進行速度の遅さは見逃してください…
……き……
4月1日、朝。
今日は秋葉原に出かける予定が入っている為、普段より早めに目覚ましをセットしていた。
具体的には5時くらいに。
……起…き……
薄目を開けて確認すると、真っ暗な部屋が目に入る。
つまりまだ朝ではないのだが…
…い…加減…き…!…
どうも先程から耳鳴りが止まない。
ひょっとして風邪でも引いたんだろうか。
昨日歌いまくって喉がやられたか…
『いい加減起きろ!』
「Wasshoi!」
部屋の中に大声が響き、慌てて起き上がる。お蔭で忍殺語が出てしまった。
壁掛けの時計は暗くて見えない為携帯を開くと、時刻は午前4時。
目覚ましをセットした時間には1時間ほど早い。
「……夢か……」
いきなり大声で怒鳴られて終わるとは不思議な夢もあった物だと思いながら、二度寝の体勢に入る。
「夢じゃないよ」
「!?」
まただ。
先程と同じ声で、今度は後ろから囁かれている。
どうする茅野咲。
後ろを振り向くか、否か…
「ええい、男は度胸……あれ?」
意を決して振り返ったものの、そこにはいつもと変わらない本棚とラックがあるだけだ。
中学入学と同時に集め始めたラノベと玩具はかなりの数で、本棚もラックももうすぐ完全に埋まり切ってしまう。
「いや本棚はどうでも良くて…」
兎に角今は先程の声の主を探すのが先だ。
あれが幻聴だとしたらどうしようもないが、確かに「夢じゃないよ」と子供の声が聞こえた。
とすれば…
「ここか?」
机の下をのぞき込む。
何も居ない。
強いて言うなら少し埃を被ったノートなどがある。今度掃除しよう。
「こっちだって」
「……え?」
また聞こえた。
今度の方向は……ミニ社の方だ。
反射的に振り返るとそこには居たのは――
「……何だコレ」
――人ではなかった。
何やら白い球のようなものが浮いている。
球と言っても実体があるようには見えない、要するに光の玉的な奴だ。
「……まさか、お前が?」
「お前とは失礼だねぇ。これでもれっきとした神様なのに」
「少なくとも俺には只の光の玉にしか見えん」
最近は科学が進んでいるのだ。
特に最近は小型のドローンだってある。
こんな下らない悪戯をする奴がいても何ら不思議では無い。
「うーん困ったねぇ…となるとアレやっちゃうか…いやでも…」
ブツブツと呟きながら何かを考えているらしい自称神の光の玉。
なんだこの胡散臭い呼び名。
「よし!じゃあこうしよう!」
「何をどうするんだよオイ」
「ご両親に挨拶する」
「ハァ!?」
いきなり何言いだしてんだこの神(笑)。
てかそもそも…
「神だのなんだの、嘘吐くのはいい加減止めろよ。体が痒い」
中の人は相当な中二病患者か、はたまた只の暇潰しか。
何にせよ聞いててイライラする。
俺の信じてる二次元神様に乗っかってんのも気に食わない。
いや俺が重度の中二病なのは置いておいて。
「だから正真正銘神様だと……あ、じゃあこれでどう?」
「これでどう……って……?」
そう言うと神モドキは光を増し、その体(?)から腕を生やし、見せびらかすようにひらひらと手を振る。
……腕?
「あー……まだこんだけしか無理か……まぁいっか♪」
「良くねぇよ!何だよこれ!気持ち悪いわ!」
光の玉から人間の腕が生えている光景は中々に強烈で、ゴリゴリとSAN値が削られていく。
「あーしんどい……これ結構疲れるんだよ……で?どう?信じてくれた?」
腕をしまうと、まるで悪戯に成功した子供のような無邪気な声で問いかけてくる神。
流石にこんなもん見せられたら認めざるを得ない。
……認めるとしたら、だ。
「……ひょっとしなくても、二次元神様?」
「そうだよ?てかそれ以外に誰か居るの?」
さらりと答える。
そしてその声を聞き、脳が現実を受け止め始めると同時に俺の心臓は音を増していく。
ずっと祈り続けた、信じ続けた神様が今、目の前にいる。
それだけで胸が熱くなり、何も言えなくなった。
「ふぅ……ゴメン、もう限界」
「え?」
そう言うと神様は、社の中に吸い込まれるように消えてしまった。
「ちょ、待ってくれよ!聞きたい事は山ほどあるんだ!」
「あーハイハイ、話だけならできるから落ち着いて…」
社から声が響いてくる。
姿を現す限界だったのか。びっくりした。
「とりあえず何から話そうか…とりあえず、私……いや僕の方が良いかな?うーん…」
「どっちでも良いから話を進めてくれ」
さっきからワクワクが止まらない。
非日常が目の前に居るのだ。興奮しない方がおかしいだろう。
「じゃあ僕で行こうか。……ゴホン、とりあえず自己紹介だね。僕は二次元の神。君の祈りから生まれた存在。ここまでは良いかな?」
「ハイ質問」
「なんだい?」
「俺一人の願いで神様できちゃうの?」
たかだか人間1人の願いでできるとしたら、今頃世界中神様だらけだろう。
あ、でも日本には八百万人も神様が居るんだっけ?。
「君の祈りは特別強かったからねぇ……普通二次元行きたいなんて願い、三年持てば良い方なのに」
「そうなのか?」
「人の願いの力は強く、無限の可能性を秘めているんだよ。但し……」
「但し?」
もったいぶるように言い淀む神様。
「問題は「願いを継続できる人が居ない」と言うことだ」
「……?」
「まぁ要するに、特定の神の存在をずっと信じ続ければ神様はできちゃうんだけど、その信じ続けることが出来る人が居ないって事」
つまるところが集中力の問題らしい。
俺はそこまで集中力がある方ではなかったと思うのだが……
「ああ、集中力とかそういうのじゃなくて……何て言うかな。信仰心?心の問題?うーん……」
考えていたことを読まれた。
神だけあってどうやら心を読む能力はデフォで搭載されているらしい。
「まだ僕産まれて二年だからねえ…神の中ではひよっこの中のひよっこの中のひよっこの中のひよっこみたいなもんだし、まだ分かってないことも多いんだよ。今は勉強中、かな?」
語尾が疑問形なのは大丈夫なんだろうか。
「さて、まぁ大体分かってくれたと思うけどここで質問です。二次元「行きたい!!」……即答かい」
当たり前だ。
てか二次元行きなんてオタクの夢だろJK。
俺は6年間毎日欠かさず願ってきたんだ。
「ふむ、意志はある……第一関門突破。じゃあ次の質問だ」
「おう、何でも来い」
「ん?今何でも」
「(そういう意味じゃ)ないです」
「やっぱりホモじゃないか!」
「違えよはっ倒すぞ」
ネタを振ってきたのは向こうだ。
「えーと……第2の質問。この世に未練はあるかい?」
「未練……?」
「たとえばホラ、リア充になりたかったとか、食べておきたいものとか」
「それが転生に関係あんのか?」
特にそんな欲望は無かったが、一応聞いておく。
彼女が欲しいかについてはまぁ……ノーコメントで。
別に欲しくてたまらないという訳じゃないしな。
「大アリなんだよこれが。もしこっちに少しでも未練が残ってたら……」
「残ってたら?」
「その未練を果たすために必要な部分だけがこの世に留まる。要するにさっき言ったおいしい物食べたい、とかだったら、頭まるごとと腕一本……まぁそんな感じで部分的に留まるんだ。しかもその状態でも死ねない」
「なにそれ超怖い」
軽く想像してみる。
頭と腕だけになった俺が食べ物を求めて彷徨う……吐きそう。
「あ、そうそう、親御さんについてはどうすんの?」
「え?」
「だって別の世界に行くんだよ?もう会えないんだよ?」
「……あぁ……そっか……」
――ふと。
この18年の人生を振り返ってみる。
小さいころの記憶はもう殆ど残っていないが、良く遊んでいたことはぼんやりと覚えている。
我ながら無邪気だったものだ。
「まぁ何だ。君だって人の子だし、親と別れるのは辛い物があるだろう」
「……まぁな」
何だかんだで幸せな家庭だった。
「それと二次元、天秤にかけてよーく考えてみるといい。明日までは待ってあげるからさ」
その言葉を最後に、声も聞こえなくなる。
活動限界だったんだろうか。
「家族と自分の新たな人生、どっちを取るか……ねぇ……」
ベッドに倒れ込み、考える。
二次小説の主人公はこうやって悩むことはなく、大体即決でホイホイ転生してしまうが……
……俺は、どうしたいんだろう。
平凡に、だがそれなりに幸せなまま、一生を終えるか。
今の全てを捨てて、新たな人生を歩むか。
――答えは、直ぐには出せそうにない。
つ、次の回で転生します!
…多分。
ご指摘等々、お待ちしております。