戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~   作:特撮仮面

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彼と学校と彼の戦い

 って、ここ何処だよ!?

 

 最近ようやく位相空間での補給と言う技術を学んだ彼は、位相空間に流れ込んでくる膨大なフォニックゲインの一部を回収。万全というわけではないが、とりあえず人間として活動していた分のフォニックゲインを回収することは出来た。しかし、その分ノイズを吸収したり、シンフォギア奏者と戦うときのような効率ではないため結構時間がかかってしまった。

 

 しかし、位相空間からの転移がまだ不安定な彼。何やら見覚えのある森と屋敷。何故ここに転移してきたのか? 彼の転移は全てランダム。だが、彼には一つの確信があった。

 

 転移には意味がある。基本的にノイズの居る戦場に転移するのだが、このようにノイズに全く関係の無い場所に転移するということは恐らく――そこまで考えた時、彼の耳に甲高い炸裂音が届く。

 

 銃声!? しかも結構マジの奴じゃねえか!?

 

 独特の炸裂音。彼の経験上、それが対人戦で最も使用される火器、拳銃の物であると確信する。中で誰が撃たれているかは分からない。フィーネならザマァだが、仮にクリスが撃たれていた場合は急がなければならない。

 

 瞬時に加速、そして跳躍。ノイズと言う規格外の兵器の身体のスペックを活かした特大の走り高跳び。位相空間に己を移すことで壁を透過、着地と同時に周囲を見回し状況を確認する。

 

 床に倒れ、横腹から血を流す女性――櫻井了子。いや、フィーネ、か。そしてそれに銃を向けている屈強な男たち。その肉体、立ち振る舞いから訓練を受けた軍人、またはそれに準ずる組織の存在であると理解。どちらに味方をするべきか。そんなことを頭で考えながら彼は動いた。

 

 

「――――!?」

 

 

 悪いな、俺は米国語はさっぱりなんだ。

 

 満足パンチ!! 加速、銃を撃たれるよりも速く顔面に拳を叩きこみ、殴り飛ばす。壁にめり込むサングラスの男。一瞬だけ茫然と男の動きを追っていた仲間たちが、ハッと思いだしたように次々と銃を構え、発砲――しようとするがそれよりも彼の方が速い。

 

 

「fuck!!」

 

 

 ここでは日本人の言葉で話せ!!

 

 満足ブロー! 抉り込むような拳が別の男に突き刺さる。だが、吹き飛ばしなどしない。血反吐をまき散らす男を抱えて彼が次なる標的へ向かう。

 

 男たちは銃を構える――が、発砲が出来ない。

 

 何故なら、彼がまだ生きている男を盾とするからだ。巧みな移動で銃口の動きに合わせて未だ息のある男を動かして見せるその姿は、ノイズと言う災厄の姿も相まって正しく悪魔。鬼畜の所業。そして彼が圧倒的膂力を込めた力で腕の中の男を振り回し、ブン投げた。

 

 スットライク!! ヒャッハー!!

 

 複数の男を巻き込み飛んでいく男。彼らは仲良く壁に突き刺さり、沈黙。訳の分からぬ雄叫びを上げて残りの男たちが銃を乱射するが、彼は四方八方から放たれる弾丸の雨を避ける、避ける。一人が弾切れ、リロードしようと腕を動かして――彼に捕らえられた。

 

 満足キィイック!!

 

 跳躍、そして空中捻りから繰り出される蹴りが男に突き刺さり、窓ガラスを割って外へと飛んでいく。残る男は二人。一人は勝てぬと思ったのか逃げの一手を打つ、だが。それを逃すほど彼は甘くないし、優しくない。

 

 そぉらよっと!!

 

 近場にあった椅子を伸ばした腕で掴み、無造作に投擲。足先が男の後頭部に突き刺さり、転倒。頭蓋骨を突き破っているわけではないので、死んではいないだろうが、逆に言えばそれだけだ。

 

 最後に残った男。彼は英語で何かを喚きながら手に持った拳銃を連射する。避ける必要など無い。ゆっくりと歩いて近づいていく彼に、男は必死に後退しながら拳銃を乱射する――が、そんなことをしていれば当然弾が切れてしまうわけで。壁際まで追い詰められ、弾の無くなった拳銃の引き金を引きながら彼が何かを喚き続ける。

 

 恐らく、この化け物、とか理不尽だ! などといった自分の不幸を嘆き、こちらを呪うようなことを言っているのだろう。そうあたりをつけつつ彼はフォニックゲインを発現、肉声を発した。

 

 

「何度も言うけど、日本語で話せ。分からん」

 

 

 彼の拳が顔面に叩き込まれ、見事に顔を変形させて地面に崩れ落ちる男。死んではいないが、しばらくは大変だろう。その後の生活を想像するとあまりにも容赦のない攻撃。彼は全員が沈黙していることを確認して、ホッと息を吐いた。

 

 

「何故、何故助けたの?」

 

 

 立ち上がる了子。普通の人間が脇腹とは言え大量の出血をしているのに立ち上がれるはずが無い。それは彼女が即ちフィーネ、いや、フィーネでなくとも何か特殊な存在であることを示唆していた。

 

 しかし、彼の返答はあまりにも軽い。

 

 

「当然だろ? そんなこと。訳なんて聞くまでもねえじゃねえか」

 

 

 血を流して倒れてる女と、武装した明らかにその筋の男たち複数。どう考えても味方すんのは女の方だろ? 常識的に考えろ。そう言う彼に、しばらくポカンと口を開けて間抜けな表情をしていた了子であったが、彼の言葉を理解すると、堪らず吹き出してしまい、横腹からくる引きつるような痛みに表情を歪めつつも笑ってしまう。

 

 

「いたっ、はは、あははは!! 馬鹿だ! 此処に馬鹿が居るわ!!」

 

 

 これほど愉快なことがあるか。そう笑う彼女に、おいおい、酷いなと彼も笑う。

 

 

「そりゃ、笑うしかないでしょ? そんな馬鹿げた理由で守られた、なんて」

「馬鹿げたって、本当に酷いなおい…」

 

 

 だが、彼女のいうことも尤もである。状況も分かっていないというのに、武装した男が沢山いる時点で女の方が怪しいということも考えないのか。研究者であり、何かと論理的にしようとする了子は彼の行動に関して非効率的且つ、あまりにも非論理的な行動だ、そう心の中で断じる。が、彼はどこか誇らしげに言った。

 

 

「まあ何だ? 突然武器構えたらそりゃ攻撃しちまうし――それに、あんなむさ苦しい奴らよか、アンタを助けた方がよっぽど利口、ってか、美人を守るのは男の誉ってな?」

 

 

 嗚呼、この男がどのような表情をしているか手に取るようにわかる。限界だと腹を抱えて大笑いを始めた了子であったが、何とかその場に転がりそうになるのを抑えると彼にゆっくりと近づいていき、彼に右手を添わせる。

 

 一体何を? 彼が首をかしげるがすぐに変化が訪れる。

 

 シンクロの光。彼の身体にフォニックゲインが流れ込んでくる。なぜこんなことを? 彼が、彼女がフィーネであることを察していることを彼女も分かっているだろうに。問おうとした彼の口があったと思われる場所に彼女が指を当てる。

 

 

「ここで聞くのは野暮ってもの。黙ってるのも良い男の条件よ?」

 

 

 ウィンクをして悪戯っぽく笑う彼女に、そうかと笑う。どうやら教えてくれないらしい、と彼の身体が少しずつ透明になっていく。

 

 転移の兆し。どうやら、彼女と会うことが彼にとって必要なことだったらしい。

 

 

「あ、ちょっ! ありがとな!! この借りは――」

 

 

 最後まで言うことなく転移する彼。

 

 彼を見送った彼女は、ため息を吐きながら割れた窓ガラスから見える憎たらしい程の青空を見て言った。

 

 

「さて、本当に何で助けたのかしら、ね…」

 

 

 もしその理由を上げるのだとすれば、きっと彼があの時出会った――。

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 意識を取り戻した彼の目の前に広がるのは、広大な街。そして、遠くからでも見える二つの戦火。どうやら街がノイズの侵攻を受けているらしい、のだが。

 

 そこで彼は気づいた。市街地方面のフォニックゲインの高まりと、聞こえてくる歌声に。

 

 どうやら、自分が見ていない間に随分と彼女たちは仲良くなったらしい。これなら自分が戦闘に介入する必要はない。どうか彼女たちに届きますように、と願いを込めて心の中で、頑張れよ、とエールを送りつつ、彼は跳躍する。

 

 彼が目指すのはシンフォギア奏者が居ない戦場、私立リディアン音楽院高等科校舎。恐らくここが決戦の地となる。先程から感じるそんな気配に身震いしながら彼は内心呟いた。

 

 さあ、俺を満足させてくれよッ…!

 

 

 

 その日、私立リディアン音楽院高等科は地獄と化した。

 

 突如としてリディアン音楽院敷地内に発生したノイズ群。しかも、その規模はあまりにも史上類を見ない大きさであった。

 

 大型ノイズ、中型ノイズ、小型ノイズ、宛らノイズ博覧会と言わんばかりの各種ノイズが学校を襲っていた。特異災害対策機動部一課、そして自衛隊の展開は早かった。早かったが、逆に言えばそれだけだ。

 

 シンフォギアと言うノイズに抵抗できる手段が無い以上、いくら人間の銃火器でもダメージを与えられると理論上証明されていたとしてもそれが実際にノイズに効果的で、かつ被害を減らせるかと言えばそんなことはない。終業直後ということもあり、多くの学生が学院に居たのがいけなかった。

 

 ライブ事件の教訓によって進歩こそあれど、やはり混乱する女学生たちを導くのは並大抵のことではない。だが、それでも戦闘に参加している隊員たちを覗けば人的被害が零であるのは、単に小日向未来と言う少女の尽力によるものであろう。

 

 

「皆落ち着いて! しっかり自衛隊の人や一課の人の指示に従ってシェルターに避難してください!!」

 

 

 同じ女学生であり、同時にその人柄から慕う者も多い小日向未来の言葉は、同じ学生に勇気と活力を与え、冷静さを保っていられるのだ。

 

 無論、未来だって内心冷静でいるわけではない。だが、立花響の戦いを間近で見て、そして仲直りして彼女の所属する二課の存在、そしてそこで働く大人たちの働きを知っているから。きっと助かるという希望があるから。そして、あの日の悲劇を繰り返さないという鉄の意志があるから、彼女はこうして率先して人を助けて回っているのだ。

 

 立花響が笑顔で居られる場所、居られる歌を守るために。

 

 

「ひな!」

「皆」

 

 

 彼女に声をかけたのは同級生であり、リディアン音楽院に入って響と未来が仲良くなった友達。ボーイッシュなグループのリーダー格、安藤創世。ツインテールの板場弓美。穏やかな寺島詩織の三人だ。

 

 状況に困惑する三人。当然だ。ノイズがこんな規模で襲ってくるという時点で非常事態だというのに、それが自分たちの通う学び舎で起こっているのだ。当然現実味は無いし、あまりの事態に思考が停止してしまっているのだ。

 

 ひなも一緒に避難しよう、そう言う三人に、皆と共に先に行って。私は他の子が居ないか校舎を見てくる。そう言い残してその場を駆けだす未来。元陸上部の健脚は健在。ドンドンと小さくなっていく未来を茫然として見送っていた三人に、先程生徒の列を送っていた青年隊員が慌てて戻ってくる。

 

 

「君たち! 急いでシェルターに避難してください!! この校舎内にも既にノイズが――」

 

 

 三人は見た。否、見えてしまった。彼の頭上から降る極彩色の色。テレビで見たことがある。ノイズが対象物に突撃するときの螺旋形の形態だ。

 

 狙う対象は青年隊員。彼は自分に迫るノイズに気づいていなかった。それが悲劇。彼女たちの目の前で一人の青年が炭化し、遺体すら残らず命を散らす――そう思われた瞬間!!

 

 

「ちょっせえええええええええい!!」

 

 

 雄叫びと共に窓硝子が吹き飛び、同時にノイズが彼女たちの目の前から姿を消した。

 

 一体なんだ!? 何が起こっている!? 状況に着いていけない彼女たち。青年隊員もその衝撃で何かが起こったことを悟ったのだろう、慌てて反転すると担いでいた銃器を構える――その先に居たのは、一体の人型ノイズ。遊吾だ。彼は拳に貫かれて悶えるノイズを吸収すると、痛そうに手を振りながら青年隊員に声をかける。

 

 

「あんた、焦ってたのはわかるがあそこは冷静に行動しようぜ? ノイズが校舎内に侵入してることが分かってんだから、さ。慌てず迅速に。避難の基本だろ?」

「い、いや、まあそうですが…」

「まあ、冷静で居られなかったのは分かる。分かるけど今の俺が居なかったらアンタ死んでたぞ?」

 

 

 次からは気を付けろよ? そう言って移動を始めようとした彼だったが、ふと気になったことがあったので彼は三人の女学生に尋ねた。

 

 

「なあ、この学校に小日向未来って黒髪で母性に溢れてる感じで物凄い暖かい感じの聖母めいた優しい性格の素晴らしい女の子が通ってると思うんだが、キチンとシェルターに避難してるのか?」

「え? いや、えっと…」

 

 

 突然ノイズに声をかけられて困惑する三人。歯切れの悪い答えに若干苛立ちを覚えつつ、彼は質問内容を変えることにした。

 

 

「まさかだが、他に逃げ遅れた人が居ないか見てくるとか言ってどっか行ったとか言わないよな?」

「………」

 

 

 沈黙。それが答えだ。

 

 

「ちょっと何やってんだよあの馬鹿!! 糞ッ! どいつもこいつも俺に満足させてくれねぇええ!!」

 

 

 弾丸の如き加速。驚異的な脚力で瞬く間に校舎内に消えていく彼の背中を見送った四人。ハッとここから急いで離れなければと彼女たちに指示しようとした青年の耳に、独特の雑音が響く。

 

 ノイズ。どうやらこちらを検知したらしい。

 

 

「ここから離れます! 急いで!!」

 

 

 四人は全力で避難を開始するのであった。

 

 余談であるが、この後シェルターに戻ることこそ難しかったものの、何とか学生三人をノイズから守り抜いた実績が評価され、彼は一躍時の人となる。そんな彼は、インタビューの際こう語ったそうだ。

 

 

「今度、あのノイズに会ったらお礼が言いたいですね。貴方のおかげで生き残ることが出来た、ありがとう、と」

 

 

 

 

 小日向未来は走っていた。ノイズは人間を確実に仕留めにくる。ならば、もし一人ではぐれた生徒が居れば命の保証はどこにもないと。

 

 誰も居ないことを信じながら、彼女は声を張り上げる。誰かいませんか! いたら返事をしてください! と。しかし、今のところ返答は無い。そのことに安堵しながらも、もしかしたら頭を打って気絶をしていたりするかもしれないと考え、各教室をくまなく捜索する未来。そんな彼女の背後で、突如として窓硝子が割れた。

 

 その音に彼女が思わず振り返る。

 

 ノイズだ。オタマジャクシのようなノイズが三体壁に張り付いていた。そのノイズたちの、液晶のような極彩色の模様が彼女を捉えた。目が合った。彼女がそう感じた瞬間、ノイズたちはその形状を小さく、鋭く変形させる。

 

 あ、そう思ったときにはもう遅い。ノイズたちが次々と彼女に襲い掛かった。速すぎる。人間では追えない速度で飛翔するノイズを見て、彼女の脳裏に走馬灯が走る。

 

 

「ん? ああ。良いぜ、守ってやる。困ったら俺を呼びな? 地球の裏側だろうと駈けつけてやるからよ!」

「本当ですか!?」

「おう! 当然だろ、ビッキー。俺を誰だと思ってんだ?」

「公園の不審者」

「未来、お前時々酷いよな」

 

 

 三人で笑い合った記憶。忘れない。忘れられない公園での一時。

 

 

――助けて、遊吾さんッ!!

 

 

 声にならない声。

 

 

「満足ゥ――」

 

 

 それは届く。何処に居ようとも。

 

 

「稲妻ァ――」

 

 

 どこからともなく声が響く。反響する声。その聞き覚えのある音に、彼女が目を見開いた。

 

 

「キィイイイイイイック!!」

 

 

 ノイズの背後から、ノイズを超える速度のナニカが飛来。一体のノイズがその場で弾け飛ぶ。

 

 そのナニカはその勢いのまま轟音を立てて廊下に着地。同時に未来の身体に衝撃がはしる。

 

 

「未来さん!」

「緒川さん!?」

 

 

 緒川。風鳴翼のマネージャーであり、同時に二課所属の忍者である彼がノイズの牙から彼女を守るために彼女に覆い被さる。

 

 同時に、ナニカが動いた。

 

 

「反転! 満足、キック!!」

 

 

 着地の際に発生したエネルギーを余すこと無く跳躍のエネルギーへと変換。廊下を砕きながら空中のノイズを蹴り飛ばす――同時にその反動で高速回転。数秒ズレて飛翔するノイズに最後の蹴りをお見舞いしてやる。

 

 

「空中回転ダブルキックってなぁ!!」

 

 

 最後のノイズが吹き飛ぶ。スタッと着地する影。彼女がその影の正体に気づいて思わず叫んだ。

 

 

「遊吾さん!!」

「あいよ」

 

 

 片手を挙げて未来の方を向く遊吾。彼女はその表情が苦笑しているように見えた。




身体が勝手に動きだす~(気づけばキーボードを叩き続けている。なぜだ!?)
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