戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~ 作:特撮仮面
響がシンフォギアに覚醒してから早数週間。相も変わらず彼は地道にせっせと自分の限界時間を伸ばすためにノイズ狩りを行っていた。
世界中でのノイズの発生率なんて、それこそ人一人が一生のうちに銀行強盗や殺人鬼に出会うくらいのそこまで高い確率では無い筈なのだが、彼がシンクロを使用し始めた二年前程から、その発生率は上昇傾向にあり、世界各地でそれこそ数週間に一度のペースで発生するようになっていた。
とはいえ、それも散発的で且つ小規模なものであり、同時に彼の出現頻度も上昇傾向にあった。彼からすれば小規模の戦いなんてそれこそ、人に被害が出ない限りはボーナスステージ的な側面が大きいわけだが、そのことを喜ぶ半面、自分が何者かの意志で表舞台に焙り出されているような、もしくはこの世界が自分と言う異物に対して何かしらの処置を取ろうとしている、そんな風に感じるようになっていた。
そんな彼であったが、数週間前に響と出会って以来、彼女たちシンフォギア奏者たちと一切の交戦は無かった。無論、彼のこちらに居る時間が極短時間であったことも関係しているが、何よりも彼女たちシンフォギア奏者という存在が基本日本にしか存在しておらず、更にその存在が秘匿されていることが理由であった。
「お前が、件のノイズか?」
そして、ついに彼は接敵した。彼がまだ人間で、別の場所でデュエルモンスターズに勤しんでいた頃から憧れ、格好いいなと感じていた人物と。
風鳴翼を支えて立つ、男性。
赤色の髪、鍛え抜かれた鋼の肉体。獅子の如き風格を纏う彼の名前は風鳴弦十郎。日本が誇る暗部の一つ、風鳴一族の男児であり、日本が誇る一流のアーティストであり、同時にシンフォギア奏者である風鳴翼の叔父。そして何よりも格好良いOTONAである。
ちなみに、無茶苦茶強い。どれくらい強いかと言うと、物理攻撃が基本通用しないノイズ――正確に言うならば、ノイズはこの世から自身をズレた場所、位相空間と呼ばれる異世界のような場所にその身を置くことで運動を無効化する力を持っている。これにより、ノイズは物質を透過したり、物体の運動を零にしたりすることが可能なのだ――に対して、攻撃の際に生まれる一瞬の隙をついて石つぶてなどの物理攻撃を当てる――これは、位相空間にその身を置くとノイズはこちらの世界に干渉できないため、物質に触れる瞬間や、攻撃する瞬間のみノイズはこの世に身体を戻す。その刹那、コンマ何秒のカウンターを極める――や、シンフォギア奏者を滅多打ちにできるような完全聖遺物を纏うラスボス相手にその身一つで立ち向かい、完膚なきまでに叩きのめす。ラスボスに腹をぶち抜かれても数時間後には元気に動き回っている。と言うか毛頭シンフォギア奏者の攻撃を受け流す。爆弾の爆発に巻き込まれて尚発剄(最早はっけいではなく、HAKKEIである)を利用することでその衝撃を全て逃がして無傷。
誰が言ったか、シンフォギアの世界は、OTONA>シンフォギア>ノイズ>OTONAの三竦みで成り立っていると言われるほどである。事実、ノイズに人間が触れた場合問答無用で炭化させられることを考えれば、妙に納得してしまうところである。
何故なら、本当に彼の目の前でこの司令官は、あろうことか風鳴翼の必殺技の一つである技を拳一つで受け止めて見せたのだから。
だが、実はと言えば彼は皆の前に出ていくつもりは無かったのだ。
ノイズの反応に釣られてか具現化した彼は、近くにシンフォギア奏者の気配を感じて速攻で隠れ、時々バレない範囲でノイズたちを吸収するというどこぞのステルスゲームを思わせる行動をしていたのだが、突如始まった奏者同士の――嫌、風鳴翼と言うシンフォギア奏者の八つ当たりともとれる突然の決闘――デュエルではない――に思わずノイズ吸収を止めて彼女たちの様子を陰ながらに伺っていたのだ。
しかし、戦いの素人である響が玄人である翼にかなうわけも無く、地面に倒れこむ響に向かって情けも容赦もなく天ノ逆鱗と呼ばれる――巨大化させたアームドギアに蹴りを加え、文字通りの刃人一体となって敵を切る技だ――必殺の一撃を放った瞬間、反射的に響に向かって走りだそうとした。
しかし、彼の行動よりも早く、シンフォギアの必殺の一撃を拳から放った八剄で受け止めた上、その衝撃を震脚と呼ばれる地面に衝撃を伝えたり、逆に地面からの衝撃を身体に伝導させることで力を増幅させる技を用いて、その衝撃を地面に分散させて自分へのダメージを最小限に抑えるという人間離れした技を繰り出した風鳴指令の震脚の衝撃に巻き込まれ、はじけ飛ぶコンクリートと共に木っ端のように宙へと放り出され、彼女たちのど真ん中に顔面から着地してしまったのだ。
正直、不幸以外のいかほどでも無い。と言うか、彼の内心は焦りで一杯であった。だが、幸いなことに人型のノイズと言えど彼に顔に該当する部分は存在していないため、表面上はあくまでも無言無動の不動の状態で風鳴指令の前に立っているのだ。
とりあえず彼は、両手を挙げて敵意が無いことをアピール。そして、身を退くことで何やら重要そうな話をしていた二人に自分は気にせず続けてくれ、なんてことを考えていたのだが。
「あ、あの! ノイズさん!!」
響が慌てて立ち上がり、彼に詰め寄りながら言う。
「ノイズさん、あの時は助けて貰って、それで聞きたいことがあるんです! ノイズさん、遊――」
響君!? 止めに入ろうとする風鳴指令だったが、それよりも早く彼が動いた。
「へ?」
彼女の鼻先に突き付けられる拳。極彩色のそれが彼女の髪の前髪に僅かに触れ――髪の毛の先端だけを炭化させる。
突然のことで理解できない、と言った風の彼女に、彼は只拳を構えていった。
「hi…biki」
「え、え? ひゃぁ!?」
彼女が何かを言うよりも速く、だが彼女が動くよりも遅く放たれる拳。
拳が地面に突き刺さる。這う這うの体で逃げる彼女に対し、なるべく無機質になるように気をつけて拳を引き抜くと、彼はゆっくりと彼女に近づいていき、再度拳を振るう。
「な、なんで、なんで!?」
泣きそうなほどに表情を歪める彼女。いや、消火栓が壊れ、ここだけ豪雨に見舞われているように降り続く水によって誤魔化されているだけで、もしかしたら泣いているのかもしれない。
だが、彼は止めない。彼女は運悪くも、運命に選ばれてしまったのだ。物語の主人公だからとか、そんな理由ではない。彼女がガングニールと呼ばれる聖遺物をその身に宿してしまった時点で。彼がノイズになってしまった時点で、いつかは自分と戦わなければならなくなるのだ。
彼女は観察眼に優れており、また、心優しく、誰とも仲良くなれる。手加減しているとはいえ、こうして逃げ尚且つ視線を逸らさない時点で戦士としての素質は十分。
恐らく、彼女は本能で気づいているはずだ。自分が二年前に行方不明になった男であることを。だが、彼はそれを完全に知られる訳にはいかない。自分はあくまでも可笑しなノイズということで処理されなければなら無いのだ。
彼女はまだ覚悟が出来ていない。戦場において、覚悟とは絶対に必要なことである。それは日常生活でも同じ。彼が生業としていた決闘もまた、覚悟がなければ出来ないものであった。
アンティルール、謎の襲撃、闇のゲーム、神、世界の崩壊。全て何かしらの覚悟、いや、何か、何でもいいから心に一つの芯がなければ勝ち抜くことはできないのだ。
「…aa」
「え?」
彼女の姿は、状況についていけず、ただ流されるままであった最初の頃の俺に良く似ている。いや、俺みたいに卑屈になってない分マシかもしれない。
だが、どちらにしてもこれから戦いは過激になっていく。なればこそ、自分がどれだけ苦しくても彼女に拳を振るわなければならない。こんなことは余計なお世話だろう。アニメと同じような性格をしている風鳴指令達ならきっと彼女を導いてくれるだろうし、自分が態々制限時間を擲って行うことでも無い筈だ。
だが、それに指を咥えてみているなんて出来るはずもない。彼は近くの岩をいくつか殴り付ける。
「kudarann…」
「くだらない、って。何がですか!?」
「subete…。kisamagakokoniirukoto…kisamagamamoroutoomoumonosubete…」
「全て、そんなことはっ!」
「aru。…narabasyoumeisitemiseyou」
彼の身体からフォニックゲインが溢れだす。オーラのように滲み出るそれは少しずつその形状を変える。
オーラは五つの光の玉となり、光の玉は彼の周囲を回り、軌跡を残して五つの輪となり彼を包み込む。
レベル1のコンクリートの破片二体と、レベル5の俺自身をチューニングッ!!
王者の叫びが木魂する! 勝利の鉄槌よ、大地を砕け!!
「詩?」
突如響き渡る声に、響が思わず辺りを見回す――同時に、灼熱の暴風が彼女たちの身体を揺さぶり飛ばす。
「ぬぅ!?」
「きゃ!?」
硬気功。フォニックゲインを全身に行き届かせることで一時的にあらゆる衝撃から己の身を守る技法。震脚により地面に足を縫い付けるようにして、抱えた翼ごと吹き飛ばさないようにする指令。
嵐の中に居るかのような、そんな熱すぎる荒れ狂う風の中で、彼らは見た。その中心に光る二対の赤い瞳を。
――ォオオオオオオオオ!!
竜の嘶きが嵐を掻き消し、その全容を世界に晒し出す。
まるで、岩石から直接削りだしたかのような竜。全体的に細身でありながら、手足は身体に向かうにつれて細くなっていき、それこそ骨だけのような細さだ。背中にはそんな身体に対してあまりにも不釣り合いな瘤のような巨大な塊があり、そこから更に大きな翼が空を覆う。
燃える赤い瞳、そして、その頭部に雄々しく聳える王冠のような襟。
全てを捻じ伏せ、勝利を刻め!! エクスプロード・ウィング・ドラゴン!!
「何!? 完全聖遺物級のエネルギーだと!?」
「エクスプロード・ウィング・ドラゴン…?」
指令のインカムに送られてきた、観測班のエネルギー報告に目を見開く指令。そして、その足元で圧倒的な存在感に圧倒され、腰を抜かして茫然と見上げるだけの響の耳に、再度男性の声が聞こえてくる。
それが、目の前に居る恐怖の名前なのだろう。全身を震わせながら彼女はその名前を呼ぶ。
行くぞォ!! エクスプロード・ウィング・ドラゴンで立花響にダイレクトアタック!!
巨竜が吠える。同時に高まる力を感じて響は反射的に動いていた。
「わぁあああああ!?」
背後からの爆風。その勢いに彼女の身体は飲み込まれ、木の葉のように空に巻き上げられてしまう。
歌。自然に口から歌が溢れ、彼女の身体に黄色と白の装甲――シンフォギア、ガングニールが装備される。だが、彼女の口からそれ以上歌が溢れることは無い。
シンフォギアは、奏者の感情の昂りなどを感知し、それを歌へと変換して外部へと浸透させる。奏者はそれに合わせて歌を紡ぐことによってそのポテンシャルを、それこそ無限に上げ続けることが出来るのだ。
しかし、響の心は圧倒的な存在を前に萎縮しきっており、シンフォギアが歌を奏ではじめることは無く、また彼女の頭の中には歌なんてなく、あるのはこの圧倒的な存在を何としても倒さなければと言う思いだけ。たったの一撃、そう、たったの一撃だけで彼女は本能的に逃げられないことを、否、背後を見せた瞬間に自分が死んでしまうことを理解していたのだ。
「いっ、けぇえええええええええええ!!」
膨大なフィニックゲインが燃焼され、それは空を駆ける為のエネルギーとして腰部の噴射機構より放たれる。山吹色の軌跡を描きながら彼女が拳を握りしめ、撃ち放つ。
それは、如何なエクスプロード・ウィング・ドラゴンであってもまともに受けてしまえばダメージは免れないほどの気迫と威力を秘めていた。だが、それが解放されることは無かった。
エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果…自身の攻撃力以下のモンスターと戦闘を行う場合、そのモンスターをダメージ計算前に破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える。
心の中で能力を反芻する。目の前に迫る響。その表情、そしてその拳を瞳に焼き付け、彼は叫んだ。
打ち払え! キング・ストォオオオム!!
巨竜が雄叫びを上げ、同時に口腔に膨大なエネルギーが蓄積されていき――
「あああああ――!?」
撃ち放たれるのは王者の風。炎が螺旋を描き、少女の小さな身体を一瞬で飲み込む。
膨大なエネルギーは少女を飲み込むだけに飽き足らず、真下の道路を抉り飛ばす。
「立花ぁああああああ!?」
風鳴司令の雄叫びが響き渡る。だが、
「立花!?」
ガシャン、そんな音と共に響の身体が地面へと落ち、同時にシンフォギアが解除される。
その身体は、膨大なエネルギーを真正面から受け止めた割には目立った傷は無かった。当然だ。彼は文字通り螺旋のような形でエネルギーを放ったのだから。
本来のキングストームは、口腔から放たれる高出力のエネルギーが、その余波で螺旋を描く竜巻のように見えるのが特徴である。だが、今回の彼は本当に螺旋形のエネルギーを放ったに過ぎないのだ。上手くエネルギーを分散させることで、中心部に空洞を作りだし、その場所に響を収めたのだ。
類似的な台風の目にしたと言っても、実際は高出力のエネルギーの嵐の中に放り込まれたのだから、無傷とは行かなかったのだが、それでも数時間もすれば目覚めるだろう。
彼は翼を広げる。もう此処に用は無い。これでどうなるか分からない。だが、願うならば彼女の選択に――
――ォオオオオオオ
「…嘶き、か」
何処か物悲しげな、何かを願っているような竜の方向が夜空に響き渡る。
何処かへと消えていく竜の姿を、風鳴司令と翼は只々見つめるだけであった。
※※※※※※
「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!(なにやってんだおれぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!)」
それから程無くして、この世界から去った彼は、シンクロを解除して心の底から雄叫びを上げた。
と言うか、叫ばずにはいられなかった。
いくら戦場に出る覚悟が出来切れていない彼女を思ったとは言え、いくら手加減していたとは言え、仮にも女性に、しかも幾度なく自分を救ってくれたこともある女の子にあれだけの暴挙を行ったのだ。いくら精神フェイズに相手に反撃出来るほどの強靭な精神力を持っていたとしても、良心が痛む。自分が一々あんなことしなくてもよかったじゃないかなど、後悔の念が彼を襲う。
「aaaaaaaaaaaa!!」
ゴロゴロと地面を転がり悶え苦しむ彼。
だが、そこで彼は気づいた。地面? と。
彼の普段いる場所には地面は無く、中空に浮いているような状態なのである。つまり、現世に現れない限りは地面なんて触れるわけも無いのである。
ということは、もしかして俺、あっちに居る?
しかし、と彼は考える。それにしてはフォニックゲインの消費量が少ないと。普通、この世界に存在している時はシンクロしていない時ならば結構な速度でフォニックゲインを消費してしまって限界時間を気にしなければなら無くなるものなのだが、今の彼はいつもの半分、いや、それよりももっと少ない量のフォニックゲインしか消費しておらず、それこそ一か月だろうと二か月だろうとこの世界に居られるのではと思わせるほどの省エネ加減であった。
やったぜ!!
思わず空に向かってガッツポーズを取る彼に、どこからともなく声が聞こえてきた。
「あのー、何をしてるんですか?」
控えめな少女の声。その声に思わず身体を固まらせてしまい、まるで油をさしていない
未来!? 何故未来が此処に!? 外出したのか!? まさか自力で外出届を!? 未来ゥ!?
混乱のし過ぎでそんなことを内心叫んでしまう彼。
だが、叫んだところで状況が変化するわけも無く、地面で悶え苦しむノイズと言うあまりにも珍妙な姿を見てしまった彼女と、そんな姿を立花響の親友であり同時に自分とも深い関係があった少女に見られた彼は、そのまま互いに顔を見たまま固まってしまう。
その時、彼の脳裏には、目と目が合う瞬間~と言うとある曲のワンフレーズが延々と続いていたという…。