よ、よろしくお願いします。
――その日の夜。
結局咲は秋葉原に行く気力を失い、部屋で寝て過ごしていた。
愛衣が部屋に来ても「何でもない」の一点張りで、雄三が引っ張り出してようやく飯を食ったほどだ。
そして夜になった今、リビングのテーブルを3人で囲み、2対1の体制で話をしていた。
最初に口を開いたのは――雄三だった。
「……一体何があった?」
「だから……何もないって……」
「一日中部屋から出てこなかったのに「何もない」で済ませるつもりか?」
そうは問屋が卸さんとばかりに、咲を睨む。
「どこが具合でも悪いの?」
と、何時もより少し慌てた表情で問いかける愛衣。
基本的に放任主義で育ってきた息子だが、部屋に引きこもるなんて事は無かったので、余計に心配している。
「……」
咲は考える。
2人に本当のことを打ち明けるべきか、否か。
打ち明けたとして、本当に信じてもらえるか?
二次元に転生することになりましたなんて言ったら、まず間違い無く精神病を疑われるだろう。
と言うか痛い人を見る目で見られる。確実に。
……あぁ、そういえば。
確実に信じてもらえるであろう「証拠」がいた事を思い出し、それを呼び出す。
「じゃあ説明するから……神様、いるか?」
「ほいほい〜っと」
俺が呼びかけるとその場に光の玉、もとい二次元神様が現れる。
2人とも目を見開き、見つめていた。
「どうも、神様です」
手だけを出現させ、ビシッと効果音がつきそうな敬礼を見せつける神様。
突然の出来事に、2人はポカンと口を開け。
「えーと……最近のオモチャは良く出来てるな?」
「え、ええ……」
「残念ながら本物。そしてこれが、俺を悩ませてたモノの正体」
「いやはや、息子さんにはいつもお世話に……」
話が噛み合ってない。
2人は慌て、1人は頭を抱え、1人(?)はテンプレの様な挨拶を続ける。
何だこのカオス。
「と、とりあえずかくかくしかじかで…」
◆ ◆ ◆
話を省略した際に具体的内容の代用として用いられる表現であり、「実はかくかくしかじかの事情で……」のように、内容を全体的に省く際に用いるのだが…
人生で使ったのは初めての事だ。
「……ふむ、大体理解した」
「私はよく分からないわ〜」
割と真面目な顔で答える父と、楽観的な母。
対照的な2人だが、だからこそ結ばれたのだろう。
まぁそれは今は置いておいて。
「それで、咲?」
雄三は真面目な顔のまま、顔を上げて咲に話しかける。
「お前は、どうしたい?」
……ずっと夢見ていた。
6年間願い続けて、奇跡が起きて、そして今叶おうとしている夢。
だけど俺は……
……どうしたいんだ?
作品にもよるが、基本的に俺が望む二次元は殺伐とした戦いの世界が多い。
命を賭けて戦う事もあるだろう。
そうなった時、只の人間でしかなかった自分がマトモに動けるか?
否、絶対に不可能だ。
現代日本の平和な日常に慣れた俺が、何の覚悟も持たずに二次元に飛んだとして、夢見たような大活躍ができるわけがない。
俺は……
「咲」
思考の海に沈みかけていたところに、声を掛けられて我に帰る。
見ると、雄三は見たことも無い顔をしていた。
笑っているような、怒っているような。
「お前の夢はその程度か?」
挑発的な口調で、更にまくしたてる。
「どうせ覚悟が無いだの何だの考えてたんだろうが……お前は二次小説を読んだ事がないのか?」
「あるに決まってんだろ!でも!」
「お前は主人公になるんだろう?何を恐れることがある」
――そうだ。
俺は主人公になる権利を与えられた。
それでも――
「ホント馬鹿だよ俺……行きたい行きたいって駄々こねて……そのくせ行けることになったら今度は足がすくんで……怖くて仕方がないなんて…」
俺の一言に、雄三は、
「ハァ……」
大きすぎるといっても過言ではないくらいの溜息で答えた。
「何だよ……」
「君は実にバカだな」
「息子をバカ呼ばわりか!?」
「折角のチャンスをモノに出来ない奴をバカ以外になんと呼べば良い?」
口喧嘩は続く。
「チャンスって……下手したら死ぬかもしれないんだぞ!?それを……」
「だからバカだと言っているんだ」
「人の話聞けよ……」
「確かに危ない目には遭うだろう。下手したら死ぬような場面も、勿論あるだろう」
だが、と雄三は続ける。
「それら全て乗り越えてこその主人公ではないのか?」
「……!]
……あぁ、そうだった。
そうだ。何を恐れる事がある。
自分が行くのは二次元。三次元とは何もかも違う、心踊る世界。
主人公は――恐れない。
「あぁ、なるほど」
今気付いた。
俺の夢は、二次元に行くことじゃなかったんだ。
俺は――
「主人公になりたい」
「声が小さい」
「主人公になりたい!」
「まだ弱い!」
息を吸って、叫ぶ。
「主人公になりたいいいぃぃ!!!」
「近所迷惑だ!」
「理不尽!」
シリアス?あぁ、あいつはいい奴だったよ。
「……えぇと」
顔は無いが、おそらく困り顔で呟く神様。
さっきまで忘れてたわ。
「特に悩む必要なんて無かった!俺は二次元に行って、主人公になって、俺TUEEEして、可愛いおにゃのこと幸せに暮らして、それで……」
「欲望が漏れてるよー」
「とにかく!この世に未練は無い!」
友達への説明は神様に任せる。
何とかしてくれるだろう。
「……親御さん方、息子さんはこう言っていますが……」
「異議なし。強いて言うなら俺も行きたかった」
「残念ながら転生権は1人用です」
「くっ……」
本当に残念そうに俯く雄三。
それで良いのか親父よ。。
「ではお母様は……」
「……正直よくわからないけれど……別の世界に行くのよね?」
「ええ。恐らく二度と会えないでしょう」
「じゃあ、咲。一回しか言わないからよく聞きなさい?」
「な、何……?」
珍しく真面目な顔の母に少したじろぐ。
「孫は2人くらい……」
「はいありがとうございましたー」
シリアス?ああ、知ってる知ってる。
コーンフ◯スティの仲間だろ?
「それはシリアルだよ咲くん」
「心読むなっての」
◆ ◆ ◆
……さて。
長かった。
実に長かった。
正直ここまでの展開いらないだろってレベルで長かった。
「じゃあ……準備はいいかい?」
「大丈夫だ。問題無い」
「まぁ何だ。楽しんでこい」
「行ってらっしゃい、咲」
魔法陣のようなものが展開され、身体を包む。
意識がだんだん遠のいていく。
「それじゃあ……転生システム、起動!」
神様が叫ぶと身体は浮き上がり、足から徐々に消えていく。
勢いは早く、あっという間に胸まで消えたところで俺は叫んだ。
「行ってきます!」
その瞬間、この世界から俺の存在は消えた。
さぁてこれから始まるは輝かしい転生ライフ。
どんな人生が待っていることやら……
◆ ◆ ◆
――落ちている。
すっげえ勢いで落ちている。
体験したことは無いが、スカイダイビングのよう…な……
「!?」
目を見開けば――マジで落ちていた。
「嘘だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
記念すべき転生初のセリフは、黒く広大な空に吸い込まれていった。
HAHAHA!
……笑うしかねぇわこんなん。
あ、次回、転生先決まったり能力決まったりします。ハイ。