「く、くぅぅ…」
全身がひどく痛む。だが、大きな怪我はしていないようだ。初春は呻き声を上げながら、身体を起こして周囲を見る。乗ろうとしていた車だろうか。ほぼ原型をとどめていない鉄の塊が、真っ赤に燃えていた。その周りには、警備員の制服を着た人が、血を流しながら倒れていた。このような惨状の中で、なぜ初春は生き残ることができたのか。その理由は、メガネをかけた女性が大きな防護盾を二つ抱えて、初春と黄泉川の前に立っていたことにあった。
「大丈夫ですか?」
「鉄装先生⁉︎」
黄泉川と同じく、警備員に所属する鉄装 綴理(てっそう つづり)が、爆発から初春たちを守ってくれたのだ。
「アチャー。結構殺しちゃったなー。」
炎の向こう側から声がする。
「あーあ。アタシの仕事は警備員のセンセを殺す事じゃな
くって、警備員の車両をブチ壊すことだったのに。ボスに
怒られたらどーしよ。」
小柄な女だ。身長は初春と同じか、それより少し低いか。
手にはボウリングのピンのようなものを握っている。
「ま、それはどうでもいいとして。コレの威力も大したもんだわ。警備員の特殊車両を一発で木っ端微塵とは。」
「お前、一体何者じゃんよ?」
黄泉川は、これだけの人間を殺しても、まるで気にしていな目の前の茶髪の少女に例えようのない不安を感じながら尋ねた。
「アタシ?アタシは一応レッドサラマンダー所属の能力者って事になってる、サンガって言うんですけどぉ。」
「サンガ?」
「もち、本名じゃないけどねー。それよりも…」
顔に巻いた大きなスカーフで口元を隠した、サンガと名乗る女は、視線を初春に向ける。
「アンタ、初春 飾利だろ?さすがにうちのハッカーも、守
護神には勝てねーだろーからな。監視カメラの操作を取り
返される前に間に合って良かったよ。」
「つまり、お前の目的は警備員の車両の通信機材をぶっ壊
す事じゃん?」
サンガは黄泉川の方に視線を移すと、目尻を下げた。おそらく、スカーフのしたの口元は大きくつり上がっているだろう。
「ピーンポーン。正解!てか、最初に言ったじゃん?アタ
シの仕事は警備員の車両を全部ぶっ壊して、アンタらの統
率を取れなくする事。もうじきうちのハッカーが警備員の
通信機器全部の通信妨害のプログラミングが完成させる頃だ ろうし。ドースル?応援を呼ぼうとしても、近くの支部ま でダッシュしなきゃだよー?アッハハ。ウケるー。」
サンガはふざけたように手に持ったボウリングのピンのようなものを振り回しながら、喋り続けた。
「あーあ。でも仕事が終わると、ヒマなんだよねー。そ
れに、コレも結構余っちゃってるし。あーあ。どーしよっ
かなあ。」
サンガは頭の後ろで両手を組み、さらにわざとらしく、ふざけたようにふるまう。
「ねえねぇ、キミタチさぁ。コレ。なんだかわかる?」
サンガは手に持ったボウリングのピンのようなものを見せびらかすように、顔の横で左右に振った。
「コレさぁ、実は学園都市製の雷撃爆弾(テスラボム)な
んだけど、他のテスラボムと違って電磁パルスを撒き散ら
すだけじゃなく、アタシの能力との相乗効果で、強力な電
撃を放つらしんだよねー。」
よく見ると、サンガの腰回りには手に持ったテスラボムと同じものが、幾つかぶら下がっている。
「その爆弾で警備員の車両を爆破したんですね。」
「そのとーり。コレの最大出力は約100万ボルト。まぁ、
何処ぞの電撃姫には遠く及ばないけど、それでも大した威
力でしょー?」
サンガは腰からもう一本のテスラボムを抜き取ると、両手でそれを構えた。
「ま、ネックなのは一個作るのにウン十万かかるってとこ
かな。でも今回はボスから支給されたものだからねー。こ
んなに大量にブッ放せんのは久しぶりだからサッ!」
サンガはテスラボムを初春たちに向かって投げつける。
「楽しませてもらうよ!」
「くっ!鉄装!」
「はい!」
鉄装は素早く腰のホルスターから拳銃を取り出すと、サンガが投げたテスラボムを撃ち落とす。ゴッ!という鈍い音と共に、閃光が放たれた。
「ぐうぅぅぅ!」
目を開けていられないほどの光と熱。防弾防塵防火防電防水機能を備えている警備員の防護盾で、鉄装は初春たちを守ろうとする。しかし、それでも防ぎきれないほどの衝撃によって、防護盾もろとも、初春たちは後方へ吹き飛ばされる。
「ウヒョー!これ何回やってもキモチィィー!」
サンガは両手で頭を抱えながら叫んだ。
「さぁてと、もう一丁行くよおー。」
サンガが倒れている初春たちに向けてさらに一本のテスラボムを投げつけようとする。その時、サンガの右手の甲に鉄矢が突き刺さった。
「痛ッ!」
投げようとしたテスラボムが安全装置の取れたままの状態で地面に落ち、その場で爆発しようとする。
「マズイ!」
凄まじい光と音がして、サンガがいた場所が爆炎に包まれた。
「初春!大丈夫ですの⁉︎」
「白井さん!どうしてここに?」
戒人を迎えに行ったはずの黒子が、倒れている初春のところへ駆け寄り、初春の身体を起こした。
「支部に戻る途中で、大きな音がして、初春のいる方向から煙が上がっているのが見えましたの。ですからとんぼ返りしてきてみれば…」
黒子は周囲を見渡す。バラバラになって、炎を上げている車。血を流し、生きているのか死んでいるのかわからない警備員。元々は人間の身体の一部だったと思われる肉の塊。
「ウッ…なんと、酷い。」
黒子は喉の奥に酸っぱいようなものを感じて、息を止めた。
「アッハハ。痛、イテテテ。まさか超電磁砲(レールガ
ン)の露払い様までご登場とはね。」
「なっ⁉︎」
声のする方へ黒子が振り向くと、そこには自らが落とした爆弾によって自爆した(と、思われた)サンガが、黒子に 刺された右手の甲の傷を押さえながら立っていた。
「あれだけの爆発で生きていられるはずがありませんの!
どうして…?」
「アタシの能力が、ただ単に爆弾を強化するだけのモンだ
と思ったら大間違いだってーの。」
サンガは笑いながら喋っているように見える。しかし、目は。目尻が下がっていない。その目は敵を威圧する目であり、その目は人殺しの目だった。
初春はここで気がつく。サンガはあれだけ強力な爆弾を扱っていて、何故怪我を負わないのか。単純に使い慣れているだけではない。彼女の投擲能力からして、爆弾を放り投げ、爆発した時。その瞬間は彼女はまだ、爆発の範囲内にいる。しかし、彼女は傷ひとつ負わなかった。さきほどの黒子の奇襲にしても、爆弾が爆発して、炎に包まれるその寸前まで彼女はそこにいるように見えた。だが、サンガは右手の甲以外、たいした外傷は見当たらない。何故…。
そんな思考中に、初春の目の前にいた白井 黒子の身体が"く"の字に折れ曲がり、真横へ吹っ飛んだ。
第4話を書き終えました。レッドサラマンダーに所属する謎の能力者サンガ。今回は戦闘シーンというより、サンガの圧倒的な力を見せつける回になってしまったような気がします。さらに、主人公である戒人の出番がバッサリ。やはり、小説を書くのは難しい感じました。ですが、これからも精進していきますので、暇な時にまた、読んで頂けたらとても嬉しいです。ありがとうございました。