リトルバスターズ! ~理樹くんの異世界モンスターハンター奇譚~   作:九十九足一

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第二話.(五)

 

 キャラバンに戻ると、既に恭介と真人が帰ってきていた。

 恭介は、真人とユイコさんとの三人で、テーブルを挟んで何かを話し合っていた。テーブルの上には何かの紙が広げられている。

「おっ、二人とも帰ってきたみたいだな」

 僕たちに気づいた真人が声を上げた。

「ただいま……」

「おう、おかえり」

 僕の力ない言葉に、真人がいつもの調子で応じた。

「何を話していたんだ?」

 健吾が恭介たちに尋ねた。

「お前らも見ろ。こいつは、遺跡平原の地図だ」

 恭介の言葉に、僕と健吾は立ちながら、テーブルの上にある広げた紙を覗き込んだ。

 それは確かに遺跡平原の地形の様子が描かれていた。エリアごとに、『1』から『10』までの数字が手書きで符番されていた。

「今日、真人と一緒にジャギィノス討伐のクエストに行ってきた。そのついでで、普段、ドスジャギィが遺跡平原のどのルートを縄張りにしているかの調査をしていたんだ」

 そうだったんだ――と、僕は内心舌を巻いていた。

 僕はてっきり、恭介たちは全く関係のないクエストに行っていると思っていた。けれど、恭介たちが受けたクエストには、実際はそうした下調べの意味も含まれていたのだ。すべては、ドスジャギィを倒すための準備だったのである。

「ドスジャギィは、普段はこの『4』のエリアと、『8』のエリアによく出没するらしい。『6』のエリアには、ジャギィたちが利用する水場があり、『9』のエリアにはジャギィたちの巣がある。『6』と『9』の間にある、『4』と『8』のエリアが、ジャギィたちの通り道になっているようだ。――つまり、この、『4』または『8』のエリアで待ち構えていれば、ドスジャギィを待ち伏せできる」

 恭介は、ペンで地図の上に印を付けながら、僕たちに説明した。

「うむ、二人とも丁度いいところに帰ってきたものだ」

 そこで、ユイコさんが口を挟んだ。

「例のドスジャギィだが――いまだどのキャラバンも狩猟できていないそうだ。どうやらただのドスジャギィではなく、金冠クラスのモンスターらしい」

 金冠とは、同種のモンスターの中でもとりわけ大きなサイズの個体に付けられる称号のようなもの――とユイコさんは説明してくれた。

「だが、このまま手を拱いていたのなら、被害が大きくなる一方だ。よって、明後日にはようやくギルドが動き出すらしい。集会所の腕利きのハンターが動くなら、ドスジャギィも難なく討伐されるだろう。つまりは、明日こそが我らの手でドスジャギィを倒すラストチャンス、ということになる」

「それじゃあ、恭介――」

 恭介が、ああ、と頷いた。

「明日――ドスジャギィに挑む。リターンマッチだ。このためにしっかりと準備をしておいたからな」

「へっ、腕が鳴るぜ」

 恭介の言葉に、真人が掌を打ち鳴らした。

 ――僕は、言い出すなら今しかない、と思った。

「……恭介、話があるんだけど」

 恭介たちの視線が僕に向けられる。健吾は、僕が何を話そうとしているのか察したらしい。

「理樹、言うのなら俺が――」

「ううん、健吾。お願いだから、僕から言わせて」

「どうやら只事じゃない話のようだな」

 僕が神妙な顔つきをしていたからか、恭介が立ち上がった。

「理樹、あっちの方で二人で話そう……。お前たちは、しばらくそこでいてくれ」

 僕と恭介は、健吾たちをそこに残して移動した。

 二人きりになった事で、僕はようやく切り出した。

「恭介……明日のクエストだけど、僕をキャラバンに置いていってほしいんだ」

「――クエストに参加しない、ということか?」

「うん……、僕だけが参加しないのは申し訳ないと思うけど、僕なんかが行っても、みんなの足を引っ張るだけだよ。今日だって、僕のせいで健吾に怪我をさせてしまったんだ。だから、僕は――もう嫌なんだ。モンスターと戦う事だけじゃなくて、みんなに迷惑をかけることが――」

 ――違う。

 他の人間のことを、言い訳みたいに使ってはいけない。

 僕はかぶりを振った。

「――違うんだ。本当は、怖いんだ。モンスターと対峙しただけで、足が震えて、竦んで、動けなくなってしまうんだ。今度こそ、死ぬかもしれない、そんなことだけが頭に浮かんで、どうしていいか、解らなくなってしまうんだ」

 恭介は黙って聞いていた。

 僕の言葉に口を挟むわけでも、反論するわけでもなく、静かに聞いていたのである。

 やがて、恭介が優しい言葉で語りかけた。

「理樹、お前は死なないさ。俺がお前を守る。俺だけじゃなく、真人や健吾もお前を守る。だから、安心して戦えばいい」

「それが嫌なんだよ。僕は、もうみんなに迷惑をかけたくなんてない。だから――」

「――理樹、お前は本当にそれでいいのか?」

「え――――?」

 僕は恭介を見上げた。

 恭介は真剣な表情で僕を見ていた。

「お前が一緒に戦う事で、俺たちに迷惑を被るとお前は言う。けれど、それは迷惑をかけない代わりに、俺たちを助ける事もしないということだ」

 恭介はさらに続けた。

「理樹、誰にも迷惑をかけずに生きている存在なんて、この世にはいない。なら、自分が行動する事で誰かに迷惑をかけることよりも、自分が行動する事で、他の人間の役に立つ事を考えろ」

「僕なんかが行っても、みんなの役に立つなんて――」

「それは違う、理樹」

 恭介は、きっぱりと否定した。

「『お前なんかが』じゃない。『お前じゃないと』いけないんだ。俺たち――リトルバスターズの持てる全てをもって戦わないと、ドスジャギィは倒せない」

 恭介は、じっと僕を見つめる。

「もう一度言おう、理樹。――お前の力が、必要なんだ」

 僕は、はっとして恭介を見た。

 それは、かつて幼い頃に、恭介から言われたことと同じだった。

 ――強敵があらわれたんだ! きみの力がひつようなんだ――

 あの頃と同じ言葉を、今の恭介は僕に向けている。

 恭介たちを助けられる自信なんて、なかった。

 それでも――それでも、あと一度だけ、僕はみんなと戦うことを決めたのだった。

 

 

 そうして――夜が明けた。

 その日は朝から快晴だった。

 早くに目覚めた僕たちは、身支度もそこそこに、コマリさんを始めとするみんなに呼ばれていた。

「コマリさん、これは?」

 僕はテーブルの上に置かれた、四組の篭手のことを尋ねた。

 黄金色に輝く、丸みを帯びた篭手だった。その材質にはどこか覚えがあった。

「えへへー、それはね、私が作った特製の防具、『クンチュウアーム』だよ。昨日リキくんたちが持って帰ってきた素材から作成したんだ。自信作だよ~」

 その言葉に、昨日クエストから帰ったあとにコマリさんにクンチュウの素材を手渡したことを思い出していた。あの後、コマリさんはずっと工房に篭っている様子だったけれど、どうやらこれを作っていたようだ。

 手に取ってみると、意外と軽く、かなりの硬度を持っているように思えた。昨日、健吾の太刀すら弾いたクンチュウの外殻から作られた素材だ。おそらく、その防御力はピカイチだろう。

「それからねー、一昨日、マサトくんとケンゴくんが沢山取ってきてくれた鉄鉱石と大地の結晶から、みんなの武器防具をパワーアップしておいたよ。これでドスジャギィ相手でも、攻撃は通るはずだよー」

 

『武器:ハンターナイフ → ハンターカリンガ』

『武器:鉄刀 → 鉄刀【禊】』

『武器:ウォーハンマー → ウォーハンマー改』

『胴:ハンターメイル → アロイメイル』

 

「ありがとう、コマリさん」

「どういたしまして~。私には、これくらいしかできないから」

「ううん、すごく助かるよ」

「えへへー」

 コマリさんは褒められた事に頬を綻ばせた。

 そのとき、ハルカさんの声がキッチンから響いた。

「必殺! はるちんスーパーハイパーダイナミックグレートエクセレントゴージャスデリシャスデンジャラスエクスぺリオンアルティメットアトミックレボリューション――イタッ、舌噛んだっ!」

 自分で技名を出して自爆していた!

「ほいっ、みんなー、ネコ飯ができたっすー!」

 デデーン、と料理が並ぶ。

「今日は前回にも増して力を入れたよ。名づけて、はるちんスペシャル一号・改!」

 ハルカさんが自信満々、胸を張って紹介した。

 その力作やというと――

「これは――スパゲッティかな……?」

「こっちのは――唐揚げか?」

 相も変わらず、魔界じみた物体Xのフルコースが並んでいた。

 怨念にも似たオーラが立ち上り、自主規制とばかりに全てモザイクがかかっているようなメニューばっかりだった。

 僕たちは、テーブルの上にならんだ料理(?)を検分しつつ、呻いた。

(でも、食べないといけないんだよね……)

 僕たち四人は、覚悟を決めてテーブルに着席した。

「えっと……それじゃ、いただきます……」

 死刑直前の死刑囚のような表情で手を合わせる。

 胃薬が欲しいなぁ、と思いつつも、僕たちはそれを口にした。

 ところが――

「あれ……美味しい!」

 見た目に反して、意外や意外。料理の味は、奇跡的なまでの完成度を誇っていた。

「なんだこれ、すげーうめーぞ!」

「ほう、これは……」

「美味いな――見た目はともかく」

 真人、健吾、恭介もまた、口々に賞賛する。

 その反応を見たハルカさんが、ほっと安堵に胸を撫で下ろす。

「よかったー、成功して……」

「けど、どうしたの、これ?」

 三日前と比べれば、百八十度違う結果に、僕はハルカさんに尋ねる。

「ん、いやー、前に失敗したから、こっそり練習していたのですヨ。今日は大切なクエストじゃないですか。だから、せめてみんなにはいい気分でクエストに挑んで欲しいなーって」

 そして、ハルカさんは、ちょっぴり頬を染めた。

「実はね……本音を言うと、三日前は嬉しかったんだ。みんな、なんだかんだ言いつつも、私の作った料理、全部食べてくれたでしょ。今まで、私があんな料理を作ったら、だれもが怒って料理を捨てたり残したりしていたから、ちゃんと最後まで食べてくれた事、地味に嬉しかったんだよね」

 ――だから、私も応えたかった。

 ハルカさんは、そう言って可愛らしく微笑んだ。

 恥らうようなその表情に、少しだけどきりとしつつ、僕は料理を完食した。もちろん、他のみんなも全部食べた。米粒ひとつ残さなかった。

 

『体力が上がった

 スタミナが上がった

 防御力が上がった

 ネコの起上り術【小】発動!

 ネコの火事場力発動!』

 

 そうして、僕たちは出発の準備を終えた。

 一昨日作った回復薬と回復薬グレートを腰のベルトに入れ、コマリさんの用意した新装備を身に付ける。

「少年たちよ。応援しているぞ」

 ユイコさんからエールが届く。

「――これが試練だ。今こそ壁を乗り越えるときだぞ。頑張れよ、少年たち」

「ああ、行ってくる」

 恭介がそれに応じた。

 そのとき――僕は荷台の影に隠れているリンを見つけた。

 リンは、どこかもじもじとしながら、僕たちの事を見つめていた。

「リン、どうしたの?」

「――――っ!」

 僕が呼びかけると、リンは驚いて隠れてしまった。

 しかし、再びゆっくりと姿を現すと、たたた、とこっちに走ってきた。

「…………ん」

 そう言って、押し付けるように僕に紙を手渡してきた。

 受け取ると、それは受領スタンプの押されたクエストの受注表だった。

「……………………れ」

 小さく、呟くようにリンはそう言った。

『頑張れ』――と、リンはそう口にしたのである。

「ありがとう……行ってくるよ」

 僕はリンに微笑んだ。

「――――うん」

 リンは僕の表情を見ると、満足そうに頷いたのである。

「よし、それじゃ行くぞ、お前ら!」

 恭介が叫ぶ。

 そうして――僕たちは再びドスジャギィ狩猟のクエストへと向かったのだった。

 キャラバンではみんなが手を振って見送ってくれた。

 決戦に向かう僕たちに――空はいつまでも快晴だった。

 

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