バカと女神とゲルテナと   作:東雲兎

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今回オリ要素が含まれています。何卒ご注意を。


第二十三画目

手帳が灰の中に落ちる。その手帳が淡く光ると、また声が聞こえてきた。

 

『おめでとう。これで君たちの障害は無くなったよ』

「何言ってる……どこがそうなんだよ。最初から障害なんて無かったんだ」

『認めたくないんならそれでいいさ。で?君はこれからどうしたい?』

「……わからない」

『どうして?ここから出たくはないのかい?』

「それすらもわからなくなった。みんなでここを出ようって、そう思ってた。なのに、それなのに、俺は2人も取りこぼした」

『それは傲慢というやつだよ。人には限界があるのは当たり前さ』

「それでも、だ。俺はどうして」

『覆したいかい?』

「……ああ」

『ならば、この元凶の元に行こうか』

「なに?」

『いるんだよ。この騒動の元凶がね』

 

まるで悪魔のささやきだった。それでも明久は乗ることを躊躇わなかった。

それだけ彼の中で憎しみがグツグツと煮え滾っていたのだ。

 

そんな姿を見て、イヴはなにも言うことが出来なかった。何せ彼をこうまでさせる理由の一つを自分自身が作ったのだから。

 

それでも、彼女は最後まで明久に付き従う。

それが彼女にとって最上級の喜びであるからだ。

 

そうして歯車が動きを加速させる。

 

深い深い暗黒へと。

 

 

 

 

 

 

ピンク色のカギを使い扉を開ける。

 

その先には長い長い階段があった。一歩、一歩と進むうちに、体がだんだん重くなる。精神的にも肉体的にも疲労困憊の今の明久にはとても辛い。

 

どれだけこの階段を降りたのだろう。そう思った瞬間出口が見えた。

そしてその先には黒い美術館が待ち構えていた。

 

「ここ……は」

「私と明久が初めてあった場所……?」

 

その場所にそっくりだった。

 

一度その場所の一階をぐるりと回ったが、記憶の中の美術館とほぼ同じであった。

ただ一つ、真っ黒な扉がある以外は。

 

『ここだよ』

「この先に……!」

 

明久は真っ黒な扉を親の仇のごとく睨みつける。そして、ドアノブに手をかけた。

 

ギギッと軋んだ扉はゆっくりとその口を開ける。

その先には暗闇に続く階段が続いていた。

その階段を何のためらいもなく、明久は一歩と降りた。

 

直後、ズンと空気が変わる。

 

そのあまりの変わりように明久の背中に冷たい汗が流れた。

それでも彼は進む。全てはふたりの為に。

 

そしてイヴは明久とともにならばどこだって行くつもりだ。

 

つまりは彼らを止める者はいない。それがどんなに間違った事であろうとも。

 

 

 

そして、彼らがたどり着いたのは、様々な絵が飾られたアトリエであった。

 

その先で待ち受けていたのは

 

『ようこそ。明久くん。イヴちゃん』

 

ようやく聴き慣れてきた声で喋る手帳と同じ声の壮年の男性であった。

 

 

 

 

「誰……?」

 

そう、イヴは疑問を発した。そして、男は至極単純にこう答えた。

 

『ギャリー』

「……お前が裏切り者だったのかよ」

 

直後、明久がはらんでいた怒気が勢いを増した。しかしギャリーと名乗った男は軽薄に笑って、更に続ける。

 

『ギャリーというのは幼名、というかあだ名でね。名前は別にあるんだ。僕の本当の名前は……』

 

 

ワイズ・ゲルテナ

 

 

そう男は名乗った。

 

 

 

「ワイズ・ゲルテナ……!?」

「うそ、死んだんじゃ……」

 

明久がその名に驚き、イヴが更に問いかけた。

ゲルテナはまたも軽薄そうに笑う。どうやらふたりを驚かせた事が随分と気に入ったようだ。

 

『驚いたかい?僕はね、自分自身の魂を自画像として絵に吹き込む事で今という時を生きている。この体はいわばメアリーと同じなのさ』

「自分の魂を……そうまでして生きたかったのか!?」

『いいや、僕はね、死にたがりなんだよ。』

「死にたがり……?」

『そう、だから現実逃避として自分の心を絵として書き写し、自分の世界を作った。この心地いい世界をね。でも問題があった。僕が生きている限り、その世界には入る事が出来なかったんだ。だから自分も絵となって、この世界自体に組み込んだんだ。心臓部としてね』

「なんで私たちをここに呼んだの」

『子どもたちが遊び相手を欲しがってたのと、個人的に気に入ったからだけど?』

 

その程度の理由で自分たちは呼ばれたのかと、怒りがこみ上げてきた。それどころか理不尽すぎる理由に明久の怒りは頂点に達していた。

 

「殺してやるっ!」

『できるかな?』

 

挑発するゲルテナに飛びかかる明久。その手にはペインティングナイフが握られていた。

 

「死ね」

 

ペインティングナイフを振るう。しかし、それは地面から伸びてきた荊に寄って防がれた。

 

『いい事を教えてあげよう』

「黙れ」

 

次の瞬間には荊を切り裂き、ゲルテナに肉迫する。

 

『人は死んでも魂さえあれば、器を変えてもその本質は変わらないんだ』

「何が言いたい!」

『つまりはさ』

 

ゲルテナは片手でナイフを握り止め、その反動で血が滴る。

 

『死んだ人間を生き返らせるのはできるんだよ』

「……え?」

 

ゲルテナは力を抜き、明久を迎え入れるように倒れこむ。

その心臓にナイフが突き立つ。

 

『魂を人型に込める時は心臓部に込めれば一番手っ取り早い。よく覚えておきなさい』

 

色素がゲルテナの体から抜け始める。

それと同時に世界が崩れ始めた。

 

『このまま行けば君たちは元の世界に帰れるだろうよ。その先は君たちが世界を作る番だ。その手帳から見守らせてもらうよ』

 

大きく息を吐き、ゲルテナは天井を見上げる。

 

『ああ、漸く死ねる』

 

そしてゲルテナは砂に還った。

 

そして明久は、初めて人を殺した。

 

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