リトルバスターズ! ~理樹くんの異世界モンスターハンター奇譚~   作:九十九足一

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第一話.(四)

 声の方向に向かって少し進んだ先に、岩場の多い場所があった。

 小高い山の合間に道が続いており、道の半ばでポポ車が立ち往生していた。

 御者は少女のようだった。また、荷台にはもう一人いて、そちらも同じ年くらいの少女のようである。先ほどの悲鳴は、彼女たちのどちらかが発したもので間違いなさそうだった。

 その場に辿り着いた僕たちは、ポポ車を取り巻くように、小型のモンスターの群が囲んでいるのを視界に捕らえていた。

 ――ギャア、ギャア。

 ――ギャア、ギャア。

 耳障りなモンスターの騒ぎ声が唱和する。

 威嚇するよう、しきりに発せられるそれらは、これから御馳走にありつけることを喜んでいるかのようにも聞こえた。

 先ほどのアプトノスが典型的な草食恐竜なら、こちらのモンスターは絵に描いたような肉食恐竜のフォルムをしていた。

 二足歩行で立ち、前足を突き出して吼える姿は、昔見たジュラシックパークの映画に登場するヴェロキラプトルを髣髴とさせる。

 体格こそ大人の胸元までの高さしかないくらい小さいが、遠目にも分かるほど、鋭い牙と爪を揃えており、毒々しい赤紫色の表皮に加え、鮮血を思わせる赤い瞳、獰猛そうな面構えを持った、見ているだけで恐怖が込み上げてきそうなモンスターだ。

 その数――五匹。

「あれは――ジャギィだ」

「ジャギィ?」

 恭介が口にした名前に、鸚鵡返しで問う。

「ああ、このクエストを受ける際に、ギルドの人間から聞いた。遺跡平原の奥地には、ジャギィと呼ばれる肉食のモンスターが住み着いているってな。一匹一匹はそれほど強くないらしいが、時折、ああして群で獲物を襲うことがあるらしい」

「大変だよ! それじゃあ、あの人達――」

「ああ、このままだと危ないぞ」

 ジャギィたちは、喧しく吠え立てながら、ゆっくりとポポ車との距離を縮めている。

 ポポ車にいる女性たちは、見たところ武器らしきものを用意している様子は無く、このままでは肉食モンスターたちの餌食になるしかない事は、容易に想像できた。

「――助けるぞ、理樹!」

「う、うん!」

 僕は恭介と一緒にその場に飛び出した。

 ジャギィたちは突然現れた僕たちに気づくと、一斉に意識をこちらへと向ける。

 恭介は疾風の如く一直線に駆けると、ジャギィたちの対応が整わないうちにと、一番身近にいた一匹に横殴りの一撃を浴びせた。

「――はっ!」

 ズバァッ!

 気迫と一閃。

 ホームランを食らったボールのように吹っ飛ぶジャギィの一匹。

 ――ギャ、ギャア。

 奇襲を受けたジャギィたちであったが、恭介を警戒して隊列を変えつつ、距離を取ろうとする。現れた邪魔者を先に排除しようと決めたらしい。まるで野生の狼のように、完全に統率の取れた動きだった。

 その姿を見た恭介も、無闇に突っ込む事をせず、武器を構えつつ慎重に間合いを取っていた。

 ――ギャア、ギャア!

 群れの一匹が、ひときわ大きく咆哮を上げた。

 すると、ほどなく新たなジャギィが二匹現れた。どうやら仲間を呼ぶ合図だったようだ。

 ジャギィたちは、恭介と僕を包囲して倒そうとしているようだった。回り込みつつ、挟み撃ちを取る形で、次第にその包囲網を狭めていた。

「理樹! 散開しつつ、各個撃破だ! 囲まれるとやられるぞ!」

 恭介が叫びつつ、ジャギィの合間を抜けるよう移動した。

 まるで碁盤のようだった。敵の駒に囲まれないよう、目まぐるしく配置を変えていく。

 僕もまた、ジャギィに囲まれないように回り込もうとする。

 ――しかし、移動しようとした先に、一匹のジャギィに回りこまれてしまった。

「うわぁっ!」

 突然視界に現れたそのジャギィに対し、僕は反射的に剣を振った。

 だけど、ジャギィは半歩斜め横に飛ぶと、僕の攻撃をあっさりと回避する。

 ――ギャア、ギャア!

 大口を開けて威嚇するジャギィ。

 僕はというと、その威嚇に動きを止めてしまった。恥ずかしい話だけど、僕は犬に吼えられただけでも、時々びっくりしまうくらいの小心者だ。ましてや相手は犬とは比較にならないくらいのモンスターだった。

(あ、足が動かない!)

自分のチキンハートっぷりを呪わしく思ったのはこれが初めてだった。

 今動かないと、絶対にまずいことになる。頭では理解していても、身体は石にでもなかったかのように動かなかった。

(く、くそ、動け、動けよ、僕の足!)

 僕は自分の身体を叱咤するが、それでも動かない。

 理由は簡単。ようするに、僕は完全に怯えてしまっていたのだった。

 ――傍らに恭介がいたおかげもあったと思う。

 さっきは無我夢中で飛び出すことができたが、今になって、先ほど死に掛けたことが頭にちらついていた。

 眼前に迫った『死』という体験、そして実際に『死』んだアプトノスをこの眼で見たこと、それらの光景が頭を占め、恐怖が完全に身体を支配してしまっていたのである。

 ジャギィの一匹が、動けない僕に向かって牙を突きたてようと襲い掛かってきた。

「――うあああああっ!」

 僕は恐怖に駆られながら、そのジャギィに向かって剣を振り下ろした。

 けれど、その剣は完全に腰が引けており、そもそも間合い何も計らずに怯えて放っただけの一撃だったので、ジャギィに簡単に回避されてしまう。

「このっ、この――っ!」

 あせるあまり、僕は剣をめちゃくちゃに振ったが、一発も当たる様子は無かった。

「理樹、落ち着け!」

 恭介が叫ぶが、今の僕にはそれが意味ある言葉とすら受け取れなかった。

 そんな僕の様子を嘲笑うかのように、ジャギィは軽いステップで横に飛んで僕から間合いを取る。

「このっ――」

 僕はそのジャギィに対して追撃しようと試みたが、背後からぞっとするほどの不吉な気配を感じ、思わず振り返った。

 目の前には、大口を空けて迫った別のジャギィの一匹がいた。

 間一髪。僕は手にした盾でジャギィの攻撃を防ぐが、衝撃を殺しきれず、体勢を崩してしまう。

 そして致命的なことに、足がもつれてしまって、うつ伏せに倒れてしまったのだった。

「しまった、理樹!」

 恭介は助けようにも、対峙している別のジャギィが邪魔で動けないようだった。

 あ――と呻くが、全てが遅かった。

 視界の隅で、ジャギィ四匹が一斉に僕に向かって殺到するのが見えた。

 ――一匹が囮になって、別の一匹が背後から襲い掛かる。

 そうしてバランスを崩した相手に対して、全員で襲い掛かる。

 モンスターながら、感心するようなチームワークである。僕はまんまとその戦術に引っかかってしまったわけだ。

 間違った判断の代償は死だ。倒れた僕の隙を見逃すまいと、四匹が一斉に襲い掛かる。 

 凶器と化した爪や牙が、一斉に僕の背中に突き立てられ、肉が引き裂かれることを覚悟した、その時――

 ――ギャ、ギャア!

 突如、ジャギィたちが驚いて僕から遠ざかる声が響いた。

「え――?」

 顔を上げると、僕の身体の傍で何かが燃えていた。

 それは松明だった。僕も見覚えがある、それはこのクエストを受けたときに支給品としてギルドから配られたものだった。

 そして、その松明を投げ込んだ相手がその場に姿を現していた。

「真人、健吾!」

 現れたのは、頼りになる幼馴染の二人だった。

「悲鳴が聞こえたから来てみれば……どうやら間一髪だったようだな」

 そう言う健吾の手には、先ほど投げ込まれたのと同じ松明があった。

 燃える炎を宿した松明に対し、ジャギィたちは恐れ戦いた状態で取り巻いている。

「こいつら火が苦手みたいだぜ」

 不敵な笑みを浮かべながら、真人はもう一本松明を燃やした。

 するとジャギィたちは怖がるように一歩さらに距離を取る。

「――ほらっ!」

 真人と健吾が手にした松明をジャギィの群に投げ入れた。

 ――ギャァ! ギャア!

 殺虫剤を吹き付けられた鉢の巣のように、完全にパニック状態になるジャギィの群。

 完全に統率を乱したジャギィたちは、もはや烏合の衆でしかない。

「うぉおりゃあぁ――っ!」

「――ィィイヤアァッッ!」

 そこに武器を構えた真人と健吾がジャギィたちに襲い掛かった。

「――セイヤっ!」

 ドカァッ! バキィッ! パキャッ!

 真人のハンマーが、ジャギィの小さな身体をかち上げる。

 常日頃から筋トレで鍛えまくった膂力から放たれるハンマーの一撃は、肉のひしゃげる音と供に、ジャギィの矮躯を骨もろとも粉砕する。

 巨大な鈍器の直撃を受けたジャギィは、身体が不自然な角度で折れ曲がった状態で転がった。また、別のジャギィの頭部にもハンマーが振り下ろされ、スイカ割りの光景のように頭蓋が割れ、ジャギィの脳漿や目玉が飛び散った。

「メーン! ドォオ――ッ!」

 剣道で培った健吾の太刀筋である。目にも留まらぬ速度で太刀が旋回する。

 肉体どころか魂魄すら両断せんとするような神速の剣筋だった。健吾が太刀を振るごとに、ジャギィは頭部や胴を両断され、その瞳には何が起こったかすら理解が及ばないまま、命を絶たれることになる。

 飛び掛ったジャギィに対し、健吾が太刀を振れば、ジャギィは一瞬で四つのパーツに分解される。腹部を裂かれたジャギィの内臓が血飛沫とともに大地に転がった。

「――はあぁっ!」

 ズヴァンッ!

 最後に残ったジャギィの一匹が、恭介の武器によって倒される。

 唐竹割りの要領で振り下ろした恭介の操虫棍は、最後のジャギィを頭部から尻尾まで真っ二つに切り裂き、ジャギィはアジの開きのように左右に分かれた。

 ――そうして、戦闘は終了した。

 真人と健吾が駆けつけてから、あっという間の出来事だった。

 ジャギィたちのチークワークも優れていたけれど、恭介、真人、健吾の個々のポテンシャルは、それをものともしないほど強力だった。

「理樹、大丈夫か」

 唯一、へたり込みながら呆然としていた僕に対し、恭介が声をかけてくれる。

 その声が思わず安堵するほど優しい響きだったこともあり、僕は後から恐怖がどっと押し寄せてきた。

(何も……できなかった……)

 惨めな思いが、胸の奥から滲み出るように湧いてくる。

「もう、やだよ……どうしてこんなことに」

 ポロポロと涙が出てくる。みっともないと分かりつつも、僕はそれを止める事ができなかった。

 今日だけで二度も死に掛けた。

 しかもそれは、自らが望んだ状況などではなく、わけも分からないままこの世界に放り出された結果のことだ。

 帰りたい、と思った。

 あの平和な日常に、毎日馬鹿をやっていた日々に戻りたいと思った。

「……悪いな、理樹。俺がゲームをしようなんて言い出さなければ、こんなことにはならなかったのかもな……」

 恭介がそっと囁きかけた。

「だがな、理樹。仮にもとの世界にいたとしても、これから先、生きていくうえで、どうしようも無いことなんていくらでもある。助けてくれる親や教師もいない、そんなときは、自分の力でどうにかしないといけないんだ」

 え――と、僕は恭介を見上げる。

 僕は恭介の言葉に違和感を覚えた。

 なぜそのように感じたのかは分からない。だけど、恭介の言葉があまりに儚い響きを秘めていたからだと思う。まるで死期を察した者が、今際の際に呟くような、虚ろな音を含んでいるのが心に引っかかった。

「理樹、ここはお前にとっては不条理な世界に思うかもしれない。だが、今ここにいる俺たちにとっては、紛れもなく現実なんだ。現実から逃げてはいけない。どんなに怖くても、どんなに辛くても、立ち向かわなければならない。――これはミッションだ。文字通り命がけの――俺たちが、生きて元の世界に戻るというミッションなんだ」

 その声は、不思議と染み入るように僕の心に響いた。

 そうして、恭介は僕に向かって手を差し伸べる。

 見上げる僕は、その恭介の姿に規視感を覚えていた。

 かつて幼かった僕に対して、手を差し伸べてくれた男の子の姿を思い出していた。

 その記憶と、目の前の恭介の姿がダブり――僕は、今日だけで何度差し伸べられたか分からない恭介の手を取った。

「……ミッション、スタートだ」

「……うん」

 納得したわけじゃない。

 恐怖や不安が消えたわけじゃない。

 それでも僕は立ち上がった。

 涙を拭いて、恭介の手を握り返す。

 喧嘩なんてほとんどした事がない、ただ平和に生きてきただけの僕。こんな過酷な世界で生きていくなんて、困難極まりないことなのだろう。

 それでもそんな僕が、たった一つだけ、武器とできる事があった。

 ――それは、僕が孤独(ひとり)でないことだった。

 

 

「おい、お前たち、大丈夫か?」

 健吾が、ポポ車にいた人物たちに呼びかけた。

 ポポ車の荷台では、フードを被った少女がゆっくりと顔を上げた。

「ふええ~、助かったよ~」

 なんというか、非常にのんびりとした、かつ砂糖菓子のように甘ったるい声だった。

 ――というか、どっかで聞いたような声だった!

「んしょ、んしょ、――ほわああっ!」

 荷台から降りようとして、しかし足を踏み外して、盛大にポポ車から落ちて転倒してしまうフードの少女。

「ちょ……、大丈夫!?」

「……痛いけど、だいじょうぶ~」

 慌てて駆け寄ると、少女は頭を抱えて蹲りつつも応えた。

 はらり、と被っていたフードが脱げ落ちる。

 現れたのは、可愛らしい容姿をした美少女だった。

 クリーム色のショートボブの髪型に、赤いリボンを左右二つ付けており、翡翠色の大きな瞳が印象的な少女である。

「ありがとう、危うくジャギィのエサになるところだった」

 御者を務めていた少女も、ポポ車から降りてきて礼を述べた。

 こちらは、荷台から落ちてきた少女とは対極的に、大人びた雰囲気をもつ美少女だった。

 スラリとした長身で、腰まで届くほど長いストレートの黒髪、抜群のスタイルを持つ女性である。

 ――というか、二人とも規視感ありまくる容貌をしていた!

「え!? 小毬さん!? それに、来ヶ谷さんも!」

 そこにいたのは、クラスメイトでもあり、リトルバスターズの仲間である神北小毬と来ヶ谷唯湖の二人――

「ほえ? 確かに私はコマリだけど……」

「む? 君たちとは初対面のはずだが、どこかで会ったかな?」

 ――と思ったが、二人ともまるで僕たちとは面識がないように振舞っていた。

 人違い、などということはないと思う。二人とも、元の世界にいた友人たちと瓜二つの外見をしているし、口調や雰囲気もまったく同じだった。

 戸惑っている僕たちに対し、長身の少女は言葉を発した。

「自己紹介しよう。私の名前はユイコ。こう見えて、キャラバンの団長をしている」

「私の名前はコマリ。このキャラバンで鍛冶職人をやっているんだ~」

 名前まで同じだった。

 僕はどういうことか分からず、傍らの恭介に問いかけた。

「……どう思う? 恭介。あの二人、どう見ても小毬さんと来ヶ谷さんだよね……」

「そうだな……」

 恭介はしばらく考えるしぐさをした後。

「考えるに……おそらく、そっくりさんだろう」

「ええっ!? そっくりさんで済ませちゃっていいの!?」

「世界には同じ顔が三人いるっていうくらいだ。ましてや、異世界ならなおのことだ」

「いやいやいや、名前まで同じですから……」

 そんなやりとりをしているうちに、僕たちの姿をじろじろと見ていた来ヶ谷――もとい、ユイコさんは、質問を投げ掛けた。

「ふむ、君たちはハンターなのか?」

「え、あ、はい。一応、そうですけど……」

 僕が答えると、ユイコさんは、なるほど、と一つ頷いた。

「……合格だ」

「へ?」

「これは提案なんだが、よかったら、私達のキャラバンに加わらないか?」

「ハンターがキャラバンに? どういうことだ?」

 恭介が問い返すと、ユイコさんは説明した。

「さっきも言ったが、私たちはキャラバンを営んでいる。キャラバンと聞くと、商人たちの集団を思い浮かべる者も多いが、実はハンターを連れたキャラバンというのも珍しくはないんだ。そうしたハンター付きのキャラバンは、行く先々でクエストなどの依頼を受けては、ハンターにそれを託し、依頼人から報酬を貰うことができる。いうなれば、『何でも屋』の仕事も行うキャラバンという奴だな」

 ユイコさんはさらに説明を続けた。

「集会所のハンターは、ギルドから仕事を貰えるが、ハンターランクが低い内は報酬の高いクエストを受ける事ができない。だが、キャラバン付きとなってくれれば、ハンターランクに関係なく様々なクエストを受ける事ができる」

 そういえば、と僕は思い出していた。

 集会所でクエストを受けようとしたけれど、ハンターランクが低くて断られてしまった記憶があった。キャラバンに所属すれば、そのようなことがなくなるのだろうか。

「私たちとはしては、丁度、キャラバン付きとなってくれそうなハンターを探していたところに、君たちと出会ったんだ。先ほどの様子から腕も立つようだし、もしも君たちがキャラバンに加わってくれれば、様々なクエストが受けられるように斡旋しよう。どうだろうか?」

「どうって……、僕たち、まだお互いのこと良く分からないのに……」

「この提案、受けよう」

 僕が迷っていると、恭介がいきなり答えを出した。

「恭介!」

「理樹、俺たちの目的を考えれば、ここは引き受けておいた方がいい。『モンスターハンター4G』のラスボスがどんなやつかは知らないが、ラスボスと戦うためには、多くのクエストを受けて攻略していく必要があることは、容易に想像できる。おそらくは、これがもとの世界に戻るための近道である事に違いはない」

「俺は別に構わねぇぜ」

「右に同じだ」

 恭介の考えに対して、真人、健吾は同意した。

 そんな風にいわれたら、僕も同意するしかなかった。

 僕たちのそんな様子を見たユイコさんは、嬉しそうに頷いた。

「そうか、引き受けてくれるのか。感謝する。……ああ、そうだ。もう一人紹介が必要な子がいる。おい、出てきたまえ」

 言うなり、ユイコさんはポポ車の荷台に呼びかけた。

 その声に答え、ひょっこりとポポ車の荷台から姿を現したのは、これまた僕たちにとって見覚えのある姿だった。

(――え、鈴!?)

 荷台から出てきたのは、まさしく僕たちの幼馴染である棗鈴――否、鏡に映ったとしか思えないほど鈴と瓜二つな少女だった。

「紹介しよう。キャラバンのクエスト受付をやっている、リン君だ」

 やはり名前まで同じだった。

 僕は一つの可能性を考えていた。

 それは、彼女が僕たちの幼馴染である棗鈴であること。僕の部屋で一緒にゲームをやっていて、同じようにこちらの世界に来ていた可能性だった。

「あの――」

「――っ!」

 話しかけようとすると、逃げられてしまった。

 怯えた表情を浮かべながら、物陰に隠れつつ、僕たちを見ている。

 そんな少女に対し、ユイコさんがフォローを入れた。

「……すまない、彼女は人見知りなんだ。なにしろ、自分のことは何一つ覚えていないのだからな」

「え、記憶がないの?」

 僕はユイコさんの言葉に驚いて振り返った。

「ああ、実は、三日ほど前に、記憶喪失で行き倒れていたところを私たちが保護したんだ。あの通り、誰にもなつかなくてな。唯一仲良くできるのはコマリ君だけなんだ」

 その事を聞いた僕は、こっそり恭介に問いかけた。

「ねえ、恭介――」

「さぁな……。兄の俺ですら分からん……。彼女が俺達の知っている鈴なのか、それともただのそっくりさんなのか……」

 鈴と一番時間を多く共有してきたであろう恭介ですら分からないとなれば、今の僕には判断が付かないだろう。

 気になることではあったが、この事はゆっくり様子を見て判断するしかなかった。

「まあ、同じキャラバンに所属するんだ、彼女とは追々仲良くしてくれればいい。それはともかく――ようこそ、キャラバン『我らの団』へ。歓迎しよう、少年たち」

「よろしくね~」

 ユイコさんとコマリさんが歓迎の言葉を述べた。

「『我らの団』? それがこのキャラバンの名前なのか?」

 恭介が気になった風に口にした。

「む? やはり安直過ぎたか? 実を言うと、この団が結成されてから、これといった名前が思いつかなかったから『我らの団』などと呼んでいたのだがな」

「呼びにくくはないか? 例えば人に紹介するとき、『我々は我らの団です』じゃあ、訳分かんないだろう?」

「ふむ、一理あるな」

 ユイコさんは納得したらしい。どうにも、以前から団名で悩んでいた節が窺える。

「だったら、よい名前の案はないか? いい団名があるのなら、改名を考えないでもないぞ」

「そうだな……」

 恭介は、そこで一度、僕と、真人と、健吾に振り返った。

 どうやら、考えた事は同じらしい。

 恭介は告げた。

「キャラバン名――『リトルバスターズ』だ」

 

 

第一話:了

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