戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~ 作:特撮仮面
『ぐぅッ!?』
『翼さん!』
『だぁーもう、しゃらくせぇ!!』
ノイズの変化した姿。その火力はシンフォギアXDモードにも劣らないものであった。いや、実際はXDモードの方があらゆる面で勝っているのだが――
『甘いッ!!』
このノイズたちを操るフィーネの執念が、自律兵器であるノイズのスペックを最大限にまで引き出していた。
馬に乗った騎士と打ち合う翼。黒い竜とぶつかり合う響。稲妻を纏う竜と飛び回り、次々と弾丸を打ち込むクリス。
「デス・メテオ!!」
魑魅魍魎。大小含めたあらゆる大きさの異形に囲まれながらも一歩も退かず、むしろ全滅させると言わんばかりに拳を振るう彼。
XDモード、そしてシンクロ。どちらもが一騎当千の力を持っていた。それは事実。普通のノイズが束になっても叶わないことは、彼女たちがその力でノイズを瞬く間に殲滅したことで明らかだ。
しかし、そこにほぼ同等のレベルの存在が数を揃えて現れたらどうなるだろうか?
『だぁああ! いつになったら途切れるんだよこいつらは!?』
クリスの叫び。広域殲滅に最も適しており、尚且つ遠距離での戦闘を基本とするからこそわかる、戦場の流れ。
響や翼が拳を、剣を振るえば瞬く間に戦場に穴が開く。しかし、そこを明らかに知能をもった、フィーネの操作するノイズが乱入。力を拮抗させることで、次の瞬間にはまたノイズの増援が現れ、空いた穴が塞がってしまう。
しかも、面倒なことにフィーネは四人を分断することで、その驚異的な連携をとらせぬように動いていた。
『とった! だがっ!?』
翼が騎士の首をはねる。炭化していく騎士であったが、それを乗り越えてノイズが彼女に飛びかかる。避け、時にカウンターで切り捨てる彼女。だが、彼女のそばに忍び寄る影。
騎士だ。ノイズの攻撃の間に新しいものをシンクロしたのだ。さらに、上空より彼女たちの歌を掻き消すようにして竜の咆哮が木霊する。
『っ!! またこの声か!!』
急ぎ空で吠える巨竜を撃墜するクリス。
シンフォギアは、歌がなければ出力が低下する。今しがたクリスが撃墜した竜は、その咆哮で奏者の歌を乱すのだ。
いくら奏者たちのシンフォギアが限定解除されていたのだとしても、巨竜のせいで出力が落ちてしまえば豆鉄砲と同じ。
物量とシンフォギアに対するメタ。二つの要素を用いてフィーネは勝利をもぎ取ろうとしていた。また、これらのメタが通用しない、シンクロモンスターとなれる彼に対しては、あまりにも純粋な物量によるごり押し。力を越える物量作戦。
荒れ狂う海を行く漁船のように、ノイズに翻弄されながらも必死に戦う四人だったが、クリスの視界に入る、響を背中から狙うノイズ。
『後ろ気を付けろ!!』
『わっ!? ご、ごめん!』
思わず舌打ちするクリス。自分のイチイバルに搭載されたXDモードの飛行能力と殲滅力によって、空中戦闘はこちらの方が有利。現に、クリスには仲間を援護する余裕が少しはある。
だが、大量展開に対応しているとはいえ、元々多人数を相手にするようなシンフォギアを持たない翼と響はそうもいかない。
まだ、剣がある分リーチなどで翼の方が多人数戦闘に分があるのだが、彼女の心象風景、そして秘められた思いによって、アームドギアを持たないことで最大の力を発揮する響は相性が悪すぎる。
海をどれだけ斬っても海水がなくならないように、いくら突破力があったとしても、包囲網を突破ができなければ最早その力はあって無いようなものだ。
それに、長時間の戦闘はこちらに分が悪すぎる。相手は息切れなしに無尽蔵に造園を呼べるのにたいし、こちらは数で劣り、体力は消耗されていく。
いかな限定解除と言えども、それを纏う奏者が力尽きてしまえばそこまでだ。このままでは――焦る彼女の頭に声が響く。
『そんなもん後で考えろ! 俺に良い考えがある!』
『遊吾!? おま、何で念話を』
遊吾。あくまでも一般人でしかない彼から放たれた念話に驚くクリス。当然だ。念話は限定解除されたことで初めて機能したもの。それがノイズ化できるとは言え人間に――驚く彼女に、遊吾が自慢気に言った。
『そりゃ、お前たちとの対話を望むことで決闘者のコミュニケーションの力と魂の震えが共鳴してだな?』
『訳わかんねえよ!?』
お前は一体何を言っているんだ!? ツッコミを入れるクリスに答えたのは、
『なるほど、そういうことか』
『おまえ、何言ってるのかわかんのか?』
意外なことに翼だった。騎士の槍の穂先を切り落としながら彼女は言った。
『私が防人であることと同じ。アトラス、彼が決闘者と言うことだよ、クリス』
『どういう…ことだ…?』
まともな反応が返ってくると思っていたら、予想の斜め上の答えが返ってきた。
『分かってんな、翼』
『ふふ、まあな。奏が言っていたのだ。決闘者とは誇り高き戦士なのだと。その在り方は防人と同じだとな』
『流石にそれは褒め過ぎって奴だぞ? 俺なんかまだペーペーの決闘者なんだし…』
『そう謙遜するな、アトラス。未熟だとしても、貴様が戦士であるということは刃を交えた私が一番理解している――』
『だっしゃあああああああああああああああ!! アブソルート!! パワー!! ふぉいさぁああああああああ!!』
唐突に雄叫びを上げる遊吾。先程まで押されかけていた状況を、たった一発の巨大な火球で逆転する。彼の包囲網に穴が開き、彼がそこから飛び出してくる。
『そう吠えるな。幾ら照れ隠しと言えど煩いぞ?』
『っるせぇよ!? 誰が照れ隠しだ誰が!! 寝言言ってんじゃねえよバーカ!!』
『照れてるな』
『照れてますね』
『仲良しかお前ら!? くっそぉ、ここに俺の味方はいねえのかよぉおお!?』
ふふふ、と年上らしく優しく微笑む翼と、彼の狼狽えっぷりを見てクスクスと笑う響とクリス。
灼熱のッ!! ヘルッヴァァアアアニンッ!!
彼の口蓋部に力が宿り、それが灼熱の力の激流となり大地を舐める。それは彼が身体を薙ぎ払うように動かすことで鞭のようなしなりを見せながら周囲の建物丸ごとノイズを焼き払う。
あまりストレートに褒められた経験が少ないせいで、気恥ずかしさと照れ隠しを込めた彼の全力の一撃が、フィーネの包囲網を問答無用で抉じ開けた。
包囲網から飛び出した彼が、翼に向かって吠える。
『翼!! シンクロだッ!!』
『応!!』
彼女には、その言葉がどのような意味を持つか分からなかった。しかし、響と奏、未来から聞いた遊吾・アトラスと言う男。そして今自分が見た、遊吾・アトラス。ほんの数回の会合なれど、彼女は彼を信じる。立花響と同じような雰囲気を持つこの男を。
『どうすれば良い!!』
『スリップストリームだッ!! 俺に付いて来い!!』
そう叫び上空へと飛翔する彼。彼女も天羽々斬の翼を羽ばたかせ彼に追随する。スリップ・ストリーム。スポーツカーなどのレースでよく耳にする言葉だ。
言われたように、飛行する彼の後ろに付きながら、バイクを嗜む翼はその意味を考える。スリップ・ストリーム、それは簡単に言えば前方を走る車の後方に自分の車を近づける行為のことを指す。
何故そのような面倒なことをするのか? それは、車を含め、地球上で動く物体には必ず空気圧がかかるからである。圧という負荷によって、物体は一定の速度以上を出すのが難しい。しかし、前にその圧を受けるモノがあれば話しは別だ。圧がなくなることで、空気の流れに引っ張られるように加速することができるのだ。
どんどんと空に向かって加速する二人。ふと翼は、周りから音が消えていることに気づいた。そして、徐々に自分達が加速していっていることに。
何故だ? 彼女が一瞬眉をひそめるが、直ぐにその答えに気付いた。
バックスリップか!
バックスリップとは、スリップストリームをかけられた前方の車両が、後方に流れる気流が整流されることで、追い風のように加速する現象のことである。
加速に次ぐ加速。二つの光が一つとなり、空を、雲を突き抜ける。世界が光に包まれ――彼女の胸に新たな詩が浮かびあがる。
彼女の口から溢れ出す詩。それに彼が咆哮を重ねる。
フォニックゲインを直接ぶつけることによる遠隔同調。調整できるレベルの幅は小さくなるが、問題ではない!
『っしゃぁ!! 俺は! レベル4の俺自身に!』
『レベル6の私をチューニング!!』
天羽々斬が翼の身体に大量のフォニックゲインを残し展開される。シンフォギア奏者がシンフォギアを纏う際に発生する光の輪が二人を包み込む。
『リミッター解除、レベル10!』
『王者の魂よ、蒼穹を駆ける翼と交わりて、新たな姿と生まれ変わらんッ!!』
『アクセルッシンクロォォオオオ!!』
二つの雄叫びが木霊する。ノイズが、フィーネが、奏者が、天を見上げる。
青空が降ってくる。大地を揺らし、突如として現れる鋼の戦士。
『TGブレード・ガンナー!!』
蒼き戦士が高らかに名乗りをあげる。ブレード・ガンナー、それは彼の世界における最高峰のシンクロの一つの形。だが、このブレード・ガンナーは彼の記憶しているカードとしてのブレード・ガンナーとは全く違う姿をしていた。
特に顕著なのはその配色。本来のブレード・ガンナーの色はエメラルドのような緑と橙色なのだが、このブレード・ガンナーの色は蒼と白。それは、風鳴翼のシンフォギアと同じ色。
彼のシンクロがあくまでも再現であるが故の進化。モンスターの形態にシンフォギアを組み合わせるという暴挙。
『こ、これは?』
『これがアクセルシンクロ――いや、シンフォニックシンクロとでも名付けておくか』
『シンフォニック…』
掌を握り、腕を動かし、感覚を確かめるように身体を動かすブレード・ガンナー。そこに、騎士が疾風のごとき突進。
『今さら姿を変えたところで――』
一閃。氷の上を滑るような滑らかな水平移動と同時に振り抜かれた剣が、騎士をバターのように切り裂いた。
音もたてずに炭化する騎士を背に、翼が静かに言葉を紡ぐ。
『荒馬のごとき力と、振れば風鳴る我が剣。合わさりて斬れぬ道理は無いッ』
ブレード・ガンナーが駆け抜ける。
彼が言った良い考えとは、あまりにも簡単だ。力で勝る自分達が数で押し負けそうなら、それを上回る火力で粉砕してしまえばよい。彼の師の一人である、とある男の言葉。
――いかに強力なモンスターでも、戦闘破壊耐性がなければ破壊は可能。どれだけ厄介な能力を持っていても、戦えば問題ない。なに? 攻撃力が足りない? そういうときの、コンバット・トリックだろう?
戦闘能力の上昇、下降、自由自在に攻撃力、守備力を変化させて敵を圧倒する技術、コンバット・トリック。
彼のアクセルシンクロは、ただ火力をあげただけであって本来トリックも何も無いのだが…。しかし、今回はその脳筋な思考が幸をそうした。
油断はしない、そう言うように槍を構えた騎士。だが、そんなもので今の二人は止められない。
ブレード・ガンナーの剣が展開され、稲妻めいた煌めきと共に刃にエネルギーが充填される。
蒼ノ一閃。雷のごとき刃が騎士を切り裂く――だけでは終わらない。月光めいた輝き。儚くも力強い蒼が周囲のノイズと建物を巻き込んで、ノイズの海を切り開いた。
ここまでくればこちらのものだ。響が拳を握り、クリスが再戦だと言わんばかりに引き金を引く。
反撃。荒波を越える船のようにノイズの海を乗り越える。拳が音を響かせ、雪のように弾丸が降り注ぐ。そして、その間を翼が羽ばたき敵を斬る。
いくら強化しても、それはあくまでもノイズ。シンフォギアに対してメタをはれば、彼がそれを貫く。彼に集中すれば彼女たちが打ち砕く。
先程までの劣勢が嘘のような逆転劇。絵にかいたようなどんでん返しにフィーネが叫ぶ。
『貴様らは、何度も何度もッ!!』
メタをはり、相手を確実に攻略していたと思ったら、作戦も何もない脳ミソ筋肉の、それを上回る力で叩き潰されたなど相手からすればたまったものではない。
そんな彼女に、響と遊吾が吠える。
『キングの決闘はエンターテイメントでなければならない! ピンチを演出し、それを上回るタクティクスで逆転する!』
『ビッキーおまっ』
『言うと思ってましたよ、私は』
ふふん、と胸を張る響。憎ったらしいのでハッキリと成長の伺えるその綺麗な胸の先端でもつついてやろうかとも考えたが、まあ今回は止めておこう。
殲滅。ものの数分の出来事だ。彼がアクセルシンクロを成功させて数分でフィーネの操るノイズの殆どを倒した奏者たち。残すは所々に見えるノイズのみ。そうなれば、無限に湧いて出てくるノイズを殲滅するよりも、フィーネを倒す方が先決だ。
一つ、湧いてくるノイズを殲滅する方法はあるが、それは彼がまだ使用できない技術。クリアマインドのその先、トップクリアマインドの境地に至ることで可能となるもの。それができればこんな闘い早々にケリを付けることが出来るのだが…。
『翼、身体は大丈夫か?』
『ん、ああ。悪い、というかいつもよりも良い感じだ。貴様の中、最初は熱くて驚いたが、慣れてしまえばこれも心地いいものだ』
気にいってもらえて何よりだ。とは言え、このアクセルシンクロは火力を上げた代わりに頭数が少なくなっている為、仮にフィーネがアクセルシンクロモンスターであるブレード・ガンナーを超える力を有する何かを持ちだしてきた場合、逆にこちらが押し負ける可能性が高い。
戦闘の際の身体の動きこそ翼がメインとなっているが、これはあくまでも彼の身体。アクセルシンクロを解除。翼と分離し、元のレッド・デーモンズ・ドラゴンの姿に戻る彼。
『さて、と。お前のモンスターは全て倒したわけだが、どうする?』
拳に炎を纏わせながら彼が尋ねる。必要ならばこのまま全力のアブソリュート・パワー・フォースを打ち込む算段だ。
『…ふ、ふふふ。いつもそうだ…。貴様らのような者は毎度毎度そうやって私の、私たちの邪魔をしてきた…』
フィーネがゆっくりとソロモンの杖を持ち上げる。またノイズを大量召喚するつもりか? ソロモンの杖の活用方法は基本的にノイズの召喚とコントロールに限られている。その為、彼らはそう考えて周囲への警戒を強めた――それが彼女の行動に対する反応を遅くした。
『だが! 今の私は、私は負けない!! あのお方に想いを伝える為にも!! バラルの呪詛を超え、人類の頂へと至るためにも!!』
『バッ!? 自分の身体をぶち抜きやがった!?』
己の腹部にソロモンの杖を突きさしたフィーネ。正気か!? 思わず叫ぶが、正気かどうかは次に訪れた光景で判明する。
薄い赤、淡い肌色がソロモンの杖に突き刺さる。ネフシュタンの鎧の再生能力が作用。主の意志に応え、ソロモンの杖を異物として体外に排出するのではなく、新たな力として吸収、融合を開始。同時に一際大きな緑の輝き――ノイズ召喚の兆しと共に、彼らが倒さなかったノイズたちが彼女に向かって殺到。まるでドロドロのヘドロのように彼女の身体に取り付き始める。
拙い。良く分からないがそんな感情を覚えた彼が、反射的に飛び出す。アブソリュート・パワー・フォース。彼に今できる最速にして全力の一撃。だが、それはフィーネから放たれた膨大な量のフォニックゲインのリングによって阻まれ、弾かれる。
『シンクロ!?』
『いや、ありゃ只のノイズとの融合だ。シンクロが使われてはいるが、あんな大量のノイズをチューニングしきれるはずがねえ』
いかなシンクロとしても、シンクロできる量には限りがある。それを越えれば自壊は免れないはずだ。彼はそう考えていたのだが、彼女の言葉がその考えを否定する。
『デュランダルよ、我が元へ!!』
『デュランダル!?』
『しまった!? 完全聖遺物を二つ使われたら――』
『来るぞ!!』
どんどんとノイズの合体した塊が巨大化。その姿を徐々に変貌させていく。
すらりとした胴体。不格好な翼と、肥大化した頭。赤き竜の生誕。
『黙示録の赤き竜…』
それを見ていた弦十郎が呟く。
黙示録に記された、この世の終わりを告げる竜。だが、弦十郎とは違い、遊吾はその存在が不格好ながらもとある竜に似ていると感じていた。その名が思わず溢れ落ちる。
『アルティマヤ・ツィオルキン…だと…』
アルティマヤ・ツィオルキン。遥か昔、悪しき神、地縛神を大地に封じ込めたとされる伝説の究極神龍。しかし、彼女のソレは彼が何度か見たそれと同等の存在の見た目にこそ似ているものの、あまりにも身体が歪み切っているせいでモチーフということが分かるものの、それ自体は全くの別種の存在であった。
『古代の神の力、見るがいい!!』
彼女が吠える。同時に竜の口と思われる部分にチャージされた赤色のエネルギー。ヤバい。反射的に回避行動をとった彼らの横を、血のような赤色のビームが通り抜ける。
一瞬周囲から音が消える。同時に起こる爆風、爆熱。遅れて聞こえてくる爆発音に思わず振り返る彼ら。そんな彼らの目の前に広がっていたのは、先程まで多くの建物が存在していた街。現在、炎に舐められ、もはや街の一部は都市としての機能を失い、廃墟と化していた。
あの地域にも避難シェルターがあったはず。それに、このまま攻撃させていては街の被害が大きくなるばかりだ。
『でぇえええ!!』
クリスの雄叫びとともに、フォニックゲインを収束させた多弾頭エネルギー弾が発射。空中で分裂、流星群の如く竜の胴体部に見える空間に居るフィーネの元へと殺到する。一撃一撃が容赦ない威力を内包したそれを、フィーネはニヤリと口元を歪めるだけで見届ける。
弾着。轟音と共に爆発が起こる。やったか!? 彼女が言う。だが、煙が晴れた先にあったのは、先程まで開いていたフィーネの居た空間の窓が金色の幕のようなモノに覆われている光景。その表面には欠片も傷が入っていない。無傷だ。
思わず舌打ちするクリスに続いて、翼が天より刃を降らす。蒼ノ一閃。竜の半身に届こうかと言わんばかりの大きさのそれが竜の頭部を切り裂いた。
だが、竜はなんの問題もないと言わんばかりに動きを止めない。それどころか、たちどころに傷が再生していくではないか。
響が拳を打ち放つ。轟音を立てて竜の身体が崩壊する――が、それもまた逆再生されるように身体の大穴が塞がっていく。
『チェンジ! バスター・モード!!』
フォニックゲインを爆発させ、彼がその姿を/バスターへと変身させる。
見た目、威圧感で判断できる。レッド・デーモンズ・ドラゴンでは対処不可能であると。だが、/バスターにはダメージ計算後に全てのモンスターを破壊するという効果がある。それをうまい具合に応用すればいくら強力な再生能力を持っていても貫くことは可能のはず、と。
『エクストリーム・パワー・フォース!!』
灼熱の拳が竜の胴体に突き刺さる。抵抗は、ない。ならば遠慮をする必要など欠片も無い!
『クリムゾン・ジ・エンド!!』
竜の体内で膨大なフォニックゲインが爆発。それは竜の体内に蓄積された大量のフォニックゲインの連鎖反応を起こし、竜の身体が風船のように膨らみ、爆発。呆気ない。彼は吠えた。
『やったか! っしゃ! 勝った!!』
そんな彼への返答は、空中に四散した竜の肉片による刃。四方八方から彼に向かって刃が伸びる。その速さに避けること叶わず貫かれる彼。だが、それは/バスターの能力である破壊されることで墓地のレッド・デーモンズ・ドラゴンを特殊召喚するという効果の再現、/バスターと言う鎧を脱ぎ捨てるアーマーパージと言う手段を用いて何とかその攻撃を回避する。
『アハハハ!! 聖遺物の欠片でしかないシンフォギアで完全聖遺物に敵うとでも? そして遊吾・アトラス。貴様如きが神を打ち破れるはずが無いだろう?』
『ちぃ…』
四人が諦めず攻撃する。だが、まるで暖簾に腕遠し。どれだけ突こうが殴ろうが、無尽蔵な再生能力を持った彼女にそんなものは通用しない。それどころか、気まぐれに打ち放たれる深紅の閃光に掠めるだけでこちらの体力がガリガリと削られていく。
このままいたずらに戦っていては、街の被害が増大するだけではなく、四人とも仲良死だ。最早猶予は無い。そこでクリスが過去にフィーネの語っていた話を思いだす。
『お前ら! あたしに良い作戦がある!!』
『雪音? …よし、チャンネルを切り替えろ』
念話は周波数のようなものを調節することで、ある程度念話の対象を絞ることが出来る。
丁度四人に絞ったところで、クリスは語る。完全聖遺物は完璧な聖遺物。その力は計り知れない、と。だが、完全聖遺物同士をぶつけた場合、その力の強弱関係なく、強力な力を持った完全聖遺物たちは対消滅反応を起こしてその存在をこの世から削除するのだ、と。
つまり、フィーネに完全聖遺物をぶつけてしまえばいい。だが、今此処に完全聖遺物は無い。ネフシュタンの鎧、そしてデュランダル。そのどちらもがフィーネの手のうちにある。
だからクリスは提案する。デュランダルの強奪作戦。なるほど、それならば彼女を超えることができるかもしれない。翼と響が気合を入れる中、遊吾だけが反対の意見を言った。
『あいつは現在シンクロモンスターだ』
完全聖遺物ではあるが、同時に彼女はシンクロモンスター。純粋な完全聖遺物ではない以上対消滅反応が起こらない可能性が高い。あの竜のステータスがどうであれ、仮に対消滅反応を起こしたとしてもシンクロモンスターとしての能力で効果耐性などと言われたらそれこそ拙い。
ぐっ、とつまるクリス。だが、これ以上に有効な作戦が現在あるのか? 直ぐにそう切り返された彼は、笑いながら言った。
『一つ。あいつを真正面から捻じ伏せる手段がある――』
※※※※※
と、先程はそう言ってしまったものの、彼は迷っていた。
目の前では彼女たちが自分を信じて戦ってくれている。だが、いや、だからこそ彼は彼女たちの信頼に報わなければならないのだが、その気持ちが逆に彼の気持ちに迷いを起こさせていた。
キングの決闘は――そういう割に、彼はキングではない。フィーネの言った通り彼は自称キング。この世界で、自らの命を失いかけて初めて、自分の過去を受け入れ、己の魂を知った。つまり、彼は常日頃から目標、ゴールを見据えて走っていたつもりになっていただけで、実際はスタートラインにすら立てず、テレビ越し、画面越しにその場で足踏みを繰り返していたに過ぎない。
足踏みの日々が無駄だったとは思わない。その日々が彼に確かな力を与えてくれているのは彼自身が一番理解していることだ。だがしかし、その力はすべて決闘者だからこそ行えることであり、ようやくスタートラインに立ったばかりのひよっこである自分では到底その力を制御しきれないかもしれない。
アクセルシンクロこそ何とか成功したが、今度行うものはそうはいかない。それはアクセルシンクロとはまた別次元の強さをもったシンクロ法。何より、彼にとってなじみ深いもののひとつなのだから。
彼が考える間にも、戦闘は続く。フォニックゲインを少しでも高める必要があると守りの体制に入った彼を見て何かされるかもしれないとふんだフィーネによる彼の妨害。それを三人が、いやクリスと翼の二人がフィーネの攻撃をさばき、自分たちに意識を向けさせる。
『大丈夫ですか? 遊吾さん』
響が彼に声をかける。だが、彼はそれに応える余裕を持ち合わせていなかった。
自分が失敗した場合のことを考えると、どうしても動くことができない。いや、動くことができないのではなく、動いて失敗するのが怖いだけだ。
彼の過去。決闘盤とデッキを捨て、ジャック・アトラスの養子となったあの日から、彼は最も重要な局面で勝利することができなくなっていた。
強さを求めて世界を、時代を超え、様々な人々と出会ってもそうだ。必ず、ここで自分が何とかしなければならない、そんな場面。ここで自分が負けてしまえば誰かが傷ついてしまう、そんな場面。そういう場面に限って彼はずっと敗北してきた。そのくせ、自分が闇に飲み込まれ、操られ、操っているときはどんな人にも勝てるのだ。
なんと未熟なのだろう。なんと弱いのだろう。ここぞの場面で彼はカードを引くことができない。そのため彼は強いデッキを求めた。
強いデッキなら、強いカードならば勝てると信じ、大金を叩く。だが、それでも勝てない。結局勝率などを計算して、時代を超えて、そこで知り合った人々と組んだデッキへと戻ってしまうのだが、そのデッキではキング、ジャック・アトラスに勝利することができない。
ああ、クソッたれ! 彼が内心で怒鳴る。集中力が乱れ、腕が震える。こんなことをしている場合ではないといいうのに、少しずつ焦りで思考が乱れていく。そんな彼の腕に、衝撃。
『!? な、なんだ――』
「かっとビングです!! 遊吾さん!!」
肉声で彼女が叫ぶ。彼の腕、いや指への衝撃。彼女が全身で彼の右腕の人指し指に抱き付き、彼の目を見据え叫ぶ。
「貴方が一人で引けないのなら、私たちで引けば良い!! 諦めない一歩。決闘者ならLPが零になるまで足掻く、違いますか!」
『け、けどよ…成功確率なんて――』
「最強決闘者のドローは全て必然、違いますか?」
全て彼女に決闘を教えるときに教えた言葉だ。それだけデッキのカードと強い繋がりがあるんだと。彼らのような決闘者になりたいと。
「キングに勝てないとか、弱いとか、関係ないです」
彼女は大きく息を吸って、言い放った。
「私たちにとって、遊吾さんは
衝撃。彼女の言葉が、その想いが彼の心を貫く。
ああ、確かにそうだ。この世界に決闘者が居ない以上彼は最強であり、またどんな時代のどんな場所であっても、彼は
ここまで言われて燃えない奴が居るか!! 負けるとか、負けないとかじゃない。ここで退くなんて男が廃る。ここで運命を引き当てないで王の息子を、王子を、決闘者を名乗れるかッ!!
『いくら吠えたところでェ!!』
『しまった!?』
クリスの叫び。ついにフィーネの、竜の息吹が彼らに向かう。
避けられない。直撃。赤色のエネルギーの濁流に二人が呑み込まれる――勝った!! 残りは小娘二人のみ!! フィーネが歓喜する、がそんな彼女の笑みを二つの声が掻き消した。
『託した!!』
『何を言って――!?』
天を見据える二人の視線の先。そこに巨竜と少女が立っていた。
『行きますよ、遊吾さん!!』
『ああ!!』
彼女の歌が響き、二つの炎が巨竜を包む。独立した遊吾、そして響による二人同時のチューニング。
彼は、その領域に立っているわけではない。いや、立つだけの素養はある。だが、そこに至るまでの想いを彼は知らない。だから今の彼の限界を超えることはできない。そう、彼一人ではできないのだ。
だが、この場には少女たちが居た。人と人を結ぶ歌を紡ぐ歌姫たちが。そして、その中でも元々繋ぐ力を持っていた優しい少女が、彼と共に居る。
越える。今の自分を。だから!
彼が手を伸ばす。その手を、彼女がはにかみながら握った。
巨竜の嘶き。彼の目の前に広がる光景、拡がる歴史。それは彼の魂の記憶。それは経験の足りない彼に、至るべき境地の可能性を示す。同時に彼の目の前に現れる、紅蓮の悪魔。
その壮絶で壮大な姿に、優しげな微笑みの影を見る。
赤い炎は青となり、青い炎は白に。白い炎は白銀の光となって彼らを包み込む。
『荒ぶる魂! バーニング・ソウルッッ!!』
『王者と奏者、今此処に交わる!! 天地創造の詩よ、響け!!』
『今こそ来たれ、我らが魂! スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン―SG!!』
紅蓮の悪魔。レッド・デーモンズ・ドラゴンと紅蓮の悪魔と呼ばれる存在が一つとなり生まれた究極進化。より鋭くなった腕と籠手。ガングニールのように力強く鋭い四肢。
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン―SG。シンフォギアと奏者の力を得た悪魔が、拳を握り締め、竜星のごとく赤き竜に突貫する。
『ちぃ!?』
フィーネの砲撃。口から放たれる赤色のビームが、各部位から放たれるエネルギー弾がスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンに迫る。
だが、そんなものが今の二人に通用するはずがない。
『無駄だ! スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン―SGは、シンクロ召喚に成功したときフィールド、墓地のシンクロモンスター及びチューナーモンスターの攻撃力の合計値分アップする!』
それは奏者皆の、敵ですら巻き込んで繋いだ手。彼の、彼女の拳が、
『荒ぶる魂を――』
『フォニックゲインを――』
『力に変えてェェエエエエ!!』
二つの雄叫び。フィーネの身体が光に包まれる。竜の崩壊。シンクロを保てなかった。不格好な不吉の竜が炭化する、が、代わりにその前の、ノイズとのシンクロを果たす前の赤い竜が現れようとする。
『ちょっせぇ!!』
『勝機を逃すな!! 掴み取れ!!』
再生するフィーネの身体に衝撃。クリスが破損した赤き竜内部に侵入。全弾掃射。今までの分すべて倍返しだ!! 赤き竜の内部で連鎖的爆発。深紅の炎に包まれる。
間髪入れずに叩き込まれる蒼い稲妻。フィーネの腕からデュランダルが離れる。
クリスの神憑りの射撃。小銃の射撃でデュランダルを弾き、それが彼女の――響の腕に収まる。
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンはSGモードを解除。色褪せた体色は全てを放出しきった彼の想いの残滓。形こそ保っているがそれ以上の活動ができない。だが、シンクロを解除することで響を解き放った。ラストアタック。
黒が彼女を包む。破壊衝動。彼女の内に秘められた闇がデュランダルによって増幅。暴走。内より溢れ出すシンフォギアの防衛機構、破壊衝動に塗りつぶされそうになる自分を必死に押し留める。
「正念場だ!! 踏ん張り時だろうが!!」
彼女が師と慕う男の声。荒れ狂う波が彼女の意志を塗り潰そうと迫る。そんな彼女の心に届く、声。少女が、青年が、大人が、彼女の繋いできた手が、紡いできた絆が、彼女を繋ぎ止める力となり、彼女が力を振るう為の撃鉄となる。
「屈するな、立花。お前の、お前たちの胸の覚悟、私に魅せてくれ」
「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ! お前が自分を信じなくてどうするんだよ!!」
暖かい二人の声。響く歌。
「くっ――黙らせてやる!!」
赤き竜が鞭のような触手をしならせ彼女たちを打ち据えんと襲い掛かる。
だが、それは全てデュランダルの力の余波によって弾き飛ばされる。高まる力。ネフシュタンの鎧ならば例え完全聖遺物の一撃をくらっても理論上再生は可能だ。だが、あれだけのエネルギーを受けてしまえばどれだけ再生に時間がかかるか分からない。
赤き竜の口蓋部に光。あのエネルギー砲だ。デュランダルのエネルギーによるフィールドを突破するためのエネルギー。収束されたソレが全てを焼き払わんと撃ち放たれる。
「俺を――忘れんなぁあああああああ!!」
雄叫び。赤き竜の頭部が紅蓮の悪魔の昇竜を受けて弾け飛ぶ。エネルギーが放出。しかしそれは固定していた頭部が上を向いた状態でザクロめいて弾け飛んだことで上空に全て放出される。のけぞった赤き竜の胴体に突き刺さる回転蹴り。
昇竜による上昇時の螺旋の力がそのまま遠心力へと変換された一撃。本体であるフィーネこそ守るが、赤き竜は堪らず転倒。即座に起き上がろうともがく赤き竜に向かって撃ち放たれる、特大の炎。力尽き、炭化していくスカーレッド。彼が叫んだ。
「行け――」
『ひびきぃいいいいいいいいい!!』
未来と遊吾の叫びが重なる。
繋がった。彼女の意識が覚醒する。破壊衝動を見据え、彼女が吠える。
そうだ、今の私は、私だけの力じゃない――
彼女の名を呼ぶ声。絆が新たな道を照らし出す。
『この衝動に、塗り潰されてなるものか!!』
黒点に覆われた太陽が元の輝きを取り戻す。デュランダルがその力全てを開放。暖かくも力強い黄金の輝き。天を貫かんと伸びるソレを見て、フィーネが思わず溢した。
『その力……何を束ねたッ!?』
返答は光。彼女たちの絆を束ねた光が赤き竜に振り下ろされる。
『みんなの力を束ねた――シンフォギアでぇえええええ!!』
Synchrogazer。光が赤き竜を貫いた。
TGブレード・ガンナー― SG(シンフォギア)
レベル10
「風鳴翼」チューナー+遊吾・アトラス
攻撃力3500守備力2500
このモンスターがシンクロ召喚に成功した場合、相手フィールドのカード一枚を破壊する。
一ターンに一度、カードの効果が発動した場合に発動できる。このカードを除外し、その発動を無効にして破壊する。
このモンスターが戦闘をする時発動することができる。このモンスターと、バトルしている相手モンスターを除外し、次のターンのバトルフェイズにこのモンスターと相手モンスターを特殊召喚し、ダメージ計算を行う。このダメージ計算時、このモンスターの攻撃力は相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン-SG(シンフォギア)
レベル12
「立花響」チューナー+遊吾・アトラス+シンクロモンスター一体
攻撃力4000防御力3500
このモンスターのシンクロ召喚に対して、相手は魔法、罠を発動することは出来ない。
このカードは効果では破壊されず、効果の対象にならない。
このモンスターがシンクロ召喚に成功した場合、フィールド上のシンクロモンスターの攻撃力の合計値分このモンスターの攻撃力をアップする。
このモンスターが戦闘を行うダメージステップ終了時まで、全てのプレイヤーはモンスターの効果、魔法、罠カードを発動することが出来ない。
このモンスターがフィールドを離れた場合、自分墓地からチューナーモンスター一体とモンスター一体を特殊召喚する。
何となく思いついたこんなオリカ、オリカ?
ついに一期も残すところあと一話。しかし、リアルの多忙によって更新が遅くなる可能性がある!てか今回もそれだったし。
俺、時間が出来たらこの小説をシンフォギア×遊戯王のクロスオーバーってジャンルに変えるんだ…。