サモンナイト4 妖精姫と呑気者   作:なんなんな

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何故か口調が定まらない主人公です。妙に書き辛いです。何故だ……。

台風の影響で近所のスーパーがごっつい値下げをしてました。せっかくなので和牛の肩ロースステーキとピザと瓶コーラでアメリカンな気分に浸りました。


第0話 いつもの朝〜Humming Days〜 ② (原作一話)

 店から続く坂道を下り、街を囲む堀沿いの道を行き、溜池までやって来た。水源の山から近いだけあって、とても透き通った綺麗な水を湛えている。この溜池はかなり古くから有るものらしく、恐らく同年代に作られたのだろう水道橋なんかは途中で壊れてしまっていてる。

 だいたい店とブロンクス邸の中間ぐらいの所だ。そして、街の北からの唯一の入り口でもある。ここから街全体に水が送られており、メインストリートの終着点にもなっている。

 

 となれば、当然住民の憩いの場にもなる。まぁ、この朝早い時間では人はほとんど居ないが。

 

「ぃよう、悪ガキども! 今日も三人お揃いだな。ナオさんも、おはようございます」

 

たった一人、池の縁にいた青年が声をかけてきた。

 

「おはようございます」

「挨拶はいいけど、悪ガキだなんて酷い言いようじゃないの。グラッド兄ちゃん」

「それになんでナオだけ特別扱いなのよ! あたしのたった一歳年上なだけじゃない」

「歳のことは初耳だが……余計に評価を上げなきゃな。たった一歳年上なだけなのに何倍も落ち着いてる」

 

彼はグラッド。この街の駐在兵士……まあ、警官みたいなものだ。いわゆる好青年で、フェアたちの兄貴分。話したことは何度も有るが、本人の言うとおり私についてはほとんど知らない。だから少しよそよそしいところがある。

 というのも、私のちゃんとした情報を知っているのは五人しかいない。フェア、リシェル、ルシアンの三人と、姉弟の世話係のポムニットさん。そしてこれから野菜を貰いに行くミントさん。他の人たちには、私は元は旅人だったということで話を通している。『荷物を盗まれて途方に暮れていた所をフェアに拾われた』というストーリーだ。

 

「買い被りすぎでしょ。いつも眠そうにしてるだけじゃない」

「いつもはともかく、今は実際眠い」

 

こっちに来てからというもの、スローライフをとことん満喫してるからなぁ。そりゃ力の抜けた表情にもなるし、父親譲りのタレ目がそれをさらに際立たせるんだろう。

 

「はは……。朝早いですからね。これから仕入れか? フェア」

「うん。そう言う兄ちゃんは朝の見回りよね」

「おう。朝昼晩三度の見回りは駐在兵士の義務だからな」

「朝からご苦労さまです」

「ありがとうルシアン。まぁ、今は休憩中だけどな」

「それに仕事なんてほとんど見回りだけだもんね」

「その数少ない他の仕事の原因はたいていお前ら三人なんだからな」

「三人って、だいたい姉さんが暴s――」

「良かったじゃない、散歩するだけで給料もらってる詐欺師にならなくて済むんだから。あたしたちがいなかったら自分で自分を牢屋に入れなきゃならなかったわよ?」

「そういうことなら軍人なんて全員詐欺師になっちまうのが理想の世界だよ。それほど平和ってことだからな」

「そうだよリシェル。人生、平穏が一番! こつこつ働きながらまっとうに生きる! それが一番なのよ」

「こだわりだもんね。フェアさんの」

 

『まっとうに生きる』というのは、フェアが常々言っていることだ。これもやっぱりクズ親父の影響だという。フェアの父親は、リシェルと比べ物にならないほど重度のトラブルメーカーだったらしい。

 

「何言ってんのよあんたたち! 若いうちからそんな年より臭いこと言っててどうすんの。そんな小さく纏まってちゃ、ちっぽけな人間にしかなれないわよ!」

「リシェルは常にはみ出しまくりよな」

「周りの迷惑も考えてよね」

「むきぃーっ!」

「ははははっ。……まぁ、フェアたちの言うことはちょっと草臥れすぎてるけどな」

「ちょっ……」

「ほら見なさいっ!」

「けど、リシェルも、もう少し自分の立場ってものを考えなきゃダメだぞ。ポムニットさん、いつも謝ってばかりでかわいそうだろ?」

「……ふんっ! フェア、早く行きましょ!」

「ちょ……っ! 服引っ張らないでよぉ、リシェルっ!?」

「うはぁ……怒らせちまったか」

「すみません。姉さんも分かってはいるんだけど……」

「あの年頃の女の子は色々と難しいもんだからなぁ。俺んとこの妹もそうだったしな」

「男女関わらず、十代半ばってんは周りへの批判で自己を確立させるから。男の場合はその表現が分かりやすいことが多いってだけで。……あの二人はその"周り"が大きすぎるせいでちょっと極端なことになってると思う」

 

保健の教科書の受け売りだがな。

 

「……旅に出る前は学者とかしてました?」

「んー、どうだろう」

 

日本の学生はこっちで言う学者に入るのだろうか?

 

「ルシアン、ナオ! 早く来ないと置いてっちゃうわよーっ!!」

「じゃあ行くか」

「失礼します!」

「おう。またな」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 メインストリートを街の南端近くまでズンズンと進み、脇道をこれまた街の端まで進むと、今回の目的地であるミントさんの家に到着となる。色とりどりの花や野菜が植えられた庭と温室が目立つ、なかなか立派な家だ。

 

「おはよう! ミントお姉ちゃん。今日の分の野菜もらいにきたよ」

「おはよう。三人とも。ナオさんも」

「おはようございます」

「へへへ、オヤカタもおはよーっ♪」

「ムイッ♪」

 

 ミントさんは『蒼の派閥』という組織の召喚士で、専門は獣界メイトルパ…簡単に言えば自然属性っぽいモンスターがいっぱい居る世界だ。研究テーマは異界の植物。庭や温室はそのためのもので、フェアに渡しているのはその実験の成功作。彼女の容姿は、サラサラの金髪に碧眼、きめ細やかな白い肌、そして巨乳…と非常に優れており、街の若い男から半ば信仰に近い好意を寄せられていたりする。先程のグラッドさんもその一人だ。

『オヤカタ』はミントさんの召喚獣で、『テテ』という種類の小型幻獣。庭の番をしていて、『ムイ』という鳴き声で話す(?)が、ミントさんはその意味を完全に理解している。召喚の際に意思疎通の術も組み込んだらしい。フェアたちもオヤカタと軽い会話ならできるが、こっちは経験として学んだものだ。犬の尻尾みたいな感じで。ちなみに私は分からない。

 

「お野菜はいつものとこに置いてるからね」

「は〜い。行きましょリシェル」

「うん!行くわよルシアン」

 

 野菜はいつも裏の水場で冷やしてある。溜池からの水ではなく、わざわざ掘ったものだ。

 

「さて、じゃあ……『ボクス』」

 

ポーチから灰色の宝石…機界のサモナイト石を取り出し、召喚を行う。現れたのは箱型のロボット。元々は小型の自走砲みたいなものだが、改造の自由度が高く、搭載されている人工知能も実直で扱い易い。私の場合は元々四本の脚を六本に増やしている。ここ、トレイユの街は全体が緩やかな坂になっていて、店はその一番上にあるため、普段は輸送に重宝している。

 

「召喚も随分と上手になりましたねぇ。魔力の無駄が殆どないです」

「言っても存在[ユニット]召還ができるだけで、召喚魔法とか強制術はからっきしですけどね」

 

 召還術には三つの基本技のようなものが有る。

 一つはユニット召還。異界の住人をこの世界に迎え入れる技だ。これによってリィンバウムに来た存在は『召喚獣』と呼ばれ、私も"本来なら"そう呼ばれる。

 一つは召喚魔法。魔力によって、本来の力を発揮させる技。火事場の馬鹿力を安全かつ意図的に発生させるようなもの、と、私は解釈している。

 最後が強制術。名前のまま、強制的に何かをさせる技だ。これが厄介なもので、召喚獣はサモナイト石を通して強制術による絶対命令を受けるため、暗黙の差別階級にある。それが神獣だろうが大天使だろうが、だ。まぁ、そんな大物を召喚できる者は少ないので極端な例になるけど。

 私の場合は、リシェルが機界の召喚術を行おうとした時に事故で『名も無き世界(無属性とされる)』から来たため、正当なサモナイト石が存在せず、強制術も受けない。が、普通、召還術にはほぼ100%で強制術が使用されている。一般人は私の特殊性とかそんなことは知ったこっちゃない。だから私が召喚獣であることは隠している。

 

「やっぱり不思議ですねぇ。普通は、どれが得意とかは無いはずなんですけど」

「さぁ……でも私は名も無き世界の人間ですから。色々と変だって話でしょ?」

 

『名も無き世界』……無属性のサモナイト石とつながる世界。だが、一部の召還術研究家にしか知られていない世界。というのも、無属性サモナイト石によって召還されるのは、普通は非生物だけらしい。だから、よほど召喚術の歴史と事象に詳しい者でないと無属性サモナイト石は道具の召喚用と認識している。ミントさんも過去の文献を調べてから私の正体に気がついたそうだ。

 

「二人とも、何話してるの?」

 

と、三人が野菜を持って戻ってきた。

 

「私の召還術が変って話」

「ふーん、別にいいんじゃないの? 困ることないし」

「私もそう思ってる」

 

『名も無き世界』の住人は存在自体が召喚事故。そいつが使う召還術が変なのは当たり前だと思う。

 

「う〜ん、今日の分は特に美味しそうね!」

 

野菜のカゴをボクスの上に乗せながら、フェアが嬉しそうに言う。

 

「でしょでしょ? 自分でも大成功かもって思ってたんだ〜」

「今回は何を変えたの?」

「うーん、急に何か変えたってわけじゃなくて、土を研究した成果がジワジワ出てきたって感じかなぁ」

「ミントさんってほんとに土いじりがすきなんだね」

「そりゃそうでしょ。だってそれが仕事なんだし」

「そうねぇ、でも、やっぱり趣味の部分が大きいかな。召還術を勉強してる時から異界の植物には興味が有ったもの。私も、商店の売り子とかだったら続いてないだろうし…」

「いや、似合いそうだけど!?」

「あーあ、それにしても同じ召喚士なのにあたしのパパとは全然違うんだもんなぁ。口を開けばお金だ利益だって、ほんとサイテー! 夢の一つでも語ってみたらどうなのよ」

「私の場合は本部から研究費が出たりしてるから……比べるのはリシェルちゃんのパパが可愛そうじゃないかな」

「それにブロンクス氏は高い地位に有る人。その分しっかり財産を守らないと下の者が路頭に迷うことになる」

 

『蒼の派閥』が研究機関だとすれば、ブロンクス氏の所属する『金の派閥』は企業。しかも、ブロンクス氏の場合はこのトレイユの召還術事情を監視する役割を任されている。仮に夢追い人になりたくなったとしても、そうはいかない。

 

「あたしはキライだもん。お金の計算ばっかりしててさ……」

「リシェルちゃん……」

 

「何やってんのー? 帰るわよー!」

 

いつの間にかボクスを連れて帰路についていたフェアが呼ぶ。そう言えば朝飯もまだだし、急ぎたいよな。ちょっと今日は喋りすぎかな。

 

「もう! 分かってるわよーっ!」

「さようなら。オヤカタもバイバイっ」

「ムイムイッ」

「それじゃあまた…」

「ええ。宿の仕事、頑張ってくださいね」

「まぁ、フェアの手助けぐらいしかできませんけど」

 

 軽く手を振って、先程来た道を帰る。街はそろそろ目覚めようかという頃で、開かれている窓も増えてきた。やっぱりゆっくりしすぎたな。そろそろブロンクス家の人たちも起き出す頃だろうし。




早く竜の子拾うとこまでいきたいです。

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