さて、話の方は竜の子発見まで進みます。ナオは表裏のある娘。
「……どうだい?」
肉屋のおばちゃんが期待と少しの不安を込めて見つめるなか、ソーセージをゆっくりと味わって咀嚼する。……パリッと張り詰めた厚めのケーシングから、しっかりした旨みと仄かな甘みを感じさせる肉汁が弾け、そして複雑に組み合わされた香草がそれを引き立てる。
「んー、美味しい」
スワンプがのっそりのっそりと案内してくれた先は肉屋だった。やっぱりあの子何も分かってなかったよ。
そしてうっかりおばちゃんと目を合わせて……その瞬間マシンガントーク。世間話が始まったと思ったらいつの間にか口の中にソーセージをつっこまれていた。
以前からたまに試食を(強引に)頼まれているが、まぁ、こういうアタリを引いたときは確かに役得だ。ハズレのときは酷いけど。
「いやー、そうかいそうかい! ダンナともコレはいい出来だって言ってたのさ!」
「ただ、一つ言うなら……これ単体ではかなり美味しいですけど、この酸っぱい風味の香草――」
「ンギアだね」
「ギア?」
「ンギア」
「……まぁ、それのクセが強いので使いどころの幅は狭いと思います。気に入った人が定期的に買う感じ」
「うーん、確かにそうかもしれないねぇ。たくさん売れるわけじゃないってワケだ。じゃあしばらくは少なめに作って様子を見ることにするかねぇ」
「私の言うことがどこまでアテになるか分かりませんけど」
「それがアテになるんだよねぇ。じゃ、次はコレ」
そう言っておばちゃんは新しい一本を出してきた。
この臭い……それに色。ハズレのやつだ。半分おふざけの勢いでいろんなものをぶち込んだやつに違いない。
「あのー、ちょっと、もうお腹いっぱいな感じですんで」
「まーこの娘は! このくらいでお腹いっぱいだなんて胃の小さい。最近の子はこれだからダメだよ! 全く、もっとお肉付けとかないといざって時に力が出ないよ!」
そう言って次から次へ食べてるとおばちゃんみたいな『ザ・エネルギータンク』って体型になっちゃうんだよなぁ。
「いや、まぁそれもあるんですけど、何本も食べた後にまただと正確な判断ができないと言うか……」
「この際それはもういいからお食べ! アタシゃ心配になってきたよ」
「えぇ……」
ぶっとくてズズ黒くて臭くてヌトッとしてるものを押し付けないでください! セクハラで訴えますよ!
「ちょっとナオー! 何やってんのよ!」
「良いところに」
リシェル、フェア…あとオヤカタ!
「あっ! アンタまたそんなお腹放り出して! 女の子がお腹冷やしちゃいかんでしょ! オバちゃんの腹巻き貸したげるから」
私の食事情の次はリシェルのヘソ出しが気に入らないらしい。ベロンと服を捲り上げ、腹巻きを見せるおばちゃん。
「そんな古臭くて臭そうなの要らないわよ!」
「ちょっとリシェル!?」
「ま°ー↑ アンタまた憎まれ口ばっか言って! もう怒ったわよ! 意地でも着けさせてやるから」
「逃げるわよ! フェア! ナオ!」
「えっ、ちょっと……!」
「ムイっ」
二人と一匹はサッサと走り去っていってしまった。おばちゃんも追おうとしたけど……結果は見た目通りだ。
「全く、逃げ足の早い子だよ! あ、ナオちゃんこれリシェルちゃんに渡しといて!」
いつの間に脱いだのかベージュ色の腹巻きを手渡してきた。
が、私はほとんど無意識に後ずさって拒否した。
「いや、えーと」
「ん? どうしたんだい?」
「それ、確かに臭そうです」
「ま°ー↑」
――――――――――――――――――――――――――――
「遅かったじゃない」
「いや、ちょっと捕まって。はい腹巻き。新品」
くさそうって言ったら新品の腹巻きをくれた。おばちゃんの腹巻きへの執念は驚くべきものがある。
「要らないって!」
「まぁおばちゃんも意地悪したろぅと思ってやってるわけじゃないんだし」
「意地悪じゃなくても迷惑よ」
「リシェルが迷惑についてどうこう――」
「ムイムイ!」
オヤカタの若干威嚇するような鳴き声。『その話は置いておけ』と言ってるのか? これは。
まさか小動物に叱られる日が来るとはなぁ。
「あぁ、ごめんオヤカタ」
「ムイ」
「……ごほん。それで、アンタは何か手掛かり見つかった?」
「いや……竜ってことは伏せて聞き込みとかもしてみたけど、それらしいのは全然。また幻とか使ってるかもしれない。フェアは?」
「わたしの方も全く。グラッド兄ちゃんにも頼んでみたんだけど……」
「二人して役に立たないわねー」
「それはリシェルもでしょ」
「そうよ!」
「そんな自信満々に返されても」
「――でも! そんなことも全部ひっくるめて解決する方法を思いついたわ!」
「ムーイッ!」
リシェルとオヤカタがシンクロして胸を張る。
「オヤカタは……やっぱり匂いで?」
「そうよ。いい考えでしょ!」
「リシェルにしてはなかなか」
ここは素直に褒めておこう。私も随分前に思いついたけど役に立たなかったからノーカンだ。
「一言余計だけど、まぁ良いわ。そんなワケでオヤカタの後をついて歩いてたらフェアと、あと呑気にソーセージの試食してた誰かさんと合流したってワケ」
「ほーん」
「『ほーん』ってアンタねぇ……」
「とにかく急ご? こうしてる間にもあの子、危ない目に合ってるかもしれないわ」
「一理ある。行こ」
「ちょっとナオ! ……あーもー分かったわよ!」
――――――――――――――――――――――――――――
「ちよっと!? なんでアンタの家に戻っちゃうのよ!?」
そして急いだ結果がこれだ。
オヤカタの導いた先はフェアの店。振り出しだ。
「そんなこと、わたしに訊かれたって……」
「オヤカタぁ……」
「ムイムイ!」
「いや、まぁ戻ってきてるかも」
どっちにしろ一旦落ち着くにはいい頃合いかもしれない。ため息を抑えながら扉に手をかけた……ら向こうから勝手に開いた。
「チビ竜さんは見つかりましたか?」
「うぇっ!? ポムニットさん!?」
「なんでそのことを? ……ルシアン?」
「ごめん……。でも協力してくれる人は多い方が良いと思ったんだ」
「どこまで話したの?」
「昨日の夜、星を見に行ったときに拾ったことと、何か不思議な力を持ってることとか」
「伏せてたことほとんど……」
隠してたことを全部言ってしまったと思わせるためのデタラメなセリフ。
「おぼっちゃまからおおよその事情は伺いましたが……なぜ、わたくしに最初から相談をしてくれなかったんです!? 存じてさえいればわたくしなりに配慮もできましたのに」
じゃあ具体的に何ができたのん? ……と喉元まで出かけた。
「迷惑をかけたくなかったんだよ。わたしたちいつもポムニットさんを振り回してばかりだから」
「……起こってしまったことは、遠慮なさらないでくださいまし。お嬢様とおぼっちゃま、そしてお二人の大切なご友人であるフェアさんとナオさんのお手伝いをすることがわたくしの仕事であり生きがいなのですから」
「ごめんなさい……あと、ありがとう」
迷惑を掛けたくなかったって理由とは別に、結構シビアな理由で隠してることがまだあるんだけどな。ちょっと罪悪感が……。
「分かってくだされば良いんです。あと、それはそれとしてですね――」
「おお! 帰ってきたか」
声とともに店の奥から現れたのはグラッドさん。何か妙に焦っているように見えるけど……まさかまた新しい厄介事?
「兄ちゃん、どうしたの?」
「あぁ、竜の子を探してたらな……竜の子は見つからなかったんだが、女の子が倒れてるのを見つけたんだ」
「案の定か」
「何が?」
「いや、何でもない」
「? …とりあえず客室のベッド借りてるが」
「うん! 全然良いよ。そんなことより、その子大丈夫なの?」
「それが……呼びかけても返事が有りませんし……」
「オレも軍で対症療法しか教わってないから、とりあえずナオさんに見せてみようってことで」
「えっ、私?」
「ナオさんって博識ですもの」
「買いかぶりすぎ」
「でも実際……」
「ちょっと、今そんな問答はいいから。とりあえず見てみないことには」
「あ、あぁ。こっちだ」
店の廊下をいつになくドタバタと歩く。事情が事情なんでしかたない。『なんだか今日はよく誰かの後をついて歩く日だ』なんて呑気なことを考えてる私の方が変なわけで。
「んぅ………」
案内された部屋で眠っていたのは、桃色の長い髪をした小学校低学年くらいの見た目の女の子。……コメカミあたりから角のようなものが生えているあたり……獣界の亜人だろうか。
ギュッと寄せられた眉から、状態が良くないことが容易に想像できる。
「……」
「どうしたんだ? フェア……妙な顔して」
「この子だよ! ほら、わたしが今朝話してた子供!!」
「えぇ……!?」
「ムイムイィッ!」
フェアの言葉に驚く暇もなく次の出来事。
ベッドの女の子の周りが突然光に包まれる。
「……ぴ ピイィィ………っ」
「のわゎっ!?」
「……!」
この光は………
「ピギュウゥゥ……」
光が収まれば、そこには竜の子が。
この感じ二度目だな。
おばちゃんは気に入ったのでこれからもちょくちょく出ます。