さて、本文は連ドラ登場まで。
何か台本形式の方がスッキリする気がしてましたけど今更変えません(読者様方の意見次第ではかえます)。
「だけど、驚いたわ。まさか、あの子が人間に変身してたなんて……」
「ナオの言った通りだったわね」
「いや、私自身まさか本当に幻使ってるとは……そりゃ目撃者なんか居ない」
「見た目が変わっちゃってんだもんね……」
人の姿から戻った竜の子は酷く弱った様子だった。人の病気すら微妙なのに召喚獣の病気なんて分かるはずもない。餅は餅屋、ということですぐにここ……ミントさんの家へ連れてきた。
「………」
朝からあれ程やりたいほうだいしてたのが息も細くグッタリしてる姿を見て、フェアたち三人はかなり動揺している。もちろん、私も多少は。
「ふぅ……」
「ミントお姉ちゃん、あの子の具合は!?」
奥の部屋から出てきたミントさんを見て、フェアがバッと立ち上がる。
「心配いらないよ。もう、大丈夫」
「よかったぁ……」
「さすがはミントさん! いつも頼りになります!」
調子の良いことを言う人だ。ちょっと前まで私に頼ろうとしてたくせに。……いや、別にそこまで酷い掌返しってわけしゃないけど、なんかこう、『最初からずっとミントさんを頼りにしてました』みたいな空気を感じたからちょっと不満に思ったんだ。
「グラッドさんってばおだてないでください。そんなに難しいことはしてませんから」
「あの子、いったいどんな病気なの?」
「病気じゃないわ。ちょっと、消耗しすぎただけ。だから栄養剤を飲ませて、寝かせてあげたら大丈夫なの」
「消耗……そらアレだけ幻術やら何やら使ってケロッとしてる方がおかしい」
「そうですね。本人が離れてもその場に残る身代わりに……グラッドさん、人間に化けていたときは実体もあったんでしたよね」
「はい! 自分がおぶって店まで運びましたから」
「そうですよね。……これってかなり高度なことなんだよ」
「ずっと無理して姿を変えてたんだね……でも、どうしてそこまでして?」
「わたしが余計なこと言ったからかな……」
「何言ったのよ?」
「その見た目じゃ危ないから連れて出れない、って。でも、まさか人間に化けるなんて思わないじゃない?」
フェアがでかけてしまって、後をついていきたいけど私に止められる→大人しくしてる間は注意が逸れることをいつの間にか学習→寝たフリ&幻→フェアの言葉から、姿を変えて外に出る→フェアを見つけられず時間経過→術を解きたいが、襲われるのが怖いためギリギリまで術を解かなかった
竜の子の思考を予想するとこんなところか。言葉がなんとなく伝わってること前提だけど。
「無理もないわね。そもそも、普通の竜は人の姿に変わったりしないもの」
「『普通の竜は』……?」
「竜という生き物にはものすごくたくさんの分類があるんだけど、大雑把に分けると『亜竜』と『至竜』の二つになるの」
「ありゅう? しりゅう?」
「『亜竜』というのは身体的……生物的に竜の特性を備えているもの。筋力や生命力の強さとか、火や冷気を吐いたりして、高い戦闘能力を持っている」
「朝言ってた食物連鎖の話も?」
「ええ。どういう理由か知りませんが、何というか……召喚師のあいだでの竜という分類って、他の生物みたいに骨格や血脈じゃなくて『最強の生物の定義』に基づいてるような」
『イヌ科』とか『爬虫類』とかそういう括りじゃなくて『肉食獣』とか『海獣』みたいな、生態を纏めた呼び方ってことか……?
「まぁ、ともかく、普通みんなが考える竜はそういう、いかにもって感じのやつだよね」
「そうねー。竜って言ったら角と鱗と翼と炎よね」
角と鱗と珠と水……は名も無き世界の日本特有の感性か。いや、鬼妖界なら或いは……。今はどうでもいいか。
「それじゃ『至竜』っていうのは?」
「亜竜の特性に加え、高い知能と魔力を備えているの。あらゆる"術"を修得し、しかも永い永い寿命によってその技術を失わない……年老いた至竜はどんな専門書よりも詳しく世界のことを記憶しているとされているわ」
「だから召喚師の最難課題……」
そんなスーパーな存在がホイホイ現れるワケもなし、現れたところで研究家の思う通りに動いてくれるかは別。研究がなかなか進まないってところか。
「召喚を拒否する技術も持っていておかしくないでしょうから」
「うわぁ………」
「じゃあ、あの子が幻を操ったのは……」
「うん、そうだね。きっと『至竜』の力の一部なんだと私は思う」
「あの子、そんなにもすごいんだ……」
「だけど、すごくてもまだ生まれたての子供。無理に力を使ったら体の方がついてこれなくなっちゃう」
「うん……」
「だから、お家でゆっくりと寝かせてあげて。疲労回復のお薬も用意したから、起きたら飲ませてあげてね」
「分かったよ。ありがと ミントお姉ちゃん」
「なにかあったら、また、すぐに連れていらっしゃい」
「うん。そうするよ」
――――――――――――――――――――――――――――
「『至竜』か……。今更だけど、とんでもないもの拾っちゃったんだね」
何やら話し込み始めたグラッドさんとミントさんを残し、家から出る。
フェアの腕でスースーと眠るこの竜は、この絶妙に厄介な状況を分かっているんだろうか。
「後悔してるの?」
「そうじゃないよ。別にこの子が何であろうと、あんな状況じゃ放っておけなかったよ」
「……だよね♪」
フェアの力強い言葉に機嫌を良くするリシェル。私も、フェアのこういう真っ直ぐな性格は素直に好きだ。……そのせいで色々と抱えやすいのも、気になってるけど。
「でも、この子が狙われる理由、ちょっと分かった気がするな」
「ちょっとも何も、ねぇ?」
「昨日の一団が知ってたかどうかは分からないけど……至竜の価値は相当………」
「そのことなんだけど、昨日襲われたこと誰にも言ってないよね? ルシアン……は大丈夫そうたったけど、フェア」
「わたしも、そこは隠してる」
「話したら、きっとこの子のこと取り上げられちゃうよ」
「取り上げる、って言い方はアレ……でも、そうなるだろうねー」
「それは私も思ってる。……けど」
「けど?」
「黙っているままでいいのか、それも気になってる」
「………」
「みんなが言った通り、この子は色んな人が欲しがる存在だもん。……もしかしたら昨日の連中がまた来るかもしれないし、別のが嗅ぎつけて来るかもしれない」
「なら、あたしたちが守ってあげればいいじゃない!」
「わたしたちだけで守りきれる、って断言できるの?」
「……っ」
リシェルは言葉に詰まって何も言えない。
フェアの境遇を考えれば"いいかげん"なことは許せないと分かっているからか。
「昨日の規模と強さならまぁなんとかなるだろうけど、十人二十人ともなって、野党みたいなのじゃなくて本職のアレが来たら……フェアの言う通り………」
「そんなことくらい分かってるわっ!!」
「ピィィ……?」
「あぁ、ゴメンね? 大きな声がしたから驚いちゃったよね」
「ピギュゥ」
不安げに鳴いた竜の子をルシアンが撫でる。
もし親が現れなかった場合の然るべき処置……軍や召喚士の派閥に引き取られたとして、こうやって 優しく撫でてもらえるのだろうか。
「……リシェルの言いたいことも分かるけど……"そう"なってしまう場合もあるって、覚悟しとかないといけない」
「…………」
自分で言っといてなんだけど、どうも今までに無く重い流れになってきた。自分たちで守るのも辛い。けど、他に預けるのは心配。考えたくないことだけど、考えないわけにもいかない。
気にしだすと色々と不安になってくる。今だって、何か畑の周囲が静かすぎる気がするし。小鳥やらがぴーちくやってる声がしないような……。
「…………でも――」
「ようやく見つけたぞ! 『守護竜の子』よ」
「!?」
そして予想外に本当に現れた変なヤツ。和太鼓と雷を足して2で割ったような野太い声を響かせる、赤黒い甲冑の男。
「そして貴様らだな。昨日邪魔したガキどもというのは……」
「まさか、言ったそばから来るとは……」
「この子を狙って出てきた悪党ね」
「そんなの、一目で分かるじゃないの! トゲトゲの鎧に如何わしいヒゲ!」
いつものように暴言を炸裂させるリシェル。考えなしなようだ(実際本人は思ったまま言ってるんだろう)けど……この状況じゃどっちでも一緒だ。
……囲まれてる。それも結構な数に。さっき この男が出てきた瞬間に、あちこちで微かに動く気配がした……。どうせ見逃してはくれない。
だからいっそのこと煽りに煽ってこのリーダーと思しき男の平静を欠かせてほしい。
「いい年したオッサンがロン毛なびかせて……前髪ものっぺり 顔にかかってるし! どっからどう見たって不審人物そのものね。ワザワザ分かりやすい見た目にしてくれてありがたいくらいだわ」
「くぬぬぬ……っ! 口の達者な小娘が……目上のものをバカにするとは――教育的な指導が必要と見える」
しかし残念。いかにも現場の戦果だけでのし上がった汗臭い猪武者という風貌とは裏腹に、そこそこ冷静だったようで。
怒気かスッと抑えられて低い号令がかかると同時に、私たちはまたしても屈強な男たちに取り囲まれるはめになった。
雑兵の十人や二十人なんかメインキャラの一撃でぶっ飛ぶし誤差の範囲やろ(恋姫二次作者並みの感想)。