戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~ 作:特撮仮面
爆発。完全開放されたデュランダルとネフシュタンの鎧、そして鎧と融合していたノイズたちのフォニックゲインが行き場を失い大爆発が起こる。
風鳴司令の発勁、そして緒川の力によって、未来たち避難民への被害は零。風鳴翼、雪音クリス両名も無事に地面に降り立つ。そして、立花響は――
「ほら、頑張ってください。フィーネさん」
「貴様…なぜ助ける」
笑いながらフィーネに肩を貸して爆心地から歩いてきた。
「う、あ…」
「ふふ、よく頑張ったな、遊吾?」
「ふふ、よく頑張りました。遊吾さん」
「う、うわぁ、あそこヤバイよ…」
「全く、最近の若者は…」
「家でやってほしいですね」
「家なら良いのかよ!?」
疲労で腕一つ動かせない遊吾・アトラスは、天羽奏と小日向未来の二人に膝枕されていた。
恥ずかしいやら何やらで逃げたいのに逃げられない遊吾。そんな彼を見て、ニヤニヤ笑う奏と、純粋に微笑みを称えて彼の頭を撫でる未来。
ここが地獄か。あまりにも恥ずかしい状態に、思わず心のなかで呟く。だが、今の彼は表情一つ変えられないほど疲れきっていた。
「って、お前本当に大丈夫なのか?」
クリスが彼の顔を覗き込む。膝に手を当てることで両腕の間にその豊満な胸が挟まりより強調される。XDモードは通常の状態と比べて白色の布地が多く、更に言うなら肌色の面積も多い。
これは恐らく大気中のフォニックゲインを効率的に取り組むためだと思うのだが、クリスの場合、外国人とのハーフ故か、白くキメ細やかな肌をしていることもあって、白との境界が曖昧となるここと、何より胸元の上部分がほとんど開いているような状態なので、何と言うか、マーヴェラス。
「って、いだだだだ!?」
「遊吾さん? クリスの何処をジロジロ見てたんですか?」
「見てない見てないてかマジでモゲル!? 頬がマジで!!」
痛みに彼が思わず叫ぶ。
しかし、動けない。まあ、人に戻った段階で赤き竜とデュランダルの爆発に巻き込まれたのだ。衝撃と、ダブルチューニングを解除したのにスカーレッドを動かした負荷が合わさって動けない。とはいえ、五体満足かつちょっと身体に土がついてるくらいで済んで良かったと言うもの。
そんな彼の叫びに、ようやく彼の状態に気付いた響が、翼や友人たちとの会話を切り上げて未来たちの方に背中の翼に装備されたバンカーを轟かせて接近。
「ちょっ、奏さんに未来!? 何てうらやま――けしからんことを!?」
『意味が変わってないどころか酷くなってる!?』
「え? 何って、頑張った遊吾さんにご褒美」
ぐぬぬ、と拳を握り締める響。未来が続ける。
「誰かさんはフィーネさんは助けるけど、この人は助けなかったし」
「うぐっ、い、いや、それはそのー、遊吾さんなら大丈夫かなーって」
「忘れてたでしょ」
「ぐはっ」
響がついに崩れ落ちる、のだが、未来がそんな響に微笑む。
「なーんて、冗談だよ? おかえり、響」
「…未来ぅ!」
未来に飛び付く響。その衝撃で後頭部を地面に打ち付け悶え苦しむ遊吾。わざと離れた奏はそれを見てニヤニヤ笑う。
「で、響?」
「ん? なに? 未来」
笑顔で首をかしげる響に、笑顔で言った。
「遊吾さんの中はどうだった?」
「うぇ!?」
「ねえ、合体したでしょ? どうだった?」
『未来さん怖い!?』
何やら威圧感すら感じる笑顔で優しく言う未来。それを聞いて響はうーん、と考え込むのだが、すぐに表情を弛めるとにへらと笑う。
「いやー、何と言うか、熱い、と言うか暖かいと言うか、もう全身包み込まれていると言うか――」
「うむ、確かにそうだな。自分は一人ではない、そう思わせる熱だったな」
「へえ、それでそれで!?」
アクセルシンクロ、そしてダブルチューニング。彼との融合を果たした二人に未来が質問する。
最早彼の考えとか全て晒されそうになっているが、今の彼は地面で悶えるだけ。奏はそんな皆の様子を見てニヤニヤと笑うだけで、彼を助けようとはしない。そんな彼にクリスが手を差し伸べる。
「おい、大丈夫かよ?」
「わ、わりぃなクリス…」
その手をとって立ち上がる。クリスより頭一つは高い身長。こいつマジであたしの一つ下かよ…。彼の顔を見ながらそんなことを考えていると、視線に気付いた彼がクリスの顔を見る。
「どうした?」
「あ? あ、いや。何であたしとはアクセルシンクロ? だかをしなかったのかなって」
おい、何言ってんだあたし!? 言った本人ですら思わず驚く。確かにそれは気になるが、信頼度を考えたら当然だろう。元々関係のあった響は言わずもがな。翼だって明確な敵では無かったわけで。
内心慌てる彼女に、彼が申し訳なさそうに言った。
「すまん、モチーフが無かった。というか、モチーフになれそうに無かったんだ」
「モチーフ?」
首をかしげる彼女に、彼が続ける。
彼女とのシンクロは考えたのだが、彼女のシンフォギア、イチイバルの特性を活かしたシンクロをするのであれば、アクセルシンクロのその先へ行き着くしかなかった。しかし、今の自分ではその、デルタアクセルシンクロと呼ばれる領域にはたどり着くことができなかったのだ、と。
「それに、あの場面で数を相手に出来る上に、響や翼のサポートが出来るクリスを失うのは痛手。そんなわけで、クリスとシンクロしなかったんだよな」
「そっか…」
信頼されているがゆえの選択。それを聞いてつい顔を伏せるクリス。顔が熱い。真正面から信頼しているなんて言われるのはどうにもムズ痒かった。
「あ、別にお前のこと信用してないとか、そんなんじゃねえぞ!? 子供助けてたのもあって俺はお前が優しくて責任感が強い、あー、まあ兎に角優しい女だってのは理解してるつもりだぞ! さらに言うなら可愛いし」
「お、おう……って、それって女とシンクロしたかったって意味か!?」
「アホかお前は!?」
あの状況でそんなこと考えてられるか!? 照れ臭さを誤魔化すための言葉は、彼の拳という形で返答された。
「お前らちょいちょいポンコツだよな…」
『お前にだけは言われたくない!!』
皆が声を揃えて叫ぶ。なぜかは知らないが言わないといけない気がしたからだ。
戦いは終わった。フィーネはネフシュタンこそ身に纏っているものの、戦意喪失。和気藹々とした、勝利の空気が皆を包み込んでいた。
「了子さん」
「私は……フィーネだ…」
「了子さんは、了子さんです」
優しく語る響。ノイズを作り出したのは、先史文明。統一言語を失ったフィーネ達先史文明の人類は、響のように手を取り合うことを優先するのではなく、お互いが殺し合うことを優先した。己の意見、欲望を押し通すためにお互いが殺し合った。その為のノイズ。最も環境に良く人を根絶することのできるクリーンな殺戮兵器。だが、響がそれに答える。言葉よりも、分かり合えるものがあることを、私たちは知っている。
フィーネが語り、立ち上がる。彼女にはこの方法しか残されていなかった。それ以外の選択肢を持てなかった。巫女。創造主にその身を捧げ、そして恋を知った彼女の選択。
鞭を尖らせ、握り締める。そして――振り抜いた。
鞭が物凄い速度で響へと撃ちだされる。響が回避。そのまま彼女の胸へと拳を叩きこもうとする――だが、先端が見えなくなる、そしてフィーネの腕に伝わる何かに突き刺さる衝撃。何かに突き刺さった鞭。思いの全てを込めたフィーネの雄叫び。身体を反転させたフィーネが鞭を、何かを背負うようにして身体を捻る。
大地に地面が突き刺さり、鞭が何かを引き寄せる。いかなネフシュタンの鞭と言えど、その重量に耐えきれずに千切れ飛ぶ。だが、それだけの力を込めて彼女は完遂してみせた。
月がッ!? 誰かの声。空を仰ぎ月を見る。
カ・ディンギルの砲撃により砕けた月の一部。その欠片が少し月と離れているような――
「私が月を落とすッ!!」
「まさか、月を引き寄せたというのか!?」
フィーネがアンカーとなって、月を引き寄せたのだ。月の欠片とはいえ、その質量が地球の何処に落ちたとしても、未曾有の大災害は免れない。
フィーネが吠える。勝利の声。例え何があったとしても、あの月の欠片を砕くことは出来るはずがない。
「私の悲願を邪魔する禍根は、ここで纏めて叩いて砕くッ!!」
ネフシュタンの鎧が崩壊を開始。如何な完全聖遺物、規格外の再生能力を持っていたとしても、デュランダル、そして超大型シンクロの代償は大きかった。
しかし、フィーネは吠える。地球は大災害で荒廃。しかし、フィーネは死なない。仮に櫻井了子の身体が機能しなくなったところで、フィーネの魂は既にどこか別のフィーネの血族の身体に潜伏。アウフヴァッヘン波形がこの世界に起こる――つまり、聖遺物もしくはそれに準ずる物体が起動すれば、その波形を検知してフィーネの魂が覚醒。つまり、絶えない。例えここで敗北したとしても、必ず。
何処かの場所、何時かの時代に――私は永遠の刹那に存在する巫女、フィーネなのだ。
コツン。あまりにも弱く、力強く彼女の胸に、彼女の魂に少女の拳が撃ち込まれる。
風が、吹いた。
自分より圧倒的に小さな小娘。その、強大な意志を込めた澄み切った瞳に、拳に、彼女の魂が撃ち抜かれた。
「うん…そうですね。何処かの場所、何時かの時代、蘇る度に何度でも、私の代わりに伝えてください」
「世界を一つにするのに、力なんて必要ないってこと。言葉を超えて、私たちは一つになれるってこと。私たちは未来にきっと手を繋げるということ――」
私には伝えられないことだから、了子さんにしか、出来ないから。
「お前…まさか…」
了子さんに未来を託す為にも、私が今を、護って見せますね!
ニヤリと不敵に笑う少女。嗚呼、この娘はいつもこうだ。二課に来た時も、誰かのためにと気合を入れるときも、師匠と慕う弦十郎と苦しい特訓を重ねた時も。どんなに苦しいときでも、この娘は笑うのだ。少し前に、この娘に何故笑うのか、そう聞いたことがあった。その時彼女はこう言った。
『苦しいときこそ笑え、お前は笑顔が可愛いからって。お前の笑顔は皆を元気に出来るって、ある人に言われたんです』
その時の彼女の、何かとても大切な事を語る微笑みを、フィーネは、櫻井了子は忘れなかった。そして今、彼女の微笑みの意味を悟った。この娘は恋を知らないんじゃない。この娘はそんな段階に居ないのだ。
彼女の心の中心にあるのは、愛。陳腐な言葉であるが、彼女の想いは正しく愛だ。
嗚呼、何ということだろう。これでは負けて当然ではないか。下に心しか持たない自分が、ド真ん中に心を持ち、それを力と変える少女に勝てるはずがない。だが、悔しくはない。それほどまでに清々しい敗北。無茶。彼女がこれから行おうとしていることを察して、了子は言った。
「ほんとにもう…全く、放っておけない娘なんだから」
この娘は少しでも目を外すと、暴走超特急の如くノンストップでとんでもないことをやらかすのだから。ここは一つ、大人の女性としてアドバイスをあげようじゃないか。
「胸の歌を信じなさい――って言いたいところなんだけど」
――俺は手札から魔法カード、友情yu-jouを発動!!
「あの少年がまたやらかすみたいだからね」
腕に決闘盤を装備し、カードを四枚持った遊吾がフィーネの前に立ち、堂々と言った。
「おい、握手しろよ」
『え?』
先程までの空気をぶち壊すそんな彼の大寒波を受け、空気が凍り付いた。
「ちょっと遊吾さん!? 人が格好良く決めたって言うのに!!」
「わりぃビッキー。お前にああ言うの似合わねえや。後ろで笑い堪えてた俺のことを考えやがれ」
「酷い!?」
ポカポカと彼の胸を叩く響。HAHAHAと笑っていた彼だったが、ポカポカ、ドカドカ、ガガガ、ドドド、ゴゴゴ、と徐々に威力を増していく拳に耐えられなくなってきたらしい。マジですいません調子こきましただから止めて止めて止めて止めていやマジで――
「痛いッつってんだろうが!!」
「イタッ!?」
バコンッ!! と彼女の頭にげんこつが振り下ろされる。全く、この二人は何をやっているんだ…。やれやれとため息を吐きながらフィーネが言った。
「握手ね。分かったわよ、応じてあげる」
「やったぜ!」
コロンビア! とガッツポーズを取る彼に、響がショックを受けたと言わんばかりに口元に手を置いていった。
「遊吾さん……私たちだけじゃ飽き足らず、了子さんにまで手を出すんですか!?」
「どうしてそうなったおい!?」
「じゃあ、何でですか!? 私と翼さんで満足できないからって奏さんや未来、クリスちゃんにも手を出したのに、それでもまだ足りないんですか!?」
「人聞きの悪いことを言うな!? あそこドン引きどころか、お役所さんたちが手錠出そうか迷ってんじゃねえか!? てか、どこをどうやったら思考がそんな異次元思考になるんだよ!? あれか? お前の脳は異次元に埋葬されてんのか!?」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ出す二人であったが、流石に今はそういう状況じゃないと言って。彼が、とにかく、と話を止める。
「それじゃあ、握手な」
「ええ――ッ!? これは!?」
彼の手に触れた瞬間に流れ込んでくる大量のフォニックゲイン。彼女が驚きで声をあげる。
「貴方一体何を――」
「魔法カード、友情yu-jouは、握手が成立したとき、お互いのライフポイントを、ライフポイントを合計した数値の半分にするという効果だ。つまり、ボロボロのあんたと、アクセルシンクロ、ダブルチューニング、そしてみんなの歌という、特上のフォニックゲイン発生装置によってフォニックゲインに満ち溢れている俺の数値を合計、その半分をあんたに挙げただけだ。効果はしっかりと処理しないとな!」
ニヤリと笑う彼。彼から譲渡されたフォニックゲインによってネフシュタンが再稼働。身体の修復を開始する。
これだけの量があるなら、あと二日、三日ほどは確実に生きることが出来る。恐らく、この間に何かをしやがれということらしいが、彼女には彼がやってほしいことは察しがついた。
立花響、そして彼の慕う風鳴響一郎。聖遺物の融合症例である二人の研究。出来ることなら摘出する技術の確立、と言ったところだろう。
『それだけじゃねえよ。俺はアンタからフォニックゲインを貰った。その借りを返しただけだ。それと、クリスとコミュニケーションとれ。どれだけ傷つけられてもあんたのことを慕ってんのも事実なんだから。あと、風鳴司令にも何か言っとけよ? あの人凄いお人好しなんだから。それとだなぁ――』
彼からの念話。大量のフォニックゲインが残留する今だからこそできることだ。まだまだ続く強欲とも言える彼の言葉に、彼女は思わず苦笑して言った。
「全く、決闘者と言う者はいつもいつも――」
巫女として、統一言語を失った世界でフィーネは旅をした。最初は響と同じく誰かと手を取り合うためだ。しかし、その想い空しく彼女は戦うことで抑止力を得、人類を統一することを目指すのだが、そんな彼女は一度、たった一度だけ統一言語を失った人々が手を取り合っている場面を見たことがある。
それが、現在エジプトやナスカと呼ばれている場所で行われていた、決闘と言う儀式。神官や、己の意志を示すために立ち上がった若者たち。彼らは決闘者、決闘神官と呼ばれ、各々が力を振るいながらも互いの想いを理解し合い、手を繋ぎ合って生きていた。この少年も、どうやら自らが名乗る様に、決闘者の類いらしい。
そして、この少年に感化されている少女もまた、決闘者の魂を受け継いでいるようだ。
「おいおい、そりゃアンタにも言えることだぜ? フィーネさんよ」
友情yu-jouの効果が終了した後、彼はレッツエンジョイ! などと言いながら決闘盤からカードを引き、なりきんゴブリンがどうだのと一人でカードを動かし始めていたのだが、そんな彼がフィーネの方を振り返っていった。
「恋心って一つの想いを貫く為に、新規概念であるシンクロを会得し、奏者たちと真正面からぶつかったあんたも、十分決闘者してると思うぞ?」
彼は言う。確かに、デュエルモンスターズを行う者を決闘者と言うが、それは違う、と。真の決闘者とは己の想いを貫く者のことである、と。
なるほど、そうなれば創造主への恋心のみで今まで生きてきた私は、確かに決闘者なのかもしれない。了子は思うが、同時に笑う。
「何て強引で、どうしようもない屁理屈なのかしら。貴方ロマンチストなの?」
「たまにはロマンチストも良いだろ?」
決まったZE! と笑う彼に対し、響が微妙な顔をして言う。
「流石にそれは無いです」
「やめろ。本気で返されるとヘコむから」
苦笑しながらも、俺のターン、ドロー! と彼がカードを引く――と、ようやく目当ての物が来たらしい。長かったなぁとしみじみと言いながら彼はそのカードをモンスターゾーンに置く。
「俺は、ソニック・ウォリアーを通常召喚!」
ハァッ!! そんな雄叫びと共に現れる、流線型の装甲をもつ機械の戦士。ソニック・ウォリアーは彼の横に堂々と立つ。モンスターの召喚。しかし、威圧感は他のシンクロモンスターと比べれば微々たるもので。それで一体何をするというんだ? 思わず首を傾げる了子。
「さて、あの月何とかしなきゃいけないしな…。響、未来! そんでもってクリス!」
「はい!」
「どうしたの? 遊吾さん」
「って、あたしも!?」
三者三様の返答。見事にバラけてくれたなと笑いながら、彼が言った。
「俺のファンサービスだ! 受け取れよ!!」
俺は、レベル2のソニック・ウォリアーに、レベル3の俺自身をチューニング!!
鋼の戦士に彼の光が合わさる。口上と共に光は強くなり、新たな戦士が呼び起こされる。
集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!! シンクロ召喚、いでよ、ジャンク・ウォリアー!!
彼の言葉と共に現れるのは、屑鉄の戦士。
青色の装甲。赤色の目。風にたなびくマフラーと、他と比べても大きな右腕、そして右腕に装備されたナックル・ダスター。
ジャンク・ウォリアー。伝説の決闘者である不動遊星のエースモンスターであり、立花響がお守りとしてもらったシンクロモンスター。
「だが、そのシンクロでは月を砕くことは…」
了子が言った。一時的とは言え、シンクロを齧っている彼女だから分かる。そのシンクロモンスターの力ではあの大きさの月を砕くことなど出来はしない、と。
だが、立花響は違った。心がくじけそうになった時、彼女の温もりと共に自分を守ってくれたお守り。飽きること無く見続けてきたからこそ、そのモンスターの秘めたる力を知っている。
「ジャンク・ウォリアーは攻撃力2300のモンスター。決して高いステータスを持ったモンスターじゃないです。でも、その効果は、ジャンク・ウォリアーをどんな敵にも打ち勝てる最強のモンスターへと強くします!」
「その通りだぜ、ビッキー! ジャンク・ウォリアーはシンクロ召喚に成功したとき、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計値を、自身に加えることが出来る!!」
「なんだと!?」
「さらに、墓地へ送られたソニック・ウォリアーは、自分フィールド上のレベル2以下のモンスターの攻撃力を500ポイントアップする能力を持っている!」
いくぜ、パワーオブフェローズ!! ジャンク・ウォリアーの身体に、リディアンの生徒たち、二課の人々、奏者、そして了子の身体から溢れ出したフォニックゲインが光となって集まっていく。
その光景を見て、彼女は理解した。彼が何故自分に握手を申し込んできたのか。それは、自分にフォニックゲインを譲渡すると同時に、彼女のフォニックゲインの波長をレベル2へと調整したのだ。
「まさか、調律のために!?」
「おうよ! 皆と握手すんのは疲れたぜ、まったく!!」
ジャンク・ウォリアーの身体が黄金へと染まる。極限を超えたフォニックゲインの燃焼による変色。その身体に宿ったフォニックゲインの量は、最早計り知れない。
「繋いだ絆、集いし星が、ジャンク・ウォリアーを強くする! さあ、バトルだ!! 俺はジャンク・ウォリアーで月に攻撃!!」
彼が吠える。同時にジャンク・ウォリアーの背中のブースターが点火。宇宙へ向かってジャンク・ウォリアーが飛翔する。
なるほど、あれだけの威力があれば月を砕くことだって出来るかもしれない。だけど――
「響!!」
「行ってくる!!」
「いってらっしゃい!!」
不安に揺れる瞳。あの日も、彼女の前から二人で居なくなり、帰ってこなかった。その不安は知っている。だから、響は笑って言った。
「生きることを、諦めないで」
戦士の背中を追って、戦乙女が空へと飛び出した。
※※※※※※
思えば、色々あったなぁ。彼が宇宙へと飛び立ちながら考える。
初めてこの世界に来た時は、とても驚いた。決闘が無い世界なんて初めてだったから。彼が今まで行ったことがある世界は、全て彼の世界から分岐した世界。故に、基本法則は彼の常識が通用するものであった。
だが、彼が今回来たのは、全くの異世界。後々フィーネと言う先史文明と呼ばれる超古代文明の巫女の言葉で、彼のような決闘者がこの世界に過去に存在していたことは確認できたものの、この世界には彼の常識であったデュエルモンスターズと、それを使った職業である決闘者は存在していなかった。そして、それがないということは、彼が世界を越える目的、つまり自分の父親を越えるための力を手に入れるという目的が果たせないということだ。
更に、幼少期から決闘と言う形で全てを手に入れてきた彼からすれば、決闘が無いということは同時に、アイデンティティの喪失、つまり自分を無くしてしまうということになる。そして、彼の手持ちの貨幣が使えず、身分証明もできない以上、食事はおろか、寝るところすら無く、Dホイールに至っては確実に警察に捕まるレベル――実際に警察に追いかけられ、危うく捕まりそうになった――である。だから人にバレないようにひっそりと野宿をして暮らしていた。
だが、そんなある日に、彼は、風鳴響一郎に出会った。彼からたい焼きをだまし取ってしまったが、だがそれでも許してくれた。アレは本当に感謝している。あれほど食べ物がおいしいと感じたのはサテライト以来だ。
そして、響一郎と出会った数日後に、立花響と出会った。
初めての経験だった。決闘も何も関係なしに関わろうとしてくる異性と言うものは。特に彼の場合、決闘に全てを捧げていたためそう言う出会いすら投げ捨てていたので、新鮮だったのだ。彼女の暖かさに触れ、彼は少しずつだが己を取り戻すことが出来た。
小日向未来と出会ったのはその頃だ。響が連れてきた少女。その露骨なまでの警戒っぷりは隠す気ないのかよと思わず苦笑してしまうものだった。だが、少しずつだが彼女と関わっていくことで、彼女の人となりが見えてきた。響と二人で馬鹿をして、それを優しくも厳しく叱る彼女。そして、この世界の常識が分からない彼に、この世界がどのようなものかハッキリと教えてくれた少女。彼女のおかげで自分はこの世界で歩みを進めることが出来た。
決闘と言う手段を無くした彼は、彼女たちに手をとられてようやく人並みとなった。
最初のころは本気で何でこんな世界に転移させたのかと憤っていたが、今では転移させてくれたことを感謝している。
男の背中、彼女たちの暖かさ。俺の知らなかった新しい世界。俺に足りなかったモノ、俺が忘れていたモノ。
「悪いな、俺は歌が得意じゃないんだ。だから代わりに拳をくれてやるが、悪く思うなよ――ッ!」
月が迫る。大きい。大きいがそこまでだ。彼が相対してきた神と、決闘者たちと比べれば何と小さなことか。今の俺なら出来る。さて、いこうか!
そう気合を入れたところで聞こえてきた歌に、思わず足を止める。
絶唱。彼女の、否、彼女たちの歌が聞こえる。態々追ってこなくてもいいだろうに。振り向いた彼は、その光景に思わず笑いそうになる。
笑っていた。月と言う巨大な物体を前に、彼女たちはとても楽しそうに歌っていた。絶唱と言う最終兵器を起動させてなお、彼女たちの歌は喜びに満ち溢れていた。
立ち止まった彼に、彼女たちが追いつく。
『あんたが折角ファンサービスをくれたんだ。あたしからもファンからのサービスを返させてくれよ?』
『繋いだ恩人の、いや、友の手を離すほど私は愚かではないぞ? アトラス』
『遊吾さん。一人でどっかになんか行かせませんよ?』
嗚呼、何と心強いことか。こうして繋がっていることを目の当たりにすると、嬉しくて仕方がない。
『全く、ああ、くそ、全くお前らは』
『何だ? 惚れちまったか?』
クリスがからかうように言う。否定はしない。出来やしない。
『ああ、第一印象から決めてましたってレベルじゃねえ。本気でお前らに惚れちまいそうだよ全く』
これほど嬉しいことがあるだろうか? 絆される、という言葉があるが、もしかしたら今の自分は正しくそうかもしれない。絆、今まで曖昧にしか理解していなかったが、今、この瞬間にハッキリと理解できた。
これが絆。これが思いと想いの繋がりであると。
『さて、それじゃあ俺たちの絆パワーで軽く粉砕しますか!』
『絆パワー、良い響きです! じゃあ、絆パワー全開で行きましょう!!』
『っしゃ、じゃあやりますか! あたしたちの絆パワー!!』
『そうだな。では、私たちの絆パワーを世界に示してやろう!!』
あれ? 冗談が本気にとられてるんだけど、思わず困惑してしまう彼に、彼女たちが口をそろえて言う。
『早くしてくださいよ、絆パワー?』
『お前ら後で覚えとけ!?』
どうやら、三人ともわざとあんな発言をしてくれたらしい。彼の身体から力が抜ける。どこまでも格好いい、綺麗な少女たちだ。翼を広げて月へと向かう彼女たちを見て、純粋にそう思った。綺麗、何て言葉じゃ言い表せないが、今はこれでいいのかもしれない。
一振りの剣は翼の如き刃に。雪のようなミサイルが姿を現し、そして世界に響けと拳が唸る。
月に向かって翼が羽ばたき、雪が降り注ぐ。そして――
『スクラップ――フィストォオオオオオオオオ!!』
流星の尾のようにマフラーをたなびかせて空中回転。全力で突き出された二つの拳が、世界に音を響かせた――。
※※※※※※
小日向未来は走っていた。月の落下、そしてそれを阻止したシンフォギア奏者たちによる、ルナアタックと呼ばれたあの大事件から三週間。奏者三人の捜索は打ち切られ、任務中の行方不明から、死亡扱いへと変更された。
その捜索及び死亡者欄に、遊吾・アトラスの名は無い。当然だ。彼は本来この世界に存在しないのだから。
郊外に建てられた名も無き墓。そこには立花響の墓がある。名前も彫られていない墓標。海外からの追及を避ける為の措置。だが、それが分かるほど彼女は大人ではなかった。
墓に置かれた少女の写真。崩れ落ちる彼女の耳に、女性の悲鳴が聞こえてきた。
彼女が走ったその先に見えたのは、電柱にぶつかった車と、そのドアの前で怯える女性、そして道路の隅から見える極彩色の――ノイズ。
ノイズは、彼女たちが居なくなった後も変わらず発生し、その度に大きなニュースとして取り上げられていた。とは言え、コンサート事件のような大規模な事件は発生しておらず、今のところ死傷者もほとんどいない。
彼女が走りだす。生きることを諦めないで。そう言った少女の笑顔が、ノイズとなりながらも多くの命を救った彼の姿が、彼女に力を与えてくれる。
彼女は女性を連れて走った。雨の郊外、それも人気の無い墓近くでは救援が来る可能性は低い。だから、彼女は必死で逃げる。ノイズの活動限界時間、それを狙ってひた走る。
女性が足を縺れさせて倒れこむ。仕方がない。未来は元とは言え陸上部。鍛え方が違う。
絶望にとらわれた女性に、彼女が言う。諦めないで! だが、今の女性にはそれに答えるような力が無かった。
迫りくるノイズ。一気に襲ってくるのではなく、態々数をそろえてゆっくりと包囲を縮めてくる。壁に追いやられ、女性は既に気を失っているが、彼女は、未来だけはそんな女性を背に、両手を広げて彼女を守らんとノイズの前に立つ。
怖い。当然だ。彼女は少女のように特別な力を持つわけではない。だが、いや、だからこそ彼女は最後の最後まで諦めない。信じ抜く、それが自分に出来る全てだから。
だが、そんな彼女の気迫を受けて怯むようなノイズはいない。当然だ。彼らはあくまでも兵器。人が様々な要因で変化した彼とは違う。
ゆっくりと迫るノイズ。無情にも二つの命が奪われる――衝撃。ノイズたちが軒並み炭となり風に吹き飛ばされる。
声。聞き覚えのある声に、彼女が道路の先を見る。降り立つ三つの光。それが収まった時、そこには三人の少女たち。
中央に立つ少女が口を開こうとしたところで――轟音。爆発。音の方を見れば、巨大な火柱と共に巨大なる竜の王者が現れる。
少女が言った。タイミング逃したじゃないですか!! 竜が返す。場合にやらないからだ。
意味が分かりません! おい、この間教えたろ、時と場合の違い。彼らの会話。ほんの数週間、されど数週間聞いていなかった懐かしいやりとり。
彼女が膝から崩れ落ちる。涙。子供のようにわんわんと泣く彼女の元へ、人へと姿を変えた少年と、道の先に居た少女が駆け寄る。
大丈夫? そう声をかけられた彼女は、更に声を大きくしながら二人に抱き付いた。
ノイズの脅威は変わらず、人々の闘争は変わらず行われている。未だ危機は満ち溢れ、悲しみの連鎖は止まりを知らない。
だが、いや、だからこそ人は願うのだろう。誰かと繋がることを。誰かと繋がろうとする想いを。
そして、その想いを伝える為に、歌があるのだ。だから、きっと大丈夫。この世界には歌が溢れているのだから…。
ある日、満点の星空の下で、三つの影が空を見つめていた。
二人の少女と、一人の少年。空が降ってくる。そう思わせるような、ものすごい量の星の雨。獅子座流星群。いつか見よう、その約束が果たされる。
少女たちが笑う。少年は少し照れ臭そうに苦笑する。だが、そこには笑顔があった。暖かな笑顔。願い、望んだ世界がそこにはあった。
立花響―SG
レベル4
攻撃力2000守備力1800
(チューナー/特殊召喚)
自分フィールドの立花響をリリースし、このモンスターを特殊召喚することもできる。
自分フィールド上のモンスターが戦闘をするダメージステップ開始時、効果を発動することが出来る。戦闘するモンスターの攻撃力にこのモンスターの攻撃力を加える。
このモンスターがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られる場合、シンクロ召喚するモンスターの条件を無視することが出来る。(モンスターの数は無効に出来ない)
ついに完結!!大満足だ!!
何となく始めた、シンフォギアと遊戯王と言う噛み合うかどうか分からないコラボの見切り発車。評価が黒から赤になったとき、本気で驚きましたね。画面の前で小躍りしちゃいましたし。しかし、同時に容赦なく最低評価などを受けた時は少し凹みましたね。分かっちゃあいるんですが、やっぱりされると痛い。でも、皆さまのおかげで完結できました!ありがとうございます!!
さて、次の予定ですが、恐らくG編は別作品として登校するかと思います。ちなみに題名
は
遊戯絶唱シンフォギアG~歌が苦手な決闘者系オリ主やっさいもっさい~(仮)
感想で遊戯絶唱と言う単語があまりにもはまりすぎていたんで、ついつい使わせていただきました。もしも駄目!と言われたら題名変更します。
ちなみに、G編はしないフォギア編からスタートする予定です。開始は未定なので、ゆっくり文章を書いていく予定です!!
皆さんは、満足できたでしょうか?これが俺の満足だ!!そして、このようなとんでもない作品を見て、少しでも遊戯王やシンフォギアに興味を持って、決闘者や適合者なってくれる人が増えればいいなと思いながら。
俺たちは、この長い満足道を歩きだしたばかりだッ!!