さて、お話はバトル中盤まで。技量的に戦闘描写難しいです。話の組み立て的には、明らかに機界召喚魔法が強すぎることが悩みどころ。E,Fランクの技でも溶接とか掘削とか、普通に攻撃力高そうなやつばっかりなので。
「うそ……こんなにいっぱい、囲まれてる………!」
槍に大剣、弓矢やら……丸腰の子供四人相手に大の大人たちが揃いも揃って武器を構える。鎧はこれまた一団で揃ったもの。黒地に朱いラインの入った、シンプルながら整ったデザイン。
構えのキマりかた(なんとなく、我流じゃなくてちゃんと習った武術って感じがする)といい何といい、昨日の連中とは雰囲気が違うけど……あのリーダーは『邪魔したガキども』と言っていた。繋がりはあるんだろう。
「うははは! どうだ? ちびったか? おののいたか?」
「女子供取り囲んで高笑いとか……まさに野盗」
「この状況でまだ言ってくれるとはな。速やかに竜の子をこちらに渡しさえすれば騎士として貴様らの身の安全は保証してやるものを」
「そっちから脅かしといて『安全は保証』とか」
「そんな根性のヤツが言うことなんか信用できるわけないでしょ!」
「アンタたち、もういい大人なんだから下手な騎士ごっこなんか辞めて働き口を探すことね」
「くぬぬぬぬぬ……っ! どこかで聞いたような減らず口を……!! 吐いた言葉の責任は取ってもらうぞ!」
リーダーの怒気に同調して一人の兵が飛び出す。
「うおおぉーっ!!」
両刃のオーソドックスな剣を、体の正面に斜めにかかるように構え、突進。
やっぱり、野盗系の剣術じゃない。相手に攻撃を加えることだけを意識していれば、もっと走り易い体制で接近するはず……。それに、剣の向きも。あのまま振ったら刀身の腹で殴ることになる。明らかな手加減(それでもまぁ大怪我するだろうが)。
「……っ」
こちらからはフェアが前に出てその進路を塞ぐ。
さらに一歩……コレはフェイント。相手の振りを誘発させる。一、二、三、バックステッ――コレもフェイント……浮いた!?
「くぉっ!?」
相手の手首を掴み、そこを中心に体を縮め……
「たァっ!」
顔面に蹴りッ!
「ぐあぁっ!!」
敵をふっ飛ばし、そのまま剣を奪って着地……。
……なんて動きだ………。
「ほう、その動き……見かけによらずなかなかできるらしいな?」
いやいや『なかなかできる』どころの話じゃない。絶対に。
私が分かった範囲(結果から逆算も込み)でいまの駆け引きを纏めれば、
①相手の前に立ち、"場"を始める。
②次にさらに一歩踏み出し、間合いに入ったと見せかけて後に残った足でブレーキをかけ一度目の斬撃を避ける。
③少し後ろに下がる動きで返しの横薙ぎを躱す。
④三回目は直前から大きく後ろに下がる動きを見せ(実際にはかなり早いタイミングで重心が後に移りきってすぐに次の動作に移れる)、それによってそれまでコンパクトだった相手の振りがフェアを追いかけるように伸びて崩れる。
⑤その瞬間に脚を振り上げその勢いで浮き上がり、同時に手首を掴んで(これでガード不能)ドロップキック。
文章にすれば何文字か……かなり長く、複雑になっているはずだ。ただ運動神経が良いとかじゃなくて『頭が良い』動きをしていた。
「悲しいことに、物心つくかつかないかの頃から身体に叩き込まれてるのよね」
叩き込まれたって、フェア……そんな、今みたいなガチ勢の格闘ゲームみたいな動きを逐一教わったワケじゃなかろうに。
前々から思ってたけど確信した。クソ親父のことを言い訳にしてるけど、それ以上に、フェアは元々闘いの天才だ。
「……実践の機会にも不自由しなかったし」
「ふふん。見せてやりなさい、フェア!」
「………」
何か呆れ顔をするフェア。
……もしかしてさっきのは皮肉だったのか? 『リシェルが騒ぎを起こすから』って意味で……? そんなのこの状況でサッと気付けないだろう普通……。
「面白い……その生意気な鼻っ柱、叩き折ってやれ!!」
「応ッ!!」
ジリジリとプレッシャーが強まる。
「ルシアン!」
「わっ! う、うん!」
「ん」
「ありがと、ナオ」
フェアがルシアンにさっき奪った剣を渡し、私がフェアに落ちていた鍬を渡す。ルシアンには多少は扱いに慣れている剣を、何でも使えるフェアにはとりあえずその辺にあったものを。私とリシェルは召喚術での戦いになる。
「……あいつら、手堅く上を取ってきたわね」
こっちが装備を整えて(全然整ってないが)いる間に向こうは陣形を固めていたらしい。ミントさんの家を背にし、坂の下手にいる私たちを尻目にしっかりと上をとってきた。リーダーの大男は奥に引っ込み、二人の剣使いが前へ。その後ろに槍兵が同じく二名。さっきフェアにやられた男はナイフを持ってそのさらに後ろに。その隣にはデカい剣を担いだ副将っぽいやつ。……そして、向かって左サイドの急斜面と段差の上には二人の弓兵が。
くっそ……ドヤ顔まではしてないが何か得意げな雰囲気出しやがって……。
「(リシェル)」
「(ごめん! この前取り上げられて、弱い光線撃てるやつしかない)」
「(うそン……)」
「(しかたないでしょ!)」
うへぇ……大型機界召喚獣特有のあの硬さと威力はかなりアテにしてたのに……。
「(わたしが押さえるから、三人で弓を潰して)」
「(……分かった。リシェル、ルシアン、一気に全力で行こ)」
緩やかな斜面に立つ剣使いと槍使いはフェアが。急斜面の上の弓兵は私たちが。どちらにも干渉してきそうな奥の二人はとりあえず保留。
二人が静かに頷いたら、それが開戦の合図になった。
「……っ」
弓兵めがけルシアンが一直線に急斜面を駆け上がり、私もそれに続く。
「おわっ!?」
その隙にリシェルは魔力を高め、召喚発動。
「ビットガンマー!」
着脱式のレーザー装置(ビット)を備えた溶接作業用メカ。……召喚術のレクチャーを受けた時に何度か見たことがある。
「てぇぁぁぁぁっ!!」
「スタンピット」
「ぐぅッ!」
ルシアンの力任せな攻撃を躱した敵をビットガンマーが狙い撃つ。鎧に焦げ目がついた程度だが……かなりのプレッシャーにはなったはず。鎧に傷がつくってことは、生身が露出しているところで受ければ怪我するってことだからな。
「来い……!」
私もボクスとスワンプをもう一人の弓兵の近く……真正面と左側の二方向に召喚する。相手はとっさに矢を放つも、それはボクスの装甲に弾かれた。
「はァァァァ!!」
「このガキィっ」
ルシアンも最初の勢いのまま果敢に攻めている。……半分パニックになってるような感じもするけど、まぁ、いい。リシェルは次の召喚魔法のための準備に入っている。フェアは……敵に切られたのか、二つに分かれた鍬を器用に……トンファーみたいに操って四人相手に無双状態だ。
ともかく、みんな頑張っているんだ。こっちも、頑張らないとな!
「フゥッ!!」
「ギャッ!?」
地面から引っペがした敷石がボクスたちに気を取られていた弓兵の顔にぶち当たる。
決まったッ! 小学生時代『メスゴリラボール』としてドッヂボールを嗜む男子たちに恐れられた必殺のサイドスロー!
「弓を壊して!」
「ィ゛ィィィィィ」
悶絶する相手の足下に落ちた弓を、ボクスが二本の脚と胴体で挟み込み、荒々しい駆動音をたてて圧し折った。これで一人は完了か。
「ギルビット!!」
「えァァァっっ!!」
「がフッ」
ほとんど同じタイミングでもう一人も決着がついたようだ。
けど、奥から大剣兵が接近してきてる。
「下にっ」
「うん!」
アレの一撃を貰えばボクスの装甲やスワンプの甲羅でも厳しい。ルシアンはもちろん力負けするだろう。一旦下がるのがベストだ。
「ちィッ!」
いつもはのんびりなスワンプもこの時ばかりは素早く動き、フェアの周りに。
戦況を見れば……敵は弓兵二人、槍兵、剣兵がそれぞれ一人ずつ戦闘不能でのこり五人。対するこちらはボクスにスワンプ……それに今密かにルニアを呼び出し七人(?)。数だけ見れば状況は覆ったけど……。
「ぐぬぬぬ……! ええいっ!! 貴様ら、我輩に恥をかかせる気か! 剣の軍団の恐ろしさをガキどもに思う存分見せつけてやれ!!」
「はっ!!」
「もう何人もやられてるのに、今更何が『恐ろしさ』よ!」
「……でも実際、雰囲気が変わった」
ここまでは油断と手加減につけ込んだ戦いだった。まさか、私たちが弓兵に電撃戦を仕掛けるとは思ってなかっただろうし、個人の技量を見ても"素人向け"の態度だった。が、今はフェアの言う通り殺る気スイッチが入ったって感じの表情をしている。それに、リーダーと副リーダー……あいつらは、他より断然強い……そんな感じがする。
「(フェア、あとどれだけ戦える?)」
「(ごめん、ちょっと……最後まではキツいかも)」
……厳しいな。リシェルの召喚術が予想より低威力な今、結構……いや、かなりフェア頼みだからフェアがキツいってことは全面的にキツい。やっぱりネックはあのリーダーだろう……何かしらのハプニングで戦いをバッサリ終わらせたいところたが……。
「お前らッ! 子供相手にいったいなんのつもりだ!?」
「大丈夫!? みんな!」
「グラッド兄ちゃん! ミントお姉ちゃん!」
ここで援軍登場。渡りに船とはこのことか。
┌― 鍬
↓
┌ ―
トンファー 棍