どうにも気力ががが……
「おはようございま……ってどうしたんですか茅野くん!具合が悪いんですか!?」
「あ゛ー……気にしないでください、時差ボケっス」
「時差……あ、そういえば茅野くんはドイツの人でしたね」
「忘れてたんですか山田先生……」
「わ、忘れてませんよ?」
休み明けも俺たちに癒しを提供してくれた山田先生はさておき、久しぶりの学校である。
この時間は向こうでは夜中なので正直かなり眠い。一夏が起こしてくれなかったら間違いなく遅刻していたレベル。
昨夜は早く寝ようと努力したんだが眠れない理由があった。
これも全てGWに大規模アプデをする運営の仕業なんだ。俺は悪くねぇ。
「なぁ咲、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題な……い……」
「だから寝るなっての」
軽めのチョップを貰ったが眠いものは仕方があるまいて。
明日には多分元に戻せると思うが……
ぼんやりとしているうちに山田先生は出欠を確認したのか、話を始める。
「はい、みなさん静かに。今日はなんと転校生を紹介します!しかも2名です!」
「転校生?こんな時期に?」
「この学校って転校生入ってくるっけ?」
「て言うか2人も?」
クラスメイトがざわつく中、俺は半覚醒状態で先生の話を聞いていた。
転校生がどうとか言ってるが……いかんせん眠い。
「咲起きろって。ほら、転校生入ってきた……ぞ?」
「あぁ?どうせ普通の女の子……はぇ?」
クラスメイトのざわつきが収まると同時に、俺の意識は完全に覚醒した。
目の前で揺れる、何年も見てきた綺麗な銀髪が俺の視線を釘付けにしていた。
金髪?んなもん今はどうだっていい。
「えっと、シャルル・デュノアです。この学校に僕と同じ境遇の人がいると聞いて、フランスから来ました。よろしくお願いします」
じれったさを感じつつ金髪の自己紹介が終わり、彼女の口が開く。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍IS部隊の隊長を務めている。ここには様々な事情があって来たが、どうかよろしく頼む」
「な、なっ……」
「その……黙っていてすまなかった、咲」
少し目を逸らし、右手で髪の毛を弄る彼女は間違いなくラウラだった。
いや、もしかしてこれは夢なのではないか?
確かめなくては。幸い目の前に織斑先生もいる。
「織斑先生、ちょっと俺のこと叩いてくれませんか?」
「いいだろう」
「痛い!」
スパァンと良い音が響く。
というかいいだろうの「い」の字を言う前に叩かれたぞ今。
それにしても痛いということは……
「……本当に、ラウラなのか?」
「ふむ、そんなに信じられないなら咲の昔の話を」
「オーケイ分かった間違いなくラウラだ」
と言うかあの話をしたらラウラも相当恥ずかしいと思うんですが。
気付いてないのか自滅覚悟か。
あ、そのことに気付いたみたいで赤くなった。可愛い。
「え、えーっと……そろそろ突っ込んでいいか?」
「うわ一夏、何でここにいるんだお前?」
「ちょっと酷くねぇか!?」
とりあえずこの唐変木イケメンは置いておいて、だ。
「えっと、デュノアさん……だっけ?」
「あ、やっと気付いてもらえた……」
いや、俺だって完全に無視していたわけではない。
ただラウラのインパクトが強すぎたというか最強だっただけで。
「ひょっとして君……」
「うん、君たち2人と同じ、男だよ」
――一拍あって。
「「「「「「きゃああああああああああーーーっ!!!」」」」」」
予想通りというかなんというか、悲鳴(?)が上がった。
事前に察知していた俺はラウラを近くに引き寄せて耳を塞いでいる。もちろん自分の耳を保護するのも忘れていない。
一夏?あぁ、いい奴だったよ。
「勝手に殺すな……」
「まだ何も言ってないだろ」
現役JKたちの超音波ではコイツを混乱させることはできなかったようだ。
混乱……いばる……みがわり……うっ頭が。
「嘘、本物?」
「こ、このクラスだけに三人も男子が集まるなんて……」
「神様ありがとう……!」
「イケメンデツヨイノネ!キライジャナイワ!」
若干何かが混じっていたような気がしたが、気のせいだろうか。
それにしても……
「どう思うよ、と言うかどうだジャーヴィス」
『……女性のバイタルデータは最重要機密です』
「予想はしてたけどやっぱそうか……」
腰にぶら下がったドライバーに小声で話しかけると、やはり小声で返事が返ってきた。
ダブルドライバーはIS、すなわち高度なセンサーの塊だ。
加えて中にジャーヴィスが入っている為、近くにいる人間をスキャンする事など朝飯前なのである。
もっとも情報は全部ジャーヴィスが管理しているし、見せてもらった事もない。
ほら、俺ってば紳士だから。
『……半熟紳士』
「何か言ったかジャーヴィス」
『いいえ、何も』
ともかくこれで確定した。
シャルル・デュノアは男性操縦者などではない。
恐らく俺と一夏の情報でも盗りにきたどこかのスパイだろう。
……待てよ?
「デュノアって、どっかで聞いたことあるような……」
『検索完了。デュノア社はフランスの大手ISメーカーです。近年では、他国に開発速度で遅れをとっており、業績が悪化しております』
「それで娘をスパイに送るか普通……社長はアホか?」
「さ、咲?私はいつまで耳を塞がれていればいいんだ?」
「っと、スマンスマン」
俺とジャーヴィスのコソコソ話を中断させたのは、ラウラだった。
そういえばさっきから塞ぎっぱなしだったな。
色の白い顔がまた若干赤くなっているが、まぁ慣れない土地で緊張しているのだろう。
俺も配慮が足りなかったな。
「みなさん静かに!えっと、デュノアくんとボーデヴィッヒさんは一番後ろの席になります。視力などは大丈夫ですね?」
「大丈夫です」
「問題ありません」
「ガッデム……」
「ドンマイ、咲」
一番前の席である事をこんなにも呪ったことはない。
授業中にサボりにくい事は今までも少々不満だったが。
「あー……これでSHRは終わりだ。各自授業には遅れないように」
もう色々と面倒になったらしい織斑先生の一言で全員が動き出す。
ラウラを一人にするのは不安だが、大丈夫だろうか――と思ってたら目が合った。
『一人で大丈夫か?』
『心配はいらない。また後で話そう』
『了解』
目線とハンドサインでの短い会話を終えると、一夏とデュノアさんと一緒に教室を出る。
今日はISを使う授業なのだが、男である俺たちはアリーナの更衣室で着替えることになっているのだ。
そしてここの女子たちは(一部を除き)羞恥心が欠落しているのか、まだ男が教室内にいるにも関わらず着替え始めることがあるので、早めに出ないと色々面倒なことになる。
主に箒さんやセシリア関連で。
「あ、あれ?どこに行くの?」
「あぁ、男は別の更衣室で着替えるんだよ。あのままあそこで着替えるわけにいかないだろ?」
「へっ?あ、あぁ、うん!そうだね!」
この子本当にスパイなのかしら。
まぁ一夏の事が報道されてから二、三ヶ月しか経っていないことを考えると、この程度が限界だったのだろう。
もっとも俺がいることは予想外だっただろうが。
と言うか織斑先生も間違いなく気づいてるだろうな。さっきもうっすら笑ってたし。
「とりあえず更衣室までの道を覚えて……うげ」
「金髪の貴公子!目撃情報と一致してるわ!」
「織斑くんと茅野くんも一緒よ!」
「であえであえー!」
どこから嗅ぎつけたのか、上級生の方々が道を阻んでいる。
……っていうか。
「なんで部長も副部長もいるんですか……」
「面白そうだったからな!あと出番が欲しかった」
「6話もほったらかされた恨みを晴らすッスよ!」
MOREとDEBANの文字が書かれたプラカードを持っているが、どういう意味なんだろうか?
何故かピンク髪の鍛冶師とツインテの竜使いみたいな幻影も見える。
「こっちがダメなら別ルートで……」
「咲!後ろからも来てるぞ!」
「ダニィ!?」
後ろを見やれば、もうかなり近いところまで来ている上級生軍団の姿があった。
というかあんたら授業は?
「ッ……ええい、南無三!」
「仕方ねぇ……なっ!」
「えええぇっ!?」
窓から飛び降りると受身を取って着地。
一夏も順調に体術を身につけつつあるため、この程度どうということはない。
問題は……
「デュノアさん!そこから飛び降りて!」
「む、無理だよー!」
「大丈夫だ!絶対受け止める!一夏が!」
「いや咲も手伝ってくれよ!」
どこぞの劇場版一号とヒロインのようなやりとりがあった後、なんとかデュノアさんも飛び降りてくれた。
受け止めた際に「ひゃっ!?」とか言って赤面してたけど、もう気にしないことにする。
大体男がざーさんボイスって何だよ。
「え、オレたちの出番これだけか!?」
「そりゃないッスよー!」
申し訳ありません部長、副部長。
なぜか申し訳ない気分になりながら、デュノアさんを連れて更衣室へと走るのだった。
「あ、あの……そろそろ離してもらってもいいかな?」
「あ、悪い」
……男子と手を繋ぎっぱなしだった
ようやくヒロインが学園入りしました。
え、金髪二人組?知らない子ですね……