箱を開けてからずっとニタニタしてました。
問題はもう飾れるスペースが部屋にない事なんですよねぇ……
「……すまない、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」
「だーかーら、あのISは束さんが造ったんだよ!」
「……すまない、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」
「NPCか!」
「本当に聞こえなければ良かったのに……」
謎のISの襲撃の翌日。
珍しく朝早く起きた俺は、昨日やろうと思ってすっかり忘れていた束への連絡を思い出した。
まだ一夏が起きていないのを確かめるとそっと部屋を出て、共用スペースの椅子に座って電話をかける。
周りに人はいないようだが念のため音を遮断し、会話を始めたわけだが……
「一体何の目的だ。場合によっちゃ殴りに行くぞこのタコ」
「いやー、単にいっくんのISの調子を確かめようと思って……」
「……まさか、あいつの性格まで考えた上であんな事したのか?シールド破って施設をハッキングして、どんだけ周りの奴に迷惑かかったか分かってんのか!」
「ち、違うんだって!話を聞いてよさっくん!」
「……何だ」
「確かにあのISを送り込んだのは私だけど、あんな事できるプログラムは組んでないんだよ!」
「……?どういう事だ」
あんな事っていうのは……戦闘行為とか、あの自己再生とかか?
俺はてっきりジーンメモリを束が勝手に使ったのだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
「いっくんのISの調子を確かめようと思ったけど私も忙しくてさ、簡単なチェックだけなら無人機を介してできるし、放課後くらいの時間に着くようにセットしてたんだよ」
「それって……まさかとは思うが……」
「そう、よりによってこの束さんの、私の造った可愛いISを乗っ取りやがった不届き者がいるって事だよ」
いつもの明るいトーンから一転し、明らかにキレている事が分かった。
自分の息子とも呼ぶべきISが乗っ取られたんだ、そりゃ怒るだろう。
「……で?さっくんはさっき、ガイアメモリがISから出てきたって言ってたよね」
「ああ。あれは確かに俺のモノ……になる予定だったメモリだ」
ジーンメモリは今はダブルの拡張領域に収納され、俺の意思で取り出しができる。
ジャーヴィスにも調べてもらったが、所有者情報はリセットされていて俺が最初の所持者だという事になっているらしい。
「そしてそれはあの……神とかいう奴に渡されてたんだよね」
「いつもだったら勝手に拡張領域に入ってるんだがな……今回みたいに俺の手元を離れてたのは初めてだ」
「……つまり、さ」
「あの神が……裏切った?」
いや、可能性としては否定しきれない。
なんせ神だ。いつもの態度がアレだったから忘れていたが、本来なら俺たち人間なんぞとは比べ物にならない存在。気まぐれで事件を起こしても何らおかしくはない。
「もしそうだとしたら私としても黙っちゃいない……と言いたいけど、あっちに干渉する手段が無いしね。さっくんの方からも話しかけたりはできないんでしょ?」
「あの事件以来ぱったりだな。向こうから話しかけてくることも一切無くなった」
そもそもどうやって脳内で会話をしてるのかが分からん。
魔力的な何某でどうにかできないかと思ったが、テレパシーの使い方なんて見当もつかなかった。
「ふむふむ……とりあえず束さんはドライバーから抽出できた情報を更に分析中だからさ、また何かあったら連絡してよ。何ならこっちに来てくれても……」
「誰が行くか。まぁ助かったよ。じゃあな」
半ば強引に電話を切る。
ISからガイアメモリが出てきたり、神の裏切りの可能性が出てきたりとごちゃごちゃしてきたが……
「……ジャーヴィス、もっと鍛えるぞ。なんか嫌な予感がする」
『了解。訓練プログラムをアップデートしておきます』
「いつも悪いな」
『恐縮です』
そう言うとジャーヴィスは少し気配が薄くなる。
多分仕事モードに入ったのだろう。
「……とりあえず、俺はコイツの扱いを覚えないとな……」
取り出したジーンメモリを手の中で弄びつつ、自分の部屋へと戻るのだった。
◆ ◆ ◆
「ゴールデンウィークだよ」
「お、おう……どうした咲?」
「いや、なんか言わなきゃいけないような気がしてな」
そう、時は飛んでゴールデンウィークである。
IS学園の寮では、自宅に帰る者と寮に残る者の二種類に別れるらしく、織斑をはじめとしたいつもの連中は自宅に帰るのだそうだ。
あ、鈴は残るって言ってたな。
既に荷物をまとめ終えた俺はコーヒーを啜りながら、着替えをまとめる一夏を眺めていた。
「家の中埃だらけになってるだろうしな……咲はどうするんだ?」
「俺か?当然ドイツに帰るが」
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が……」
ここまで言いかけて思い出した。
そういえばコイツはドイツに対して良い印象を持っていないのだ。
えっとこの場合はどうすれば……
「あ、でも咲は向こうに彼女がいるんだったな。確か……ラウラさんだっけ?」
「ブフゥッ!?」
「ちょっ!コーヒーが服に!」
「あ、あぁスマン……清めたまえ清めたまえ……」
「シミ取りもできるのかソレ……」
「ちなみにやろうと思えばシワも伸ばせる」
盛大にコーヒーをぶちまけてしまった一夏の荷物に手を向けると、青く輝く光がコーヒーを消していく。
これはドイツに居た頃、洗濯してもどうしても落ちないシミがあった時に使えるようになったものだ。
原理?さっぱり分からん。
「よしっと、で?誰が誰の彼女だって?」
「いや、だからラウラさんが……」
「前にも言ったけどラウラはそういうのじゃねえよ。家族だ家族」
「……そういうもんなのか?」
「そういうもんだ」
ラウラの可愛さについては確かに以前懇切丁寧に説明してやったが、それはあくまでこう……家族の紹介をしただけだ。うん。
「まぁ咲がそう言うなら何も言わねぇよ。……よし、全部まとまった」
「うし、じゃあ鍵渡しに行くか」
寮を出る際は必ず寮監に鍵を返さねばならないため、2人揃って寮監室……織斑先生の生活している部屋に向かう。
ものの数分で部屋の前まで辿り着いたので、一夏に呼び出しを頼む。
弟から呼ばれた方が幾分か気分は良いだろう。
「織斑と茅野か。入れ」
「え、入って大丈夫なんですか?」
「別に構わん」
それじゃあ失礼して、と中に入った俺が見たものは……
「うっわ何だこれ……腐海?」
「千冬姉……幾ら何でもここまで……」
「い、いや、今日片付けようと思っていたんだ」
床に散乱したビールの空き瓶やら脱ぎっぱなしのワイシャツやら……
……流石に下着は無いか。
とにかく汚かった。
「今日片付けようとねぇ……本当は?」
「……一人だけじゃ片付けられない」
やだ、なにこの可愛い生き物。
この俺が一瞬とはいえ先生に萌えたぞ。本当に一瞬な。
「はぁ……俺も手伝うから片付けようぜ、千冬姉」
「いつもすまんな、一夏……」
なんか夫婦みたいだな。立場は反転してるが。
「鍵は俺が持っとくから、咲はもう行っていいぞ?」
「あぁ……何というか、頑張れ」
「そっちもな」
また連休明けに、と別れの挨拶をし、寮を出て空を見上げる。
雲ひとつない青空は、今の俺の気持ちを代弁しているようだった。
「……さて、行きますか」
鞄に入ったパスポートとチケットを確認すると、駅に向かって走り出した。
◆ ◆ ◆
――そしてかれこれ13時間後。
現地時間では午後3時になろうとしている頃に、フランクフルト空港へと到着した。
ドライバーはどうにか隠し通すことができた。魔力的な何某様様である。(n回目)
ちなみに荷物だが、大きな物は先ほど言ったダブルの拡張領域に量子化して突っ込んである。便利なものだ。
……そういえば、学園から尾けてきた奴はいなかったんだろうか?
男の操縦者を一人にするなんざそうそうあっちゃいけない事だと思うんだが……と思った時、電話が鳴った。
画面に表示されているのは……誰だ?
知らない番号だが、一応出ておく。
「はい、どちら様で?」
「やっほー茅野くん♪私が誰だか……」
即座に携帯の電源を切り、近くにいたタクシーの運ちゃんに(ドイツ語で)声をかける。
「チップは弾む。最速ルートで軍基地まで向かってくれ」
「あいよ」
この国のおっちゃんは察しが良くて助かる。
急発進したタクシーは一気に空港を抜け、ドイツの街を駆け抜けていく。
後ろからは……やっぱりだ。かなりの速さで一台のタクシーが尾けてきている。
これは作戦変更だな。
「金は置いとく。そこの狭い道に入って一瞬だけ止まってくれ」
「あいよ」
猛スピードのまま裏路地に突っ込んだのを確認すると、ドアを掴んで構える。
一瞬だけ止まったその瞬間、ドアを開けて路地に転がり、即座に閉める。
サムズアップをタクシーに向けると、向こうも前を向いたままこちらに返してきてくれた。
「……さて、走るか」
久々に本気で全身を強化すると、そばにあった家の屋根まで駆け上がり、屋根伝いに走っていく。
目指すはドイツ軍基地……ではなく、それとは別の場所にあるシュヴァルツェ・ハーゼの基地だ。
帰郷早々カーチェイスとは中々にスリリングだったが、ここまで来てしまえばこっちのものである。
地理を把握していないであろう向こうは今頃迷子になってるんじゃないか?知らんけど。
「あ、あれ……?ここ、どこ……?」
『おい、金払うのか払わねえのかどっちだ嬢ちゃん』
「は、払います……」
そんなこんなで無事に寮に到着した。
流石に走って帰るのは無謀だったのか、既に空は暗くなり始めている。
クソッ、これも全てあの尾行女のせいだ。俺は悪くねぇ。
訓練所には寄らずに寮まで来てしまったが、みんなはもう帰ってきているだろうか?
寮の玄関を開け、すぐそばにある食堂に入ってみる。
「ただいまー……なんちゃって……」
途端に暗い部屋から響く幾つもの破裂音。
なんというかデジャヴというか……
「「「「「おかえり、咲!!」」」」」
明かりをつけると、この世界の俺の大事な五人の家族が、それぞれクラッカーを構えて俺を待っていた。
「……ただいま!」
たった1ヶ月、されど1ヶ月。
ポッカリと空いていた心の穴が一瞬で埋まったような、そんな気がした。
そして、まずは手を洗って来なさいとリー姉に言われた俺は大急ぎで洗面所へ向かうのだった。
先日また評価を頂きました。本当にありがとうございます。
目標の5人まであと1人……!
これからも頑張ります。