先輩達と別れた後は家に帰って、ベットに倒れこんだらいつの間にか寝てて、それから起きてご飯を食べた。
そしてお風呂だ。
湯船の中で体育座りして今日のことを振り返る。今日、私に先輩ができた。
友達よりも先に先輩ができるなんて変だけど、でも嬉しかった。りせ先輩が言うように、友達にもなれると思うし。
もうずっと一人なのかと思ってた。本当は友達じゃない人達と、友達みたいな顔して過ごして。
寂しかった。でも、その寂しさをぶつけられる友達もいなかった。寂しさをぶつけられないのは今も同じだけど、だけどもう寂しくはない。
私にはりせ先輩と夏希先輩がいる。
きっといつかこの嬉しさにも慣れて、今以上を求めてまた寂しくなったりする私なんだろうけど。それでも、今日までよりも寂しくなることはないと思う。そう思いたい。
なんて考えてたら、不安がほどけたのか安心したのか涙が出てきた。変な声が出るし、息は苦しいし拭っても拭ってもぼろぼろ出てくる。
普段全然泣かないし、泣いてやろうと思っても泣けないのに。
自分が泣いてるのが反響して聞こえて嫌だったけど、誰にも泣いてるところを見られたくなくて私は私が泣き終わるのを待った。泣き終わるまで泣いた。
出る頃には逆上せて頭がくらくらした。
今日は授業中ずっと帰りのことを考えていた。頭がいっぱいだった。
選択授業の音楽がないから、りせ先輩に会うようなこともないけれど。
ただ一つ、心配事があった。待ち合わせ場所を決めてなかったのだ。そのせいで、ますます授業のことを考える隙間は無くなっていた。
もうすぐ放課後になる。
それまでに私が考えた一方的な待ち合わせ場所は生徒玄関だ。校門って案もあったけど、もしかしたら先輩達に私を探させてしまうかもしれないと思ってやめた。
生徒玄関で待っていれば、絶対会えるはずだ。
帰りのHRが終わったら、すぐに生徒玄関に向かう。帰りの挨拶もおざなりだ。
誰よりも先に生徒玄関に来るようにして着いた。これですれ違いの心配はないはず。
上を向くようにして少し落ち着く。そして今のうちに髪を結び直しておく。
まだ先輩達の姿は見えない。さっき置いて来たクラスメイト達が追いついてきて、私を見つけて「誰か待ってるの?」と聞いてきたり、改めてバイバイを言ってきたりしたので「……うんまあ、そうだよ?」と返したりバイバイを言ったりする。
それが途絶えたら、また静かな待ち時間。誰かを待つのは嫌いじゃない。
何を話そうかとか、今日は寄り道するのかなとか、色々と考えているうちに待っていた先輩達が来た。ここまで来て、約束のことと私のことを忘れられてないかななんて後ろ向きさが顔を出す。それを抑えて先輩達のところに近づいていく。
私から話しかける。
「先輩、探させてしまいましたか……?」
「あ、いたいた、熊子ちゃん。そんなことないよ、わたし達も待ち合わせるなら生徒玄関かなって思って来たから」
りせ先輩が笑顔を向けてくれる。名前を呼んでくれるだけで、不安が溶けてなくなるみたいだ。
「熊子ちゃんも、待たせちゃった?」
「いえ、私も今来たところです。ちょうど良かったですね」
ベタな台詞を返す。もしかして今の正解は「もうずっと待ってたんですからね」で、先輩に謝らせてしまうけどちゃっかり好意を伝えるみたいな駆け引きを……私には無理だ。
三人で話しながら帰る。みんな徒歩で通学してて助かった。
嘘みたいな夢みたいだ。
「でもどうして先輩達はそこまで私に優しくしてくれるんですか。私に何か弱みでも握られてるんですか!」
「落ち着いて熊子ちゃん。わたし達ほとんど初対面だよ」
「それもそうでした」
「あたしがトーリの弱みを握ってるならまだしも、その逆はないよ」
「どういう意味ですかそれ⁉︎」
「そのままの意味だって」
「冗談とかじゃないんですね」
それから会話の流れで私は相談めいたことをしてみることにした。私の弱い部分の話だ。
「でも私、女の子と何を話していいか分からないんですよね。共通の話題がないんです」
「あたし達と話せてるのは?」
「それはそうなんですけど」
「んー、改まって考えてみると難しいね。考え過ぎちゃうと身動き取れなくなりそう」
りせ先輩が困ったように笑う。夏希先輩も考えている顔だ。
りせ先輩の言うとおりだと思う。理屈で考えようとすると駄目になる。
「そうだなぁ、会話はキャッチボールとか言うけど、勝ち方があるのよ。あたしは野球とか野球部とか嫌いだけど」
「そんなのがあるんですか、夏希先輩?」
サッカー部も嫌いだけど、と関係ないことも言いながら夏希先輩は言う。
「キャッチボールしなくていいから、どんな手段を使ってでも相手を倒す」
「……それ意味ないですよね? それに倒しちゃ駄目だと思うんですけど」
「だから、勝たなくていいし何でもいいんだよ。投げたら何かは届く」
「難しく考えないで良いし、上手くできなくてもいいんだよ、熊子ちゃん」
りせ先輩のフォローが入る。
何だかそれは、結局答えになってないような。いや、先輩達だって理屈が分かってるわけじゃなくて、理屈じゃない何かで一緒にいるんだ。
好きとか、誰かと一緒にいたいと思うのと同じで、何を話すかも理屈じゃないんだ。
「それにわたし、熊子ちゃんと話すの好きだなぁ……それじゃ駄目?」
「駄目じゃないです」
分からないけど、何か分かった気がする。りせ先輩がくれた言葉が私の不器用な部分に響くのを感じる。胸がいっぱいになる。
相談できただけでもいい。
少し先を歩いていた夏希先輩が振り返る。
「それで、今日はどこ行こっか?」
何か、すごく伝えたい。理屈じゃなくて、何も考えずに今。
「わたっ、私も、りせ先輩のこと好きです……」
尻すぼみになってしまった。二人の注目が私に集まる。今すぐにでもここから逃げ出したくなる。顔が馬鹿みたいに熱い。
考えるような一瞬の間があって。
「えへへ……先輩ちょっと照れちゃうな」
言葉どおりに照れてくれるりせ先輩。早歩きで私のところにやって来て、無言で私のほっぺを四方八方に引っ張り始める夏希先輩。
夏希先輩のこともちゃんと好きですよ。そういうことじゃないですか? たぶん、そういうことじゃないですね。
ああ、今日はどこに寄り道しようかな。