【AC4】インフィニット・ストラトス 〜主を失った召使い〜 作:消毒済みの汚物
作者の中では、ザンニさんは年が二十代後半だと思う・・・。
※読者様からの感想を元に、一部編集しました。
ザンニと名乗ったこの男性・・・どうにもデタラメを言っている様には思えなかった。
彼は基地外から侵入したとは思えない。監視カメラの映像を見たところ、“ふとその場に出現した”といった表現が似合うほど、突然現れたのだから。
彼のISもーー彼はそれを“AC”と呼称していたがーーまた異質だった。全身装甲の外見から、初めは第一世代機だと判別した。故に、ラファール二機の出動で事足りるものだと思っていた。しかし、全くそうでなかった。
ラファールのライフルは謎のバリア状のシールドに阻まれ、キズ一つ負わせられない。そもそも回避する素振りも見せなかったことから、当初から効かないと分かっていたのだろう。「ガルム」に切り替えたとしても結果は想像が付く。
逆に、相手の用いた武装・・・機体と似た、鋭利なデザインのマシンガンと思われる銃器。それから放たれた数発の弾丸で、ラファールのシールドエネルギーがすぐ底をついた。片手で運用していたあたり、あの機体が持ち得る武装の中ではそこまで強力な物とは思えない。だが結果はああだった。
圧倒的な火力と防御力。アレで第一世代なワケがない。それとも何だ?彼の言う通り、“AC”というISとは全く別のシロモノなのか?
だとしたら、男性でも扱える可能性が大いにある。現段階では、やはりアレはISではない別の何か、“ACという新たな兵器”と定義付けるのが妥当というものか・・・。
「・・・どうした?」
「あっああ、すみません。少し考え事を・・・」
(とにかく、こんな危険な存在を野放しには出来ないな)
この男がもし我々に牙を剥いたら、それこそ計り知れない危害を生むだろう。この基地の総戦力を以ってしても、こちら側が壊滅する可能性が非常に大きい。それだけは何としても避けなければなるまい。
「ひとまず、貴方のことについては深くは詮索しないこととします。ご安心を。こちらが貴方に危害を加える様な真似はいたしませんので」
「こちらとしても、その方がありがたい。ところで、話したいことは以上かな?」
向こうから話を止めにかかった。
「ええ。お聞きしたいことは以上ですが・・・何か?」
「そうか。邪魔をしたな。失礼する」
(引き取るつもり⁉︎それだけはっ!)
「お待ち下さい!」
この人を戦力として傘下に置ければ、周辺諸国にとってこの上ない抑止力になるはず!絶対に他国の軍に渡すわけには!
「・・・何か?」
「あ・・・その、こういうことを聞くのもなんですが、どこか、身を置く所は既にございますの?」
語尾が変になってしまった。焦って呼び止めているのが丸分かりじゃない・・・。
すると、相手は何やら考え込む様に口元に手を添えている。さては・・・
「もしよろしければ、ここに滞在されても良いのですよ?衣食住、その他のことも、こちらで手を打てるものであれば保証致しますが、どうでしょうか?」
目に付く所にいさせた方が、行動を監視し易い。相手が相手だ。下手に動き回られては、いつ何をし出すか分からないから。
すると相手は、改めてこちらに顔を向ける。
「・・・お察しの通り、どこにも身寄りのない身だ。そちらのご厚意に感謝する。身を置かせてもらう側として、可及的、そちらの要望にも応えよう」
「かしこまりました。私が各施設のご案内をさせて頂きます!」
ひとまず、この基地に住まわせて頂くことが出来た。しばらくはここを拠点として行動できるだろう。
「とりあえず、もう夕食の時間ですので、食事といたしましょう」
オリヴィア司令官が食堂へと案内してくれる。そういえば、最後に飯を食ったのはいつだったか。それなりの間水すら口にしていなかったな。結構腹も空いている。
しばらくついて行くと、何やら芳醇な匂いが鼻腔に入ってくる。この匂い・・・本物の食材を調理する際に香るものと同じだ。
(いい匂いだ・・・これは、自然と食欲が湧く)
生前は、自然の食材を用いた料理は中々高級なものだったな。量にして日に一食分食べれれば良い方だった。企業の重役の様な人間でなければ、日常的に食することなど出来なかっただろう。それくらいの代物だった。
コロニーに押し込められた人々など、添加物まみれの合成食品以外口に出来なかったのではないだろうか?国家解体戦争も、国家政府が環境問題に対する具体的な対策を考案出来なかったのも開戦理由の一つだったはず・・・。
「今日のメインは、舌ビラメのムニエルでしたね。お召し上がりになったことはありますか、本場のものは?」
舌ビラメのムニエル・・・確か、フランス料理の一種だったか?
食堂に着いてからはオリヴィア司令官の真似をする様に、トレーの上にナイフとフォーク、皿に盛られた料理を一つずつ乗せていく。
メニューは、舌ビラメのムニエルに人参のグラッセ、コンソメスープ、バゲット、カスタードプディングの五種類。どの料理も、初めて目にするものだ。
料理を全て受領し、オリヴィア司令官の向かいの席に腰を下ろす。
「では、頂きましょうか」
オリヴィア司令官はまず、ムニエルに手を付けた。それに続く様に、私もムニエルにフォークを刺し、ナイフを入れる。そして、ソースをナイフで舌ビラメの身に纏わせ、口に運んだ。
(ッ‼︎なんと濃厚な旨味だ!)
ホワイトソースとバターの織りなす濃厚な旨味に、下顎が咀嚼するのを忘れてしまう。まるで、脳が舌に全神経を集中しているかの様。生前に食べた料理が、これと比べるといかに味気ないものだったのが分かる。
同時に、物凄い量の唾液が出てきた。思わず、口内の中身を飲み込んでしまう。その強い旨味は、喉奥でさえ感じることが出来た。
「如何ですか?お口に合いましたか?」
「・・・素晴らしい。これ程までに美味しい料理は口にしたことがない」
そう言うと、それは良かったと満足気な表情で返してきた。
二センチ厚に切られたバゲットを手に取りかじると、これまた旨い。上手に焼き上げられたパン生地の微かな甘味を、軽く振られた塩が引き立てている。素朴な味わいだが、故に後を引く。衝動的に一切れを口に押し込んでしまった。
「フフッ、そんなに慌てる必要はございませんよ。ゆっくりお召し上がり下さいね」
「ムグッ・・・コクッ」
頬張りすぎて喋れないので、飲み込みながら頷く。口内の水分を一気に奪われた為、コンソメスープをスプーンで掬い、口に含む。うむ、これまた・・・さっぱりとしていながら、なんと深いコク。ベースは鶏肉なのだろうが、ここまで深い味わいを抽出出来るものなのか・・・。
「いや、失礼。余りに美味しいものだからつい・・・」
「いえいえ、良いのですよ。ただ、喉には詰まらせない様にね」
全くその通りだ。我ながら情けない。そう言われてから、一品一品を丁寧に味わいつつ食事を続ける。オリヴィア司令官も、こちらのペースに合わせてくれた。そんな中で、ザンニはふと思いながら食事を楽しんでいた。
だが人参・・・お前はダメだ。なぜこうも甘いんだ。
もともと小食だった彼にとって、食堂の一食の量はそこそこ多すぎた。確かに軍隊の食事は、民間人のそれと比べて総カロリー量が多い。食事の量自体もそれに伴って多くなる。
だが私の場合は、AMSによる精神負荷が眠気を呼ぶのだ。戦闘後はまず仮眠を取ることが常であった。
コロニーに押し込められ、ひたすら労働に従事させられていた人々などは、食事の環境など劣悪なものだったのだろう。餓死者もそれなりにいたと聞いたこともある。
「次は、ザンニさんに使って頂くお部屋にご案内しますね。こちらです」
食事を済ませた後、部屋へと案内される。人とすれ違う度に敬礼される司令官だが、敬礼した者は、誰もがチラリとこちらを見てくる。
いやに女性が多いな・・・軍隊とか武装組織とかは男の方が圧倒的に多いと思うが、ここはそうでもないのか。世界が違うと、常識も然りだと・・・なるほど。まあ、メリエスにレーザーライフルの受領に行った際も女性ばかりだったな。
程なくして、清掃の行き届いた建物の一室の前に来た。ドアの上には『VIP.1』と表記されている。
「・・・ずいぶんと高待遇ですが?」
「せめて、これ位はもてなさせて下さい。それに軍団長の視察などは予定されていませんから、どっちにしろ使われる予定もなかったんです」
鍵を開け、中に案内される。
シングルベッドが一つ、テレビ、冷蔵庫、変な機械が付属したソファー、キャビネットなど、設備、装飾どれもが豪華な部屋だった。
「こちらが、この部屋の鍵になります。出歩かれる際は、施錠の方をお願いしますね。もし何かありましたら、ドア横のインターホンをお使い下さい。では、仕事の為ここで失礼させて頂きます」
「ああ、すまないな。ありがとう」
では、ごゆっくり。そう告げて司令官はスタスタと立ち去っていった。
(全く、これからどうなっていくのやら・・・)
おもむろにベッドに腰掛ける。すると、何故か眠気が感じられる。今日一日の内に奇想天外な出来事が幾つもあったからだろう。ラフカットを身に纏った後も、AMSのそれと似たものがあった。
(ダメだ、疲れた・・・一旦寝るとしよう)
用心の為、部屋の鍵を閉めておく。窓の鍵も閉めたところで、睡魔が強くなってきた。
スーツの上着を椅子の背に掛け、ベッドに仰向けに横たわる。そこから数えない内に、彼は目を閉じていた。
ちと短め。
「アイツまだ出てなくね?」と思われている方々、じきに出すつもりです。
もうちっとだけお待ち下され。