戦姫絶唱シンフォギア~歌わない決闘者系ノイズ目録~   作:特撮仮面

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彼と響く歌声

「私と、私と決闘しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 何という雄叫びか。暑い。熱い。熱気で大気が歪み、陽炎を作り出す。

 

 シンフォギアが奏者の感情を音に、フォニックゲインに変換し増幅、ただの叫び声の筈なのに、その声には肉がつき、血が通っていた。

 

 なるほど、ここでやりあうつもりか…。

 

 その熱意に応えぬ決闘者は居るだろうか? いや、居ない。居るはずがない。ここまで心を揺さぶられる、まるで初めてデートに誘われた少年のような鼓動の高鳴りを止める決闘者など、もはや決闘者ですらないだろう。

 

 場所は沿岸部。暁の中で太陽が熱く燃え上がる。

 

 N字のヘアピンで止められた二房の栗色の髪、ヘッドホンのような橙色のヘッドギア。ピッチリと身体のラインを出している白と黒の布地と、前腕部に装着されたゴツい装甲、太股の外側に何か出っ張ったモノが装着された黒のヒール。

 

 立花響。彼がこの世界に来て初めて出来た友達であり、戦姫絶唱シンフォギアの主人公。そして、彼にとって大切な暖かな存在。

 

 ノイズ形態の彼と、シンフォギアを纏った彼女が向き合う。

 

 彼は自然体、彼女は姿勢を低く保とうとするも、ヒールのせいで少々座りが悪いらしい。迷い無く足を地面に叩きつける。

 

 へぇ…見ない間に随分出来るようになったもんだ。

 

 構えの種類こそ分からないものの、腰を深く落とし、両腕を前に出す構えは、中々堂に入っているものだった。彼とて、プロフェッサーやデュエルギャングとの戦いで実戦経験を積んできたが、でもここまで早く、戦闘経験のない少女が覚悟を決め、武術を覚えるなんて、並大抵のことではない。

 

 きっと、それだけ良い師匠を師事し、頑張ったに違いない。その努力を思うと、彼女が立ち上がってくれたことへの嬉しさと共に、彼女のような女の子を戦場に立たせなければなら無いというやるせなさが彼の胸に浮かぶ。

 

 …だからと言って、手加減してやるわけにはいかん。やるからには全力。たとえどんな相手にでも本気で挑んでこそ決闘者だ。

 

 大きく息を吐く。彼女の構えは明らかに自ら攻めていくことを想定しているモノではないはずだ。彼は別に武術をならってきたわけではないが、伊達や酔狂で決闘者たちと戦ってきたわけではない。

 

 お互いに動きが停止する。息すら顰め、相手の動きを伺う。これはどちらが先に動くかが重要だ。下手に動きだせばそのまま相手のペースに引きずり込まれてなし崩しに負けてしまうだろう。

 

 内心、彼の頬に汗が伝う。まるで、遊戯さんや遊星さんと戦っている気分だ…。遊馬や十代さんの用いる罠カードはどちらかと言えば戦闘補助や攻撃用の物が多く、上手く踏めばこちらのペースに持ち込むことも可能であったが、遊戯、遊星と言う決闘者はどちらかと言えば相手の妨害、ペースを崩すものが多い。

 

 今伏せているカードは何だ? 彼は思考する。自分の手札は温存したいものの、ここで硬直を続けていては自分の限界時間を含めて面倒なことになる。…事故覚悟で踏み込むしかないか!

 

 覚悟を決めろ! 姿勢を低くした彼が風になる。

 

 

「速っ!?」

 

 

 極彩色の煌めきが微かに見えるほどの急速な加速。弾丸の如き速さで彼女の懐まで踏み込んだ彼が行うことは一つ。

 

 満足――ブロー!!

 

 構えられた腕の隙間を貫く拳。このまま土手っ腹に穴をあけてやる! そんな勢いで放たれた彼の拳――だが、歌が響く。

 

 

「これが私のォ」

 

 

 拳で彼の腕を後ろに受け流すと同時に、身体を横に流す。

 

 勢いに引っ張られ体勢を崩す彼。足が浮かび、胴体ががら空きになる。そして、それを逃す響ではない。身体を引き絞り脚を前に、踏み込みに生じる勢いと、腰の回転をエネルギーに変換する。彼の胴体を抉るような肘徹。

 

 

「撃槍・ガングニールだぁああああああああああああ!!」

 

 

 咆哮、遅れて彼の身体がピンボールのように弾き飛ばされる。

 

 受け身を取ることが出来ない。地面にぶつかるも勢いを殺せずそのまま無様に吹き飛ぶ――ことはなく、途中バク天の要領で腕をバネとして飛び上がる。

 

 最初と同じ位置。仕切り直しだ。彼は己の油断を叱責する。

 

 油断しているつもりは無かった。だが、驕りはあった。リアルファイターたちの間で鍛えられた技術があれば女子高生の一人叩き潰せるという、驕りにも等しい心がどこかにあった。

 

 彼が目指す決闘者、歴代決闘者もそうだし、何よりも目標であるキング、ジャック・アトラスならこのような無様な姿は晒さないだろう。これが自分の弱いところの一つだ。何とかしなければならない。反省もそこそこに、彼は構える。

 

 軽やかに跳ねる彼女。その姿はヘッドギアのデザインも相まってどこか兎のような雰囲気を見せていた。いや、インファイターなことを考えればどちらかと言えばカンガルーか。

 

 先手は譲った、だから今度はこちらが攻める番、歌いながら不敵に笑う彼女はそう言っているように見えた。

 

 シンフォギア奏者との戦闘。それは彼にとって都合が良い。何故なら、彼はフォニックゲインを吸収することでその力を増すことが出来るから。歌は無尽蔵にフォニックゲインを放出するため、これが響いていれば彼も勝手にエネルギー補給が可能ということである。

 

 ある種の奏者メタな能力であるが、どうやらそう簡単な話ではないらしい。ダメージを受けた腹部を見ながら彼は思う。

 

 

「ぶっ飛べこの、エナジーよぉ!!」

 

 

 彼女が動く。踏み込み、そして打ち出されるバンカー。大地が弾け、彼女の身体が弾丸となる。

 

 速い! だが読み切れないほどではない。冷静に拳を迎撃しようとする――が、それを読んでいたかのように彼女が寸前で急停止――いや、足を踏み込むことで加速のエネルギーを打ち出すためのエネルギーに変換したのだ。慣性により少しだけ前に出る身体。

 

 再度バンカーが射出される。高速回転する身体。彼の腕が弾かれ、再度無防備な身体が曝け出される。身体が捻じり込まれ、ロケットの如く打ち出される背中――鉄山靠。ニンジャも愛用する暗黒カラテの技だ。

 

 カタパルトから射出されたかのように再度吹き飛ぶ彼。

 

 地面に叩き付けられ、思わず呻く彼に対して彼女が口を開いた。

 

 

「何で読めてるんだ、って思ってますよね?」

 

 

 いや、マジで何でだよ? 人間の姿ならまだしも、今の俺は表情すら見えない。本当に理解できない彼に、彼女は戦闘中にも関わらず、頬を染めて年頃の女の子らしい笑顔で言った。

 

 

「未来ほどじゃないですけど、私だって貴方のことずっと見てたんです。私たちが絡まれてるとき、私が悪い人に襲われてるとき、貴方がどんな動きをしていたのか、どんな言葉を言ったのか、全部覚えてます」

 

 

 彼女はそう言って胸に手を当てる。まるで大切なものがしまわれているような、口元に微笑みを称える彼女はまるで神話で知られる戦乙女のようであった。

 

 彼女の言う通り、立花響は何かと喧嘩に巻き込まれやすい。いや、その性格上絡まれやすいし、怨みを買いやすいのだ。

 

 心優しく、誰に対しても手を差し伸べることが出来る、それは貴重な才能であるのだが、それが毎回いい結果を呼ぶわけではない。学校でも人気者ではあるが、それに比例するように彼女に悪意を持つ者は多いし、その性格のせいでどれだけ強大な敵に対しても相対してしまうせいで、何度か間に合わないのではないかと彼が肝を冷やすような場面があったりもした。

 

 やれやれ、初っ端から俺の手札はもろバレだったってわけか。インチキ効果もいい加減にしろ! って、効果じゃねえか。

 

 苦笑するも、決意は決まった。彼女に対してもはや遠慮はいらない。一決闘者としてここに立たせてもらおうとしよう。というか、本当に面倒くせぇ、ここまで面倒なことになるとは思ってなかったぜ。

 

 

「遊吾さんが言ったんですよ? 私たちは拗らせたら面倒くさいって」

 

 

 満開の花のような笑顔。

 

 やれやれ、こんな美少女にこんなに慕われてるってのは、喜んでいいのか悲しんでいいのか。

 

 だが、面白い。彼はゆっくりと全身に力を入れていく。幸いなことに、彼女が燃え上がるようなフォニックゲインを放出してくれているおかげで、フォニックゲインの総量に困ることは無いらしい。

 

 ならば、ここからは俺のステージだ!

 

 

「伝えます。拳に乗せて、最短で、真っ直ぐに…一直線に!!」

「…oreno……oレノ――タァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 雄叫びと共に立ち上がる。俺のターン、相手の場を確認。

 

 相手に手札はバレていると考えて問題は無い。伏せられたカードは全て攻撃反応系。相手の手札は謎拳法とシンフォギアによる必殺の一撃。

 

 であるならば、俺が取るべき行動は――打撃あるのみ!

 

 彼が動く。響がバンカーを使用している速度すら上回る加速。稲妻の如く彼女に接近する。

 

 彼女が動いた。なるほど、どうやら彼の動きを先読みすることで対処していたらしい。だが、種さえわかってしまえばどうとでもなる。彼は先程の彼女のように手前で踏み込み。大地が弾け、コンクリート片が上空へ舞い上がる。

 

 響! マジックシリンダーなどの攻撃反応系は基本的に、その対象を失ったら効果が不発になるもんなんだぜ!

 

 

「嘘ぅ!?」

 

 

 要は指令の行っていた発剄の応用だ。そう言えば、と彼が思いだす。おっちゃんからもこういう格闘術の動きを習ったなと。

 

 要は気の流れ、力の流れを制御できれば人間はヒグマだろうとライオンだろうと、アフリカゾウにだって勝てる、と。力の流れを理解するのは発剄などの力の流れを利用した格闘術を覚えると良い、と。

 

 ならば、この場面で必要な力の流れ。加速時に生じたエネルギーを、新たな踏み込みと共に拳に集中させること。

 

 更に踏み込む。いや、飛び込む。身体の勢いを拳の先へ、身体を捻り突破するための力を、駄目押しの力を込める。

 

 飛び込み突き。彼の拳が彼女の顔面に突き刺さる。堪らず飛びそうになる彼女の身体――だが、それを彼が許さない。

 

 再度の踏み込み、跳躍から繰り出されるのは打ち下ろし。浮き上がり無防備な胴体に拳が突き刺さり彼女が地面に叩き付けられる。

 

 

「あ、ぐ…」

 

 

 彼女の身体がバウンドする。急いで回避を、彼女が思考するよりも先に彼の行動は完了している。

 

 拳を打ち込んだ勢いで空中回転。加速と遠心力、そして重力の力により威力が増加されたかかと落としが彼女の胴体に再度炸裂。鈍い音を立てて彼女の身体を地面に縫い付ける。

 

 動けない。だが、そんな彼女に情けをかける彼ではない。止めと言わんばかりに打ち放たれる左。全体重をかけた一撃、受ければひとたまりもないだろう。

 

 

「響くん!!」

 

 

 指令室でそれを見ていた風鳴指令が吠える。

 

 だが、彼の拳が届くことは無い。

 

 逆羅刹だとぉ!?

 

 拳を構え打ち放つ瞬間、彼女の脚部のバンカーが炸裂。身体を跳ね上げたかと思えばそのまま独楽のように回転し、彼の身体を打ち据える。

 

 まるで彼女の先輩、風鳴翼の使う技、逆羅刹の如き一撃。堪らず防御態勢を取る。防御の上から来る衝撃。流石はシンフォギア、その衝撃は本物だ。だが、しっかりと防御は成功。これから行動を開始すれば――そう考えた時、彼の背筋に寒気が走る。

 

 ゾクッ、まるで恐ろしい罠にかかってしまったような感覚。衝撃を殺す為に踏ん張る彼の目の前で、彼女が獣のように体勢を限りなく低くする。その瞳に映るのは、自分――いや、彼を超えたその先だ。

 

 こりゃ、俺が守るほどじゃないかもなぁ。

 

 思わず苦笑する彼。彼女が吠えた。

 

 

「私の歌――その先にぃいいい!!」

 

 

 バンカーが炸裂。弾丸となった彼女の拳が彼に突き刺さる――同時に彼女の腕部装甲がスライド、内部機構にフォニックゲインが装填され、炸裂。

 

 パイルバンカー。拳から放たれたフォニックゲインの衝撃が彼の身体を貫き、彼の背後の空間を歪ませ弾け飛ばせる。

 

 

 彼の身体が宙に浮かび――落ちる。

 

 一瞬の静寂、彼女の耳元で指令が叫んだ。

 

 

「やったな響君!!」

「…師匠、まだです!!」

 

 

 彼女が言うと同時に、彼が反動を活かして跳ね上がる。そして、天を指さし吠えた。

 

 

「キングの決闘はエンターティンメントでなければならない!! ピンチを演出し、それを上回るタクティクスで逆転する!! 立花響、認めよう君の力を、君の想いを! 今日から君は決闘者だ!! だから、俺はお前にくれてやろう、俺の力をぉおおおおお!」

 

 

 彼の周囲に光が宿り、それが輪となる。彼が編み出した新たなシンクロ。一定の範囲内にあるあらゆる物質のレベルを変更し、シンクロを行う。

 

 多少時間がかかるものの、直接触れずに行う、彼の新たなシンクロだ。

 

 コンクリートが弾け、地面が抉れる。それらは星となり彼の元に集う。

 

 

「俺は、レベル1のコンクリート、レベル3の大地に、俺自身をチューニング!! 集いし星が、爆音となりて世界に響く!! 新たなる道となれ! 現れろ、ターボ・ウォリアー!!」

 

 

 赤い装甲に身を包んだ、バイクを人型にしたような戦士が現れる。

 

 

「シンクロ…」

「行くぞぉ!!」

 

 

 彼が――ターボ・ウォリアーが吠える。唸りを上げるエンジン。爆炎を迸らせながら巨大な鉤爪が彼女に迫る。

 

 

「くっ――!? 力がッ!!」

「悪いな、ターボ・ウォリアーは一定レベル以上のシンクロしてる奴の力を半減させる力を持っているんでねぇ!!」

 

 

 シンフォギア奏者も、ある意味彼のシンクロと同じようなことをしている。彼が拳などでフォニックゲインを調節するのに対し、奏者は歌を用いてチューニングし、聖遺物を武装に変換、運用しているのである。

 

 その為、彼女たちも彼からすればある種のシンクロモンスター。しかもそのレベルは平均よりも高い。ならば、彼に付け入る隙はある。

 

 彼女が腰の噴射機構を点火し必死に鉤爪を避ける、が追撃は終わらない。

 

 いくら彼女が戦士として成長し、格闘術を覚えようとも、それを上回る圧倒的なパワーを前にすればそんな小手先だけの技術だけで防ぎきれるものではない。

 

 

「くぅぅ!?」

「切り裂け、アクセル・スラッシュ!!」

「あああ!?」

 

 

 ついに彼の爪が彼女を捕らえる。歌が止まったことにより、彼女の力が更に弱まっていたのが原因だろう。

 

 シンフォギアは、完全無欠の装備に見えて何かと弱点が多い。例えば今のように、奏者が何かに必死になってしまい歌うことを忘れてしまえば、歌が無くなることでフォニックゲインの供給が中断され、その力が弱まってしまうのだ。

 

 フォニックゲインが弱まっていたところで、更にその力を半減しての彼の一撃。受けた彼女はそのまま道路沿いのガードレールに激突する。

 

 ターボ・ウォリアーの身体が光りだし、それが星へと変化する。数は六、そして再び彼の声が木魂する。

 

 

「響、よくやった。だからお前に俺の魂を見せてやる! 目ん玉見開いて良く見てな!!」

「俺は、レベル6ターボ・ウォリアーに、レベル2の俺自身をチューニング!!」

 

 

 連続シンクロ。スカー・ウォリアーをおとりとして利用したことを参考に思いついた彼の新たなシンクロ法。今は素材のレベルを変更できないが、いずれは変更できるようにできれば更なる戦力アップが期待できるだろう。

 

 そして、集う星は炎となって彼を包み込む。

 

 炎の数は八つ。ゆっくりと立ち上がる彼女の目の前で、彼の真の姿が顕現する。

 

 

「王者の鼓動、今此処に列を成す!! 天地鳴動の叫びよ、響けェ!! 我が――いや、俺の魂! レッド・デーモンズ・ドラゴン!!」

 

 

 現れるのは漆黒の竜。

 

 三つの角を雄々しく立たせ、鋼の如き筋肉がその存在がどれだけ強大かつ強力であるかを知らしめる。

 

 荒々しく翼を羽ばたかせ、炎の如き烈風を荒ぶらせるその姿は、正しく絶対王者。彼女が出会ったエクスプロード・ウィング・ドラゴンなんて目ではない。あまりにも力強く、雄々しく、絶対的な力の象徴。

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン。彼のフェイバリットにして、彼の義父、ジャック・アトラスの魂のカード。

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴンが吠える。それだけで天地が震え、空間が軋みを上げる。なるほど、天地鳴動とは正しくこのことか。圧倒的な力を前に冷静になった彼女が苦笑しながらそんなことを考えた。

 

 

「俺にこれを使わせたことを誇りに思うがいい!! 受けろ!! アブソリュート・パワー・フォース!!」

 

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴンの拳に炎が収束されていく。それは彼の拳に太陽を宿し、フォニックゲインが全身より放出され、彼の身体がマグマの如き真紅に染まる。

 

 彼の足が大地に突き刺さり、拳が響に向かって振り下ろされる。

 

 アブソリュート・パワー・フォース。レッド・デーモンズ・ドラゴン必殺の一撃が防御態勢をとる彼女に打ち放たれ――

 

 

「王者の前に防御など無意味! 砕け散れぇえええ!!」

 

 

 雄叫びと共に大地が炸裂する。

 

 土煙が彼らを包み込む――が、次の瞬間には彼の羽ばたきを持って全て吹き飛ばされる。

 

 

「な、なんなんだ…あれは…」

 

 

 誰もが言葉を失った。

 

 地震の跡、彼の拳の先にあるのは隕石でも落ちたのではないかと思うような巨大なクレーター。

 

 何という破壊力。何という存在。最早誰も何も言えない。響がどうなったか、なんて考えたくもない。あの破壊的な力の中心に居たのだ。どう考えても蒸発している。

 

 絶望が特異災害対策機動部二課の面々に漂い始める――が、彼が急に飛び退いたことでそれは振り払われた。

 

 

「一体何がおこった!?」

「分かりませ――高エネルギー反応!? ガングニールです!! 響ちゃんのガングニールです!?」

「ガングニールだと!?」

 

 

 そんな司令部のことなど露知らず、彼は何となく終わりでは無いことを悟っていた。

 

 何故か? 簡単な話だ。彼女たちが彼を見ていたように、彼も彼女たちのことを見ていたのだから。良い所も、悪いところも、拗らせたら面倒くさいことも、何より、一度決めたらどこまでもしつこく一直線にぶち抜いてくる女の子だということを、分かっていたから。

 

 でも、出来ることなら今の一撃で終わっててほしかったぜ…ったく。

 

 彼の視線の先、そこにあるのは暖かな光。そこから微かに歌が聞こえてくる。

 

 

「ガングニール! プロテクトを急速に解除していきます!? 千――万――計測できません!?」

「何ぃ!?」

「そんな!? プロテクトは全てブラックボックスに――!?」

 

 

 司令部内がにわかに騒がしくなる。

 

 当然だ。シンフォギアは奏者に合わせて進化する道具であるが、そのプログラムは天文学的数のプロテクトでロックが掛けられている。

 

 しかも、その一つ一つが現代の科学力では解析できない、異端技術の物。それがドンドン解除されていくなど、常識では考えられない。

 

 歌が強くなる。光が溢れ、それが人の形を取り始め――

 

 

「私はまだ、この胸の想いを伝えきれてません!!」

 

 

 光が弾け、そこから現れる――少女。

 

 それは恐らく初めてテレビアニメで見た彼女の姿。より鋭利となった腰部噴射機構。ヘッドギアの形状もより力強くなっている。そして何より特徴的なのが、その風にたなびくマフラー。

 

 戦姫絶唱シンフォギアG、第二期にて彼女が纏っていた進化したガングニール。聞こえてくる歌も、二期に彼女が歌っていたものだ。

 

 だが、ただそれだけではない。

 

 各関節部に新たに出来た装甲、そして肥大化した腕部装甲や衣服の所々に入る蒼。ヘッドギアの耳当ての――赤。

 

 それは、ある意味テレビアニメよりも彼に馴染みのある――いや、あまりにも身に覚えがありすぎる姿。

 

 あまりの衝撃に彼が叫んだ。

 

 

「響・ウォリアーだとぉ!?」

 

 

 ジャンク・ウォリアー。彼が彼女に与えたお守りであり、同時に彼にとって初めて手ほどきを受けた決闘王である不動遊星からもらった大切なカード。

 

 それをモチーフとした彼女の新たなる姿。新たな力。彼は胸から湧き上がる歓喜に大声を上げた。

 

 

「く、ふふふ、ははははは!! すげぇ!! すげぇよ響!! ああ、こりゃ駄目だ! キングとかそういうの関係ねえや!! 満足なんてレベルじゃねえ! 大満足だ!! さあ、全力の全力、全開の全開!! 俺の全てでお前を砕く!! 問題ねえよなぁ!!」

 

 

 無邪気に笑う彼に、彼女は口元を緩めていった。

 

 

「立花響、十五歳!! 誕生日は九月十三日で、趣味は人助け、好きなモノは御飯&御飯!! それと、彼氏いない歴=年齢!! あと、スリーサイズは――今から教えてあげます!!」

「遊吾・アトラス! 数えで十六歳!! 誕生日は知らん! 趣味は決闘で、好きなモノは決闘とロードオブザキング!! あと日向と音の響き!! 彼女いない歴は年齢! 彼女募集中だけど知り合いからお前彼女作ったら女に刺されるからやめろって言われた!!」

 

『こいつら何言ってんだ!?』

 

 

 どこからともなく聞こえてくるツッコミはよそに、二人は笑い合う、そして――

 

 

「さあ、満足させてくれよ!!」

「一直線に、この胸の、想いをォオオオオオオ!!」

 

 

 拳に宿る炎。彼が飛ぶ。右の拳が唸りを上げ、背面ブースターが点火。文字通り響かせながら拳を撃ち放つ。

 

 

「アブソリュート・パワー・フォォオオオオオオス!!」

「届けェエエエエエエええええええええええええええ!!」

 

 

 そして、二人の拳がぶつかった。




己の仕事や命を生贄に捧げ、いでよラーの翼神竜!!
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