戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~ 作:特撮仮面
今回の話には、今までにない遊戯王要素、インチキ設定も大概にしろ!なとんでも設定、相変わらずの詰め込みドロー的な、ついてこれる奴だけついてこい!!(ついてこれるとは言ってない)な話。
等々、様々な要素を含んだ話となっています。それらの要素がキツイかたは迷わずブラウザバックを推奨します。
ここまで来たんだ!読んでやるよぉ!!と寛大な心で顔芸が出来る皆さまは、このバリアン警察手帳を持って良かれと思って読んでみてください!
あー、死んだ。これは死んだ。見事なまでに負けちまった…。
意識が遠のいていく。痛みも、息も、鼓動も感じない。目の前に光は無く、まるで無限の闇の中に飲み込まれていくようだ。
王者の魂。ジャック、親父の魂を使っての敗北。三歩先を行っていたのは自分ではなく相手であった。だが、後悔は無い。最後の瞬間まで決闘をしていたのだから。
勝つ日もあれば、負ける日もある。それが命懸けの場面で負ける日だっただけの話。だから、仕方のないことなのだ。どちらにせよ、俺はもうすでに死んでいる。心残りは多々あるが、まあこれもまた運命だったということだろう。
そう考えて納得する彼。これから自分はどうなるのやら、そんなことを考えていた彼の身体に異変が起きる。
熱い。焼けるように熱い。身体が燃え上がるような、否、何かに無理矢理燃やされているかのような感覚。一体何が起こりやがった!? 混乱するも、本能に従い彼は全身を暴れさせる。一体何が起こっているのか分からない。だがこの時彼はただ一つのことしか考えていなかった。
そして、彼の身体に燃えるような感覚とは違う、何か硬い物に叩き付けられたような感覚が訪れる。
「いっづぁ!? 一体何だ――あ? いや、本当に何処だよ、此処…」
彼の五感に力が宿る。一体何がどうなってやがる!? 突然現れた石造りの祭壇のような場所に戸惑いを隠せない彼。
どうやら、息は出来るし、言葉も出るらしい。鏡が無いので確認できないが、どうやら人間でもあるようだ。しかし、と彼は遺跡から見える空を見上げる。
そこは闇。いや、黒と言ったほうが良いか。本当に何もない。ただぽっかりと開いた穴の中を覗き込んでいるような、そんな感覚。どうやらこの祭壇以外の場所は存在すらしていないらしい。
つまり、自分が存在していられるのは単にこの祭壇の御蔭。この祭壇が壊れたり、彼がこの祭壇から離れてしまえば今度こそ彼は消滅してしまうだろう。
おいおい、こりゃどうすんだよ…。とりあえずこの祭壇をくまなく調べていくべきか? そう考えた彼の目の前、祭壇の中央に突如として巨大な石碑がせり上がってくる。
何事!? 思わず叫んだ彼。暫く祭壇を揺らしてその石碑は下からせり上がってきていたのだが、轟音を立てて停止。再度空間に気が狂いそうになるような静寂が訪れる。どうやら、あの石碑に何かをしなければいけないらしい。彼は周囲を警戒しながらゆっくりと、ゆっくりと石碑に近づいていく。
それは何やら古代文字と絵で描かれた伝承のようなモノであるらしい。壁面に描かれた何かを崇める人々の絵と、巨大な竜の姿に何となくそう予想する彼だったのだが、ふとその巨竜の姿に見覚えがあることに気づき、彼は慌てて懐を漁る。
「まさか、だけど。これってレッド・デーモンズ・ドラゴンじゃないだろうな?」
三つの角に深紅の肉体。それはレッド・デーモンズ・ドラゴンに類似した特徴を持っている。持っているのだが、同時にそれが全くの別の存在であることを彼は確信していた。
より鋭利に尖った角に、より鋭く、分厚くなった爪。レッド・デーモンズでありながら、それは/バスターのようにより破壊力に特化した、より悪魔の名に恥じぬ恐ろしい畏怖の姿となった存在。恐らく、この石碑、いや、この竜が彼をここに呼んだ原因であり、同時に死んだはずの自分が生きている理由。
だが、何故自分がこのようなオカルト的なモノに呼ばれることになったのだろうか? 彼は考える。
彼は何かあるごとに時を、世界を超えて、自分たちの生きていた時代では伝説と呼ばれていた決闘者や、彼らに関わる世界の危機に立ち向かったり、敵に洗脳されて戦ったりしてきた。
だが、その時のどの時代、どの世界であっても自分は特殊な才能――選ばれし者やイレギュラー的な強さを持つパラドックス存在――を持っておらず、それらに対する適性も無かった。だから彼はただ洗脳された雑魚決闘者Aのような扱いで戦ったりしていたのだが、そんな自分が此処に来て謎の才能に目覚めるなんて普通ありえない。命懸けの決闘を経て真の力に目覚めた、といえなくもないが、それは最後の最後での逆転や、戦う前に目覚めるものであって敗北の、それも死んだ後に目覚めるようなものではないはずだ。
と、彼はそこで思考を止める。死んだ後に目覚める? と。もし死んだ後に目覚める才能があるとすれば、それは何だ? 彼の思考が加速する。相変わらず直感による論理的ではない理論展開だが、彼は一つの可能性に到達した。
もしも、自分の魂が普通じゃなかったら?
そう考えた瞬間、目の前の石碑が光を放ち始める。と同時に彼の身体のに再度先程と同じような――いや、それを上回る熱量が溢れ出し、ソレは石碑と同調するようにドンドンと高まっていき、
「ぐぉおお!? っづぁ!?」
堪らず吹き飛ばされ、何度か後頭部を石にぶつけながら何とか停止する。
一体何が起こりやがった。悪態吐きながら立ち上がった彼は、目の前に現れた存在に思わず息を飲んだ。
紅の身体。レッド・デーモンズ・ドラゴンよりもより鋭く、力強い角。体格はレッド・デーモンズ・ドラゴンの方が大きいのだが、こいつはスリムな分より鋭利な刃のような鋭さを感じさせ、恐ろしい悪魔であることを全身で表現している。
そのドラゴンの名を、彼は知らないはずだ。だが、気付けば彼はその名を呼んでいた。
「琰魔竜レッド・デーモン…」
巨竜――レッド・デーモンが己こそがソレであると誇示するかのように咆哮を上げる。えんまの名に恥じぬ恐ろしくも威厳に溢れるその姿。彼は自分が初めてジャックと決闘したときを思いだした。
あのときも、こうして地面に膝をついた自分の目の前に、レッド・デーモンズ・ドラゴンが現れた。あの力強さ、あの恐ろしくも美しい姿に惚れたのだ。と、目を見開いて見つめ続けている彼の脳裏に突如として低い男の声が響く。
『いつまで呆けている? 我が魂よ』
「え? …まさかだが、お前が語り掛けてるわけじゃねえよな?」
彼の疑問に頷くレッド・デーモン。いくら友情ごっこやバイクと合体などと言う、非常識から見ても明らかに非常識な光景を見慣れているとはいえ、流石に自分が当事者になるとなると感じが全然違うらしく、彼はポカンと口を開けてレッド・デーモンを見上げる。
『どうした? 我が魂よ。何か言いたいみたいだが…』
「え? いや、えっと。あ、そ、そうだ! その、我が魂って何だよ?」
『我が魂は我が魂――いや、これでは分からんか。…そうだな、遊吾・アトラス。貴様は我が人間に転生した姿なのだ』
「ふぁ!? …どういう……ことだ……まるで意味が分からんぞ!?」
何その超展開!? 心の中で叫ぶ。流石の彼も色々限界らしい。そんな彼の気持ちを察してか、レッド・デーモンは姿に似合わぬ穏やかな口調で話し出した。
『困惑するのは分かる。だが、それが事実なのだ』
「いや、仮にそうだとしてもだなぁ…」
『では、貴様が普通の人間と違ったところを挙げていけばいい』
「普通の人間と違ったところ?」
彼は過去の自分の行動を振り返ってみる。
サイコデュエリストとしての才能。モンスターの実体化、魔法、罠の現実への干渉、更にはモンスターを己の身体に憑依させるなど、確かに一般の決闘者、そしてサイコデュエリストと比べても明らかに危険度と言いあらゆる面で違う。しかも、自分は他のサイコデュエリストと違い、いくら実体化させても疲れも何も感じていなかったように思う。
次に、身体の頑丈さ。決闘者は皆何かと身体が頑丈であるが、自分の場合ナイフで刺されようが銃で撃たれようが平然と決闘ができたし、その後十階建てのビルから突き落とされても軽く足を捻った程度で済んだし。普通の決闘者のことを考えると明らかに身体強度が異常である。
あと、どうやら自分のバー、魂の力は凄まじいらしく、あらゆるデュエルモンスターの精霊――彼の世界には、デュエルモンスターたちが本当に暮らしている精霊界や、また一風変わったDT次元と呼ばれる世界があったりする。ちなみに、カードの精霊とは、決闘者などの愛用している相棒のようなカードなどにそれらの世界から同じ存在が、決闘者の深い想いを感知して流れ込んだ物である。その為、精霊を宿したカードと言うのは決闘者のピンチを必ず切り抜けさせてくれるのだ――と心を通わし、使役する力がある、と正義の味方カイバーマンの精霊に言われた覚えがある。
洗脳されていた時期もあったが、思って見れば人格レベルで変化するようなモノや、闇のモンスターに操られるということが無かったように思う。仮に操られても神クラスの存在だったりしたし。その時流れてきた意志から考えるに、どうやら自分は並大抵の洗脳では洗脳されないらしいということは知っていたが…。
「で、でも、俺そんな特別な存在になったりしてねえじゃん!?」
『当然だろう? 我の、真なる王者の魂を宿しているのだ。そこいらの木っ端が使役出来るはずが無かろうが』
嗚呼、そうか。ここまで言われて、ここまで自分のことを考えて、そこでようやく理解できた。
シグナーやダークシグナー。例えば、自身の復活を狙うモンスターに見初められてなるのが、ダークシグナー。だが、彼らからすれば自分のような、元々モンスター、しかも最上級の存在が相手であるならば態々苦労してまでダークシグナーに仕立て上げる必要性がないし、むしろ抵抗されて痛い目を見るくらいなら簡単な洗脳でシグナーと戦わせた方が良いだろう。
逆に、シグナーならば、伝説の赤き竜が選んだ人間たち。で、あるならば元々モンスターの自分は最初っから対象外。むしろその規格外の存在を自由にさせておけば、シグナー側の利益になるかもしれない。
光や闇だって結局は自分がそれらを超越したモンスターだから影響はないし、バリアンやアストラル、魂のランクアップについても元々そんな次元でないのなら関係ない。
何かにつけてラスボス級の、神を名乗ったりする方々に「貴様は一体何者だッ」だの「自らの異常性も気づかんか…」だの意味深なことを言われていたわけだ。
「奏を蘇生できたのも、俺がノイズとして生きていられたのも」
『そう。我が魂の力だ。普通の人間の魂では身体の限界を超えた絶唱などと言う、必ず死ぬ技を放った人間を蘇生なんて出来るはずがなかろう?』
「なるほど、な…」
そうかぁ。彼は何を思ったのか遺跡の床に大の字で寝転がる。
「結局、俺は自分の力で何一つ成し遂げられないってことかぁ…」
『…何故、そう思った?』
静かに問いかけるレッド・デーモンに、彼は語る。
昔、そう、彼がサテライトに居た頃から彼は彼の力で生きてはいなかった。子供のころはチームのリーダーが自分の身を守ってくれていたし、サイコデュエリストの研究所でも結局自分は暴れるだけ暴れて確保され、仲の良かった他の被験者たちによって自分と数名だけが逃がされた。
ジャックと出会ってからも、彼に負け続け、一度として決闘では勝てなかった。モンスターたちの力によって時空を超えても、結局のところは歴代決闘者たちの足を引っ張るか、それとも敵にやられるか、そんなことばかり。一度として己の力で勝ったことは無かった。勝利したと言えば、邪神などの神を使用したときのみ。それも結果的には操られていただけなのだから達が悪い。
なぜか神、特に邪神関係の所持を許してもらえてるし、FFCでは毎年エキシビジョン出場。だが、それでも結局のところは決闘の腕も、デッキも、別の誰かに頼り切ったもの。
だから――そう語る彼の耳に、聞き覚えのある歌声が聞こえてくる。
雪音クリスの歌。いや、これは歌ではない――
「絶唱!?」
『ふむ、どうやら一人、銀髪の娘が命懸けで何かしようとしているな』
おいおい、冗談きつ過ぎだろ!? 慌てて起き上がった彼が遺跡から飛び出そうとするが、それをレッド・デーモンが止める。
『止めておけ。今度こそ死ぬぞ?』
「…どういうことだよ?」
苛立ちを込めて彼が言う。
『当然だろう? 貴様が今死んでいないのは、我が貴様の魂をこの生死の境に引き留めているからだ。そのまま何もせずに外に飛び出せば、我の加護から離れた貴様は死ぬぞ』
「じゃあ、ここで指咥えてろってのかよ!!」
彼が吠える。明らかに冷静ではない。普段なら気づけているであろう変化、それすらも彼は気づけずに意志のみが先行し続けている。
『当たり前だろう。そのまま行ってもまたシンクロを剥がされて死ぬのがオチだ。無駄死にに行く必要もあるまい?』
「い、いや、つ、次は――」
『本当の戦いに次があると? ああ、そうだとも。貴様は今まで運で生き残ってこれたにすぎん』
レッド・デーモンの気配が変化する。穏やかに語っていた時の、冷めきったマグマのような黒い色が変色、まるで火山が噴火するようにその身からエネルギーを放出させ、身体が深紅へと変化する。
遺跡が炎に包まれる。最早歌は聞こえない。否、聞くことを許されない。
王者がその力を開放する。たったそれだけで彼はレッド・デーモンの持つ雰囲気に飲み込まれていた。膝が震え、歯が噛み合わずガチガチと言う音を響かせる。
あの時、ジャック・アトラスと初めて対峙し、負けそうになったあの時のように、彼はあの日以来の恐怖を感じていた。
『ふん、この程度の威圧でもう足腰が効かぬか…』
失望した。そんな言葉がありありと思い浮かぶ。ため息を吐きながらレッド・デーモンは無造作に何かを投げた。
それは決闘盤。彼はそのデザインに見覚えがあった。
「…な、何で俺のガキの頃の決闘盤を……そいつは――」
『そう。それは貴様が捨てた決闘盤だ。ジャック・アトラスに付いていく際、強くなるという言葉を免罪符として投げ捨てた、貴様のデッキ、貴様の相棒だ』
膝から崩れ落ちる。その決闘盤は成長した彼からすればあまりにも小さい物だった。旧式故に、各部にガタが来ていて、カードゾーンを格納できない、小さな、小さな決闘盤。
それは、彼自身が忘れようとした彼の思い出。彼の弱い頃の全て。
どれだけの歳月が過ぎたのだろうか? その決闘盤は塗装が剥げ落ち、内蔵基盤が丸見えで錆びだらけだった。見れば、デッキを格納するスペースにはしっかりとデッキが取り付けられていた、がそれも長年雨ざらしになっていたからだろう、カードはふやけ、破れ、とても元が茶色いカードであったとは思えないほど日に焼けていた。
覚えている。その決闘盤は彼がサテライトの未開発地区に居た頃、雪の降りしきる寒い夜、世話になっていたグループの年老いた白髭のお爺さんからもらった、生まれて初めてのプレゼントであると。彼は覚えている。そこに取り付けられたデッキは、彼が必死に拾い集めた六十枚。初めて作り上げた自分だけのデッキだと。
まるで自分のようだ。ボロボロのそれらを見て思った。
強くなったかのように振る舞って、本当は欠片も成長していない。ただのメッキで塗装されただけのなんちゃって決闘者。これでは、勝てないのも当然だ…。声すら上げずに天を仰ぐ彼。
『…我が、我らが貴様をこの世界に転移させたのは、貴様の決闘に足りないモノがあるからだ』
「足りない、もの?」
何だよ、足りないものって。俺に何が足りないって言うんだよ。静かに問う彼に、レッド・デーモンは問いかけた。
『では聞くが、この世界に来て貴様は力を振るってきた。それは何故だ?』
「そりゃ…生きる為だよ。こっちじゃ身分も何も無い。サテライト暮らしも良いとこだしな」
ノイズとして戦っていたのも、生き残るためだ。いつか人間に戻れる――実際一時的とは言え戻れる方法を知った――と信じて動いてきた。全て自分が生きる為だ。
『では、何故貴様はあの娘たちを助けに行こうとした?』
「は? 当然だろ、でゅえ――」
『当然なはずなかろう。先の生存に彼女たちは全く関係ないぞ。むしろ、生存を目的とするならば見捨てるのが定石。それに、決闘者が皆弱きを助けるというわけではない』
言葉に詰まる。何時もなら、当然なことは当然だ! などと反論して見せるはずなのに、反論出来るはずなのに、それが出来ない。言葉を発することが出来ない。まるで自分でその答えが違うと分かっているかのように。
それが答えだ。そう言うようにレッド・デーモンが畳みかける。
『何故、貴様は彼女たちと関わった。何故貴様はフィーネと言う女性を助けた? 何故貴様は今でも彼女たちの元に向かおうとしている? 何故、貴様はジャック・アトラスに勝とうとしているのだ?』
「それは――それは……」
何故戦っているのか。此処に来て分かる、自分が何も持っていないことに。だが、彼が何も持っていないわけではない。その答えに対し自身を持つことができず、また、本当にそれが己の出した答えなのか自信が無いせいでその答えに蓋をしてしまい、抑え込んでいるだけだ。
レッド・デーモンが動く。遺跡が稼働し、彼らの居る祭壇が一段高くなる。
同時にレッド・デーモンの周りに石板が次々と展開されていく。それは決闘場。石板を五枚手元に引き寄せながらレッド・デーモンが言う。
『このまま問答を続けたとして、貴様は答えを見つけられんだろう。だからこそ、決闘だ』
「決闘…」
『貴様も決闘者の端くれならば、決闘の中に己の答えを見つけるがいい』
さあ、どうする? 視線を合わせることができず、彼は思わず視線を下げる。その先にある、彼の決闘盤。
こんな決闘盤で決闘をするのか? キチンと稼働するのか? デッキ内容は確かスクラップと名の付くカード主体だが、いらないカードだらけ。正直屑カード塗れだった覚えがある。てか、大前提としてサイズが――そこで彼はとあることに気づいた。
何故決闘盤が小さく見えるのか、と。彼はゆっくりと決闘盤に近づき、それを拾い上げる。
思ったよりも軽かった。自分の記憶では結構重かった覚えがある。擦り切れたベルトを腕に巻きつける。そのまま左腕に装着。意外なほどにピッタリだった。
あ、とそこで彼は思いだした。これをくれた老人の言葉を。あの日、雪の中この決闘盤を渡してくれた時の言葉を。
「あと十年かのぉ? それくらいしたら丁度良くなるぞ?」
「本当!? そんぐらいしたら俺強くなれてる?」
「かも、しれんなぁ」
「よし!! じゃあ俺強くなって皆に美味い飯食わせられるような凄い決闘者になる!!」
「それは楽しみじゃな…」
初めて得た夢だった。このデッキも、俺の夢だった。初めて勝った時の嬉しさを覚えている。初めて負けた時の悔しさを覚えている。嗚呼、簡単な話じゃないか。何故俺が彼女たちに惹かれているのか。何故彼女たちの力になりたいと思ったのか。簡単な話だ。それがどんな言葉なのか分からないし、まだ理解できていないけど、それが理由じゃないか。
簡単な話だ。自分は決闘者。決闘の中に答えを見つけるしかないじゃないか!
「さあ、俺と決闘だァ!!」
五枚ドロー。確かな感触。気づけば擦り切れボロボロだったカードたちは皆新品同様に輝いていた。
彼らを取り巻く炎が一際輝いた。言葉は交わさずとも分かる。決闘の開始だ。
「俺は、王者、ジャック・アトラスの義理の息子で、琰魔竜と言う王者たるモンスターの生まれ変わり。で、あるならば!! こんなちんけな所で負けるわけがねえだろうが!! 行くぞぉ!!」
デッキに手が触れる。ふと思いだす言葉。デッキを信じ、カードを信じれば必ず応えてくれる。そう、俺の忘れてしまっていた過去、刻み付けなければいけない俺の始まりを、そして何より、目の前の決闘者に自分の答えを示すために、これからの一枚一枚、その全てのドローに命を賭けるッ!
先攻は自分。手札を確認し、大きく息を吸った彼が吠えた。
「俺のォ――たぁああああああああん!!」
誰も知らない場所で、彼らの決闘が開始された。
※※※※※※
絶体絶命。今の状況を表現するならばそれだろうか?
D-noise、遊吾・アトラスの死亡。そして彼の使用していたシンクロ、レッド・デーモンズ・ドラゴンの力はフィーネが奪い取り、ネフシュタンとの融合、そして遊吾から手に入れたシンクロの力を合わせることで、シンフォギア奏者たちが相対したことのない圧倒的な強さを発揮していた。
しかし、フィーネの本来の目的である月の破壊によるバラルの呪詛からの全人類の解放は、シンフォギア奏者、雪音クリスの絶唱により月の一部が破壊されただけに止まり、また、月を破壊するための砲台であるカ・ディンギルは、事前の遊吾とフィーネの戦闘の際に内部機構に甚大な被害が発生したことで出力が落ちたこと、そして風鳴翼の決死の特攻によって大破。完全に機能を停止した。
それだけ言えば戦況は五分五分であるのだが、実際のところフィーネは健在。シンフォギア奏者、雪音クリス、風鳴翼両名は生死不明。
そして、立花響は――
心を砕かれていた。
雪音クリスの戦死、そして自身の破壊衝動によるシンフォギアの暴走。そして、風鳴翼の死。居場所であった学院は跡形もなく崩れ、憧れであった先輩は死に、折角仲良くなった少女も死んだ。
日だまりも、自分の級友たちも姿が見えず、そして何より、フィーネの左腕。あの時全力でぶつかり合ったレッド・デーモンズ・ドラゴンの腕が語る、遊吾・アトラスの敗北。そして、現在ノイズである彼が辿る敗北とは、即ち炭化。遺体すら残さぬ死だ。
大切なモノ全てを一度に砕かれ、少女の心は悲鳴を上げた。歌が消え、シンフォギアが解除される。
フィーネ、櫻井了子の語る己の過去と願い。それは創造主に己の恋心を伝えること。その為に幾星霜の時を超え現代によみがえった。あまりにも壮絶かつ壮大な、狂気とも言える彼女の想いに、彼女は少しだけ理解を示す。だが、その為だけに誰かを犠牲にするなんて間違っている。
是非を問うか!? フィーネが吠えた。貴様には分からぬだろう、と。いや、貴様らに理解されてなるものか! と。
「嗚呼、そうだ…。この腕で貴様を砕いてやろう。嬉しかろう? 好いた男の腕で死ねるのだから…」
「あ、ゆ……ご……」
フィーネが左腕を振り上げる。フォニックゲインが収束し、拳にオーラが立ち込める。このままではフィーネの言う通り響の身体は砕かれてしまうだろう。だが、身体は動かない。力の入らない、鉛のように重い身体。口元をほんの少し緩めながら彼女は思った。
遊吾さんの拳と全然違うな、と。彼ならばもっと熱くて格好良い炎を作るのに、と。
「何を笑っている!? 今の状況が分かっているのか!!」
ヒステリックにフィーネが叫ぶ。明らかにこちらが有利。勝利が確定しているはずなのに、それでも笑っていられる目の前の少女は一体何なのだと。フィーネの問いに、彼女が光の宿らぬ瞳で天を眺めながら言った。
「当然ですよ……だって、私が困ったり、泣きそうなとき――」
「良いだろうッ!! その幻想を抱いて死ぬが良い!!」
フィーネの拳が振り下ろされる。フォニックゲインの輝き。それをくらえばきっと小さな少女の身体は砕け散ってしまうだろう。
しかし、響は目を逸らさずにジッとその拳を見つめていた。なぜか? 彼女が困ったり、泣きそうなとき、彼女の親友は、彼女の友達は、そしてなにより、彼女の信じる彼は必ず現れるから。本当に陰で様子を伺っていたのではないかと思うような、そんなタイミングでどこからともなく現れて、良く分からないことをして、彼女を、人々を助けてしまうのだから。
嗚呼、聞こえる。一度乗せてもらったからよく覚えている。甲高いエンジン、モーメントの回転する音が。高らかに叫ぶ彼の声が。
「――ポリッシュを発動!! この効果でスクラップ・コングはエンドフェイズまで攻撃力が1000ポイントアップする!! イケェ、スクラップ・コング!! スクラップ・フィストォオオオオオ!!」
妙に艶々した廃材にドラム缶、屑鉄によってくみ上げられたゴリラのクレーン、右の拳が、フィーネの横顔を捕らえ吹き飛ばした。
嗚呼、全くこの人は――
「毎回、とんでもないタイミングで、とんでもないことしてくれますよね、遊吾さん」
「それがエンタメってやつだぜ? ビッキー?」
彼女の隣に停車したDホイール。ヘルメットを脱ぎ、大型Dホイールから降り立つ男。
シャキンッと立った襟首に、風が無いのにたなびくコート。腕に巻かれた銀の鎖と、左腕に装着された決闘盤。
「ところでビッキー、たい焼き食べるか? 美味いぞ?」
右手に響一郎印の紙袋を持った彼――遊吾・アトラスは、いつもと変わらぬ笑顔で彼女にそう笑いかけた。
お、可笑しい…。この話の前までは普通の模範的且つまともな決闘者だったはずなのに…。お前たちマジで自由すぎるだろ…。