素敵な言い回しができる作者さんは本当尊敬します。
「……目、覚まさないな」
『その様ですね』
「……」
『……』
「…………覚まさないな」
クラス代表決定戦の後気を失ってしまったオルコットさんは医務室に運ばれたのだが、夕方になっても目を覚まさなかった。
衝撃による一時的なものだと先生は言っていたが、原因を作ったのが俺である以上ここで待つ必要があると判断し、こうして傍の椅子に座って目を覚ますのを待ち続けている。
「まさかマキシマム一発……しかもフルチャージじゃないのにあんな威力が出るなんてな……地味に俺自身へのダメージもあったし」
『私の特性上それは仕方の無い事です』
「いやでも……その、何て言うか……」
『…………ご自分の力に呑まれそうになる、と?』
「……ああ」
一次移行して初めて分かった。
「変身」した状態でのコイツの力は予想を遥かに上回っている。
いつかまた今回と同じ……いや、今回以上の事が相手の身に起こったら……
「……どうすりゃいいんだ?」
要するに自分は浮かれていたのだ。
人智を超えた力を得て、相手を倒して……
そんな自分に酔っていた。
これが主人公なのだと。
だが現実はどうだ。
仮にも自分より年の低い女の子をチート使って倒して。
その挙句気絶させた?最低のクズ野郎じゃねえか。
「……試合の時は、こんな事思わなかったのにな……」
『それはISのサポートによる精神高揚が「そうじゃなくて!」……』
「……あの時……変身を解除した時にさ、いきなり怖くなったんだよ。それまであんなはしゃいでたのが嘘みたいに」
『……』
「……やっぱ俺、主人公には向いてな『お言葉ですが』……んだよ」
『これは少し私のキャラから外れてしまうのですが……そんな事を気にしてウジウジして凄く気持ち悪い、と言わせていただきます』
…………!?
「なっ……ハァ!?何だ今の声!?どっから出した!?」
『大体君は転生前からそうだ。あれかい?ひょっとしてハーフボイルドでも演じてるつもりなのかい?この翔太郎モドキ』
「てめェ……言わせておけば好き放題ペラペラと……!」
突然声が変わり、あろうことかフィリップの声で俺を罵倒し始めた。
あのジャーヴィスが、だ。
いつもの紳士然とした態度は何処へやら、完全に別人……いや別ISである。
『……以上が私の本音です。驚かれましたか?』
「当たり前だろ……」
『そもそも咲様はどうでも良いタイミングで鬱を発動される傾向にあります。振り回される側の身にもなって下さい』
「辛辣すぎやしませんかねジャーヴィス君……」
とは言え罵倒され続けたお陰?かは知らんが、少し気が楽になった。
女の子1人気絶させといて楽になるも何も無いわけだが。
「……んぅ……?ここは…………って茅野さん?」
「申し訳ありませんでしたッッッ!!」
「え、いやあの、え?」
「調子に乗って武装破壊してすいませんでした!おちょくってすいませんでした!挙句の果てに気ぜ――「ストップですわ」痛い!」
オルコットさんの目が覚めたので土下座で謝罪の言葉を述べ続けていたらグーで頭を殴られた。
言うほど痛くはないが強いて言うなら心が痛いです。
「……あれは全て私の慢心が招いたことですわ。貴方に非はありません」
「いや、でも……」
「そもそも代表候補生たる私が、一回や二回気絶させられた程度で恨むとでも思ってますの?もしそう思っているのであれば……」
「いや思ってない思ってない!いやぁさすがイギリスの誇る御令嬢懐が広い!」
「……調子が良いんですのね」
「い、いやぁ、ハハハ……」
…………
ど、どうしよう……
ここからどう話を繋げばいいのかさっぱり分からん……
謝罪……は幾らしてもし足りないがあっちからしたら迷惑だろうし……
普通の女子のクラスメイトと話したことなんてほとんど無いからなぁ……
「……私、男の人が大嫌いでしたわ」
「え?」
悩んでいたら向こうから助け舟を出してくれた……のか?
椅子に座って向き合い、耳を傾ける。
◆ ◆ ◆
――その後、オルコットさんの身の上話を聞いた。
家の発展の為に力を尽くす母親に憧れていたこと、そしてそんな母親に対していつも腰の低い態度をとっていた父親を嫌っていたこと。
そして――その両親は列車事故で亡くなってしまったこと。
母の様になりたい一心で勉強を重ね、遺産を守ってきたということも聞かされた。
そうして暮らすうちにますます父への憤りは増し、男嫌いの性格になってしまった……と。
「……急にこんな話をして申し訳ありません」
「いや、その……こちらこそごめん。辛い話させちまって」
「だから貴方は……ハァ、言っても無駄でしたわね」
「あっ……」
また俺が謝った事に対し溜息をつくオルコットさん。
そうは言っても謝る以外にどうしたら良いか分からないのだ。
「……その親父さんがどんな事を思っていたかは俺には分からないけどさ」
「……?」
「頑張ってる妻を支える夫って……なんか凄い格好良くないか?」
「な……!あ、あの人は……」
「俺だったら多分劣等感で潰れちまうよ、そんな事してたら。でも親父さんはISが世に出る前から奥さんを支えてたんだろう?立派なもんじゃねぇか」
「……」
……ハッ!
「わ、分かったような口利いてスマン……忘れてくれ」
ヤバいヤバい何を口走ってんだ俺は。
大体他人に偉そうに説教できるような人間じゃないだろお前。
これ絶対怒って……
「……っ……!ぐすっ……」
泣かしてるじゃねえかアアアア!!
ど、どうしたら良い?
謝るべきか?いや慰める……なんてこの状況でできるか!
右往左往する俺に対し、オルコットさんは泣きながら笑った。
「ふふっ……何ですのその顔は……目の前でレディが泣いてるんですのよ?」
「いやあの……ほんと申し訳……」
「……ありがとうございます」
「……はぇ?」
何かしら罵倒されるのを覚悟していたら感謝された。
……ドウイウコトナノ?
「……今にして思えば、意地になっていたのだと思いますわ。男性は弱い生き物だと……ずっとそう思って生きてきたものですから」
でも、もう止めにします。と言葉を続ける。
「私も貴方のように、もっと大人にならないといけませんわね。ですからこれからも……どうかよろしくお願いします。咲さん」
「……あぁ、よろしく。オルコットさん」
「もう、そこは名前で呼ぶところですわ」
「えぇと……が、頑張ります」
何はともあれ一件落着……か?
過去の自分を振り切ったお嬢様の顔は、夕日に照らされ輝いているように見えた。
俺も少しは人間として……成長できたのだろうか。
波乱のクラス代表決定戦は、医務室に響く二人の笑い声と共に終わりを告げるのだった。
あくまでこの作品のヒロインはラウラです。念の為。
そして10日ほど更新が滞ります。
理由はまぁ……お察しください。
この時期の学生の宿命です。