バカと女神とゲルテナと   作:東雲兎

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打って変わって、明久視点

前回のイヴちゃん視点からどんなすれ違いがあるかを考えながらお楽しみ下さい


第七画目

僕とイヴちゃんが赤い服の女性の絵から逃げた先の部屋には沢山の本棚に所狭しと本が並ぶ部屋だった。

 

とりあえず、次のトビラを開けようと試みたけどやっぱりと言うべきか、鍵がかかっていた。

 

「ですよね〜」

 

最早お約束の事となったカギ探し、ただ、今回はあまり危険はなさそうなので、宝探しの様に楽しもうとイヴちゃんから提案された。

 

まぁその通りだと考え直して、本棚をふたりで調べてみることにした。

 

 

「ん?これは…図鑑?」

 

それを手にとって表紙をまじまじと見てから中身を捲る。

表紙の題名が読めなかったので分からなかったがどうやら世界中の美術館が掲載されているので、世界の美術館大全とかいうものだと思う。折角なので観てから次に移ろうと考えたけど、ここでも漢字が僕の前に立ちはだかった。

 

「明久、私が読もうか?」

 

いつの間にか近寄って来ていたイヴちゃんが、僕の背中からもたれかかりながら首に手を回してきた。

内心、とんでもない程心臓が動き、動揺しまくっているけど、それを顔に出さないようにしながら本をイヴちゃんに託す。

 

「えっとこれはね……」

 

そんなこんなで時間が過ぎるが、流石に全部を観るわけにはいかないので区切りの良いところで本棚にしまう。

そして宝探しを再開しようとした所で、イヴちゃんの発言に驚かされた。

 

「カギならもう開いてるよ」

 

こればっかりは大きな驚きの声を上げざる負えなかった。

イヴちゃんはその声に、私は何か失敗したのかと、不安気な顔で確認してくる。

 

いや、そう言う事ではなく。僕が言いたいのは

 

「早過ぎるって事だよ。何でこんなに早く見つけられるの?何かコツでもあるの?ってこと」

 

イヴちゃんの表情を見て、慌てて訂正をかける。それにより、かは判らないけど安心した様に胸を撫で下ろしたイヴちゃん、なんでそんなに安心してるんだろう?

 

でも僕、全然何も出来てないなぁ。なんかイヴちゃんに色んなことを任せっぱなしだしさ。もっと頑張んないと!

 

握り拳を掲げて意気込むけど、どうすればいいかなんて、わからない。

 

イヴちゃんに引き連れられて次の部屋に進む。

 

ハッしまった!ここで先導するべきだったんじゃないか!

 

軽く後悔していると、何やら水が注ぎ込まれるような絵画と、水のたっぷりと入った花瓶があった。他には男の人が倒れているくらい…………………え?

 

「って人が倒れてるぅ!」

 

慌てて駆け寄ると、その男の人は呻き、苦しがっているのがわかる。揺すれば、更に苦しがってしまうので、何も出来ない。

どうすればいいかと聞こうと思い、イヴちゃんのほうを見ると僕のバラとイヴちゃんのバラを花瓶に挿していた。

 

「いやいや、冷静すぎない⁉︎」

 

そう突っ込むけど、イヴちゃんは冷静に

 

「回復しないと何も出来ない」

 

と最もなことを返してくる。その通りだ、僕の方が冷静さを失っていたんだ。

 

イヴちゃんはすごいな、物事を広い目で見れてる。それに引き換え僕は何をしているんだ、まったく、足引っ張ってるだけじゃないか。

 

ふと、男の人の手に何か握られていることに気づく。

小さなカギだ。それを取り、イヴちゃんに見せる。

 

「多分、男の人が倒れてる方向からして明久から見た左の方で使うんだと思う」

 

「いや、イヴちゃんのいう通りだよ」

 

イヴちゃんからバラを受け取りつつ、彼女の意見を肯定する。あれ?イヴちゃん何で僕のバラ持ってたの?預けたまんまだったっけ?

 

まぁいいか。まずは、この男の人に何が起こってるのか確かめるのが先だね。イヴちゃんもそう言ってるし。

 

 

 

◻︎ ◼︎ ◻︎ ◼︎ ◻︎

 

 

 

 

ーーーーーおや、もうこんなところに…今回は、期待の出来る道具達のようだね。これは面白い作品ができそうだ。ーーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

イヴちゃんからの意見も得て、僕は左の部屋に移動する。

 

まず目に付いたのは、花瓶と貼り紙だ。

 

ーーー確かあれは僕が、初めてバラを手に入れた時のものに似てる。

 

それと同時に思い出したあの光景、初めて、美術館で襲ってきたあの不気味な女性の絵画。あの恐怖は今も脳裏にこびりついている。

あの後イヴちゃんと出会わなかったら、どうなっていたか…考えるだけで恐ろしい。

いや、考えるまでも無い僕はこの美術館によって……殺されていた。

 

ぶるりと身を震わせる。怖い、ひたすらに……とそこでイヴちゃんが僕の肩を抱く。

 

「落ち着いて、大丈夫だから」

 

なんとか、イヴちゃんの声で発作に近い現象は収まった。

 

「…ありがと」

 

本当にイヴちゃんがいてくれて助かった。

 

彼女がいなければ、死んでいたのだから……

 

 

 

◻︎ ◼︎ ◻︎ ◼︎ ◻︎

 

 

 

多分あの花瓶にあの男の人のバラが生けてあったんだろう。

しかし、あの男の人はバラなんて持っていなかった。

 

「何かに奪われたとかじゃない?」

 

「確かにそう考えれば」

 

様々な予測ができるが、いくら考えたとしてもそれは事実かどうかは定かでは無い。

ならば、男の人が持っていた小さなカギを使うところを探すべきだろう。ということになり、部屋を進む。

 

「あ、これか」

 

途中トビラを発見したので入ろうとしたけど、イヴちゃんから一度奥まで行ってみようと命令に近い提案をされ、渋々付いて行く……振りをしてこっそりトビラにカギを使って部屋に入り込んだ。

 

なぜ、従わなかったのかと聞かれても何となくといったところだ。ただ、自身の直感がこっちに何かあると訴えた以外に深い意味は無い。

 

部屋に入ると、どうやら完全な小部屋のようだ。けど何もない殺風景な部屋だ。勘違いだったのかと思い始めた時、奥から聞こえる物音に背筋が凍りついた。そっと音源に近寄ると……

 

上半身のみの青い服の女性の絵画が、こちらもまた青いバラで花占いをしていた。

 

ーーーまさかとは思ったけど、やはりあの絵達は僕らのバラを狙っているんだ!

 

新しい発見に夢中になり過ぎて目測を誤り、壁に靴をぶつけてしまう。

 

その音を、欲しがりの女が聞き逃すはずもなく…

 

先程出てきた赤い服の女性のように腕力で体を引き摺り迫る。うん、シュールだ…ってこんな事思ってる場合じゃない!

 

「やっば!」

 

慌てて身を返してトビラに走るけど、スタートが遅れたので追いつかれそうになる。

 

「うっひゃぁ!」

 

我ながら情けない声を出しながら、ヘッドスライディングで外に出て、そのままトビラを閉めた。

 

だけど……僕の試練はそこで終わる事はなかった。

 

 

 

「明久……?」

 

そこには、泣きそうな顔のイヴちゃんが待ちかまえていた。

 

「あ、いや、その…」

 

とても不味い雰囲気を感じ取り、あわあわとした挙句、僕はある方法を思いつく。お姉ちゃんが言っていた方法だ。これなら許してくれはず!

 

「……てへ?」

 

けどそんな僕の言動を無視してイヴちゃんが抱きついてきた。そのまま、ぎゅーっと苦しいくらい抱き締められる。

 

「明久…私を……ひとりにしないで……」

 

鼻声でそんな事を言われて、何も言えなくなる。頭が混乱しつつも、僕の勝手な行動で心配させたのかと思い至った。

 

「ごめん、イヴちゃん」

 

「もう、こんな事無いようにして」

 

一度離れて、僕の目を見据えてからの有無を言わさずの言葉に、どれだけ心配をかけてしまったのかと罪悪感が湧き出てくる。

少し圧倒されている間に、イヴちゃんに、また抱き締められ、顔を埋められた。

そんな姿を見て、頭に手を回そうとしたところで、突然何かが叩かれる音がした。そして続けて硝子の破砕音。それが何かと一瞬で思い至る。

 

あの絵が追ってきたんだ!

 

トビラに手をかけ、開けると同時に何か横から迫るのが認識できた。

イヴちゃんを引っ張り、中に入れてから、その近づいて来たものを蹴っ飛ばす。僕の筋力でも、そこまで飛ぶわけじゃないが、トビラを閉める時間を稼ぐには充分だ。

 

イヴちゃんは僕が何をしようとしているのかをさっきの僅かな間で悟り、彼女は僕が部屋に入ると同時にトビラを閉じた。

 

「あっぶなぁ、助かったよイヴちゃん」

 

けどいつもなら笑って返してくれるイヴちゃんは黙ったまま俯いていた。

どうしたんだろう?

 

「明久は、何でいつも無茶するの?」

 

「なんでって、そっちの方が良いからだよ?」

 

だって僕が無茶するってことは、それだけイヴちゃんの負担が減って謎解きとか他のところがやり易くなるって事じゃないか。そこに何か間違いがあったのだろうか?

 

「何がいいの?どこが良いの⁉︎明久が怪我するだけじゃない!なのにどうして、貴方は危険を顧みないで行動するの⁉︎……私は、私は!明久に傷ついて欲しくないの!」

 

怒涛の勢いで迫られて、タジタジになる。どうしてそこまで僕なんかを心配してくれるんだろう?

なんで、僕なんかが傷つくことがいやなの?どうしてなんだろう?でもイヴちゃんが言ってくれたんだから、お礼は言っておかないと。

 

「ごめん、ありがとう」

 

 

だって、彼女が僕みたいな奴を心配してくれたんだから、僕に落ち度があったんだろうから。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「あ、あった!青いバラだ!」

 

明久が絵画のいなくなった部屋で花びらの少ないバラを見つける。

嬉しそうに私に笑顔を向けてくれる。だけど、私にはわかる。それが作り笑いと……

彼が私に向ける笑顔の殆どは作り笑いだ。なんで、そんなに辛そうな顔で笑うの?

 

私がいるから?私がいるからそんな風に無理に笑うの?

足手まといの私を心配させない為に笑ってるの?

私が貴方にそんな顔をさせてるの?

もっと私が頭が良ければ…もっと力があったなら…

わたしのせいで……明久は笑えないのかな?

 

 

 

◻︎ ◼︎ ◻︎ ◼︎ ◻︎

 

 

 

なんでだろう?イヴちゃんがさっきから下を向いたままだな…怒ってる?

何かしたかな僕?

む〜わかんないなぁ……

まぁバラは見つけたし、まずはこの部屋から脱出しないとね。でも部屋の外にはあの絵がいるからな。

 

「行こうかイヴちゃん?」

 

ちょっと無理矢理だけど笑って俯いているイヴちゃんに声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

………あれ?笑顔ってどう作るんだっけ?

 

 

 

◻︎ ◼︎ ◻︎ ◼︎ ◻︎

 

 

 

明久はトビラのドアノブに手をかけ、イヴを見やる。が彼女は俯いたまま、反応を示さない。

明久は目にハイライトを宿さないイヴを心配しつつ、この後のことを頭の中で描く。

 

「イヴちゃん、この部屋を出たら一気にさっきの男の人のところに戻るよ。いいね?」

 

今までにないほど頭が冴えているように明久は感じた。

 

ーーあの絵画のフラッシュバックの後からかな、こうなったのは……

 

彼の脳裏にまたあの絵に襲われた光景が蘇る。でもイヴもいるから“大丈夫”と言い聞かせた。

 

「3、2…1…」

 

0で明久はイヴを連れて部屋を飛び出す。

絵画は窓から部屋に入り込もうとしていた様で、こちらに反応しきれていない。

イヴを引っ張りながら、明久はなんとか追いつかれないようにトビラを目指す。

だが、イヴがこける事によってその目論見は崩れた。

彼女には、先のフロアでの逃走の疲れが残っていたのだ。

その事までは考えが回らなかったことが彼の失敗だろう。

 

明久はとっさにイヴを抱えてトビラに投げ飛ばす。

そして自分はペインティングナイフを取り出し、こちらに振るわれた腕を切り裂いた。

絵画が悲鳴をあげたと同時に明久はトビラへと走り出す。

が、欲しがりの女に足を掴まれる事で逃走を阻まれた明久は、そのまま床へと転がされた。

 

「明久っ!」

 

イヴの悲鳴じみた声で自分の状態を理解した。

 

「……このっ!」

 

上体を起こし、もはや片腕しか無い女を、掴まれていない方の足で蹴りつける。

しかし相手も意地があるのか全く離そうとしない。むしろ握り潰されそうになる。

 

「ぐぅ……このォ!はなせっ!」

 

もう一度ナイフを突き刺す。女の頭へとーーーー

ズブリとなんの抵抗もなく入り込んだナイフ、明久はナイフの持つ手に、もう一方の手も添えて躊躇いなく捻りこむ。そうして絵画が動かなくなるまで押さえ込み続けていると、そのまま絵画は色を失い崩れる。

 

「……ふぅ、危ない危ない」

 

明久は絵画をなんとか撃退し、ほっと胸をなでおろす。が不意に後ろからイヴにぽこぽこと叩かれた。

 

「明久!また、また無茶して!」

 

「イテッ、痛いって!ごめん、ごめんってば!」

 

泣きながらイヴに責められ、何が何やら訳がわからなくなる。また無茶した事を責めてきている様だが、明久は

 

ーーいつ僕が無茶したんだ?

 

と疑問を浮かべつつ、イヴをなだめる為に彼はたたひたすらに謝り続けた。

 

 

 

◻︎ ◼︎ ◻︎ ◼︎ ◻︎

 

 

 

なんとかイヴを宥めた明久は大量の水がある花瓶の前まで辿り着き、花びらの少ない青いバラを、そしてイヴに言われた為、自分のバラも共に差し込む。

さっきまで感じていた脚の痛みが無くなった…気がする。

青いバラも活力と大量の花びらを取り戻した。

 

「……うぅ……ん」

 

少しすると男の人が意識を取り戻す声がした。

気になった明久が男の人の顔を覗き込んでいると、男が彼を認識した瞬間、男は跳び起きて明久から離れる為に後退りしたのち、彼に叫んだ。

 

「な、なによ⁉︎もう何も持ってないわよ!⁉︎」

 

その第一声のあまりの予想外っぷりに明久はフリーズしたあと、たっぷりと溜めてから声をあげた

 

「この人オカマだぁ‼︎」

 

いろいろ台無しであった……

 




あの動く絵本は、明久に見せないようにイヴちゃんが手を回しました。

その他いろいろすれ違いがあります。
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