サモ4二次は話しの辻褄合わせが最大の難関だと思います。
そして相変わらず安定しない主人公。もう安定しないキャラで良いですかね……?人は変わるものって言いますし(白目)。
ミントさんの家で話が出たせいか、今更ながら竜の子の様子が気になってきた。坂を登る足も自然と速くなる。
「おっそーい! まったく、どれだけ人を待たせるつもり?」
「来てるのはリシェルの勝手でしょ」
「しかも冷静に考えればリシェルの方がいつもより遅い」
店の前で待ち構えていたリシェルの開幕理不尽をいなしながら土間に野菜を運び込む。
このとき使うのは玄関ではなく土間直通の出入り口。この店に六ケ所ある出入り口の一つだ。
「ぶつぶつ言わないの。ほら、さっさともどってあの子のゴハン作ってあげなくっちゃ!」
「はいはい……」
「ルシアンは?」
「中で先に掃除始めてるわ」
「ふーん……」
姉と違ってよく働く弟だ。
「あ、おかえりなさい」
なんて思っていたら本人登場。
しかしフロア側からではなく勝手口入ってすぐ右の戸……つまりフェアの部屋から出てきたのは少々問題だった。
「………」
「………」
「えっと、どうかしたの?」
「……なんでフェアの部屋から?」
「え? ……! ち、違うよ!? 竜の子を見てただけで何も変なことは……っ!!」
私とリシェルの、訝しむというか…蔑むような目で状況に気付いたらしい。手の動きとか表情とか、いろんなところがワチャワチャと忙しなく動いて本人の動揺っぷりを表す。
「ホントかしら……」
「……竜の子はフェアのベッドの布団の中で寝てた………つまり竜の子を見るということは必然的に――」
「えっ、いや! たしかにそうだけどでも……っ」
「グラッドさん呼ばなきゃ……」
「悲しいなぁ……」
「ちょっともう……二人ともやめたげなよ。ルシアンがそんなことするわけないでしょ」
ここでフェアの制止が入る。
するわけないにって断言されるのも男として辛いところがあるんではないか、とは思うけど。
「私は気にしてないから、ね?」
「う、うん……」
リシェルは少々残念そうな顔。不思議に思って後で訊いたら『多少強引でもルシアンのオトコの部分を意識させようと思ったのに』と言っていた。しかしルシアンがそういうことを意識してフェアの部屋に入れるとは思えないから、ルシアンが戸から顔を出した瞬間に思いついたリシェルの完全なアドリブだったんだろう。その演技力には感心するけど、その本気さに若干引きもした。
「ピィ…ピァァ……」
ちょっとしたことが片付いたところで丁度よく竜の子の欠伸のような鳴き声が。
「さて、あの子も起きたみたいだしさっさと支度してごはん作っちゃいましょ」
――――
―――
――
「…ケプッ!」
「お腹いっぱいになったかしら」
まず私たちの食事の縮小版みたいなものをペロリと平らげた竜の子はその後私の目玉焼きを強奪し、ルシアンのパンを噛み千切り、フェアが急いで持ってきたウィンナーを次々消費した。全くもって素晴らしい食い意地だった。
「ピィッ♪」
「うーん、ちいさいのにたくさん食べるよねぇ。自分の体重くらいは食べたんじゃないの?」
「これお腹ギュッてしたらどうなるん」
「怖いこと言わないでよ」
「でも、たしかにこれだけおなかパンパンになるまで食べるなんてすごいよ」
「育ち盛りなんだよ」
自分も被害に遭ったにも関わらず優しく竜の子を撫でるルシアン。……これがおぼっちゃま特有の余裕か………。
「いっぱい食べて早く大きくならないとね」
「そうね、広場にある門くらいの大きさは欲しいところだわ」
「欲しいところって……そんなに大きくしてどうするのよ」
「どうするもこうするも大きい方がカッコイイじゃない」
「あのねぇ……そんなに大きくなったら面倒見きれないって」
「極端な話、こっちの面倒だけ考えれば今の大きさがちょうどいい」
まず食料。今でも一人前以上は軽く食べるんだ。それが大きくなれば……あまり考えたくはないが一日につき大型動物一匹くらいは覚悟しなければならないだろう。像なんかは一日に何キロの食事だったっけか……。
いや、食事の問題はある程度大きくなれば自立してくれるかもしれないけど……そもそもデカい竜が中や周りをうろついてる料理屋なんて閑古鳥どころの騒ぎじゃないだろうな。もし賑わっているとすればそれは昨日みたいないざこざだろう。
「てゆーか、真面目な話 この子のこと、この先どうしようか?」
「どうするって……」
「面倒みるのがイヤって言ってるんじゃないよ。ただ、もしリシェルの言うように大きくなっちゃったら、本当の親が探しに来なかったら……。先のことまで私たちがちゃんと考えてあげないと」
「ピィ?」
「だったら……あんたは、どうすればいいって思うのよ?」
「それがはっきりしてたら苦労しないよ」
「とりあえず、ミントさんには明日の早朝にでも見てもらうことになってる」
「今日の昼とかじゃダメなの?」
「昨日の夜のことも有るし、下手に見せびらかさない方が良いだろうから」
下衆な話だが売るもよし研究するもよし…バラして何か薬の材料にするというのもあるかもしれない。軽く罪を犯してでも欲しい輩は多いだろう。
「専門じゃないらしいから安泰とはいかないだろうけど、方針は立てられると思う」
「ピイィ……」
心なしか竜の子の鳴き声が申し訳なさそうに聞こえた。
「……でも、一番不安なのはこの子だもんね。どうするにせよこの子がしあわ――」
「おじゃまいたしまーす!」
話をぶった切ってポムニットさんの元気な挨拶。
将来を考えるのもいいが…直近のことを忘れていた。何の案も無いうちからあの臆病で気の弱いメイドさんに竜の子の存在がバレてしまえば出荷ルート直行だ。
「やばっ!」
「ルシアンっ! あんた、その子を隠しなさいっ!!」
「ええっ!?」
心優しいが鈍くさいルシアンくんの性質はここでも発揮され、リシェルから受け取った竜の子のやり場に困っていつものようにワタワタしている。
「私に」
「ピっ♪」
それに痺れを切らした私は竜の子を半ばひったくるように受け取って――
「ああ、やっぱりここにいましたか」
急いでスカートの中に隠した。
「お、おはようっ! ポムニットさん!」
「おはようございます。……? どうしたんですか? なにやらぎこちない感じがしますけど」
……失敗した。脚の根本…はっきり言ってしまえば股のところに猫くらいの生き物を入れているんだ。ものすっごい違和感が……。
「昨日に引き続きリシェルがこの二人の縁談を進めようとしてて」
受け取った瞬間にはもう戸が半分開いてたから仕方ないとはいえ……。スペースを確保するために座面から太腿を浮かせてるのも地味にキツいし……。
「!?」
「ええっ!?」
「まぁ嘘だけど」
「あ、あぁ! 嘘ですかぁ。……ふぅ、驚かせないでくださいまし」
鳴き声を上げたりすることなくおとなしくしてくれてるのは助かるけど、モゾモゾしたりスースー空気が………ちょっと待ってコレ臭い嗅がれてる……っ!!?
「……? どうしました? ナオさん」
「眠い」
「……そういう感じには――」
「それで! ポムニットさん、リシェルを探してたみたいだけど……?」
「あ! そうですそうです! お嬢様――」
「分かってるわよ。お屋敷に戻れって言うんでしょ?」
うあぁぁぁあぁぁぁ噛むな噛むな噛むな舐めるなっ! ソレは食べ物じゃないっ!
「分かっているのなら最初からおとなしくなさっていてくださいましっ」
「そんなの無理ね! ポムニットだって知ってるでしょ?」
「開き直らないでくださいっ!! えうぅ……っ」
「悪かったから、ね? ポムニットさん、ほら、もう帰るから」
「えう………っグスッ………それと、もう一つ要件が」
「何?」
吸 う な ッッ!!!
「!? どうしたんですかナオさん!? 急に机に頭突きなんてっ」
「眠い」
「えぇぇぇ???」
「ナオがよくやる眠気覚ましだよ。気にしないで、ポムニットさん。それより……」
「え、ええ。……フェアさん、実は、旦那様がお呼びなのですよ」
「わたしを?」
「はい。お昼のお仕事の後で、お屋敷までおいでくださいまし」
「どうせまた利益がどーとかこーとかケチつけるつもりね」
「……はぁ。でも、実際ケチの付けどころがあるんだから仕方ないのよねぇ」
「が、頑張ってね……」
私にも労いの言葉をください………。
「さ、お嬢様、ぼっちゃま」
「じゃ、また来るから」
「朝ごはんごちそうさまでした!」
「それでは、ごきげんよう」
遠ざかる足音の後、バタンと戸の閉まる音。
危機は去った……か。
「ピィッ♪」
スカートから出た竜の子は何事も無かったかのように機嫌良く鳴いた。
この子が悪いわけじゃないことは分かっているけどやっぱちょっと腹立つな……。
「大丈夫? なんかグッタリしてるけど……」
「訊かないで」
「えっ?」
「訊かないで」
古典的な言い回しだが、犬に噛まれたとでも思ってさっさと忘れたい。
竜に噛まれて犬に噛まれたと思うと言う矛盾。