リトルバスターズ! ~理樹くんの異世界モンスターハンター奇譚~   作:九十九足一

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第二話.(三)

 結論から言おう――

 負けました。

 

 

 クエストに失敗してコテンパンにされた僕たちは、命からがら戻ってきていた。

「うっわー、これまた手酷くやられたっすねー」

「みんな~、大丈夫~?」

 涙目でオロオロとしているコマリさん。

 しこたまボロボロにされた僕たちは悄然としたままだった。

「強かったな……ドスジャギィ」

「うん……」

 完敗だった。

 惨敗だった。

 完膚なきまで負けたのだった。

 僕たちはドスジャギィと対峙したことを回想していた。

 遺跡平原に辿り着いた僕たちは、まずは地図を片手にドスジャギィを探し回ることから始めていた。

 ジャギィたちの親分と聞いていたので、その時までは、正直、ちょっと強いジャギィ程度にしかイメージしていなかったのだが――

 実物を見た僕たちは、すぐさまそんな楽観を後悔することになるのだった。

 ドスジャギィとは、遺跡平原の山間で不意に突然遭遇した。

 姿形はジャギィをそのままスケールアップしたような感じだった。ただし、その規模が問題である。高さは三メートル近くもあり、全長においては、ゆうに十メートルは超えるだろう。大振りのナイフを思わせるような爪と牙。隆々とした体躯は、それこそ巌の如しである。ノーマルのジャギィと比べると、小犬とライオンくらいの差異があった。

 顔の周囲に、非常に風格を備えた襟巻きを広げており、僕にとっては、それこそ怪獣映画のモンスターか何かのように思えたのである。

 しかも、相手はドスジャギィ一匹だけではなかった。

 ドスジャギィの周囲には、子分であるジャギィも四匹くらいいて、倒しても倒しても次から次へと仲間が現れて、ドスジャギィへの攻撃を妨害してきていた。

 結局、そんな怪物を相手に僕たちは、ほとんどダメージらしいダメージも与える事すらできず、為す術もなく敗退へと追いやられたのである。

「凄まじいまでの分厚い皮膚だ……。刀が全然肉まで通らなかったぞ……」

「ハンマーを何回ぶっ叩いてもケロリとしていやがった……。くそっ、悔しいが、あの筋肉は本物だぜ……」

「ジャギィたちだって、松明を投げても全然ビビらなかったね……。ボスがいるから、非常に士気が高い状態なのかな……」

 うーん、と僕、真人、健吾の三人は落ち込んでいた。

 そんな様子を見かねたユイコさんが口を挟んだ。

「ふむ……、まあ確かにドスジャギィは初心者ハンター向けのモンスターとはいえ、一つの村の男衆が武器を持って束になっても敵わないくらいの強敵といわれているからな……」

 そんな情報は早くに言って欲しかった。

 考えてみれば、野生の熊や狼ですら、人間が生身で歯が立つ相手ではないのだ。ましてやモンスターのボスと呼べるようなやつなら、『ちょっと喧嘩が強い』レベルでどうにかなるものではなかった。

 しかし――である。あんな強いモンスターでさえ初心者向けの相手だなんて、ひょっとしてハンターという職業は、僕の想像なんて足元にも及ばないくらい、遥かに過酷で厳しい業界なのかもしれない。

「………………」

 なんというか、一気に自信がなくなった。

 青菜に塩とはこの事か。

 この先、ハンターとしてやっていけるのかどうか、そんなことすら不安に思えるほどである。

「お前たち、そんなに落ち込むことはないだろう」

 ブルーになっていた僕たちに対し、恭介が元気付けるように言った。

 恭介だってこっぴどくやられたはずだが、それでも僕たちと違って目から闘志は消えていなかった。

「だって、あんなに強いモンスターだなんて……」

「まあ待て、理樹。確かにドスジャギィは強かった。強敵で間違いないだろう。だがな、俺たちに勝機がないなんて誰が決めた?」

 恭介が手を挙げて嗜めた。

 そして、諭すように僕たちに説明する。

「いいか、理樹。ドスジャギィ限らず、本来モンスターとは、総じて人間よりも遥かに強大な存在だ。でもな、それならばなぜこの世界では、モンスターを差し置いて人間という種族が地上の支配者でいられるんだ? ――なあ理樹、人間とモンスターに違いがあるとすれば、それは何だと思う?」

「えっと……」

「人間とモンスターの最大の違い。それはな、人間はたとえどんな怪物が相手でも、事前に準備をして、対策を講じる事でどんな相手でも打ち勝つ事ができるという点だ。――俺たちの居た世界でもそうだっただろう。人間はいつだって、考え、準備をすることで困難に打ち勝ってきた。学生である俺たちだって、進学受験や定期テストなどでそうしてきたはずだ」

 恭介は立ち上がった。

 ぽかんとしている僕たちに対して仁王立ちで宣言する。

「何の用意もなしに、いきなり挑んだのが間違いだったんだ。そもそも、俺たちは一昨日まではただの学生だったんだぞ。まずは――準備から始めないとな」

 そう言って、恭介は不敵に微笑んだのだった。

 

 

 

 次の日、僕たちは別のクエストを受けた。

 

『クエスト:回復薬グレート四個の納品

 場所:遺跡平原

 募集制限:なし

 内容:薬の流通が滞っているせいで、今、バルバレの病院では薬が足りない状態である。至急、フィールドで材料を揃え、薬を調合して持ってくる事。

 契約料:0z

 報酬:300z

 支給品:地図、携帯食料』

 

 僕は恭介と一緒に、遺跡平原まで来ていた。ちなみに、真人と健吾は他のクエストを受けていて別行動中である。

 気候は穏やかで、黄金色の草原が静かに凪いでいた。

「恭介、このクエストでは一体何をしたらいいの? 受注表には調合って書いてあるけど……」

「それを今から説明する。……覚えておけよ、理樹。モンスターハンターのゲームにおいて、重要なファクターの一つ――それが『調合』だ」

 遺跡平原を二人で歩きつつ、先導する恭介が説明する。

「調合とは、二種類以上のアイテムを掛け合わせることによって、別のアイテムを作り出すことだ。材料となるアイテムには大した効果がなくても、調合する事で全く別の効果を持つものや、より上位の効果を持つアイテムに生まれ変わらせることもできる。ハンターにとって、必須のスキルともいえるものだ」

 そこで恭介は、昨日のクエストの事を振り返った。

「理樹、昨日のドスジャギィとの戦いでは、ダメージを受けても、ロクに回復する事もできずに負けてしまったよな。アイテムも、支給品で受け取ったものだけで、自前でクエストに持ち込んだものはなかった。だから今度は、クエストの役に立つアイテムをしっかりと揃えてから、挑まなければならない」

「アイテム……」

「そうだ。アイテムによる物量作戦も、立派な戦術の一つだ。そうしたクエストの役に立つアイテムの一つ、『回復薬グレート』をこのクエストで入手する。納品分以外にも、俺たちが使う分も手に入れるんだ」

 恭介は、指を立てて続けた。

「俺と理樹と真人と健吾が使う分で、一人四つずつ、計十六個。納品分と合わせて二十個だ。おそらく、全部作るとなると一日中かかると思うが」

 そこで、恭介は懐からメモ用紙を取り出した。

「それは?」

「これはバルバレの商人に聞き込みをしまくってそろえた情報だ。いろんなアイテムの調合の仕方を教えてもらった。『回復薬グレート』の調合に必要なものは、『薬草』、『アオキノコ』、そして『ハチミツ』だ。すべて、この遺跡平原で自生しているらしい」

「へぇ…………」

 僕は恭介に感心していた。

 昨日、クエストから帰ってきてから姿が見えないと思っていたが、裏でそんなことをしていたとは。相変わらず、恭介の行動力には驚かされるばかりである。

「よし、まずは材料から揃えるぞ」

 そうして、僕たちは遺跡平原を探索することにしたのだった。

 

 

 当然ながら、『草』原なだけあって、遺跡平原には様々な種類の草がたくさん生えている。僕にはどれが薬草でどれがそうでない草なのか、区別がつかなかった。

「これが……薬草?」

「いや、それはただの雑草だ。薬草は――あった、これだ」

 そこには、かなり特徴的な草が生えていた。

 他の草よりも一回りくらい高く伸びて、先端には花が生えている。

「まずは薬草、ゲットだ」

 

 

 大きな岩の陰に、色とりどりのキノコが大量に生えていた。

「恭介、アオキノコってこれ?」

「それは特産キノコだな。後で売却することができるから、それも採っておこう」

「ふーん……」

 僕と恭介は、手分けして大量のキノコを袋に詰めていった。

 そうして――たくさんのキノコの中で、瑞々しい青の傘をしたキノコを見つけた。

「これかな……? アオキノコって」

 採って見せると、恭介は無言で親指を立てたのだった。

 

 

 川に辿り着くと、近くの崖にそれがあるのを見つけた。

「蜂の巣だ……」

 巨大な蜂の巣が、崖の岩に設えられていたのである。

 蜂の巣からは、黄金に輝く蜜が水滴となって垂れており、それが崖下に滴り落ちていた。

 近くに寄ると、くらくらするほど甘い臭いが立ち込めていた。

 僕と恭介は、水滴の落ちる先にビンを置くと、ビンにハチミツが満ちるまで待った。

 ある程度溜まったところで、僕は好奇心から指ですくって舐めてみた。

「美味しい……」

 蕩けるほど極上の甘さが口の中で飽和する。

 いかにも栄養満点といった風に思えた。なるほど、ハチミツなんて薬の材料になるのかなと思ったが、これほどまでのものならば、十分薬として使えそうだった。

 

 

 そうして――僕と恭介は遺跡平原の各地を歩き回り、大量の材料を揃えたのだった。

 見晴らしのいい丘で、揃えた素材を地面に置き、僕と恭介は敷物の上で向かい合って座った。

 恭介はメモを取り出し、『回復薬グレート』の調合の方法について今一度復唱する。

「まずは薬草とアオキノコをそれぞれすり潰して、ペースト状にするんだ」

 僕は恭介に言われるまま、持ってきたすり鉢に、よく洗った石でゴリゴリと草とキノコをすり潰していった。

「比率は一対一だ。すり潰した薬草とキノコを、ビンの中に入れて、水を少し入れる。そうすることで、『回復薬』が作れるはずだ」

 恭介の言うとおりにすると、ビンの中で薬草とキノコが混ぜ合わさり、緑色の液体となった。

「ここからさらに、ハチミツをコップ半分くらい入れる。すると変化が起こって、『回復薬グレート』が完成となるらしい」

 僕は緊張しながらも、ゆっくりとビンに溜めたハチミツを入れていった。

 そうして――

「……何も起きないね。これで完成なの?」

「いや……、成功したなら、色が変わるらしい。これは失敗だな」

「え、じゃあこれは?」

「ただの『燃えないゴミ』だ」

 僕たちは、もう一度チャレンジする事にした。

「もっとちゃんとすり潰すんだ。でないと、上手に材料が混ぜ合わない」

 恭介の言葉から、今度は念入りに薬草とキノコをすり潰していった。

 そうして同じ手順で、ビンの中にハチミツを入れる所まで進めた。

 だけど――

「やっぱり何も起きないね……」

「ハチミツの分量を間違えたか……?」

「ねえ、恭介。その調合法だけど、間違っているってことはないよね?」

 すると恭介は、真剣な表情で言った。

「もう一度だ。もう一度だけやろう」

 ――そうして僕たちは、もう一度トライする事にした。

 慎重に慎重を重ね、材料が十分な粘りを見せるまでペースト状にして、混ぜ合わせる。

 震えそうになる指を押さえつけ、今度こそと思ってビンにハチミツを投入する。

 投入を終えて、一秒、二秒――と待つ。

 今度もまた失敗かな、と諦めかけた、その時である。

 ――カッ!

 急に化学反応でも起きたかと思うほど、一瞬だけビンの中身が小さく光り輝き、僕と恭介は驚いた。

 そして――光が収まった後は、ビンの中身の液体が見事に変身を終えていた。

 それまで、濁った濃緑色だった液体は、宝石のように輝くエメラルド色の液体となっていたのである。

「恭介、これ――!」

「ああ――成功だ。これが『回復薬グレート』だ。使えば体力が大幅に回復して、多少のダメージなら、これ一つ飲めば途端に全快できる」

 僕と恭介は、しばらく見つめあい――やった、と笑顔でハイタッチを決めたのだった。

 ようやく一個作ったばっかりというのに、僕は十分な達成感を得ていた。

 そう思わせるほどに、ビンの中の液体は美しかった。

 

 

 黄昏時のバルバレは、赤く染まっていた。

「ただいまー」

 クエストを終え、キャラバンに戻ると、全員が出迎えてくれた。

「おかえり~、リキくん、キョウスケさん」

 コマリさんが笑顔で迎えてくれる。その太陽のような笑顔だけで、僕は今日一日分の疲れが吹き飛んだような気がした。

「遅かったなー、二人とも」

「あ、真人。鉄鉱石の採集のクエスト、どうだった?」

「おう、面白いように鉱石が採れたぜ。健吾も、遠くまで行って採ってきてくれたから、納品した分を除いても、かなり集まったな」

「マサトくんのレザーシリーズには、採集スキルと精霊のきまぐれのスキルがあるからねー。これは、普通より多くのアイテムを収集できたり、ピッケルなどの収集に使ったアイテムが壊れにくくなる特徴があるんだ~。それにケンゴくんのチェーンシリーズにも、腹減り半減のスキルがあるから、長時間活動するときにも便利なんだよ」

 コマリさんが丁寧に解説してくれる。

「理樹たちはどうだったんだ?」

 健吾の問いに、僕と恭介は手に持った袋をテーブルの上に置いた。

 中にはエメラルド色のビンと、濃緑の色のビンが沢山詰まっていた。

「揃えてきたよ。回復薬グレート十六個、通常の回復薬が二十個」

「うむ、成果は上々だな」

 ユイコさんが満足げに頷いた。

 ちりん、と音がする。

 テーブルの上においた回復薬グレードのビンを、リンはしげしげと眺めていた。その液体の美しさに、リンも興味津々のようだ。

「お勤めご苦労様ー! 夕食ができたよー!」

 言って、ハルカさんが大皿をテーブルの上に置く。

 うっ、と僕と真人と健吾と恭介が同時に呻いた。

 あのメガトントラウマ級の料理がまた蘇るのか、と思ったが――

「あれ……? 普通の料理だ」

 運ばれてきたのは、少なくとも見た目はごく普通のメニューだった。

 謎の暗黒オーラは滲み出ていないし、モザイクも掛かっていない。

「やだなー、リキくん。私だって、作ろうと思えば普通の料理も作れるんですヨ」

「じゃあ始めから普通に作ってよ……」

 胸張って自慢げに言うハルカさんに、僕は脱力気味に呟いた。

 

 

 日が落ちかけたので、ランプに火を付けて、それをテーブルの上に置いた。

 夕食が始まって、僕たちはテーブルを囲んで雑談を交えながら、みんなで楽しくワイワイと食事をしていた。

 ちなみにハルカさんが今回作った料理は、味もマトモだった。

 むしろ美味だった。ハルカさん曰く、ネコ飯を作る際に必殺技(あの妙に長い名前の調理法)を放つのだが、そうなるとなぜか昨日のような料理になるらしい。

 食事も終わるくらいに、おもむろに恭介がユイコさんに向かって切り出した。

「ユイコ、今日のクエストの報奨金だが、少しばかり使っていいだろうか? 200zほどだが……」

「うん? 何に使うんだ?」

「ちょっとな……、必要なものがあるんだ。上手くいけば、ドスジャギィを倒すのに便利なものが作れるかもしれない」

 そういう恭介の表情は、自信に満ち溢れていた。

 そういえば――恭介が今日持ち帰った袋には、回復薬グレードと回復薬を入れた袋以外にも、いろんな材料を入れた袋があった。遺跡平原のいろんな場所を探し回って、回復薬グレートの材料以外にも、様々なものを恭介が回収していたのを覚えている。

 ツタの葉や、クモの糸なんて何に使うんだろうとは思ったけれど――

「ふむ、安くはないが……。まあ、いいだろう」

「サンキュー」

 恭介はユイコさんにお礼を言うと、今度は僕に向き直った。

「理樹、お前は明日のクエストは健吾と一緒に出るんだ」

「え? どうして?」

「健吾には既に話を通してある。理樹――お前には、明日戦ってもらうぞ」

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