さて、今回はけっこう難航しました。難航した結果短い上に文章の纏まりもないので後々書き直すと思います。
竜の子を探しに出て主人公はあまり役に立たなかったという内容だけ理解していただければ十分です。
「『消えた』……?」
「う、うん……」
「消えた…………『消えた』って何よ!?」
「何って言われたってそのまんまよ! 触ろうとしたら蝋燭の火みたいに消えちゃったのっ!」
「なんでよ!?」
「あたしにわかるわけないじゃない!!?」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてっ!」
言い合いになった二人をルシアンが止めようとするも、そのルシアン自身の声にも狼狽が滲み出ている。
「落ち着いて、一旦座ろう? ね?」
「落ち着いてる場合じゃないでしょっ!」
「……………怒鳴り合ってる場合でもないわ。大きい声出して悪かったわねリシェル」
「…っ……う、うん」
リシェルは拍子抜けした様子で口を数度パクパクさせた後、いかにも不完全燃焼という態度ながらもとりあえず席についた。
「……うーん、落着いたところで何か分かるでもないんだけどね」
「そりゃ、消えるとか意味分かんないもん」
ルニアとかもよく消えたりしてると思うんだけど……アレは魔天使だからノーカン…? それとも消え方の違いか? とにかくこの世界の常識と非常識の境が分からないからこの辺の議論には参加できないな。
「――嘘じゃないわよ! ホントに消えちゃったんだからっ」
それにしても、何かと騒ぎを起こしてくれるなぁ……あの竜の子は。
「別に嘘だなんてもう言って――ってどうしたの? ナオ」
「いや……」
なんとなく手持ち無沙汰になって竜の子がいたはずの机に向かう。
現場を調べないことには何も始まらないしな。……何の仕掛けもその跡も無い、本当に何の変哲もない机だけど。
「冷たい…」
仕掛けどころか竜の子がいた痕跡すら無かった。
「え?」
「竜の子の体温で温もってない」
竜の子は小型動物の例に漏れずけっこう体温が高かった。この世界の、このケースでどれだけ通用する理論かは自信がないけど……温もってないってことは、ずっと前にその場を離れていたってことになるんじゃないか?
「じゃあ、そこに居なかったってこと?」
「『居なかった』って、ナオさんもずっと見てて、姉さんもついさっき触ろうとしたんでしょ?」
「幻、とか?」
もしくは分身? どちらにしても術者が離れても消えないなんてかなり高度なんじゃないだろうか。……あくまでゲームとかでのイメージだけど。
「竜ってそんなこともできるの?」
「知らないけど……。それより、じゃああの子、どこ行ったんだろう」
「フェアのあと……とか?」
「私の……」
「フェアが出かけた後も何度か…脱走未遂というか何というか。私がとめたんだけど」
「それでそのままじゃ出られないと思って幻を?」
「寝たフリまでして」
「抜け目ないわねぇ〜……」
ホントにな。
「ってことは、あの子は外に…町に出たの?」
「それは分からない。……色々探しに出ないと」
ちゃんとフェアの後を追えていたならまだ簡単なんだが……そこが不確かだ。もしかしたらブロンクス氏の屋敷の方に居るかもしれないし、真逆の北の森に行ったかもしれない。町に居たとしても、町の中のどこかも分からない。
「もしかしたら迷子になって……攫われちゃってるかもしれない」
「そんならないように早く手分けして探すのよ!」
「一人はここに残った方がいいわよね。戻ってくるかもしれないし」
「ルシアンお願い。私たちで探してくるからっ」
「う、うん!」
「リシェル、ナオ! 行くわよ!」
「言われなくてもっ!」
――――――――――――――――――――――――――――
さて、町まで出てきたものの……
「どう探したものか」
とりあえず私は町の中央通りから西、フェアは中央通り付近、リシェルは東と別れたけど、そこからどう探すかが問題だ。
「手がかりが無いものな……」
モノがモノなだけに、聴き込みなんかはなるだけしたくないし。いや……『桃色のトカゲみたいな召喚獣』って言えば良いか? 竜は非常識で俄には存在を信じられないものみたいだし、これなら竜のことが広まらずに情報を集められるかも……。ヘタしたら"竜の"目撃者を減らせるかもしれない。
「お! 弁当のネェちゃんじゃん。何やってんの?」
と、いいところに何人かの子供のグループが。
そうか…そう言えばここは私塾の近くだったな。
「ちょっと探しものを。この辺でトカゲみたいな召喚獣見なかった?」
私塾というのは個人が開いている教育機関で、公的な学校に比べてフットワークが軽いのが特長だ。日本でも江戸後期から明治時代なんかはかなり盛んで、当時の世界的に見ても高度な平均学力を作り上げるのに一役買っていたらしい。ちなみに、その時代の教育機関として有名な寺子屋と微妙に違うらしいけど、私はその違いを知らない。
ここ、トレイユの私塾の塾主はセクターという元軍人の男性だ。足が不自由らしく、杖をついて歩いている。まぁ、この国では軍人はほとんどの場合 軍学校で教育を受けるエリート職らしいし、そのツブシとして教育者というのはよくある話だそうだ。その中でもセクター先生は物腰が柔らかく丁寧な指導が評判……らしい。
私はこの前話しかけたら露骨に会話を切られたからそうは思っていない。嫌われてるだけかもしれないけど(身に覚えは無いが)。
「見てねー」
「さっき授業終わったばっかりだから……」
「……そう」
……さて、本題の方はソッコーでアテが外れた。
「じゃあ何かのついででいいから探してみてくれる? 猫くらいの大きさの、桃色のトカゲみたいなカタチしてるから」
「うん!」
「分かったー」
とりあえず協力だけ頼んでその場を離れる。ハズレだと分かった以上、今はさっさと次に行かないと損だ。
その後も会う人会う人に聞き込みをしたが全然情報が挙がらない。これは……もしかして店のときと同じように幻使ってたりするのか?
「そんなに逃げたいか……」
もう、そこまでして見つかりたくないなら探してやらない方が良い気がしてきた……。
「でもそうも言ってられない……」
諦めてたらリシェルにドヤされるのはもちろんだが、フェアも頑張ってるだろうし。……フェアが頑張ってるからって私も頑張らなきゃならない決まりも無いけど。
「探しもの……捜索………あっ」
捜索と言えば警察犬投入だ。匂いからのアプローチは良い手かもしれない。
「でも犬……」
犬がいない。
召喚獣……は……天使と箱と亀か………。亀って鼻良かったか? まぁ、一か八かだ。
「スワンプ」
魔法陣が輝き、本日二度目の登場。
「昼間相手したあの竜の匂いを辿ってくれる?」
「………」
私の話を聞いた後、のっそり向き直って歩き始める。
…一応翻訳の術は掛かってるはずなんだが……ぼわ〜っとしているから不安だ。
「………」
「………」
…………しかも歩くの遅い……!!
ごめんフェア……私は戦力になれそうにない。
一般的にペットとして親しまれている亀の嗅覚は割と鋭いようです。