戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~   作:特撮仮面

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彼女たちと大人たち

「えーっと、その、あの男――遊吾って名前なのか」

「うん、遊吾・アトラスさん。身長高いけど十五才なんだよ」

「マジッ!? あれ絶対二十歳越えてるぞ!?」

「そう? 遊吾さん、年相応なところあると思うんだけど」

「あ、ありえねぇ…」

 

 

 高い身長に何処か大人びた雰囲気。確かに言動の節々は子供っぽかったのだが、だとしても彼が自分よりも年下とは考えにくい。明かされる衝撃の事実に驚きを隠せないクリス。

 

 

「良く分かってんだな、あいつのこと」

「見てきたから、ずっと。優しくて強いのに、何処までも子供みたいで弱くて、強引で人の迷惑を考えなくて、考えなしで意地っ張りで非常識でデリカシーがなくて…」

「それ、誉めてんのか?」

 

 

 途中から続く言葉の内容はとても誉めているようなものではない。苦笑しながらクリスが言うが、それに未来は笑顔で答える。

 

 

「うん。と言うか、遊吾さんは誉めるところよりも悪く言った方が良いところの方が多いよ? 良く煽るし、情け容赦なく人をボコボコにするし、その上で笑うし。軽く鬼畜と言うかゲスというか、とりあえず時々酷いし」

「うわぁ…」

 

 

 何でそんな奴のことを笑顔で語れるんだよ…。最早悪口でしかないことを平然と言ってのける彼女に思わず表情をひきつらせるクリス。

 

 

「でも、いや、だから、かな? 見てて飽きないし、楽しいよ? 本当に何だかんだ言って優しいし、遊吾さん見てると何だか嬉しいし」

「…良く分かんねぇ」

 

 

 口ではそう言うが、未来の話し方、そして未来の表情にクリスは見覚えがあった。

 

 母。歌の好きな母、音楽の好きな父。音楽家の家で生まれたということが関係しているのか分からないが、クリスの幼少時代はそれこそ歌に、音に満ち溢れていた。

 

 未来の表情はそんな満ち溢れていたものの一つ。ママがパパの悪口のようなものを言って、いつもパパが苦笑したり、慌てたりしてママに謝ったり、愛の言葉を囁いたりするときの、あのママの優しい笑顔だ。悪い面であっても楽しそうに話すことが出来る。それはとても素晴らしいことだ。きっと、この小日向未来と名乗る少女はあの遊吾と言うヘンテコな男ととても仲が良いのだろう。

 

 

「あ、でも優しいってのは分かる、かもな」

「ほんと!? やっぱり分かってくれる?」

「か、かもなってことだ。別に分かったとか、そういうなじゃねえよ」

 

 

 慌てて未来の言葉を否定しながらクリスは続ける。

 

 

「その、迷子の子供に声をかけた時とか、態々変なことして笑わせようとしたり、あと、あたしに家を譲るって言ったときもなんか、俺がやりたいからだの何だのって、そう! あいつスゲェ素直じゃないんだよ。素直じゃない優しさって奴、なのかもな」

「…まあ、変なことは素だと思うよ…」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、気にしないで。でも――」

 

 

 そういって彼女はクリスの手をとる。

 

 ボディタッチなどの身体的な接触、人の温もりを感じることが苦手なクリスは、顔を林檎のように赤くして慌てて手を引き離そうとするのだが、未来のそのとても嬉しそうな表情を見て、気恥ずかしいけど、この子が笑顔なら良いかと目を逸らしながら彼女の言葉を聞くことにした。

 

 

「良かった。遊吾さんの良いところを分かってくれる人が居て」

「え? あいついつもあんなことやってんだろ? なら分かってくれる奴なんていくらでも――」

「居ないんだよね」

 

 

 彼女は大きくため息を吐きながら続けた。

 

 

「遊吾さん、戸籍がないからこんな段ボールハウスに住んでて、それで皆気味悪がるし。それに、あの人は容赦無いところがあるから、一度敵対した人たちはもう怖くて仕方がないみたい」

「一体何をしたんだよあいつ…」

 

 

 どれだけの人が彼を嫌っているのかは分からないが、それだけ多くの人が嫌うと言うのは、一体どんな恐ろしいことをしたのだと苦笑するクリス。と、そこで気になる言葉に気付いた彼女は、未来に尋ねる。

 

 

「なあ、戸籍がないってどういうことだ?」

 

 

 この日本、いや、今の時代紛争などでグチャグチャになっていなければ、大抵どんな国に生まれても戸籍などはあるはずだ。それが無いと言うことは、それは不法入国などが理由となるが…。クリスは、遊吾・アトラスという名前から海外から日本に不法入国したのかとあたりをつけたが、未来の口から放たれた言葉は、クリスの予想の斜め上を突き抜けていった。

 

 

「えっと、遊吾さんは異世界から来たんだよ」

「はっ?」

 

 

 異世界? 異世界って、あの、異なる世界と書く異世界? アリス・イン・ワンダーランド、だったっけ? あのトランプの兵士とかが居る異世界? 一体何を言っているんだと困惑するクリス。

 

 

「あー、異国、とかじゃなくて? いや、そんなまさか」

「これ、何だかわかる?」

 

 

 彼女がポケットから取り出したのは、緑色のレンズと、銀色の装飾が特徴的な近未来的なモノクル、いや、アニメや漫画に出てくる片眼に装着するゴーグルと言った方が良いかもしれない。そんな形状の物体。

 

 一体これは何なんだ? 首をかしげるクリスに、未来が得意気に話し出す。

 

 

「これは、Dゲイザーって言うの。こんなに小さいのに電話の代わりになったり、カメラの代わりになったりするんだよ?」

「嘘だろ!?」

「本当。それに、地図も出てくるしね。本当にこれ一つで何でもできるって感じなんだ」

 

 

 現代の科学力になって、スマートフォンと呼ばれるような携帯端末にそのような機能を追加することができるようになっているが、掌サイズに収まるサイズの、しかもこれ一つにあらゆる機能が搭載されているなんて、それはこの世界の科学力では到底出来るはずの無いことだ。

 

 本当に、異世界から来たのか? クリスの中でその可能性の信憑性が上がってきたことを感じ取った未来が、彼の住んでいた世界について話し始めた。

 

 

「えーっと、遊吾さんの育った世界って言うのはさ。私たちと同じような世界なんだけど、ほんの少しだけ違うんだ」

「ほんの少し?」

「うん。デュエルモンスターズっていうカードゲームが、スポーツとか、社会の中で物凄い活用されている世界なんだって」

「へぇ…」

 

 

 カードゲームが活用されている。なんだ、大分緩い世界なんだな…。そう思ったのが表情に出てしまったのか、未来が悪戯を思い付いた悪餓鬼のようにニヤリと口元を歪めると、彼女はDゲイザーに何やらコードを取り付けると、テレビに端子をつけ始めた。

 

 

 現在、彼女たちがいるのは商店街にある響一郎宅である。

 

 朝にクリスと段ボールハウスで出会った未来。最初は驚きで言葉を失っていたのだが、彼女から聞いた遊吾の姿、そして何より、クリスのもつ雰囲気と表情からナニかを感じ取った彼女は、遊吾という共通の話題を通じて仲良くなろうとした。そこで、その話を聞いた響一郎が自分の家で話さないかと招いたのである。

 

 ちなみに、現在この家の主である風鳴響一郎は何処かへ出掛けており、この家にはクリスと未来の二人しかいない。

 

 

「じゃあ、ちょっとこれ見てくれないかな?」

「これ――ッ!? な、なんだぁ!?」

 

 

 設定を終え、未来がDゲイザーに触れた瞬間に始まった男の声と映像に、思わず驚き声をあげてしまうクリス。

 

 

『さぁ! 今年もやってきたフューチャー・フレンド・カップ(FFC)! もう毎年同じことばかりだから説明は省くぞ!!』

 

 

 メインMC、そう名乗った男性の声と共に、アリーナが揺れる。歓声。満員のアリーナを震わせる人、人、人。

 

 

『まずは本戦の前のエキシビション・ムァッチ!! 登場するのはァ! シティ、否、世界の王者! ジャァァアアッック!! アトゥラァアアアス!!』

 

 

 爆発。入場門が爆発。黒煙の中から白い弾丸が飛び出す。

 

 一本のタイヤに機械を取り付けたような、あまりにも独特なフォルムのバイク――Dホイール。それはキングのみが許された彼専用のマシン。名をホイール・オブ・フォーチュン。

 

 その堂々たる姿は正しく王者。キング、ジャック・アトラス。彼は右腕を天に突き上げ、人差し指で太陽を貫くように、言った。

 

 

「キングは一人、この俺だ!」

 

 

 歓声。コースを走るジャックに民衆はコールを繰り返す。

 

 

『ジャック! ジャック! ジャック!』

 

 

 彼が掌を掲げる。まるで凪のように静まり返る会場。これだけで彼のカリスマがどれだけのものか分かる。そして、静まり返った会場にMCの声が響く。

 

 

『続けて、挑戦者の登場だ! 四年前から若干九歳という若さで大人も子供も凪ぎ払い、四年連続エキシビション出場! 最近、イカサマ、八百長疑惑を叫ぶ奴等千人抜きを成し遂げ、誰もぐうの音も言えなくなってしまった! そろそろ女の子と仲良くなりたいお年頃らしいが、もう少し紳士さを身に付けないとモテないぞ!』

「うるせえんだよ! どくされMC! こないだ嫁さんに逃げられたくせに!!」

『な、なんでそれを知ってるんだぁ!? ゆぅううごぉ! アトラァアアアアス!!』

「紹介が毎度酷いんだよ!!」

 

 

 入場ゲートが爆発する。黒煙を引きながら現れる大型Dホイール。装甲、そして大型モーメント。まるで装甲が薄かったんで厚くしたら、重くて速度落ちたんでエンジン大きくしました。そう言っているような、そんなバカらしいDホイール。しかし、それは同時に、それを駆る人の実力がいかに凄まじいかを語っていた。

 

 黒のヘルメット。遊吾がジャックの隣に並び立つ。そして吠えた。

 

 

「キングは一人、この俺だァ!!」

「お前はプリンスだろ!」

「うっせえ! 今回こそジャックを倒して俺がキングになるんだよ!」

「それ何回目だ!」

 

 

 エキシビション、そして本戦共にジャックに敗北する彼。そのわりに、他の決闘者たちを全く寄せ付けない力を持つことから与えられた称号、それがプリンス。王になり切れない男。皮肉からつけられた名前であったが、破天荒な彼の姿に気づけば彼の代名詞となったその名前。

 

 

「さあ、遊吾! 毎年同じことばかりしているが、そろそろ諦めたらどうだ?」

「馬鹿を言え! 俺はアンタに勝つまでいつまでもこれを続けてやる!!」

 

 

 カウントが始まる。スピードワールド・ネクストが発動し、VRリンク。新たな仮想立体映像が組み上がる。そして、MCが、会場が、二人が吠えた。

 

 

『ライディングデュエル! アクセラレーションッ!!』

 

 

 二台のDホイールが一斉に飛び出す。

 

 そこからは、クリスもテレビに食らいついた。

 

 王者の使役する巨大な竜が空を舞い、拳を振るい、炎を持って敵を打ち払う。鋼の戦士がそれを迎え撃ち、時に巨竜となって王者の首に食らいつく。一進一退の戦い。息を飲む速度と速度のぶつかり合い。しかし、これは決闘。いくら一進一退の攻防が続いていたとしてもいずれは決着がつく。

 

 

「受けろ! アブソリュート・パワー・フォース!!」

「ぐわああああああ!?」

 

 

 鳴り響くブザー。Dホイールのエンジンロックが働き、排熱しながらその速度を急速に落とす。急な減速で暴れる車体をいなして彼は転倒すること無くコース上に停車。そんな二人に向かって歓声が轟く。

 

 

『アァアトォラス!! アートーラス!!』

 

 

 裏では親子ガチンコ一本勝負だの、元祖親越え選手権、最早アトラス親子とエキシビジョンマッチを別にしようか、だのと散々な言われ方をし始めているこの決闘であるが、年々キング、ジャック・アトラスに食らいつく彼のその蛮勇とも呼べる勇気と、その戦いっぷりは見ている人々の心を熱くさせる。

 

 二人の決闘者に向かって送られるエール。勝者と敗者という立場があるのだが、それを思わせない力強い姿に観客は魅了されていた。

 

 

「はへぇ…」

「凄いでしょ?」

 

 

 疾走決闘。現在存在するVRによる決闘、従来の仮想立体映像を利用した決闘、いくつか決闘の種類があるが、その中でも特に速度とスリルの溢れる疾走決闘にどうやらクリスは釘付けとなってしまったらしい。未来が苦笑しながら彼女に声をかけると、クリスは馬鹿!? ちげぇよと大慌てで手を振った。

 

 

「違う! えっと、そ、そう! 遊吾がすっげぇ痺れるなって――って、そうじゃなくて!!」

「そうだよね! 格好いいよね!!」

「お、おう?」

 

 

 未来に手を取られて困惑しながら頷くクリス。そんな彼女の様子に気づかず未来は続ける。

 

 

「いやー、もう、ジャックさんの動きを読みきった強化蘇生からのシンクロ召喚とか、熱いよね!」

「いや、あたしとしてはシンクロ・キャプチャーからの緊急同調での超大型シンクロが凄かったと思うぞ!」

 

 

 む、と彼女たちが向き合う。そして始まるどの場面が格好良かったかという談義。それは過去のデータも次々と出されることとなり、議論は深夜遅くまで続いたという。

 

 ちなみに、このことによって小日向未来と雪音クリスの間に奇妙な友情が芽生えたのだが、その代わりに彼にとってあまり見せたくない邪神降臨、三幻魔、三幻神の復活、ダークチューナーやダークネスなどに操られていた彼にとっての黒歴史が二人に知られることとなり、未来に彼がその事を聞いて悶え苦しむことになるということはまた別の話である…。

 

 

 

※※※※※※

 

 

 

「よぉ、弦! 元気にしてたか?」

「アニキ…」

 

 

 その日、風鳴響一郎は自分の弟である風鳴弦十郎を食事に誘い、とあるラーメン屋に来ていた。

 

 いつものたい焼き屋の店長の服装で現れた響一郎――現風鳴一族最強と呼ばれた兄の姿を見て、無事に安堵すると同時に彼は若い頃のように怒りの声をあげた。

 

 

「今までどこをほっつき歩いていたんだ! 家を勝手に飛び出してよ!」

「まあ落ち着きな、弦。店の人に迷惑だ」

 

 

 いやいや、構いませんよと笑う店主の爺さんに笑いかけながら響一郎が言う。それもそうだ。いくら何でも非常識すぎる。大人がやることではない。店主に頭を下げて席に座りなおす弦十郎に、響一郎が言った。

 

 

「それに、だ。実は家出ってわけじゃないんだぞ? 立派な勘当って奴だ」

「勘当? 馬鹿な。アニキは風鳴の誰よりも強いし、それにノイズに対抗できる術を持っている。それを勘当するなんて…」

「だから、だよ。俺が聖遺物と完全に融合しきっちまってるから、だから勘当されたんだ。融合を恐れ、戦うことが出来なくなった俺は風鳴の――防人の家には必要ない」

 

 

 風鳴響一郎。彼は最強と呼ばれた男であった。

 

 旧暦よりノイズと言う未知の脅威と戦ってきた人類。日本を守ることを使命とする防人の一族である風鳴家は長い年月をかけてノイズとの戦闘を研究、その生態を明かしてきた。

 

 そんなある日、シンフォギアを作り上げた櫻井理論が出来上がる前に、風鳴響一郎は戦場に立っていた。ノイズと言う未知の存在に唯一触れることのできる人間として。彼は歌った。シンフォギアと言う存在が無かった時代に、草那藝之大刀――大蛇、おろちと呼ばれる伝説上の蛇を切った際に現れた剣だとされる。現代では草薙の剣と言った名前の方が有名であろうか――偶然その破片をその身に宿してしまったことにより、その力を行使するために響一郎は研鑽し、戦った。

 

 シンフォギアと言うシステムがあって初めて、完全に武装として機能させることが出来た聖遺物を、ガッツだ! というあまりにも暴力的な屁理屈で武装として具現化させ、日本を脅かすノイズと、ひいては日本を脅かす敵と戦ってきた。

 

 だが、その代償はあまりにも大きかった。

 

 少しずつ侵食される身体。力こそ上がっていくが、その分身体は聖遺物へと変質していき、いずれは自らが聖遺物となるという恐怖。彼はシンフォギアを纏うことが出来なくなった。恐怖に屈し、戦場に立ったとして武装を纏うことが無くなった。それは被害者の増加と言う形で彼に更なる重みを与え、そして彼は勘当と言う形で風鳴の家をおわれた。

 

 彼は恐怖する。戦うことに。だが、同時に後悔していた。風鳴翼、そして天羽奏。彼女たちの存在が。

 

 

「なあ、翼の嬢ちゃんは元気か?」

「ああ。奏君も、な」

「そうか…」

 

 

 彼は後悔している。恐怖に屈さず戦い抜けば、彼女たちのような自分よりも遥かに年下の子供、女子に武器を取らせ、血反吐を吐くような鍛錬を行わせ、戦場に立たせるなどと言う、あまりにも、あまりにも残酷な道を歩ませずに済んだのではないかと。だが、後悔したところで何も起こせるはずが無かった。今更彼に何かを起こす力すらなかった。

 

 昔は草を薙いでいたんだがなぁ…。彼は皮肉気に笑う。そして、自分に良く懐いていた翼、そしてこっそりと風鳴の家と、その周囲を探って居た時に出会い、その後も何度か会って話した奏。

 

 あんな二人に戦場に立つことを強いている、それをどれだけ後悔したことか。そして彼は遊吾・アトラスと出会うが、彼は遊吾のことも後悔している。

 

 ライブのチケット。自分が彼女たちに合わせる顔が無いからと手渡したチケット。それが彼を人間からノイズと言う人類の敵として変化させてしまった。いっそただのノイズであったならまだしも、あの時から時々会う度に、変わらぬ彼の仕草で何かを語り掛けてくるノイズを見ていると、罪悪感がどんどんと湧いてくるのだ。

 

 だから、彼は今日弦十郎を呼びだしたのだ。昔からの伝手で遊吾がD-noiseとして各国から狙われていることも、今の特異災害対策機動部二課のシンフォギア奏者たちと関わりを持っていること、そして立花響や小日向未来なども最早戻れない粋にまで機密に関わっているということも知っている。

 

 

「弦十郎、お前の昔の兄――いや、ただの響一郎から頼みがある。どうか聞き入れてもらいたい」

「…どんな頼みなんだ?」

「どうか、D-noiseを…遊吾の野郎を助けてやってほしい! あいつは、あの野郎はそりゃ馬鹿で、どうしようも無い奴だし、今はノイズだけど、本当は凄く良い奴で、こんな俺を助けてくれた、奏の嬢ちゃんも、響の嬢ちゃんも助けてくれたんだ! だからどうか、どうか力になってやってくれ!!」

 

 

 頭を下げる。見事な頭の下げ方である。そのまま土下座しかねない勢いに押されつつ、弦十郎は尋ねた。

 

 

「力になれ、とは言うがノイズ相手に何をすればいい? それに、助けられたって」

 

 

 困惑する弦十郎に、彼は語る。遊吾と言う男について。

 

 

「あいつは、たい焼き屋を称して公園でボーっとしてる俺の前にやってきてな? たい焼きくれね? おっさん、って言ったんだよ。嗚呼、よく覚えているとも。その後俺のたい焼きを不味いって言って、こんなんじゃ金払えねえ! って公園の茂みの中に消えていったことも」

 

 

『おい、おっさん。たい焼きくれよ――不味いのはどうにかなんねえのか? 生地が甘過ぎんだよ。もうちょっと味薄くしねぇと中身と喧嘩するだろうが!』

『こんなどうしようもない形だけの屋台とか、馬鹿じゃねえのかとだなぁ。おら、木材持ってこい、改造するぞ!』

 

 

「ああ、ボロクソに言われてな? 腹が立ったから本気で頑張った。久しぶりに頑張って、頑張って、そんでもって、あいつ何言ったと思う? 誠に申し訳ありませんでした。私めはこの世界のお金を持っていないのです! どうかお慈悲を! だぜ?」

「それは無銭飲食と言うやつじゃないか…。って、この世界ってのはなんだ? 国なら分かるんだが…」

「異世界から来たんだと」

「異世界、だとぉ!?」

 

 

 響一郎の言葉に驚きを隠せない弦十郎であったが、だが、と納得する部分もあった。

 

 D-noiseと言うあまりにも特異的な個体、そしてそれが変化するあの強力なシンクロなる存在。そして、天羽奏が大切に管理している謎の機械とバイク。何度も解析しようとしたが、その度に謎の停電、機器の故障により解析の許されないオーバーテクノロジー、恐らく異端技術と思われる技術の結晶体。

 

 少々強引だが、それらは異世界由来だとすれば全て説明がついてしまう。だが、それにしても異世界、あまりにも頭が痛くなるような話に思わずため息を吐いてしまう弦十郎。

 

 

「そう、異世界から来たと名乗る十五の餓鬼。だけどよ? そんな餓鬼の言葉で、何年も燻って錆ついていた俺はこうしてまともに動けるくらいにまで、とりあえずの鈍刀まで戻れたんだ。そう、あいつは俺にとって恩人なんだよ。俺のたい焼きを不味いって言って食ってくれて、おっちゃんって慕ってくれる。そんなあいつに少しでも報いたいんだッ」

 

 

 響一郎の言葉。弦十郎は考える。響一郎の想いは分かる。しかし、だからと言ってそんなホイホイ了承しても良いものか。D-noiseは様々な懸念要素が見え始めた現段階で、特に何をするか分からないイレギュラー的存在。彼によって引っ掻き回された戦場は数知れず。

 

 だが、逆にその特異性を活用する方法があるのなら――弦十郎は言った。

 

 

「…仕方ない。アニキの久しぶりのお願いだ、聞こう。…だが、一つ聞きたいことがある」

「本当か!? ありがとう弦!! …聞きたいことってなんだ?」

 

 

 今の俺に答えられることがあるのなら何でも答えるぞ! そう胸を叩く彼に、弦十郎はゆっくりと尋ねた。

 

 

「あの、蛇が入ったたい焼きを作ったのはアニキか?」

「お、あのとっておき食ったのか? どうだった、不味かったろ!」

「当たり前だろうがクソアニキぃいいいい!!」

 

 

 この日、一件のラーメン屋で数年ぶりの兄弟喧嘩を巻き起こした風鳴兄弟であったが、それは二、三発の拳の応酬の後、OTONAを超える経験と知恵を持ったラーメン屋の店主、JIJIEの力によって終息。店主による数時間に及ぶ説教の後、二人仲良くボロボロの身体で家に帰っていったという。




期待されている方には申し訳ありませんが、儀式などのメインデッキを利用した特殊召喚はこの作品で登場は難しいです。(バスターモードなど何かしらの変身などはまた違う査定)
とりあえず、フルモン儀式があろうがなにをしようが、結局儀式召喚のために必要な要素を作品中に反映させるのがぶっちゃけていえば面倒くさい、イメージや設定、それを行う関係上厳しいからです。

とりあえず、シンクロ、融合、エクシーズについてはまだ設定を考えていますし、出せなくもないのですが…。番外や主人公の回想などでそれらのモンスターの描写はされるかもしれませんが、本編では出ることは無いかと思われます。

タグにも書いていますが、基本としてEXデッキ主体となっておりますので、どうかご理解をいただければ幸いです。

御目汚しの長文失礼しました。


イグナイトモード。ビッキーたち三人が爆発して、デッキからOTONAを手札に加えるのか?などと考えてしまった自分は悪くない。そしておっきいキャロルちゃん可愛い。
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