あっちの方はネタの筈
今回、作風を変えてみようとしてみた件
ーー暗闇をぬけると、広い廊下らしき所に出た。
光で一瞬だけ視界が奪われるが、慣れてくると向かいの壁に少しずつ変化していく絵画が飾られている事に気が付いた。その絵に描かれているのは…
「ギロチンっていうんだよね、確か」
まるでふたりを待ち構えていたかの如く、その断頭台は刃とともに絵画の中にて鎮座していた。
そしてその刃は横に進むにつれ徐々に持ち上げられている。
ギロチンのうすら寒くなる金属光沢は、一種の芸術とも呼べるほど、明久には美しく感じられた。
つい触れたくなったが、イヴの呼びかけで我にかえる。そこでやっと、明久は自分がギロチンの美しさに我を忘れていた事を自覚する。
流石に明久が危険だと判断したイヴが反対側の壁伝いに進むように彼に指示した。有無を言わさない様子になんの疑問も抱かずそれに従った。明久は、イヴに絶対の信頼を持っているのだ。彼女の指示は何か意図が有るのだろうと思っている。
実際のところイヴはできる限り明久への危害を無くそうとしているだけなのだが…
そのまま伝いながら進んでいくと、ついにギロチンが絵の外へと消えた状態の断頭台、その向かいに階段が確認できた。
やった!とイヴに笑いかけてから、階段へ走り出す。
イヴはその後に続くが、スタートが遅れたおかげか、明久の頭上から迫りくる命を刈り取る死の刃にいち早く気づくことができた。
「明久!」
とっさに彼を後ろから押し倒す。その時、幸か不幸か、明久がいたのは階段の前という前に何もない状態の場所だった。つまり押し倒されるという事は、そのまま階段を転げ落ちるということだ。
案の定、明久が下敷きになりながら、階段を滑り落ちる。
まぁダメージをうけたのは明久だけなのだが
「ヴボバァ…」
そして階段が終わるのと同時に、彼は潰れたカエルのような声を上げて圧死した。
「明久っ!大丈夫⁈」
イヴは彼を抱きかかえ安否を確認しようとする。
とっさのこととは言え、この程度の事しか出来なかった事を悔やんだ
ーーまた彼をきちんと守れなかった……
だが、当の明久は目を瞑ったまま
「…へんじがない、ただのしかばねのようだ」
テンプレとも呼べるセリフを吐いた。それにイヴは安心をすると同時に手に力を込める。
「えい」
「へぶぅっ!」
清々しい破裂音とともに明久は(強制)蘇生された
彼が痛みに悶絶していると、イヴは無慈悲に告げる
「もう一回」
「ゴメン!起きてますから結構です⁉︎」
ビンタの次弾が装填される前に跳ね起きる。
ーー恐るべしイヴのビンタ、名付けて、
冗談はさておき、階段の上でギロチンが上がっていくのが見えた。
明久はまた彼女に助けられたと、悔やむ。自分は彼女に何もしていない。そういった面から焦りが募る。
イヴに礼を言って立ち上がる。しかし彼女は明久のお礼に首を振る
「助けてもらってるのは私もだから」
そんな事はないと明久は心の中で否定する
「それに……」
明久はその先を待ったが、何も言わないイヴを訝しむ。
彼女は口に出さずに心の中で完結させる
ーーだって明久は私が守るって決めたから……
何でもないと誤魔化し先に行ってしまった彼女を慌てて追いかけていると、赤いトビラにたどり着いた。
イヴに目を向けると、私が開けると言ってきた。
今回は素直にそのワガママを聞いてあげる事にして、待機する。
そんな明久の様子に満足した様に頷き、イヴはトビラを開けた。
その先にはーーーー
◇◆◇◆◇
ーー部屋に入ると、巨大な青い作品が目の前にそびえ立っていた。
その作品の題名は《うん》と単純であるが…その大きさに少し圧倒されるけど、隣に明久がいる事を思い出し我に返る。彼の前で情けない姿は見せられない。頼ってくれなくなる。
反対側の所に《うん》と対となるように同じ大きさの作品、《あ》が存在していた。
その2つの作品を見て明久が疑問を浮かべる。
「これってさ、なんか関係あるのかな?」
「ごめん、よくは知らないけど、前で本で読んだことある。確か“阿吽の呼吸”ていうものだと思う」
こんな風にしか答えられない自分が情けない…折角明久が私に聞いてきてくれた、彼が頼ってくれたって言うのに、この程度の知識しか持っていない自分に嫌気がさす。
私は明久より体が弱いから、こういったことでしか明久の助けになれない。こんなことでしか彼の役に立てないのに……このままだと私はただの足手まといでしかない。
なんとか明久の役に立たなければならない……
あの人は優しいから、ピンチになっても役たたずの私を見棄てることは絶対にしてくれないだろう。けどそれじゃあ、私は彼の負担にしかならない。明久にそれを背負わせるということは、彼が傷つくということだ。ダメ、それだけはダメ、彼は強く弱いから、心が折れちゃう。そしてーーー死んじゃうーーー嫌だ絶対にそんな結末は認めない。
あの人はこんなにも頑張っているのに、報われない事は辻褄が合わないし、何より私が許さない。だって不合理だ。必死になって理不尽に立ち向かったのに救いがないなんて………
けどこの世界はその明久の努力を踏み躙ろうとしてくる。それくらいは今までのことからもう理解している。
だからこそ、私が明久を守るーーーどうやって?ーーーそんなの決まっている。私の身体を彼の盾にすればいいーーー出来るの?ーーーするしか私に彼を護れない。
もし、考えるだけでも言いようのない恐怖に囚われるが、もし、明久が死んでしまったら……私は総てを諦めて必ず心
折れて、死に向かうことだろう。これは確実だ。
しかし逆なら、明久はどうなるだろう……きっとあの人は強く弱いから、泣きながら、でも前に進んでくれるだろう。私の死を糧にして脱出を目指してくれると思う。
だから、彼を守ることは“最善”のやり方だ。あの人が少しでも助かる可能性があがるのなら、それをやり続ける。
それが今の私の心を支えるものだと、私自身の違うのではと囁く理性に言い聞かせる。これは必要なことだと私の強すぎる理性を抑えつける。
顔を上げると、明久が絵画の題名を見つつ、難しい顔で首を傾げているのが見えた。その横へと寄り添いながら、その脈打つ絵画の題名を読み上げる
「それは《心電図》って読むんだよ」
今まで本などで知った私の持ち得る知識を総動員して、彼の中にある疑問を拭い去ってあげる。
謎が解け、パアッと顔を輝かせて笑う彼を見て嬉しくなり、私も笑顔になった。明久の私への賞賛の言葉をを聴いて、胸が高鳴る。彼の役に少しでもなれたんだと思うと心の底からあったかくなる_____よかった______私にはこんな事しか出来ないから________。
◇◆◇◆◇
ーーーー明久の先導で、このフロアに存在しているゲルテナの作品を調べて回るが、手がかりらしきものは今のところ見つかっていない。そして次はこのフロア最後の作品だ。
明久もなんの手がかりすら見つけられていない状況に、焦りを感じているようだけど、私が話しかけると、即座に笑顔を作って返してくる。なんで……そんな作り笑いをするの?私に相談してよ……頼ってよ、私を頼ってよ…任せてよ私も頑張るから……貴方の不安を私にも分けてよ。
明久はそんなのに気づくはずもなく、残る絵画を調べ始めた。その作品は、赤い服の女性の肖像画だ、あんな風な人だったら、明久は頼っていたんだろうか……
「なにもないや、どうするかな…」
明久は他のところを探しに、行ってしまう。すれ違った時に見てしまったその不安げな顔に、私は言いようもない虚無感を感じるんだ。
なんの為に私はここに居るんだと、全部あの人に任せきりじゃないか…私は何の為に……
ドロドロとしたものが心で淀む。どこかに行ってしまう彼の背中を見ながら、胸の前で手を握りしめる。その拳から血が滲んできた。悔しいんだよ、貴方に何もしてあげられないのが…
突然カタリと背後から音する。その音に反応して振り返った瞬間、体に衝撃が走る。私は床に叩きつけられたのだと理解した時には、叩きつけた相手が私の顔を抑え付けて、首を絞め付けていた。
その相手の姿が見れない。見えるものは床に散乱するガラスの破片と、赤いカギ。今までなかったはずのものたちばかりだ。
「っ___!」
力一杯踠いてどうにか顔を抑え付けていた手を跳ね除けることができ、そこで漸く相手をしることができた。
赤い服の女性、それが上半身を絵画から飛び出し私を襲っていたのだ。相手の方が軽いが、力が私よりも遥かに強い。どんどん首が絞まる。呼吸が、できない、息が、
「(ーーやだーーーっ)」
このままだと…殺される。そう思ったところで、突然赤い女が私の上から吹き飛んだ。明久だ、明久が私を助けてくれた。また、助けられてしまった。その事実にまた無力感を感じていた私の腕を取り、赤い服の女性から逃げ出す。
しかし、絵画も黙って見ているわけではない。腕力で自らの体を引きずりながら高速で迫り来る。
明久ならば、振り切ることができるくらいの速さだ。
だが、先程の事で消耗した私を連れているなら話は別だ。
それに走り方からしてこちらを常に気にしているのがわかる。黄の間で、私を無理に走らせた事が尾を引いているみたいだ。このままだと、いずれは追いつかれる。なら…
「明久ッ!絵があったところにカギ、あった!」
「っ___!ホント⁉︎じゃあイヴちゃんが取りにーーー」
明久の提案は解る、でも、それじゃあダメだ。こんなことを言った意味がない
「私が、囮になる!脚の、速い明久、が取りに行って!」
少し息絶え絶えに成りつつ、あらかじめ考えていた台詞を発する
「なっ___!それは駄目だよ!囮なら僕が!」
当然彼ならこんな風に反対してくるだろうとは思っていた。つまり想定済みだ。
「あの絵、は私を、狙ってるから、っ私が囮に、成るのが、一番いい!」
もっともらしい意見を言っておき、納得のいっていなさそうな明久と無理矢理道を別れた。
相手は、どうやらずっと私に狙いを定めていたようで、そのまま私を追い続けてくる。
そうだ、そのまま追って来なさい。明久には触れさせないから……
ーーーー何分走っただろうか、まだ2分も経っていないかもしれない。
けど私の体力は限界に近い。足が重い、まるで鉛でも括り付けているようだ。頭だってクラクラして気持ち悪い、でも明久に近付かせない為にどう逃げるべきかと考える事で、どうにか思考の停止を防ぎ続ける。
今も倒れそうになるのを、ここで倒れたら、彼に迷惑がかかる。それだけはダメ…
ふと、彼の、明久の声が聞こえた気がした。いや、した。
汗だくの顔を上げてそちらを見やると、明久がトビラを開け、声を張り上げながらこちらへと手を振っている。
私は残った力を振り絞って明久のもとに駆けつける、が最後に足がもつれ明久の胸に飛び込んだ。
その勢いを利用し、彼はトビラの向こうに跳ぶ。
そして、踵をトビラの凹凸にひっかけて閉じようとする。
が、赤い服の女性もそれを許すはずもない。それは左腕をトビラの隙間に突っ込みトビラが完全に閉じるのを防いでくる。
こじ開けようとする絵画にそうはさせまいと明久が足で抑え続ける。拮抗を続けてはいるものの、いつか明久の方が押し負けるだろう。
どうすればと消耗し過ぎて回らない頭で考える。ふと手が、彼のポケットにある硬いものを探り当てた。それが何かと気づいた時、体が勝手に動いた。
手に持ったペインティングナイフで女の腕を突き刺す。途端にその刺された部分に変化が生じた。そこの部分が真っ白になって、赤い服の女性から悲鳴が上がる。
その隙を明久は見逃さず、思いっきりトビラを叩き閉める。
真っ白になって崩れている腕を見てから、また明久の胸に倒れこむ。おっとっとと、明久が咄嗟に私を抱え込む。
汗だくになりながら肩で息をする私に、明久は私の汗を拭いながら、笑って言った。
「ありがとう、イヴちゃん」
そう、言ってくれた。それだけで、私は報われたと思える。どれだけ彼の言葉が大きな物になっているのかを理解する。
ーーーー良かった、私、役に立てたよね?
そうで満面の笑みを浮かべながら、私は彼の胸に顔をうずめて、裾を握った。
ーーーー彼女は気づくことはなかった。彼女のバラが赤色ではなく紅色に変化していたことを…
イヴちゃん少しずつヤンデレ化してない?
あ、あと感想などお待ちしております