サモンナイト4 妖精姫と呑気者   作:なんなんな

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お久しぶりです。
敵側に如何にもなオリキャラを入れて行きますが、良キャラにできるようがんばります。


第3話 ドキドキ、はじめての御使い ~A Cutie Angel~ ⑥ (原作三話)

「天使と機界軍団か……」

 

 天使の子を客室の一つに寝かせ、全員がひとまず食堂のテーブルに落ち着いた。そうして始まるのはもちろんさっきの戦闘の反省会だ。

 

「ますます大事ですね」

「でもあの司令官の機械人形は『将軍』ほどの強さじゃなかったから、少し気が楽かな。『剣の軍団』に来られるよりは……」

「な~に言ってるのよ!」

 

 自分でも自信が無かったのか、珍しく弱弱しい調子のフェアの発言は、案の定リシェルに一喝されてしまった。

 

「アレが頭じゃないわ。機界召喚獣の身体は、傷を負ったりすると自分で勝手に治ったりしないの。少しの例外を除いてはね」

 

 しかし今回は勢い任せの『リシェル理論』ではなく、少し神妙な表情だ。

 

「高い技術と知識を持った誰か……つまり機界召還士が居ないと、軍団はすぐにダメになっちゃうわ」

「うーむ、それがあの機界人形だって可能性は?」

「あの機械人形自身も改造されたものよ。あの腕、たぶん全然違う別の大型機界召喚獣から移植改造したものだと思う。規格も質感もあそこだけ、それこそ取って付けたみたいに違うもん。それができる存在が必要だわ」

「こっちに来た時からそうだった――かもしれないけど、機界周りでもう一人は同等かそれ以上の奴が居ると覚悟した方が良い……」

 

 リシェルに目を合わせると、深く静かな頷きが返ってきた。機界召還士、それもリシェルの反応から察するに、機械人形の扱いができるのはかなり高位の者。ミントさんは獣界でも穏やかな分野の若手研究員だし、最悪、ブロングス氏も戦闘となると頼れるかどうか。『傀儡戦争の知られざる主力』さんには、早急に相談ではなく救援要請を出すべきかもしれない。

 

「っはぁ~、やっぱり厳しくなってるか……」

「でも、あの天使の子を保護できたわ。今はそれを喜びましょう?」

「そうですね。ただ待っていたよりは確実に良かったはずです」

「それで、あの子の具合はどうなんだ?」

「寝てる、としか言えないわね」

「一応、目に入った怪我には薬を塗ってみたりしましたけれど……」

「意味が有るのか分からないんですよね」

「確かに息も落ち着いてるけど、そのままスっと消えちゃうかもしれないし。この中で一番サプレスについて経験が有るのがナオという実情よ。ナオ、何か分かる?」

「ルニアは普段実体化してないから……とりあえず何か有れば休養としか」

 

 強いていうなら月の光が良いとか、そんなことを言っていたような言っていなかったような。

 

「まぁ、こんなもんよ」

「こんなもんて」

「何にせよ、今はあの子が早く良くなることを祈るしかない、か」

「さあ、さっき飲みそびれたお茶を楽しみ直すくらいはできるかな」

「ふふ、すぐ用意しますね」

「私もちょっとしたおやつ作るよ」

 

 軽く冗談のつもりで言ったのにポムニットさんとフェアが素早く動き出したせいで、なんだか催促したようになってしまった。紅茶とホットケーキの穏やかな香りと甘みの前では些細なことだが。

 

 しばらく経って見回りの仕事のためにグラッドさんが席を外し、ミントさんもそろそろ帰ろうかと立ち上がったところで二階からドタンと物音がした。たぶん、あの天使が居る部屋のあたりだ。

 

「……起きたか」

「さっそく行ってみる?」

 

 あまりたくさん行って威圧してはいけないからと、私とフェアが向かう。扉の前までやってきた。シーンと静まって、警戒しているようだ。フェアは私をちらりと見てから、軽くノックしてドアを開けた。

 

「入るわね? 具合はど――」

「近づかないで!」

「!?」

「私とて御使いの端くれ……立派に散る覚悟くらいできていますわ」

 

 不穏な言葉の意味を問う間もなく天使の身体が強い光を放ち始める。漫画やアニメの爆発演出のようだが、おおかたそれで間違い無いんだろう。

 

「傲慢にも魔力拘束は愚か結界さえ怠った己を省みながら転生の環に還りなさい!」

 

 ともかく危険。フェアと私は大慌てし、姿勢を低くしつつ、さっき潜った扉から逃げ出した。そしてその頭上を飛び越えた小さな影が一つ。ミルリーフだ。

 

「ピギャ!!」

「……え」

 

 つられて振り返れば、光もおさまって何やら呆けた様子の天使。「御子様……」と、呟きながらミルリーフを見つめている。

 

「落ち着いた……んかな?」

「とりあえず、色々と訊きたいから下まで来てくれる?」

 

 フェアの問いにさっきと打って変わって天使は黙って頷いたが、その中により強い敵意が見えた気がする。どうにも天使というものは想像と違う生き物のようだ。

 

「はい、お茶をどうぞ。喉も乾いているでしょうし……」

「………」

 

 ポムニットさんが本日十数杯目の紅茶を置く。天使はそれを知らん顔。神妙な表情で食堂の席に座ってくれたは良いが、今度はそのままムッツリと黙り込んでしまった。

 

「それで、まず、貴女は何者……というかなんというか、名前は?」

「ふん、白々しい猿芝居もいい加減にしなさい」

「!?」

「私は誇り高き御使いにして智の天使リビエル。如何なる詰問にも屈しませんし、とりわけそんなアップルパイのチョコフォンデュのように甘々なお芝居にはひっかかりませんわ」

「ちょっと、何言ってるの?」

「だから通用しないと言っているんですの、おバカさん。埒が明きませんからあえて言ってあげますけど、あなた方が軍団の一味だということはお見通しですわ」

「な……」

 

 したり顔の天使の周りで、皆ポカンとしてしまう。この天使、リビエルは自らを智の天使と称したが、恩は知らないようだ。 

 

「軍団って、あの機械人形たちのことで良いんだよね?」

「他に何がありますの」

「私どもはそれと戦って、あなたを助けてここまで運んだんですよ」

「ええ。薄っすらと覚えていますわ。私を油断させて、秘密を訊き出そうという魂胆でしょう」

「そんな――」

「そ・し・て、たとえ軍団と関係無かったとしても、私は人間という種族自体を信用していませんので。御子様も捕らえられてしまった今、私には何も出来ません。しかし、あなた方の思惑通りになることも絶対にありませんので」

「あんたねぇ……」

 

 リシェルでさえ呆れて上手い言葉が出ないないほどの頭の固さである。仮に、本当に敵だったら全く余計な責め苦を招きかねない態度だ。

 しかしこの相手にも穏やかに言葉を選んで接することができる辺りはミントさんの凄さだろうか。

 

「……リビエルさん、私たちだって、偶然この子を拾って、あの軍団とも戦って、これからどうすればいいか困っているの。貴女がこの子の保護者——」

「『御使い』……御子様にお仕えする者ですわ」

「そう。その立場なら、喜んで協力したいと思ってる」

「その、なんと言うかさ、この子、ミルリーフに免じてちょっとは信用してくれないかな?」

「ピィ!」

「………」

 

 さっきもそうだったけど、ミルリーフが前に出たとたんスッと態度が変わった。ここで一押しできれば……。

 

「……『御子様』と崇めてるみたいだけど、じゃあ、その御子様は然るべき相手を見抜けないほどマヌケ?」

 

 虎の威を借るありきたりなセリフを言ってみる。ミルリーフに限っては、そういう力も本当に持っているようだが。

 

「………分かりました。あの軍団に対抗するため、手を組みましょう」

 

 リビエルは観念してため息をついた。フェアも同じく息を吐いたが、こっちは安心の意味だ。

 

「やれやれ。じゃあ、気を取り直して、色々と教えて欲しいことが有るんだけど……ってより、まずこっちのことを言っておくわ。私がこの店の主人のフェア。それにこっちのリシェルとルシアンは姉弟で、リシェルの方は機界の召還士よ。それで――」

「私はナオ。『名も無き世界』からの召喚獣」

 

 リビエルは少し驚いたようだった。どこからどう見ても普通の人間、というか実際普通の人間の私が召喚獣だとは思わなかったのだろう。フェアも私がそうやって白状したことに驚いたようだ。だけど、相手も異界の存在で、何より今は信頼を得たいところ。嘘をついていては始まらない。フェアもそう思い当たったようで、すぐに話を続けた。

 

「そう……それで、この四人が、あの丘でミルリーフと出会ったってワケ」

「そして、お嬢様とお坊ちゃまの世話役であるこのポムニットと」

「獣界召還士の私、ミント……今ここには居ませんけど駐在軍人のグラッドさんが協力してあの軍団と戦っていたんです」

 

 信用しているかはともかくリビエルは一通りこっちの話を静かに聞いていた。そして、その分は返すということか、少しだけためらった後話し始めた。

 

「……『御子』様は、『ラウスブルグ』を守護する偉大な竜の後継者。そして私たち『御使い』はその補佐としてラウスブルグの平穏を支える役目を仰せつかっている者です」

「ラウスブルグ……ってのは?」

「メイトルパの古い言葉で『呼吸する城』ですよね」

「そうです。召喚獣たちの集落と理解しておいてください」

「ふーん……、そのラウスブルグの次の王様が、なんだってこんなところに吹っ飛んで来たの?」

「それは……ちょっとした事故ですわ」

 

 リシェルのもっともな疑問に、リビエルは僅かながら明らかに同様した。ひょっとして彼女のミスが原因なんだろうか。御使いとして御子様の卵の世話を言い渡されていたのにちょっと目を離した隙に……とか。変身だってなんだってできる、このファンタジックな世界でもぶっ飛んでファンタジックな存在である至竜だ。卵が一人で動き出すなんて、どうしてその可能性を否定できるだろう。

 

「ともかく、つまりミルリーフの親や故郷がはっきりして、迎えも来たって状況ね」

「そういうことですわね」

 

 根本的な問題は解決したっぽいということだ。根本的な問題が解決、って普通なら凄い進歩なんだけど……

 

「ただ、やっぱりあの軍団が」

 

 目先の問題の方が大きすぎる。

 

「現にこの天使はやられちゃってたもんねー」

「ぐっ……それは………」

「私たちもできるだけ協力して送り届けるわ。だから、あの軍団について教えてくれる?」

「私も、詳しくは分かっていないのですけれど」

 

 フェアの真っすぐな瞳に、リビエルも少しは心を開いたようで、いや、そこまでは行かずとも少なくとも敵ではないと理解してくれたようで、さっきよりも柔らかい雰囲気で答えた。

 

「敵は首領とその直轄らしき集団、そして人間の軍団と、メイトルパの召喚獣の軍団と、サプレスとロレイラルの混成部隊で動いています」

「人間の軍団が、将軍。獣界はまだ見てないとして、霊界機界の一部が今日のアイツら……」

「そう。主に私を追っていたのはその軍勢で、ロレイラルの召還士である老人、『教授』とサプレスの召還士である『ロータス』が束ねているみたいですわ」

「ほらやっぱりあの機械人形が頭領じゃなかった!」

 

 リシェルはほら見なさいと鼻を鳴らした。

 

「喜べる話じゃないけどね」

「搦め手のサプレスと破壊力のロレイラルの合わせ技だもんね」

「幸い、教授と違って、ロータスは軍勢として召喚獣を周りに置くことは殆どしませんわ。悪魔はいつ何時裏切るか分かりませんから。それは使い手である彼女が一番よく分かっているのでしょうね。契約も時に詭弁で捻じ曲げますし」

 

 目的……は、訊くまでも無いか。力を持った竜の子供。それが何かの事故で親のもとから離れたとなれば、大きな力を手に入れるまたと無いチャンスだろう。

 

「迎えが来るまでなんとか耐えられますでしょうか……」

「将軍は手加減してくれるけど今日の機械人形は容赦無し、って感じだったわ。その分弱かったけど、それはまだ下っ端だからよね。『教授』の性格次第だね……」

「ロータスの方は?」

「敵意も、実際に追い詰めるつもりも殆ど無いようだけれど、悪魔使いらしく戦闘や混沌そのものを楽しむように大暴れしますの。一たび動き出すと大変ですわ」

 

 めんどくさいヤツか……。

 

「『御使い』って何人か居るんでしょ? それをアテにしても良いわよね」

「え、ええ……御使いの中で、私は一番弱いくらいですわ。他は武術の達人やラウスブルグ一の戦士など……」

「それなら心配無いよね。他のラウスブルグのひとたちも、ミルリーフのために戦ってくれるだろうし」

「そうね。少なくとも、際限もなくアイツらと我慢比べすることにはならなそうで良かったわ」

 

 一度やると決めたこと。困難を見つめるのも大切だが、可能性や進歩を口に出して自分や周りを鼓舞するのはもっと大切だ。適材適所、いざという時の備えは私やミントさんに任せてリシェルにはこれからも能天気でゐて欲しい。新しい面倒を持ち込むのは勘弁だけど。

 

「じゃあ今後は他の御使いが素通りしちゃわないように、今日みたいにちょっと探してまわればいいのね」

「そうだね。それを明日からがんばることにして、今日はもう解散してしっかり休もっか。戦いも有ったし」

 

 気付けばもう空の端が少し赤らんできている。そうではないことを祈るが明日も騒動が有るかもしれないし、無くても普段の仕事が有る。ミントさんの言う通り、ちょっと早めに寝支度をするのが良いだろう。

 

「フェア、コイツもここで泊めていいわよね」

 

 そうして席を立ち、思い出したようにリシェルが言った。

 

「コイツ、って、あなたねぇ……」

「あはは、まぁ、良いわよ。どうせ部屋は余ってるし」

 

 言葉遣いはともかく、元々それ以外に選択肢は無い。フェアはすぐに了承した。この天使から宿代や食事代を取れる期待は無さそうだけど、私もちょっとしたバイトくらいの働きで生活の面倒を見てもらっている身。このことについて意見はしなかった。できるなら良い隣人として関係を作っていきたいものだ。





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