サモンナイト4 妖精姫と呑気者   作:なんなんな

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急に思いついたので発作的に書き始めました。
既に同じようなのが有っても退きません。


第0話 いつもの朝〜Humming Days〜 ① (原作一話)

 同じ夢を見る。

 赤黒い空に、赤黒い地面。そして咆哮する異形の怪物と、それに対峙する銀色の少女。

 跪いた私は、いつも同じ言葉を口にする。

 

『我、一の界より出る者。四界の帝――ゼルゼノン、ミカヅチ、レヴァティーン、エイビスに奏す。逢合者の名に於いて楽園に来たれ。我が身を楚に、威をここに示せ――――』

 

 何かが身体に流れ込む感覚。視界が黒く染まってく。

 

 そして、再び光が戻ったとき、

 

「〜〜〜〜!!!!」

 

 私は布団の中で恥ずかしさに悶えるのだ。何だ『一の界』って! 何だ『四界の帝』って! 『ゼルゼノン、ミカヅチ、レヴァティーン、エイビス』って誰だ! しかも微妙なクオリティなのが余計に恥ずかしい!

 

「……私はもう17歳。そーゆーのはいい加減卒業してる」

 

でも、何回も夢に見るのは何かの暗示だったり……?

 

「…………いや、無い。そんなこと言ってる場合でもない」

 

そろそろ今日の仕事を始めないと。

 

 私はナオ。

一年前、稀によくある召喚事故によって『名も無き世界』から、ここ『リィンバウム』に飛ばされて来た。今は宿屋兼食堂『忘れじの面影亭』の手伝いをしている。

 本名は大歩危尚弥。

田舎のトップ校(笑)に通い、友人から『神の間違い』と揶揄されるような人間だった。平たく言えば残念な天才だ。とにかく努力が足りず、成績は中の中。しかし至るところで天才の片鱗を見せていたらしい。

……いや、別に私はめっちゃ凄いんだぞ的なことを言いたいわけではない。ガチの天才なら私のように授業全スルーしていてもトップぐらい取ってくるだろうし、そもそも何もしない天才というのは何もできない凡人と大差無い。

ただ、ちょっとは凄いってことを言いたかっただけだ。

 

「さて着替えも終わったし、いくか」

 

 元々客室だった自室を後にし、店主の部屋に向かう。いつもはこの時間まで寝ていれば店主が起こしに来る。でも、今日は来ていない。どうやら店主殿も寝坊らしい。

 

「おーい起きてるー?」

「わひゃっ……!?」

 

ノックと伴に声をかけると、扉の中から可愛らしい声が聞こえてきた。

半開きにした扉から店主が顔を出す。

 

「ちょ、ちょっと待ってて! すぐ支度するから」

 

そう言うとすぐ引っ込んでバタバタと準備を始めた。

 

「そんな急がんで良いけど……」

 

まぁ、そういう性格だし、仕方ないか。

 

 彼女の名はフェア。つい最近15歳になったばかりの少女で、この『忘れじの面影亭』の店主……いや、オーナーは別に居るから、正確には店長かな。

 小麦色の肌にサファイアの瞳、銀糸の髪という物凄い素質(?)の持ち主で、しかも明朗快活でありながら自制が効き、料理が上手く、武術の腕前も高い。

 ……そんなスーパーガールになってしまった理由はクズな父親にあるというから手放しでは喜べないけど。

 

 土間で軽く顔を洗い、ググっと伸びをする。気持ち悪い夢を見たが、そう悪くない朝だ。あとはコーヒーでも淹れたら完璧な―――

 

「おーいっ! 起っきろーっ!!」

 

はぁ……コレが有ったか………。

 

「起きろ、起きろーっ! フェア! ナオ! 朝だぞぉーっ!!」

 

尚も大声でまくし立てながら、声の主が近付いてくる。今頃フェアも苦笑いしてるだろうな。

 

 やって来たのは二人。フェアの幼馴染で、この辺りで一番の大家…召喚士ブロンクス家の姉弟。さっきから騒ぎ立てているのが姉のリシェル、隣で注意するも無視されているのが弟のルシアンだ。リシェルは典型的な高飛車お嬢様って感じ。ルシアンは可愛らしい見た目と性格をしているので街のお姉様お兄様から密かな人気を集めている。

 ちなみにこの世界に私を召喚(事故)したのはリシェルだ。『事故なんだから仕方ないじゃん!』とソッコーで開き直っていたのをよく覚えている。事故の影響かなにか知らないが私が元の世界に帰れないと分かったときもそれはそれは尊大な態度だった。べつにいいけど。

 

「あ、ナオ。起きてたんなら返事しなさいよね」

「してたしてた。心の中で」

「挨拶ってのは口に出してこそなのよ」

「そう。……おはようルシアン」

「おはよございますナオさん」

「あたしには!?」

「ヘイヨーグッツスッス」

「何語よそれ……。で、フェアは? あんただけ起きてるなんて珍しいじゃない」

「多分フェアはまだ支度してる」

 

髪が長いから時間がかかるんだろう。その点私はショートだから楽だ。たまに寝癖が気になることもあるけど、そういう時は水で濡らせばいい。すぐ乾く。

 

「あたしを待たせるなんて何考えてんのかしら、まったく」

「今日の献立ちがう?」

「あたしのことを第一に考えないなんて失格ね! ルシアン、フェアに早くするように言ってきて!」

「えぇっ!?」

「何よ」

「この前は『身嗜みを整えるのは女の子にとって恋の次に大切なのよ! 

急かすなんて度量の小さい証拠ね』って言ってたじゃないか」

「うっさい!」

ポコンッ

「あたっ!」

「その時はその時! 今は今! いちいち細かいこと気にしてたらモテないわよ」

「またそうやって自分勝手な理屈を……」

 

 見慣れた風景となった姉弟喧嘩。今回はルシアンもけっこう善戦してるな。どうせ押し切られるだろうけど。

 

「はいはいリシェル、もう支度済んだから」

「遅いわよフェア。いつまで寝てんのよ」

「ちょっと遅くなっただけでしょ! そりゃまぁ、今日は変な夢を見たせいで寝坊気味だけど……」

 

なんだフェアも変な夢を見たのか。どんな夢だろう。いやらしいやつかな。

 

「それでも、じゅうぶん早起きなことには変わりないでしょ?」

「だよねぇ……外も、やっと明るくなってきたばかりだし」

「ふふん、甘いわねあんたたち。世間一般にはそれで通っても、あたしを待たせてる時点で寝坊確定っ! 言語道断なのよ」

「うわぁ、また始まっちゃったよリシェル理論……」

「そもそも、幼馴染のよしみで、あたしが直々に起こしに来てあげてるのよ? 感謝の心を以てお出迎えするのがスジってもんでしょ」

「誰も、来てなんて頼んでないじゃん」

「何か言った??」

「だってホントのことじゃないの。ナオも言ってやってよ」

「ん? ごめん、濃過ぎるコーヒーをどうするか考えてて聞いてなかった」

「……お湯足せば?」

「うん」

「………」

「………」

「アチッ…」

「………」

「………」

「フフッ」

「ぷっ……あは、あははははっ!」

「えー、そんな笑う?」

「何か、バカらしくなっちゃったわ」

「そうね。……そろそろ仕入れ行こっか」

「そうそう。ちゃっちゃと行きましょ! あたしは多忙なんだから」

「とか言って、一仕事終わったらちゃっかり朝ご飯ここで食べていくんよなぁ」 

「し、しょうがないじゃないのよ! ウチのみんなが起き出す前に抜け出して来てるんだからっ!」

「ツンデレオツ」

「だから何語よそれ」

「それに、美味しいんだよねぇ、フェアさんの作ってくれるご飯」

「ふふっ……しょうがないなぁ。後で作ってあげるわよ」

「やたっ! そうこなくっちゃ♪」

「楽しみだなぁ♪」

「やれやれ……。とりあえず、今日の分の野菜を貰ってこないとね。さ、行きましょ」

「おーっ!」

「あっ、ちょと、飲み終わるまで待ってー」

 

 残りのコーヒーを流し込んで、三人に続いて玄関をくぐる。鮮やかな朝焼けの景色がひろがっている。

 今日もいい日になりそうだ。




フェアちゃんは幼妻かわいい。

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