リトルバスターズ! ~理樹くんの異世界モンスターハンター奇譚~   作:九十九足一

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第一話:平和に生きてきた四人の少年――目覚めたのは、力こそ真理と唱える狩人達のセカイ――
第一話.(一)


 ――某月某日、恭介がまたしても素っ頓狂なことを言い出した。

「お前たち、ゲームをやらないか?」

 いきなり僕の部屋にやってくるなり、前置きも無しにそんなことを提案したのである。

「ゲーム? 何の?」

「ああ、まずはこいつを見てくれ」

 恭介は持ってきた包み紙を広げた。

 梱包されていたのは、新品の携帯ゲーム機とゲームソフトだった。

 ソフトのタイトルは――『モンスターハンター4G』。

 僕でもタイトルくらいは知っている、有名ゲームシリーズの最新作だ。

「どうしたの、これ? 買ったの?」

「いや……週刊少年○ャンプの懸賞で、この間当選したんだ」

「雑誌の懸賞かよ……地味にすげぇな」

 感心した声を上げたのは、ルームメイトの真人だった。

「……で、どうして俺たちまでそれに付き合わされなければならないんだ?」

 そう不機嫌に言ったのは謙吾だ。真面目で堅物な性格の謙吾は、こういうゲームには苦手意識でも持っているのだろうか。

 男子寮にある僕の部屋では、僕と、ルームメイトの真人、それから幼馴染であり同学年の健吾が、授業で出された課題を解くために三人集まっていた。

 みんなで一生懸命、真面目に課題に取り組んでところに、いきなりゲームをやろうと押しかけてきたのならば――まあ、眉を顰めるのも分からなくは無い。

 恭介は、そんな空気が読めているのかいないのか、堂々と答えた。

「せっかく当てたんだ。全員で遊んだ方が楽しいだろ」

「……僕の記憶が確かなら、恭介って三年だよね。就職活動があるのに、遊んでていいの?」

「いや……だからこそだ」

「え? どういうこと?」

「俺は、時たま思うんだ――このまま高校を卒業して、社会に出て、大勢の人間の一人として生きていく。果たしてそれでいいのか、とな」

 恭介は自分に酔ったかのように話を続ける。

「ただ、社会の歯車として生きる。そんなのは俺じゃない。だから、俺は今でしかできないことをやる。俺は――今しかできない事を――俺が俺であるために、モンハンをやる!」

「またその理屈かよ……お前、この間も同じ事言って野球やったばっかじゃねぇか」

「決意は不思議と壮大っぽく聞こえるけど……、やっていることは結局ただのゲームだよね。スケール小さいよ」

 もっとも、それが恭介らしいといえばそうだった。

 僕たち三人よりも一つ年上の幼馴染である恭介は、昔からどんなくだらない事でも全力で楽しんでやっていた。

 僕達はそうした恭介の突拍子も無い提案に、昔からいつも振り回されてばかりだったけれど――それが楽しくなかったといえば嘘になる。

 それは僕だけじゃなく、真人や健吾、そして、ここにはいないもう一人の幼馴染――鈴もまた、同様に感じていたと思う。

 そんな恭介だからこそ、僕ら幼馴染チーム、『リトルバスターズ』のリーダーをやっていたのだし――僕はそんな恭介に対して、ずっと憧れに近い感情を抱いていたのだから。

「第一、このゲームって一人用だろ。全員で遊べねぇよ」

「問題ない。全員分のソフトは中古で揃えておいた。通信プレイをすれば全員で遊べるぞ」

 真人の言葉に対し、懐から同じパッケージを三つ取り出す恭介。

「ハードはどうすんだよ、ハードは。俺、そのゲーム機持ってねぇぞ」

「抜かりはない。ゲーム好きの知り合いに頼んで、ハードを三台貸して貰った」

 言うなり、懐からニンテンドー3DSを三台取り出す恭介。

 物理法則を無視してポケットから取り出す様は、まるで某国民的アニメに登場する猫型ロボットのようだった。

「相変わらず、遊ぶ事になるとフットワークが軽いね……」

「くだらん……。ゲームなどに時間を潰すくらいなら、剣の修行に打ち込んでいた方がよっぽど有意義だ」

 剣道部の副部長である健吾らしい答えだった。

「その考えは間違いだぞ、謙吾」

「何? どういうことだ?」

「このモンスターハンターというゲームは、基本アクションゲームだ。モンスターの動きを予測して、最適な行動を取ることが要求される。モンスターの動きを読む事は、剣の修行にも役立つんじゃないのか?」

「俺が剣で戦う相手はモンスターではなく、人間なんだが……」

 ごもっともである。だが当然ながら、こんなところで論破される恭介ではない。

「だが、限られたケースしか想定しないのでは、修行による成長にも限界がある。常に予想もしないことが起こりえるのが実戦だろう。たまには、違った角度で物事を見る事も必要なんじゃないのか?」

「妙に説得力があるのが嫌だな……」

 相変わらず、恭介は口八丁である。謙吾はあっさりと丸め込まれてしまったようだ。

「真人、お前はどうだ? ゲームとはいえ、これは勝負だ。最強を目指すのならば、健吾には負けてられないんじゃないか?」

「へ、いいぜ。やってやるよ」

「面白い……。喧嘩でもゲームでも核の違いを教えてやろう」

 いい感じで謙吾と真人は火花を散らしている。こちらもやる気は充分だった。

「理樹、お前はどうする?」

「僕? みんながやるなら僕もやるよ」

 恭介は昔からこうやって突拍子も無いことを言っては、幼馴染である僕たちを巻き込み、そうして結果的には、僕たちもなんだかんだで楽しんでいるのだ。断る理由なんて、あるはずもなかった。

「よし、じゃあお前たち、早速ゲームを起動するぞ」

 そうして僕たちは、配られたハードにソフトを差込み、ゲームの起動ボタンを押した。

 液晶画面に、メーカーのタイトルロゴが表示され、次いで壮大なBGMと供に、オープニングムービーが流れる。

「ほう、凄いな。今時のゲームっていうのは、ここまで映像が美麗なものになっているのか」

 健吾が感心したような声を上げた。

「そういえば、みんなはゲームの経験ってあるほうなの?」

 僕が尋ねると、真人と謙吾は一様に首を振った。

「そういうインドア系なのはなぁ……。正直、買ってまでゲームとかってやらねぇな」

「最後にやったのは、小学校のときにやった人生ゲームくらいだな。お世辞にも、豊富とは言いがたい」

 まあ、この二人はあんまりゲームとかをやるイメージはない。

「恭介は?」

「ん、そうだな……。ゲーム自体はそれなりにやるぞ。前に都内のゲーム大会で決勝戦まで残ったことがある。相手は大人しそうな中学生の女の子だったな。だが見た目に反して、えげつないほどのテクニックを持った相手だった。なにしろ逆立ちしながらパンツを露出させて、スティックとボタンを操作していたんだぞ。あれは凄まじかった」

「さりげに凄いこと言ってねぇか……?」

「けど恭介の場合、あながち嘘に聞こえないから困るよね……」

 そんなやりとりをしている内に、オープニングムービーが終わったようだ。

『モンスターハンター4G』のタイトルが表示され、メニューから僕たちは『New Game』を選択する。

「まずはキャラメイキングだな。それぞれ、ゲーム内で動かす自分のキャラクターを設定するんだ」

 恭介の言うとおり、ゲーム画面には、『名前』、『顔』、『肌の色』など、十種類くらいの項目があった。これらの項目を設定して、自分だけのキャラクターを作る仕様らしい。

「目の色とか、髪型まで決めるのかよ。めんどくせぇなぁ……」

 真人が物臭そうな事を言った。

「だからこそじゃないか。そこまで苦労して作ったキャラクターなら、プレイヤーにとっても、かえって愛着が沸くものだ」

 恭介は、さらに思い出したような声を上げた。

「ああ、そうそう。言い忘れていたが、一度決めたら一部の項目を除いて設定しなおす事はできない。だからこそ、産み落とされたそれは唯一無二の存在となる。いうなれば、それはお前たちの子供であり、分身だ」

「分身かぁ……」

 そう考えると、これから作る自分のキャラクターが、なんだか特別なものに思えた。

「おい、このキャラクター筋肉が足んねぇぞ。体格とか変更できないのかよ!」

「そういう仕様だ。自前の筋肉で我慢しろ」

 筋肉馬鹿らしい真人の文句に、冷静に諌める恭介。

「畜生……こんな貧弱な筋肉じゃ、納得いかねぇぜ……」

「僕からみたら、このキャラクターも充分ムキムキなんだけど」

「せめてボ○・サップくらいは欲しいな……」

 無意味にハードル高かった!

「俺の理想としたら、3サップくらいだな」

「なんでボ○・サップが単位みたいになっているのさ!」

 思わずツッコミを入れてしまった。

「ふむ……だが実際、結構迷うものだな。特に、名前とか」

「そう? 僕はすぐに決まったよ」

 健吾の声に、僕は応えた。

 もっとも健吾の場合、自分の子供の名前も死ぬほど一生懸命悩んで決めそうなタイプだ。それくらい律儀で真面目な性格なのである。

「そうだな……、なら、こうしてみてはどうだ? お互いが、お互いのキャラクターの名前を設定するんだ。たとえば真人は健吾のキャラクターの名前を、謙吾は真人のキャラクターの名前を決める、といった具合にな。自分では決め辛くても、他の誰のなら案外ナイスな名前が浮かぶかもしれないぞ」

「ほう、それもいいな」

「俺は構わないぜ」

 恭介の提案に、真人、謙吾は同意した。

「よし! ならすでに名前を決めた理樹は除外して、真人は健吾のキャラクターを、謙吾は俺のキャラクターを、俺は真人のキャラクターの名前を決める。ああ、それと言うまでもないが、お互いが決めた名前には文句を言わない事。いいな」

「オーケー」

「心得た」

 互いの3DSを交換して、改めてゲーム画面に向かう三人。

 ――一分後。

「――よし、決まった」

「俺も」

「俺もだ」

「早いね……」

 僕は思わず呟いた。先ほどまで自分のキャラの名前で四苦八苦していたことに比べれば、雲泥の差だ。

「よし、それじゃあ」

 恭介の言葉に、互いのゲーム機を戻す三人。

 その結果――

 真人のキャラ名:『バカ提督(笑)』

 健吾のキャラ名:『真人の手先A』

 恭介のキャラ名:『神なる(21)』

 それぞれ個性溢れたステキなネーミングが陳列する。

「ぬおおおおおおおっ――!」

「くっ……屈辱だ。俺が真人ごときの軍門に降ろうとは!」

「俺はロリじゃない……っ!」

(注:『(21)』のネタが分からない人は来ヶ谷ルートをやってください)

 三者三様、お互い苦悩で悶絶している様が見て取れる。

「見ていて惚れ惚れするくらいの同士討ちだったね……」

 正直なところ、オチは見えていたけど、某『せもぽぬめ』に匹敵するくらいの酷い名前である。

「さ、流石にこれはやめておこう……」

 脱力気味の健吾の提案に、全員こっくりと頷いた。

「――理樹は、なんて名付けたんだ?」

「僕は、こうしたよ」

 自分の3DSを見せる。三人とも、僕の3DSの画面を覗き込んだ。

 理樹のキャラ名:『リキ』

「なるほど、自分の名前か」

「そうだな……分身なんだし、それも一つの手だな」

「せっかくだし、全員自分の名前で統一させるか」

 恭介の提案に則って、真人や健吾も自分の名前を決めたようだった。

 そうして、『リキ』、『マサト』、『ケンゴ』、『キョウスケ』、の四人のキャラクターが出来上がったのだった。

「よし、全員自分のキャラクター作成は完了したようだな」

 そのときだった。

 ガチャ

 扉を開けてやってきたのは、恭介の妹である鈴だった。

「あれ? 鈴、どうしたの?」

 鈴は普段女子寮で生活している。用事もなく男子寮に顔を出してくる事は珍しい事だった。

「辞書を借りに来たんだ。……おまえら、なにをやっているんだ?」

 棗鈴――僕と同じ学年で、恭介、真人、健吾と同じく、幼馴染の一人。

 栗色の長い髪をポニーテールに纏めた小柄な少女で、見た目だけならば充分に美少女といって差し支えない――のだけど、それは黙って座っていればという条件付きだ。

 人見知りが激しく、相手が誰であっても毒舌を吐き、口よりも先に手が出るというコミュニケーション障害ぷりである。先ほど辞書を借りに来たと言っていたけれど、おそらく鈴の辞書には『歯に絹を着せる』という言語は存在しないのだろう。

 その普段の言動から、『なかなか人に懐かない気高き子猫』などと呼ばれる事もあるという。

 鈴は室内にいる僕たちを見ると、不思議そうな表情を浮かべていた。

「で――おまえら、なにをやっているんだ?」

「ゲームだよ。恭介が持ってきたんだ」

「げーむ?」

 僕の言葉に対し、鈴はきょとんとしていた。

 やがて、様子が掴めた鈴は、シャーベットのごとき非常に冷めた目で兄を一瞥し。

「……就職活動のある身でゲームか、ニートみたいだな」

 ぐさり。

 おそらく実の妹には言われたくなかっただろう。鋭利な刃物に等しい、鈴の辛辣極まる意見に、恭介が心にクリティカルヒットを負った音がここまで届いていた。

「……ぐふっ!」

「うわっ、恭介が吐血して倒れた! 鈴、これだよ、これ! 『モンスターハンター4G』っていうんだ!」

 僕は半ば空気を変えるかのように、中身が空のパッケージを鈴に差し出した。

 パッケージの絵を見た鈴は、おもむろに目を輝かせた。

「おー、これ知っているやつだ!」

「え? 鈴はこのゲーム、知っているの?」

 意外だった。鈴はどちらかというと、僕たちの中でも一番ゲームとかに疎そうな印象なのに。

「猫がたくさん出るやつだ!」

「……ネコ?」

「ほら、これだ!」

 言うなり、鈴はパッケージの絵の一角を指した。

 ハンターと一緒に表紙の絵を飾っている生物は、確かに猫っぽい外見をしている。もっとも、ハンターと同じように武器防具を身につけ、二足歩行で立っている姿はどう見ても現実世界の猫ではない。

「それは『アイルー』だな。モンスターハンターの世界に登場する、マスコット的なキャラクターだ。喋って二足歩行で歩く猫に似たモンスターだが、ハンターのオトモとして色々と手助けしてくれる味方キャラだな」

 復活した恭介の説明に、鈴は「そうなのか」と興味深そうにパッケージの絵を眺めている。

 鈴はどうやらゲームというよりも、そのアイルーというキャラクターが気に入ったようだった。可愛い生物でも愛でるかのようにイラストを凝視していた。

「おい、ニート、あたしの分のゲームはないのか?」

「実兄を捕まえてニート言うなぁ!」

「じゃあ(にい)ト」

「同じだろうが!」

『恭介は『兄ト』の称号を得た!』

 妙なテロップが入った気がした。

「ぐぐ……。悪いな、鈴。正直、お前がこういうものに興味を持つとは思っていなかったからな。お前の分のゲーム機は用意していなかった」

「そうか……、うん、別に、まったく、これっぽっちも気にしていないぞ」

 言葉とは裏腹に、鈴の表情はちょっと残念そうだった。

「ほら、鈴。こっちにおいでよ。一緒にプレイはできないけれど、僕のゲーム画面を一緒に見ながら進めようよ」

 僕はそう提案した。

 鈴は無言で頷く。

 ちょこんと、僕の隣に座ると、3DSの液晶を覗き込んだ。

 ちりん、と髪飾りが小さく音を立てた。

 ふわりとした女の子っぽい臭いが漂った気がする。

 ほとんど引っ付くくらいの距離で、鈴は僕のゲーム機の液晶を覗き込む。子供の頃からの付き合いのため、僕はあまり鈴を異性として意識した事は余り無く、このような事をされても平常心を保っていた。

 僕は鈴が見やすいように、ゲーム機を鈴に寄せてあげた。

「――さあ、ゲームスタートだ!」

 恭介の声に、ゲーム開始のムービーが流れようとしていた。

 僕は内心わくわくしながらも流れる映像を見つめていた。

 ――その時だった。

 ザザ……

 妙なノイズが入ったかのように、映像が乱れる。

 ノイズはすぐさま大きくなり、まるで砂嵐のように画面全体を覆いつくしてしまった。

 見ると、僕だけでなく、全員のゲーム機でも同様の現象が起こっていた。

「……なんだ? ゲーム画面が……」

「おいおい、故障か?」

 真人や健吾も、状況が理解できずに疑問符を浮かべている。

「恭介、これって――」

 僕がそう言いかけたとき――

 カッ――!

 ゲーム機の画面から突如として眩い光が迸った。

「うわっ――!」

 そのあまりの光量に、僕は目も開けていられずに手で顔を覆った。

 光はなおも広がり、瞬く間に部屋全体を満たしていく。その、上下の平衡感覚すら失いかねないほどの光に、視界は完全にホワイトアウトしてしまった。

「ま、真人! 健吾! 鈴! きょ――恭介――――――っ!」

 僕はたまらずにみんなの名前を呼ぶが、返事すら聞こえない。

 それどころか、全員の気配すら、いつの間にか消え失せていた。

 精神すら浸食するその光は、やがて際限なく広がり――

 直後、世界が暗転した。

 

 

 照りつく日差しが暑い。

 噎せ返るほどの自然の香りが、鼻腔を擽る。

 肌に感じる大気すら、普段のものよりも鮮烈だった。

「――――き」

 耳元で呼びかける声。

 それは、僕がこの世界で誰よりも安心できる相手のものだった。

「――理樹、起きろ」

「……恭介?」

 瞼を開けると、そこにはいつもどおりの恭介の顔があった。

 いつの間にか倒れていた身体を起こす。

「恭介よかった、無事だったんだ――」

 言葉が途中で途切れる。

 僕は思わず絶句した。

 なぜならば、恭介の今の格好があまりにも奇妙奇天烈だったからだ。

「恭介……その格好、どうしたの……?」

 まるで恭介が好きそうな漫画のコスプレみたいだった。

 ファンタジー世界に登場しそうな防具で全身を多い、背中には大きな棒状の武器を背負っている。

「おっ、目覚めたのか、理樹」

 見ると、恭介の背後には真人と健吾もいた。

 二人とも、恭介とは形が違うが、明らかに同一の世界観の意匠と思しき、奇異な鎧姿をしていた。先ほどまではごく普通の格好だっただけに、その光景はあまりに珍妙に思えた。

「みんな……どうしたのさ、その格好。さっきまであんなに普通だったのに……」

「言っておくがな。理樹、お前も自分の姿を見てみろ」

「え……うわっ、なんだこれ!?」

 健吾の言葉に自分の体を見下ろせば、僕の姿も見慣れない格好をしていた。

 僕が先ほどまで着ていた服装は影も形も無く、代わりに白を基調としたライトメイルを身に纏っていた。腰には大振りの剣が鞘に入った姿で納められている。当然ながら、こんな格好に心当たりなど全く無い。

 そして――周囲を見渡せば、今、僕たちがいるのも、いつもの部屋じゃない。

 一面に草原が続き、地平線の果てには大自然の象徴ともいうべき山々が聳え立っている。点在する木々は青々と茂り、空を見上げれば、日本には絶対生息しないような大型鳥の影が旋回していた。

 先ほどまで肌に感じていた自然の空気――それは錯覚でもなんでもなく、この大空と大地から発せられたものだった。

 それは――夢と疑うほど壮麗かつ幻想的な景色ではあったけれど、五感を通じて得る知覚は、それが紛れも無く現実であるのだと訴えていた。

 風も、匂いも、色も、全てが疑いようも無いほどの確かな現実味を帯びていたのである。

「ねえっ! 僕たちどうしちゃったの!? これは一体――」

「理樹、落ち着くんだ」

 恭介に詰め寄るが、肩に手をあてられて宥められる。

「恭介……?」

 戸惑う僕とは対照的に、間近にある恭介の表情は冷静で――かつ、今まで見た事も無いくらい、一分の冗談すら挟めないほど、真面目なものだった。

「驚くな……そして落ち着いて聞け」

 その声色には、有無を言わせない迫力があった。

 そうして恭介は、怖いくらい真剣な表情で、怖ろしいくらい冗談みたいな事を言ってのけたのである。

「どうやら俺達……モンハンの世界に入ってしまったようだぞ」

 

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