戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~ 作:特撮仮面
シンフォギアってのは、俺にとってはただのアニメの題名であった。 だが、この世界に来てそんなことは言ってられなくなった訳で。と言うか、俺がどうすればノイズから元の人間に戻れるか分からねぇ。
雪音クリスとの戦闘後、彼は再度謎の空間に格納された。その中で彼はこれからの事を考えていた。
戦姫絶唱シンフォギア、そう言うアニメがあった。変身ヒロインもののアニメであるが、萌えよりも燃えに特化していて、独特の雰囲気がとても好きだったことを覚えている。あー、三期見逃してる…。
自分が何故ノイズになってしまったのかは分からない。しかし、なったからには意味があると信じている。
半分以上記憶から抜け落ちた原作の知識――これから未来で起こる出来事を思い出しながら、彼は与えられたチューナーとして優秀すぎる力のことも考える。
チューナー。デュエルモンスターズと呼ばれるトレーディングカードゲームにおいて、シンクロ召喚と言う特殊な召喚法の一種を利用するために必要な特殊能力。チューナーと、チューナー以外のモンスターのレベルを合計した数値のレベルを持つシンクロモンスターを特殊召喚する方法。
歴代決闘王――正確に言えば決闘王の称号はなく、あくまでも他者からの評価なのだが――の一人、不動遊星が最も得意とした召喚法の一つである。
彼の能力、そしてシンクロ後の変態は全てこのシンクロとシンクロモンスターに繋がるわけなのだが、彼のシンクロの原理は少々面倒くさいのだ。
この世界には音が溢れており、あらゆる物質は常に音のようなものを発し続けている。この波長が即ち彼からすればレベルであり、この波長がエネルギーとなったものがフォニックゲインと呼ばれる特殊なエネルギーである。
彼は、それらを調律――自身と対象物のレベルを調整したり、フォニックゲインを利用してそれに種族や属性を付与することで特殊能力を発揮する。だが、それをするためには対象物との接触、つまりフォニックゲインを利用して対象物を殴る、蹴ると言った直接攻撃が必要なのである。
俺はいつからマサル・ダイモンになってしまったのか。この能力に気づいた彼はそんなことを思ったりしたが、それはまた別の話だ。
しかし、このシンクロにも欠点がある。複数体によるシンクロや、シンクロの維持時間が決まっているのだ。
例えば、現在であるならレベル8で十分程度、レベル7なら一~二時間。それ以下ならもっと長く、それ以上は五分と持たない。また、ノイズの状態ではアクセルシンクロ等の境地に至っていないせいか、アクセルシンクロモンスターになることも許されない。
さらに、時間のことだがこれはあくまでも目安であって、シンクロ先の特殊能力を使用すれば、シンクロを維持するための時間は短くなるばかりだ。
その為、彼の戦いは大胆且つ繊細にシンクロのタイミングと能力の使用を考えなければならないのだ。
決闘でもそうだが、アマチュア時代から細かい気配りが苦手だった彼からすれば、これは致命的であったのだが、今のところはごり押しでなんとかなっているので、ごり押しで何とかしたいなと考えている。
と、唐突に彼の身体が何かに流され始める。現世、あの世界へ召喚される前触れだ。
頼むから、で落ちだけは止めてくれよ…。
そんなことを願いながら、彼は現世へと降り立つのであった。
※※※※※※※※※※
「な、なにこれ」
茫然自失、状況についていけないと言った風に少女が言った。
彼女の名前は立花響。黄色と白の装甲服を身に纏う彼女は、無骨な籠手が装備された自分の両手を見て何故こんなことになったのかと記憶を探る。
学校が終わり、友人と別れて町に出た際ノイズに襲われたのだ。そこで、一人の女の子と出会って、ノイズから二人で――そこで彼女は気づいた。あの子はどうしたと。
「お姉ちゃん、格好いい!」
女の子の声が聞こえる。全身に走った痛み、良く分からない姿になってもこの子は側に居てくれたのだ。
周囲を取り囲むノイズが思い出したように包囲網を縮め始める。それを見て怯える女の子。響の胸に炎が宿る。
護る。この女の子を守るんだ。その強い意思は、彼女の内側で増幅され、歌として放出される。
女の子と手を繋ぐ。響き渡る歌声。決してこの手は離さない。そんな鉄の意思と鋼の強さがその歌には込められていた。
睨み付ける彼女に向かって、群れの中の一体のノイズが彼女に飛びかかる。先程までの緩慢な動きとは違う獲物を捕らえんとする動きに、彼女は慌ててその場から跳ぼうとして――目の前の光景に思わず足を止めてしまった。
「aaaaaa!!」
彼女の歌をかき消さんとばかりに響き渡る雑音。彼女に飛び掛かるノイズがピンボールのように弾き飛ばされる。
突如として彼女の目の前に現れたのは、ノイズ。様々な色が混ざり合った不思議な色合いをもつ、人型。
他のノイズのような人のような形をしている、と言うのではなく、形は歪ながらも確かに人を思わせる造形のノイズを見て、二人は何が起こったのか理解できないでいた。
「………」
「へ?」
ちら、と人型ノイズが二人の姿を確認するように振り返る。そして首を曲げると人型ノイズは群れに向き直った。響にはそれが、まるで自分たちの安否を確認して安堵のため息を吐いているように見えたのだった。
「うわわわ!?」
人型ノイズが群れに向かって走りだし、ノイズたちは突如として出現した同族に対して、攻撃を開始する。
スライムのように形を崩し、槍のようになって人型ノイズに襲いかかる群れ。慌てて少女を庇う響。
だが、そんな群れの攻撃は、人型の巧みな迎撃でどんどんと打ち落とされていく。
「す、凄い」
雨霰のように降り注ぐノイズの群れを打ち払う人型の動きに思わず見惚れてしまう響だったのだが、そんな彼女の目の前に突如としてノイズが現れる。
恐らくは人型がさばいた内の一体が飛んできていたのだろう。飛び掛かるノイズ。ノイズに触れれば人は炭化してしまう。だが、彼女は反射的に拳を振り抜いていた。
「あれ?」
「お姉ちゃん凄い!」
彼女の拳はノイズに突き刺さり、インパクトの瞬間に身体を炭化させる。
腕を見ても何の問題もない。なんだか良く分からないけど、これは使える! そう考えた瞬間、それが甘いことであることを思い知らされる。
「お姉ちゃん!?」
「うそっ!?」
気づけば目の前には数多のノイズの姿。人型との戦闘が続いているなか、別動隊が迫っていたのだ。
ちらりと人型の方を見る。人型はこちらの様子に気づいているらしく、先程から何とかしようと足掻いているようだが、物量を前にして中々動くことができないようだった。
「…しっかり捕まってて!!」
「う、うん!」
響は少女を抱き抱えて――跳んだ。ビルの屋上から飛び降りるのだ。ただですむはずがないのだが、ただ、できると言う確信だけが彼女の胸にはあった。
だが、彼女の背中を追ってノイズたちもビルから飛び降りる。
不味い。このままじゃあ着地に成功してもまたノイズに囲まれるだけ――そう彼女が考えた瞬間だった。
屋上から眩い光が溢れだし、その中から何かが飛び出してきて――彼女を抱えて地面に降り立った。
彼女を地面に下ろし、ソレが彼女に背を向ける。
巨大な背中。全身を深紅の装甲に身を固め、その四肢は大木のように太く、その爪は大剣のように厚く鋭い。
巨大なバトルアックスを肩に担ぎ、天に吠える姿は、正しく狂戦士そのもの。
レベル7、ジャンク・バーサーカー、そう呼ばれる狂戦士が必殺の斧を振り抜く。
それだけで、ノイズの大半が上半身を凪ぎ払われ、次々と炭化していく。暴風のごとき攻撃に、屋上から降ってくるノイズたちは、手も足もでないでいた。
これなら生き残ることが出来るかもしれない。そんな風に考える響であったが、そんな希望は再度打ち砕かれることとなる。
新たな雑音と共に、彼女たちの背後にノイズが生まれる。しかも、今度はバーサーカーに優るとも劣らない大きさのノイズも一緒にだ。
多少距離が離れているとはいえ、ここから逃げるのは至難の技。ならば、彼女に出来ることはないか、そう考えた彼女は女の子の手を離すと、安心させるように笑った。
「赤い人! 手伝ってください!!」
生き残るためには、赤い人に頼っていてばかりでは駄目だ。自分にも戦う力がある。可能性をあげるためには、自分も戦うしかない。
赤い人、バーサーカーからの返答はない、が肩に担ぎ直した斧が雄弁に語ってくれる。
ありがとう、小さく呟いた彼女は、拳を握りしめると今まで振るったことのない拳を不器用に構えてノイズたちに向き直る。
さあ、戦いだ!
「って、へ?」
気合いをいれて戦いの体勢を整えた響の視界にノイズを撥ね飛ばしながら走るバイク。
そのバイクが向かうのは赤い人の方ではなく、巨大なノイズの方。響の視界に一瞬だが、バイクの操縦者の顔が映る。
それは、彼女が最も良く知っている顔。バイクに乗る女性はそのまま巨大なノイズに突っ込んでいき――
ば、ばいくぅうううううううう!?
何となく動向を見守っていた赤い人が内心で叫ぶ。バイクはノイズの踵に突き刺さって爆発。天へと昇っていき、女性は天高く飛びあがった。
響き渡るのは唄。英語などとはまた違った発音の不思議な言語を用いたそれは、彼女の持つ聖遺物の力を発現させる。
蒼の装甲、そして刃。響のものと比べると、鋭利な刃を思わせるスタイルの鎧と武装。それは同時に、それらが神速の武具であることを意味している。
「翼さん!?」
SA-KIMORI! SA-KIMORI! SA-KIMORI!
「何かテンション高くなってません!?」
…あれ? そういや、俺ノイズだから殺されるんじゃ…。ふぅ…スーパー懺悔たーいむ。
「急に落ち込み始めた!?」
「お兄ちゃんどうしたの? 痛いの?」
二人がそんな即興漫才を行っている中、翼と呼ばれたシンフォギア奏者は瞬く間にノイズたちの数を減らしていき、二人が気づいたときには増援のノイズは全て炭化したあとであった。
地面に崩れ落ちて、悲しみに暮れる彼を見て、響がワタワタと慌て、女の子が心配そうに見上げる。
こんな女の子たちにいつまでも心配させてちゃいけないな。彼は二人に向かって親指を立てる、が
「はぁああ!!」
うおおお!? アブね!? なんか降ってきた!?
流星の如く彼の頭上から降ってきたのは、巨大な一振りの刃。歌は終わっていない。ノイズを殲滅するのが任務であるならば、俺も殺さなければならない。
響はまだ状況に付いてこれてないから戦いは避けられているが、防人、翼と呼ばれる少女はそうではない。彼女にとってノイズである自分は敵。
剣が消え、蒼が跳ぶ。恐らくはそのまま俺を消し炭にでもするつもりなのだろう。だが、ただでやられてやる趣味はないッ!
今回吸収したノイズのエネルギーを半分以上消費しちまうが、背に腹は変えられねぇ。
俺はジャンク・バーサーカーの能力解放! フォニックゲインを消費し、その消費分相手のステータスを低下させる!!
赤い人――バーサーカーがオーラを纏いながら雄叫びをあげる。
「何!?」
効果は絶大だった。急速に力を失った翼は、技を発動することなく体勢を崩して地面に向かって落ちはじめる。
歌を利用してフォニックゲインを高めることができる彼女たちシンフォギア奏者に対して、ステータスダウン系統の力はあまり効果はないのだが、これだけの隙が出来たのなら十分。
バーサーカーが跳ぶ。コンクリートを抉り飛ばし、翼へと肉薄。手に持ったバトルアックスを振り抜く。
「くっッ!? うわあああ!?」
咄嗟の防御。だが、それによってバーサーカーの防御破壊の能力が誘発され、翼の防御を上から破壊しバトルアックスの横っ腹が彼女を弾き飛ばす。
「翼さん!?」
近くのビルに激突し、土煙をあげる。あれなら暫くは時間が稼げるはずだ。
着地した彼は、全力で走り出した。
溜め込んだ力=自分のノイズとしての活動時間なのだ。下手に交戦を続ければ炭化して終わりかねない。
「あ、ちょっ、ちょっと待ってください!」
振り返る。女の子を前に気丈に振る舞っているのだろうが、その瞳は不安に揺れていた。
ふと、彼女と初めて出会った日を思い出す。あれは三年前、俺がまだ人間だった頃か。
あの日は何だったか? …ああ、そうだ。傷だらけの小鳥を助けようとしてたんだよな。ああ言う鳥を助けると、その後二度と自然界に戻れないとか言う話があるから凄い葛藤していたのを覚えている。
震える彼女を見て、反射的に小鳥を助けた時も、こうして不安そうにしてたっけか?
二年前もそうだ。必死に頑張っていた。…今の俺は人間らしい言葉はかけられない。それに、俺には戦う理由がある。でも、今くらいは構わないか…。
「hi……hibiki…」
「へ?」
巨大な腕が彼女の頭に伸び、彼女の頭を軽く叩く。
どこまでも冷たい掌の感覚に呆然としている彼女。今俺にできるのはこれくらいなもんだ。二、三度ほど頭を叩くと、彼は改めて走り出した。
直ぐに転移が始まる。今日の収穫はそこまで無かったが、これからどう動くか考えていくとしようか…。
原作、彼が知っているアニメと似通ったこの世界で果たして自分に何ができるのか。どうやって戦い抜くのか。
余りにも大きな壁の数々に少し頭を抱えてしまうが、まあ何とかなるだろう。ならないなら、何とかするだけだ!
※※※※※
特殊災害対策機動部二課。略称を突起物。世間に知られている特殊災害対策機動部一課とは違い、二課には他の組織にはない特徴がある。
それが、シンフォギアシステムの運用である。
対ノイズ用戦闘兵器とも呼べる、FG式回天特機装束――俗にシンフォギアと呼ばれる物を運用しているのが、この二課なのである。
また、シンフォギアは対ノイズ戦闘のみならず、対人戦闘においても圧倒的な戦闘能力を誇ることから、日本国憲法、また諸外国との関係などを考慮してその情報は最重要機密案件となっている。その機密を保つのも、この二課の仕事であった。
あの戦闘の後、立花響は二課に連行された。それは、彼女の身体に融合している聖遺物、ガングニールのことについての話をするためであり、同時に彼女をシンフォギア奏者として二課に迎え入れる為であった。
「あのー、その、聖遺物って言うのは何となく分からなくもないんですけど…。質問いいでしょうか?」
「あら、何かしら? 何でも言って頂戴!」
自分が特殊な状況に置かれていること、これからノイズと戦わなければなら無いこと、それは何となく理解できた。だから彼女はもう一つ気になっていることを聞くことにした。
「あの、あそこに居た赤い人って誰か分かりますか?」
彼女のそんな質問に、誰もが押し黙る。
一気に重くなってしまった空気に彼女が、え? え? と慌てて周囲の人の顔を伺っていると、二課司令である風鳴弦十郎が重々しく口を開いた。
「それなんだが…我々にも分からんのだ」
そこで区切られた言葉を、シンフォギアシステムの開発者、聖遺物などの現代の科学技術では解明できない未知の技術体系、異端技術研究の第一人者であり、櫻井理論の提唱者である、櫻井了子が続ける。
「あの謎の存在――恐らくノイズだと思うけど。アレについては二年前から発生し始めた、ということしか分かっていないの」
「二年前?」
「ええ、二年前のライブ会場の惨劇。あの時からあの存在は確認されているわ」
了子曰く、あの謎の存在は聖遺物を起動させるために必要な特殊なエネルギー波形、アウフヴァッヘン波形を発しており、またそれが発するフォニックゲインの量は完全聖遺物の起動どころか、それが出現する瞬間のみならば星を砕くことすら出来るほどのフォニックゲインを発していること。
また、ノイズと思われるが、物質の透過を行うことは出来ず、何かしらの意志を持っているのか人間を襲うことに消極的で、同族のノイズばかりを狙って戦闘を行うこと。そして、それが発生するのは完全にランダムであり、三日連続で出てくることもあれば、半年以上音沙汰なしなこともある。普通のノイズと比べて明らかに不定期かつ特殊な存在。
「完全に正体不明、という奴だ。…どうしたんだ?」
「…え? あ、いえ。いやー、何か凄い不思議な人なんだなーって」
たはは、と笑う響。だが、彼女には少し気になるところがあった。
二年前の事件。記憶に引っかかるあの姿。あの人と良く似ている動き、そしてあの冷たくて暖かい掌の感覚。あの謎のノイズ、彼にもう一度会いたい。そしてその正体を知りたい。
何より、この自分の力で少しでも誰かを助けることが出来るなら――。彼女は立ち上がり、強い意志に瞳を輝かせて言った。
「立花響、えっと、ガングニールの奏者? という奴です。これからよろしくお願いします!!」
だが、この時彼女は知らなかった。自身に待ち構える過酷な運命を…。
そして何より、最近人とコミュニケーションが取ることが出来なくて色んな意味でぶっ壊れ始めてる彼のことを…。
「ヒビッキー、凄い成長してたな…。中学のころと比べたら色々大きくなってたし…。それに、女子高生…ふぃーひ……落ち着け俺、冷静になれ俺」
「何にせよ、原作開始ということだ。この先何が起こるか分からないが、とりあえず目下やらなきゃいけないことはノイズの吸収…。あー、何で俺は自分の殆どをあの子に与えたんだろ…いやまあ、後悔はしてないけどさ」