがこんな事にならずに済んだのにっ!!!なんで、なんでこうなる⁉︎」

「……」

 

少女はただ彼の懺悔を受け入れる。そして、薄々勘づいていた想像が真実である事を悟った。

ならば取る行動は一つに限られる。

 

「明久。ギャリーは後悔してない」

「……なんでそんな事がわかるんだよ!」

「わかるもの」

 

ヒュッ。という呼吸音が聞こえた。

 

息を呑んだ彼に続けて告げてやる。ギャリーの思いを。

 

「それに、あいつは私たちを守ろうとした。なら今する事はここから無事に出る事。違う?」

「……っ」

「悲しいのなら泣いてもいい。けど、立ち止まる事はダメ。それこそギャリーにとって一番嫌な事だから。立ち止まらず歩き続ける。それこそがギャリーへと最大の恩返しになる」

「……ちくしょう」

 

涙を拭い、立ち上がる。その少年の心には歪んだ誓いがたてられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を登り切り、大広間に出ると、足元に何かが落ちている事に気づいた。

 

薔薇の花びら。そして半ばで折られた茎を手にして明久はまた涙を流す。

 

その時彼は気づかなかった。微かな光が手帳へと流れ込むのを。

 

彼の姿を見て、イヴは羨ましいと思った。そんなに思ってもらえるギャリーの事を。

 

 

 

 

とある男はこう云った。

 

 

肉体は魂の器にすぎないと。

 

 

魂とは生命の根源であると。

 

 

だからこそ、男は魂を作品へと写す。

 

 

自身の子らに命を与えるために。

 

 

 

 

 

 

気づいた。

明久は茨に閉ざされたとびらに注意を向けた。

 

どうにか茨を退かせないかとやってみるが、手に棘が突き刺さるだけであった。

 

そこへイヴがギャリーから貰っていたお守りを取り出した。

 

「それ、ギャリーのライター?」

「あたり。お守りにってギャリーが」

 

カチリと音を立てて炎を吐き出すライターを茨へと近づけて、それが一気に燃え広がる。

壁一面を焼き焦がし、トビラの全体が露わになると明久はなんのためらいもなく中へと入り、イヴもそれに続く。

 

 

その部屋はなんとも幼稚で、それでいて残酷な部屋だった。

 

子供部屋というのが一番相応しいかもしれない。

 

そして最奥にはメアリーの姿が描かれた絵が存在していた。

 

イヴは殺意を持ってそれを睨みつける。

 

明久はそれを悲しみを持って受け止める。

 

 

 

 

 

「なんで、ここにいるの……?」

 

背後から声が聞こえた。

 

メアリーだ。

 

「メアリー……」

「出てって」

「メアリー」

「出てって!」

「メアリー!」

「出てけぇっっ!!!」

 

叫びながらパレットナイフを突き出してくる。明久はそれをペインティングナイフで応戦する。

 

金属が擦れあい、火花が散る。

 

そんな中で明久は目の前の少女の名を呼ぶ。

 

「メアリー!」

「うるさい!出てけぇっっ!!」

「メアリィッ!!!」

 

今度こそ全力であいてを受け止める明久。

 

そんな中でイヴは明久の不利を悟り、咄嗟に奥へと走り出す。

 

その間にもふたりの愛憎は深まる。

 

「アキッッッッ!!!!」

「メアリィィッッ!!!」

 

最早人間の枠組みを超えつつある打ち合いは、少しずつ明久を押していった。

 

ついに、押し倒された明久はパレットナイフが自分の顔面に迫るのを冷静に受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

しかし、突然メアリーを炎が包み込んだ。

 

明久が部屋の奥へと向けば、そこにはイヴがメアリーの絵を燃やす姿が目に入った。

 

「……やだ、しにたくない。しにたくないよ!」

 

ボロボロと泣き崩れるメアリー。その幼い慟哭に明久は無意識のうちにその燃える体を抱きしめていた。

 

自身の腕が焼けることも厭わずに。

 

彼はメアリーをどうしても憎みきれなかったのだ。

 

「約束する。もう一度逢おう?」

 

自然とそんな言葉が出た。

 

ピタリと止まったメアリーは、ほにゃりと泣き笑いをして、頷いた。

 

そして彼女は灰になった。

 

 

明久はその灰のなかから受け取ったピンク色の鍵を火傷だらけの腕で握りしめ、また泣いた。




メアリー退場。

今告白しますが、わたくしバッドエンド症候群です←
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