こうでもしないと話が一向に進まないんや……
やけに大きな音量に設定された目覚ましを止め、体を起こす。
ベッドの脇に置かれたその時計を見やると時刻は朝6時、日課であるランニングの時間だ。
「さて……今日も1日がんばるぞい……っと」
ドイツ軍IS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの訓練所に落ちてきてから早くも1年が経った。
1年もあればこの世界の事も大体理解し、割と軍隊生活もエンジョイしている。
まずこの世界だが、基本的に俺の居た地球と変わらなかった。
ただ一つ違うのがこの世界、異様に科学が発展している。
と言うのも、数年前に現れた天才博士篠ノ之束によって開発されたIS、正式名称インフィニット・ストラトスというマルチフォーム・スーツが原因なんだとか。
説明口調なのは気にするな。
このスーツ、元々は宇宙進出の為に作られたらしいのだが、現在では核に代わった抑止力として各国の軍に配備されたりしているらしい。
開発者の篠ノ之博士も不本意だろうな。
そして物凄く重大な欠点として”女性しか動かせない”というのが存在する。
来たばかりの頃は期待に胸を高鳴らせたものだが、これを聞いた時に一瞬で萎えた。
以来ISは視界に入れないようにしている。
あんなに格好良いパワードスーツを着れないなんて、考えるだけでも泣きそうになるのだ。
そしてここまで聞くと「特典貰ってたじゃん」とか言われそうだが、未だにダブルドライバーは手に入る気配すら無いし、相方も居ない。
魔力的な何某と幸運(笑)しか無いこの状況でどうしろと言うのか。
ちなみにその2つの特典のうち、片方……魔力的な何某はこの1年で割と使えるようになった。
これが意外と便利なのだ。
ドラ◯ンボールの気と同じ様に放つ事も出来るし、身に纏えば若干だが身体能力を強化できる。
まだまだ修行中なので、さらに応用も出来るだろう。
幸運はどうしたって?
アレは制御できてんのかすらよく分からない代物なので、あまりアテにしていない。
ここ数ヶ月で偶にネットの懸賞に当たったりしたが、その程度だ。
とまぁ説明はここまでにして、日課のランニングを終わりにする。
今でこそ1日10kmをそれなりに余裕を持ってこなせるが、初期はまぁ大変だった。
何せこの体、絶望的に体力が無かったのだ。
100m走ったらぶっ倒れる貧弱さに笑った。
今でも若干体力にブーストをかけているので、近いうちにコレ無しで走るようにしようと思っている。
「む、咲か。おはよう」
「おぉラウラ、おはよう」
美しく伸びた銀髪と真紅の瞳が良く似合う小柄な少女、ラウラ・ボーデヴィッヒと寮への帰り道でエンカウントした。
彼女は俺と同じ11歳(肉体年齢)なのだが、既にこの部隊の副隊長に就いている事から如何に能力が高いかが伺える。
ちなみに階級は小尉だ。
この異常なほどの能力の高さには秘密があるらしいのだが、皆教えてくれない。
色々複雑な事情があるのだろう。
「ラウラは今からランニングか?」
「ああ、先程まで日本語の勉強をしていた。アイサツができるようになったぞ」
どうだ、と慎ましやかな……というか11歳故にほとんど無い胸を張るラウラ。
アイサツか……あれ?何か文字おかしくね?
「で、ではいくぞ……ドーモ、カヤノ=サン。ラウラ・ボーデヴィッヒで「ストップラウラ、それは間違いだ」何?それは本当か?」
おい誰だこの純粋な子に忍殺語を覚えさせた阿呆は。
――あぁ1人しか居ないわ。
「クラ姉が元凶か……後でお仕置きだな」
「さ、咲?一体どう間違っていたんだ?」
「今日の訓練終わったら一緒に勉強しよう、な?」
「うむ!了解した!」
また後で会おうと手を振り、ランニングに向かうラウラを見送る。
あの子には純粋なままでいて欲しい。
唯一の同い年()だし、軍人と言えど小さな女の子なのだ。
そもそも11歳って小6じゃん?
1年前にはもう部隊に居たけどそん時は小5じゃん?
そんな子を軍隊にブチ込むとか何考えてんだよドイツ軍上層部。
「……飯食いに行くか」
今日の飯当番は……ああ、リー姉だ。
これはのんびりしていられない。とっとと身支度を済ませて食堂に向かわねば。
◆ ◆ ◆
食堂にて。
「あら、おはよう咲。いつも早いわねぇ」
「おはようリー姉。今日のメニューは?」
「今日は日本から取り寄せたお米とお味噌を使ってみたわぁ。美味しくできてるといいんだけど……」
「リー姉の飯はいつも美味いから心配いらないよ」
「あらあら、お世辞が上手くなっちゃって」
俺がリー姉と呼ぶこの女性はセリーナ・デンプヴォルフ。
明るい栗色の髪はクラ姉……もといクラリッサと同じく後ろがパッツンになっており、全体的におっとりとした雰囲気を醸し出している。
話し方がどこぞのドールと被っているのは気にしない。
ちなみに苗字のデンプヴォルフは、日本語で狼殺しって意味らしい。
その事を気にしているらしいが、実は怒ると隊一怖いためあながち間違っていなかったり。
◆ ◆ ◆
朝食を食い終わると訓練所に直行する。
とは言っても正式に隊に属している訳ではない為、やる事は簡単な組手とトレーニングだけだ。
「つーわけでよろしく、ラウラ」
「うむ。どこからでもかかってくると良い」
目の前で余裕の表情を見せる幼女はとんでもなく強い。
気を引き締めていかないと一瞬で関節を持っていかれる。
「じゃあ遠慮な……くっ!」
思い切り地を蹴り、ラウラに肉薄する。
世界補正によって加速した身体の勢いをそのままに、蹴りを打ち込む。
「ハァ……その大雑把な攻撃はいい加減直せ」
呆れた声でやすやすと俺の蹴りをいなすラウラ。
どんな技術を使っているのか、衝撃を逃しているらしい。
「そうは言っても俺ガチ軍人じゃねぇし……」
「言い訳をしている暇があるのか?」
言い終わる前にラウラに手を掴まれ、捻り上げられそうになるのを慌てて振り払い、距離をとる。
この細い腕のどこにあんな力があるのかは本当に謎だが、これも世界補正だろう。
さっきの俺も普通じゃありえない速さで近付いてたし。
「んじゃ今度こそ本気で……スゥー…ハァー……」
呼吸を整え、身体に鎧を纏うイメージを持つ。
そのまま鎧と身体を完全に同化させて……
「うっし成功……」
魔力的な何某を全身に張り巡らせて、身体能力を強化する技。
要するにガ◯シュのラウザルクである。
或いはFa◯eの強化魔術か。
全身から薄黄色のオーラが流れ出るこの状態は、見方によってはスーパーな野菜人にも見える。
「毎回思うが、それはどういう原理で発動しているんだ?魔力なんて迷信だろう?」
「魔力的な何某だって。正体は俺にも良く分からんよ」
「そうか」
「そうだ」
――一瞬の間。
先に動いたのはラウラだった。
小柄な身体ならではの速度を生かし、瞬間移動と見紛う程の速さで咲の後ろに回り込む。
それを黙って見ている咲ではなく、敏感になった五感を駆使し背後のラウラの位置を把握、ノールックで手を伸ばすが、ラウラはしゃがんで回避し咲の足を払いにかかる。
次の瞬間、ラウラの目の前にあった咲の両足は消え、上空から踵落としの状態でラウラに迫る。
食らったらタダでは済まないその攻撃を背後に跳んで回避し、コンクリートの地面に走る罅を見やる。
「相変わらず威力だけはとんでもないな……」
「正直俺も驚いてる……」
けどもう限界、と呟き、咲は倒れこむ。
魔力的な何某は確かに便利で強力なのだが、お約束と言うか何というか、1分使えばこうして倒れこむレベルで体力を消費する。
「使い物になるのは当分先、だな」
「仰る通りですラウラ少尉……」
これが現在の俺の日常。
こうして朝は組手をし、ぶっ倒れ、体力トレーニングをし、ぶっ倒れ、筋トレをし、ぶっ倒れる。ぶっ倒れすぎだろアホか。
常人ならまず無理なこのメニューを11歳の身体でこなせているのはある意味奇跡だろう。
今日はどんな無茶メニューが渡されるか、嫌だと思いながらも心のどこかで楽しみにしつつ、ラウラにお姫様抱っこで運ばれる咲であった。
このラウラは最初っから黒ウサ隊員と仲が良いです。
あとナチュラルに咲が姉呼びしているのは…まぁ、色々あったんです。色々。