さて、お話は話し合い終了まで。私はケータイ(予測変換が神性能)からサイトの機能を使って書いているのですが、何度も何度も書きかけの文章が消えて血涙で川を作りました。わざわざそうしてまで書く価値のある文章かと言われれば多分違うと思います。
「ちょ、ちょっとナオさん!? その流れで何で……!」
さっきまでのセリフと180度逆のことを言い出した私に、皆それぞれに疑念や驚きなどを示す。
「確かに軍の研究施設に入ればその後は確実でしょうけれども、じゃあそこまで安全に送り届けられますか?」
「……? それは、自分たち帝国軍が頼りないということですか?」
「いいえ。実力を出せばあのよく分からない軍団も楽々……とはいかないでしょうが勝てると思います。でも、グラッドさんが『来てくれ』と言えば……例えば一軍を率いる大将とその部下百人や千人がサッと来てくれるワケじゃないですよね?」
「それは……しかし、………」
「非難じゃありませんよ? むしろ国を預かる軍としてはそうやすやすと動く方が問題でしょうからね。ただ、そうなれば……報告を受けた帝国軍はどんな動きをするか………」
「獣界召喚士一人に数人の護衛をつけた調査隊か……私が竜の子の調査書を書いて重要性を示せばもう少しは厳重な警備で来るかもしれませんけど………」
「でもそんな風に大人数で軍が動くのに、この街に着くまで気づかない敵じゃないわよね」
「そうなればきっと、あいつらもなりふり構わず本気で来るわ。あのヒゲ親父……悔しいけど私達が"素人"だからってかなり手加減してたもの」
「その旨も報告を……いや、結局それでどんな規模の戦いになるか分からないのか」
「相手が気付いてから、実際に相手を倒せる戦力が揃うまでに時間がかなり空きますよね……」
「軍があいつらをやっつける前に、道連れみたいなムチャするかもしれないってことね。わたし達はあいつらよりずっと弱いけど、逆にそのおかげで相手もその程度の戦力でしか攻めてこない……ナオが言いたかったのって、そういうこと?」
「あんまりハッキリとは考えてんかったけど。うん、そのへん。正規ルートで軍本部に知られた時点で、あっちもこっちもゲームオーバー……良い結果は出ない」
相手はそのまま素直に、軍に動かれると厳しい。こっちは軍が動いたせいで相手が発狂モードに入るのが怖い。そして私達は軍が出てないおかげで相手が手加減してくれてると予想し、もしかしたら相手も、手加減しているうちは軍が出てこないと悟っているかもしれない。
奇妙な意思疎通が出来ているように思える。
「むむむ……しかし、それではどうなさるつもりなんです?」
「それが残念ながら無策なんよなぁ……」
「無責任ねー」
「私も責任持てるもんなら持ちたいけど。あいにくそこまで強くない」
「…………」
「フェアちゃん、あなたは、どうしたい?」
「え?」
「軍や派閥に任せた方が良いって思う? それとも、自分たちでなんとか面倒を見てあげたい?」
「………決められないよ。わたしには……」
「フェアさん……」
「なによそれ! 軍に連絡するのは結局絶対安全なわけじゃないし、実験されるかもしれないのよ!?」
「それはわたし達が世話するのも一緒よ。手加減してもらえるだろうけど、それって相手の気まぐれで崩れちゃうものだもん」
「う…………」
「どっちも危ないなら……ううん。そんなこと抜きにしても、まず、一番大切なのはあの子が、それを望んでいるのかどうかじゃないのかな?」
「…!」
「わたし達の都合より、まずどうすれば一番あの子が幸せなのか……そう考えるのが、拾ってきたわたしの責任なんじゃないかな。だから"わたしには"決められないっていうのが、答え」
「………うん、そうだね、フェアちゃん。私も、あなたの意見に賛成だよ」
ガタン
「――!」
「ピイィ………っ」
台所の方で鳴った物音に振り返れば、竜の子が不安げな表情で顔を覗かせていた。
「あ……」
「お昼寝してたんじゃないの……?」
「いつから……」
「ピギャッ! ピギイィッ!!」
そのままトテトテと走り寄ってきてフェアにしっかりと抱きついた竜の子。……少し、震えてる。
「わわっ、ちょっと!?」
「離れたくないんだよ……フェアさんと。きっと……」
頭が良いのは分かっていたけど、さっきまでのややこしい話も理解していたのか……それとも直感で感じ取ったのか。
「大丈夫だよ。よしよし……」
「ピィィ……ッ」
ともかくフェアと離れたくないという意思はありありと伝わってくる。
「どうやら、答えは最初から決まってたみたいだね」
「ズルいですよ……こんなの………。これじゃあ、まるでわたくしたちが悪者じゃないですか」
「それじゃあ………?」
「はぁ……仕方ありません」
「ありがとっ! ポムニットだぁーいすきっ♪」
「もぉ……もしかして、ホントに最初から狙ってらしたんじゃないんですか? その態度……」
「じゃあ、ポムニットさん嫌いです」
「真顔で言わないでくださいまし……。ナオさん、さきほどまでの会話が会話なだけに本気かもしれないと不安になってしまいます」
「嫌いじゃないけど好きじゃないです」
「」
「あんたこないだまで『運命感じますね』だのなんだの言ってたじゃないのよ」
「運命は感じてます」
「もうナオさんが解かりません〜……」
「あははっ! ……それじゃ、早速この子にきちんとした名前をつけてあげましょ!」
「うんうん! これから一緒に暮らすんだしね」
「フェア、あんたがつけてあげなさいよ」
「わたしが?」
「そりゃ、一番なついてるし」
「そうだよ。きっとこの子もそれが一番嬉しいはずだよ」
「ピッ!」
「そ、そうかな? じゃあ……よし、今日からあなたの名前は………『ミルリーフ』……『ミルリーフ』よ!」
「よろしくね? ミルリーフ」
「ピィッ♪」
嬉しそうに鳴き返す姿から察するに、新しい名前はどうやらお気に召したたらしい。
「あー、ゔん、お前ら、解決したみたいな空気だしてるとこ悪いが、帝国軍人としてだなぁ――」
「そこをなんとかお願いしますよ。グラッドさん」
「み、ミントさんがそこまでおっしゃるのならばっ!」
「あははは………」
――――――――――――――――――――――――――――
「ああは言ったものの、やっぱり、わたくし心配です」
「とは言え、あいつらの喜びようをみたらなぁ」
「ですよねえ……」
「正直、問題が先延ばしになっただけな感がどうしてもひっかかるのは、有ります」
話が終わってそれぞれに解散する途中。店とブロンクス邸と街を繋ぐ溜池の広場に立ち止まったグラッドさんたちに話しかける。
「! ナオさん」
どうやら私のことは、いつも通りフェアたちと一緒にいると思っていたようで驚きの表情が返ってくる。
実際、しばらくフェアたちと一緒に居て、後から小走りで追いかけてきたんだけど。いや、こんなに近くに居てくれるとは思わなかった。それぞれの家まで行く算段も立ててたからなぁ。
「フェアちゃんたちは?」
「これからどうするか話し合い中。自分たちで面倒見ることになって、それで具体的に何をどうするか……みたいな?」
「そうですか。……あいつらも、やっぱり真剣なんだな」
「フェアは初めっからずっと真剣な態度でしたよ。……それでうまく行くかはさておき」
「……ナオさんは、どう思ってるんですか?」
「………確かに、さっきは預けるのに文句言って、今は面倒見るのに文句言って、面倒臭いですね。すみません」
「い、いえ、そこまでは言ってませんけど……!」
「もちろん、フェアたちが面倒を見て、それで相手もずっと手をぬいたままなら良いんですけど………」
やっぱり少しずつエスカレートしていって、いずれは私達の手に負えなくなるだろう。
「そこで、です。ポムニットさん、グラッドさん、ミントさん……コネ、持ってませんか?」
「「コネ……?」」
「そうです。軍や派閥なんかの大きな組織の地位が有るとか、単純にめちゃくちゃ強いとか……相手が気づいたときにはもう諦めるしかないような行動が取れる人。そして、安心して竜の子を預けられる………そんな知り合いは居ませんか? 軍学校や召喚士の修行の間に知り合ったりしてませんか?」
「わたくしはずっとブロンクス家に仕えてますし……」
「ブロンクス氏が本部に要請すれば、まぁある程度大物が動くでしょうけど……」
「金の派閥は努めて召喚獣に肩入れしないようにしていますから」
ブロンクス氏が実は優しい人で、本部にも召喚獣に同情的かつフットワークの軽い実力者の知り合いが居ればクリアなんだけど……。
あくまで資源や財産としての召喚獣の利用……それが金の派閥の基本理念だ。そして、その組織体系は大会社や軍隊に似て重く、定形を重視する。
求めるモノを得られる確率はかなり低いだろう。
「……最後の手段ですねぇ」
「……うーん………」
「あ、そうだ」
「グラッドさん、なにか心当たりが?」
「アズリア・レヴィノス将軍」
「おおっ、将軍! いかにも凄そうな」
「ああ。軍部の名門レヴィノス家の跡取りで、十年前の大戦で活躍……そりゃぁもう帝国の国境が守られたのはこの人のおかげってくらい活躍した、女性初の将軍職にして帝国一,二の精鋭部隊『紫電』の隊長です。しかも親召喚獣派らしい!」
十年前の大戦といえば、私でも噂に知ってる程のメチャクチャ大きな戦いだ。なんでも、その戦域は帝国、聖王国、旧王国(首都壊滅)の三国に跨りあらゆる軍や派閥や秘密結社が動いた史上にも稀有な戦いだったとか。しかも敵は悪魔と悪鬼と魔獣の混合軍で、まるでゾンビのようにそれ以外の戦没者を操ったという。
そんな戦いで大活躍したというのなら、それこそ人智を超えた何かを持っているのだろう。
「家柄、役職、実力、思想 全部完璧じゃないですか……」
「じゃあ、早速ことの顛末をなんかどうにかして連絡しておいてください。手紙とか!」
「…………」
これで解決かと思ったのに、なかなか『はい! 任せてください!』という返事が返ってこない。
「……どうしました?」
「……すみません。つい思いあたって言っちゃっただけで知り合いじゃないです………」
「さて、ミントさんは何か無いですか? 私はご存知の通りなので……」
グラッドさんと残りの二人では知ってる素性に違いがあるが……根無し草とはぐれ召喚獣。どっちでもコネがなさそうなことには変わりないだろう。
「……うーん、これ、言っても良いのかなぁ」
しばらくしてミントさんは何か思い当たったらしいけど、なぜか迷っているようで。……機密事項とかか? もしそうならむしろ望む通りだ。いかにも強力そうじゃないか。
「出来れば、言ってくれると」
「……十年前の戦いが悪魔によるリィンバウムへの侵攻だったというのは有名なことだと思うんですけど、その中心である悪魔王と正面から戦って倒した人……つまり『傀儡戦争』の『知られざる主力』が蒼の派閥に居るんです」
「あ、悪魔王に勝った人……!?」
「一応聞いておきますけど、それはミントさんの知り合いですか?」
「いえ――」
「ああ、この話は早くも終了ですね……私達も力不足かもしれませんが、フェアたちの決意を助けるため――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! 私の先輩がその人の先輩でもあり対悪魔王戦にも参加してたんです! ですから先輩……ミモザ先輩経由できっと連絡もつきます! その人は人柄もとても親切で……それはもう悪魔王直々の誘惑にも打ち勝つ程の良い人具合で、聖王国の某所にはぐれ召喚獣のための村を作ろうとしてるらしいですから、竜の子にもきっと優しくしてくれますっ」
「なんですかそれ! 解決したじゃありませんか!」
「悪魔王とその軍勢に勝っちゃった人にすれば、竜の子を欲しがっている程度の組織なんて簡単ですもんね……。ただの旅人のふりをしてここまでいらして、ズバーンとやったら勝利です!」
「じゃあ、私達ではどうにもこうにも無理になりそうになったらその人のお世話になるということで」
「迷惑をかけるのは心苦しいですけど……」
「もちろん私もまず自分で全力を尽くすつもりですよ?」
「……はい。とりあえず、相談というカタチでお手紙を出しておきますね。国営の定期便には相手も手出ししてこないでしょうから、それで」
「いやー、さすがミントさん! 頼りになります!」
「いえいえ……私自身も、もう一度竜のことについて調べてみますね」
「ではわたくしは今後は連絡役としてがんばらせていただきます!」
「私は三人に助言を……今まで以上に慎重に」
「自分は、より一層注意深く巡回するということで!」
「がんばりましょう!」
「「おーっ!」」
カリカリしながら話し合いしてたのが馬鹿らしいほどにあっさりと解決の糸口がみえた。いやぁ、やっぱり意外と何とかなるもんだ。当面の悩みがほぼ解決したおかげで非常に晴れ晴れとした気分だ。
まぁ、解決するワケないですけどね。