竜の子はミルリーフに決定しました。恐らく次話で登場です。
「おっすーアタシが来たわよー」
無駄に威勢の良い挨拶の主はやはりリシェルだった。親に怒られようが何だろうがこうしてやって来るのは、よっぽどフェアのことが好きだからなんだろうなぁ、と、微笑ましい気分になる。
騒がしい奴が来た、という気分と大体プラマイ0だ。
「あぁ、来たなぁ」
「何よそのうっすい反応。もっと喜びなさいよ」
「お嬢様ぁ……朝もご迷惑をおかけしたのですから、もう少しぐらいしおらしくなさっても……」
「うるさいわねぇ。アタシは悪くないんだから反省なんて必要ないの。それより、フェアはどこ?」
「いつもの通り」
視線で裏庭の方を指す。
「まったく、店ほったらかして遊んでるなんて呆れるわね〜」
「リシェルに呆れられるなんて私もそろそろダメかもしれないわね」
「あ、フェアさん」
裏庭の方からではなく店の中から現れた。どうやら、土間で軽く顔を洗ってきたみたいだ。
「お客さんが来ない時間だからやってただけよ。それにナオにも店番してもらってたし」
「バッチリ」
「バッチリお茶してたわね」
「コーヒーだが?」
「言葉の綾よ」
「『言葉の綾』って便利な言葉よな」
「だけど、すごいよねぇフェアさんは。どんな武器だってすいすいってキレイに操っちゃうんだもん」
私とリシェルの揚げ足取り合戦をルシアンが遮る。当事者の私が言うのも何だが、気苦労の絶えない子だなぁ。
「そ、そぉ……?」
そしてフェアは嬉しそう。全体の意味は無視して『キレイに』という言葉に反応してるっぽい。
「ホントよねぇ。大鉞もモーニングスターもぶんぶん力強く振り回しちゃって。剣に振り回されちゃうアンタとは正反対だわねぇ」
「う……」
「…………」
「力強いですねぇ」
リシェルお得意の余計な一言にポムニットさんの無意識の追撃。ルシアン君のフォローは見事に別の火種を産んでしまった。
「……言っとくけど、クソ親父に子供の頃から有無を言わせず叩き込まれたせいだからね。みんながお人形を抱っこしてる間、私は剣握らされてたんだから」
「自分の意思じゃなかった割には今でも続けてるじゃん。もっと女の子らしいことしてもいいのに。実は結構好きなんじゃないの?」
「しゅ、習慣だよ! やらないと何か調子が悪くなっちゃうの」
調教されてるなぁ……。
「それに気晴らしにもなるし。……あと、ちゃんと女の子らしいこともしてるからね! お裁縫とか、お料理とか」
「じゃあ最近何縫った?」
「……布団の端の解れ直し」
「得意料理は?」
「パイ包みシチュー」
「…お母さん」
「お母さん!」
「……」
「痛っ」
「ちょっと、叩くことないでしょ」
「あるわよ。これでもちょっと気にしてるんだからね!」
「だ、大丈夫ですよ。ステキなお母さんになれますよ」
ポムニットさん……それフォローのつもりなのか?
「あはは……。あ、そう言えばフェアさんって召喚術も使えるんでしょ?」
そしてまたルシアンの唐突な話題転換。このメンバーで話すと大体このパターンだ。何かもう様式美のように感じる程だ。
「まぁ、そこそこ…」
「そこそこも何も素質無いじゃん」
「無いことないわよ。四属性の召喚術全部使えるんだからね」
「そのかわりどれもしょぼいでしょ。……まぁ、呼び出すしかできなくて召喚魔術使えないナオよりマシだけど」
「いや、でも私も四属性全部使えるし契約の儀式もできるから素質は…」
「使える属性の数イコール素質じゃないのよ! 契約の儀式も術式さえ覚えてれば難しくないし。あーあ。どうしてこうアタシの弟子はダメダメなの」
「弟子だったんだ、私たち」
「そりゃそうよ。アンタたちに召還術教えたのはアタシなんだから」
「だからダメダメ」
「納得ね」
「………」
「で、でもでも! フェアさんもナオさんも、もっと練習すればきっと強い召喚獣も呼べるようになるんじゃない?」
本日三度目ということでルシアンは私の脳内ハットトリック達成だ。
「うーん、それはべつにいいかな」
「えー、どうして?」
「強いの呼んでもすること無い」
「別に研究者でもないしねぇ」
店の手伝いならそれこそルニアやボクスくらいの能力があれば十分だ。
「便利じゃん」
「便利って言っても多分、強い召喚獣ほど付き合いが難しいもの。やっぱりその辺は専門の召喚師の仕事だよ。エルゴで服従なんてのも性に合わないし」
「ホントはこれ以上強くなったらただでさえ縁のない男ドモが余計に引いちゃうからでしょ?」
「リシェル、サモナイト石に魔力を貯めて詠唱して召喚獣を出すのと拳を振り抜くの、どっちが速いと思う?」
「ごめん」
「まったくもぅ。わざわざ煽りに来たの?」
勢いのせいかフェアの言葉に少々刺が有るが……リシェルは淀みなく答える。
「違うわよ。アンタたちにはこれからちょっと付き合ってもらおうと思ってたの」
「別に良いけど、どこに?」
「散歩よ、散歩。町の外まで星を見に行くの。ナオも良いわよね」
「どっちでも良いけど、何でワザワザ外まで?」
ここから眺める夜空と仄かな街の灯りも中々趣のあるものだと思うのだが。それに、町の外ともなるとちょっと危ないかもしれないし。
「何か姉さん、そういう気分なんだってさ」
「気分ねぇ……」
「年頃の女の子にはそういう時間も必要なのよ」
「そういうものなの?」
「私には分からない」
星を眺める若者なんて天文部と中二病患者ぐらいじゃないのか?
「あのねぇ……朝にも言ったけど、仕事に稽古、仕事に稽古の繰り返しばっかりで何の刺激も感度も無く過ごしてたらあっという間におばちゃんっぽくなっちゃうわよ。ナオなんかおばちゃん通り越しておばあちゃんっぽいじゃない。すぐ眠くなるし反応薄いし」
「何でリシェルは息吐くように毒吐くのん?」
「……確かに、そう言われるとちょっとは刺激も必要かも」
「突然の友軍攻撃で私の心はボロボロ」
「ナオもさっき私のこと『お母さん』って言ったでしょ」
「じゃあさっさと準備して出発するわよ!」
「うぇ〜い」
「はいはい、分かったわよ」
その準備というものがなかなか物騒で…。
ここまで触れなかったがルシアンは片手剣と盾を装備しているし、リシェルはロッドと…恐らくいくつかのサモナイト石を持っている。それも私が喚ぶような小型のモノではなく、レーザーや回転刃くらい付いてるそこそこの危険度のモノ。そしてフェアも使い慣れた剣を腰に提げて来るだろうし、私もフットマンズフレイルを担いで行く。
これらは盗賊とかならず者を撃退するためという意味も有るが、そもそも寄せ付けないための威嚇でもある。
「お留守番は私めにお任せくださいまし」
「よろしく。ポムニットさん」
程なくして私たちは店を後にしたのだが……『名も無き世界』の常識を持つ私には、若者の気分転換というより武装集団の遠征のように見える。やっぱり日本ってすごい国だったんだなぁ、と、改めて実感した。
主人公の口調忘れてて大変でした。